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かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
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正義の味方を、僕は殺した

17/05/04 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:2件 かわ珠 閲覧数:563

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 警察官である僕は今、一人の女性に向けて拳銃を構えている。
 僕は彼女の事をよく知っている。
 いつだって彼女は正しかったはずなのに。
 いや、きっと今も正しいのは彼女の方だ。彼女に拳銃を向けている僕の方が間違っている。
 けれども、僕はこの拳銃を下ろすことができない。彼女は、右手にナイフを持ち、それを一人の男に突き付けている。
 無線から上司である警部からの指示が聞こえてくる。上からの許可は下りている。早くその女を撃て、と。
 銃身は揺れて、狙いが定まらない。呼吸がうまく出来なくて、視野が狭い。心拍は速く、全身に熱がこもり、今にも意識を失いそうだ。
「貴方はその拳銃を向ける相手が私だということが正しいと思う?」
 そう彼女は問いかけてくる。
 こんなのは正しいはずがない。そんなの決まっているじゃないか。
 彼女は幼い頃から、僕に姉のように接してくれた家族のような存在だ。彼女を慕い、彼女に憧れ、彼女に救われ、そして、彼女に恋をした。
 そんな相手に拳銃を向けることが正しい世の中であってたまるものか。
 けれども、僕は彼女の言葉に首を振ることができない。
 そんな僕を見て、彼女は微笑む。
「ええ、わかってる。それは貴方の意思ではなく、仕事なのだということを。だから、貴方は間違っていない。貴方は貴方の成すべきことをすればいい。私は後悔していない。だから……」
 それはほんの一息の間の出来事だった。僕が瞬きをしたその瞬間だったのかもしれない。気が付けば、彼女はその手のナイフを水平に薙ぎ、男の喉を掻っ切っていた。
 鮮血が散り、彼女の頬が朱色に染まる。
 その光景に、吹き飛ぶ思考。
 理性は、消えた。
「うあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 僕は、ありったけの恐怖心を捨て去るように引き金を引く。
 それは、想像していたよりもずっと軽い感触だった。



 彼女は、幼い頃から常に正しかった。
 悲しんでいる子がいれば、その話に耳を傾け、苦しんでいる子がいれば、手を差し伸べた。間違っていることがあれば声を上げ、ほんの少しの不正にもノーを突き付けた。
 潔癖といってもいいくらいに彼女は正しく在り続けた。それは、端から見れば歪にさえ見える程の正義。けれども、彼女はただ当たり前に正しいことを正しく行うことのできる人だったのだ。
 そんな彼女を間近に見ていた僕が彼女に憧れたのは当然だった。
 彼女は、小さな男の子が憧れるには充分過ぎる程に格好良かった。僕が警察官を目指したのは、彼女みたいに正義の味方になりたかったからだ。
 けれども、そんな正義が大人になっても通用するはずもなかった。成長するにつれて、正しさを通すことも困難になっていき、諦めることを覚える。僕も、警察官になっても救えないものがあると知った。いや、そんなものは警察官になる前からすでにわかっていた。警察官でも救えないものは世の中にいくらでも存在する。誰だって成長するにつれて理解していくものだ。それでも、曲げずに成長したのが彼女だ。そして、彼女はこの世界で歪な存在となった。
 ただ純粋に真っ直ぐに成長した彼女が、世界では歪んだ存在として認知されてしまう。
 間違っているのは彼女か、それともこの世界か。
 そして、彼女は最悪の出会いを迎える。



 男は警察内でも有名な男だった。もちろん、いい意味ではない。
 小さな子供を好み、痛めつけるのが男の趣味で、何度も小さな子供を家に連れ込んでは暴行を加えた。殺しまではしなかったものの、その後、精神を病んで自死を選んだ子もいる。そして、問題が明るみになると、男の親がもみ消した。男の親は権力者だったのだ。息子の不出来を嘆きながら、それでも歪に愛し、過保護に育て、怪物を作り出した。
 先輩の誰かが言っていた。
「アイツには、人を殺しでもしない限り手錠を掛けることなんて出来ないよ」
 と、何かを諦めたような表情で。
 そんな男のことを、彼女は知ってしまった。その経緯は僕もわからない。けれども、二人は出会ってしまったのだ。ただ、出会っただけなら問題はない。けれども、彼女は知ってしまった。男の所業を。
 彼女は男が今までにしてきた事を知り、悲しみ、怒り、そして彼が法の下に裁かれないのだと知って決意した。
 白昼堂々、交番の前で彼にナイフを突き付けたのだ。
 その交番に僕が勤務していたことを彼女は知らず、僕が出ていった時に、一瞬驚いたような顔を見せて、そして寂しそうに笑った。小さく、ごめんね、と呟いた気がした。

 そうして硬直状態が続き、その末に彼女は男の喉を掻っ切り、僕は彼女を射殺した。

 正義の味方を、僕は殺した。
 そんな僕が今日も警察官として勤務をしている。正義の味方が死んだのに、世界は今日も平常運転。
 間違っていたのは彼女か、それともこの世界か。


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このストーリーに関するコメント

17/05/04 まー

やるせないですね。この世界では正義が極まったような人間はただの異常者にしか映らないでしょうし。
主人公も警察とはいえ自分が理想とする正義を果たすことはできませんしね。
「脳男」という作品があるのですが、なぜか似た空気を感じました。感情を持っているので本質は違うのかもしれませんが、これはこれで「脳女」としてありだと思います(笑)。

17/05/04 かわ珠

コメントありがとうございます。
脳男、映画の方は観たことがあります。
確かにあれも正義のお話でしたね。

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