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KOUICHI YOSHIOKAさん

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白と黒のトンネルシュークリーム

17/05/02 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:2件 KOUICHI YOSHIOKA 閲覧数:878

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 気がついたらトンネルの中を走っていた。学習塾までの道のりにトンネルはなかったはずだが、と思いながらも車を走らせていたが、このとき俺はそれほど深刻に考えてはいなかった。
 いつもなら家から学習塾まで高三になる娘を迎えに行くのだが、この日は夜遅くまで残業をしたため初めて職場から学習塾までの道を運転した。記憶ではトンネルはなかったはずだが、知らない間にトンネルが作られていたのかもしれないと思い、送り担当の妻に電話をして確かめようとしたが携帯電話は圏外を表示されていた。
 我が家では妻が送り担当、俺が迎え担当だった。田舎に暮らしていたので、娘をよい大学にやるには都会の名のある学習塾に通わせなくてはならなかったのだ。
 トンネルはかなり長いようで出口が見えなかった。天井のオレンジ色の明かりがどこまでも真っ直ぐに続いている。一車線しかなかったので対向車が来たときのことを考えると上手くすれ違えられるか少し心配だった。幸い後続車もなく、対向車の明かりも見えなかった。つまりトンネルの中は俺の車だけが走っていた。
 いったいいつになったら抜けられるんだろう。時速四十キロで走っていたとはいえ、もう十分以上はトンネルの中だ。
 狭い車幅でバックするわけにもいかず走り続けていると、左側に明かりが見えてきた。近づくと車が一台止められるほどのスペースがあって、壁の奥には硝子張りの小さな店があった。明かりは店の中から漏れ出ていた。
 俺は車を店の前に止めた。店で道を尋ねれば間違った道に入ったのか正しい道なのかはっきりするだろう。
 そこはケーキ屋だった。ドアを開けると鼻が溶けるほどの甘い匂いがした。過剰なまでの電灯の明かり、白壁の店内、硝子のショーケースにはシュークリームしか並んでいなかった。
 トンネルの中に何故ケーキ屋が。ガソリンスタンドならまだ理解できないではないが。
 俺は警戒しながら店に入ったのだが、俺が入るなり白いエプロンをつけた若い女の店員は「いらっしゃいませ」と、抑揚のない声で言いながら丁寧に頭をさげた。
「あの、道を教えてほしいのですが」学習塾がある町名と番地を言うと、店員は「トンネルを抜けるとすぐに目的の場所ですよ」と、無表情に答えた。
 学習塾の近くにこんな長いトンネルなどなかった、と思ったが店員が迷うことなく言ったので聞き返すことができなかった。
「それを二つください」
 道を聞いてそのまま出るのも申し訳なかったのでシュークリームを買うことにした。
「白と黒の二種類がありますが、どちらにしますか」
「それじゃ、ひとつずつ」
「いえ、どちらか一方しか売れないんです」
「そうなんですか。それじゃ、白いほうで」
「本当に白い方でよいのですか」
「えっと、はい、白い方で大丈夫です」
「はい、ありがとうございます。では、白い方をお二つですね」
「白い方というのはカスタードですか。黒い方はチョコレートとかですか」
「さあ、それは買ってからのお楽しみで」
 店員は微かに笑った。
 変な店員だな、と思ったが早く娘の迎えに行きたかったので深く追求しなかった。それに娘はシュークリームの種類にはこだわらないだろうし……。
 店を出て車に乗ると再び走り出した。店の明かりがバックミラー越しに輝いていたが次第に淡くなっていく。天井の丸いオレンジの明かりは変わりなく真っ直ぐに続いている。
 五分ほど走っていると出口が見えてきた。半円形の先には街の明かり。急激に膨張するように出口が近づいてくる。
 突然、天井から爆発したような音が響いたかと思うと、巨大な岩が目の前に降ってきた。一個落ち、二個落ち、数えきれない岩が目の前を塞ぎ、そして車の天井を押し潰した。
 俺は……どこにいるのだろう。
 気がつくと学習塾の前で娘が車のドアを乱暴にノックしていた。ドアロックを外すと後部座席に娘が乗り込んできた。
「なに、ぼーっとしているの。何回もドアを叩いたのに気づかないなんて」
「ト、トンネルが急に崩れてきて」
「どこのトンネルの話、この近くにはトンネルなんてないはずだけど」
 俺が振り向くと、ケーキ屋で買ったシュークリームが入っている袋を娘が開けていた。手間取りながら袋を開けて中を覗くと、娘は悲鳴に近い声をあげた。
「なんなの、これ。ぺしゃんこに潰れているじゃない。カスタードが全部出てる」
「シュークリームを買ったんだ」
「もう、お父さん。お尻で押し潰したんでしょう」
「いや」と言いかけて俺は口をつぐんだ。
 黒い方のシュークリームを買っていたら今頃は……。
 鼻が焼けるほどの甘い匂いが車の中に立ち込めてきた。窓を開けると空にはオレンジ色の丸い月がぽっかりと浮かんでいた。



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このストーリーに関するコメント

17/05/28 光石七

拝読しました。
あるはずの無いトンネル、奇妙なケーキ屋。恐怖への予感と好奇心でドキドキしながら読み進めました。
黒を選んでいたら、一体どうなっていたのでしょう……?
面白かったです!

17/06/05 KOUICHI YOSHIOKA

光石七様

コメントをいただきありがとうございました。
心より感謝申し上げます。

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