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AIR田さん

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タイムスリップ

12/11/19 コンテスト(テーマ):第十八回 時空モノガタリ文学賞【 コーヒー 】 コメント:0件 AIR田 閲覧数:2104

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 高校生の時のことだ。僕はある喫茶店によく行くようになった。コーヒーが美味しかった、という理由ではなく、店の外観に惹かれたから。
 その店は、蔦と色とりどりな花に包まれた塀と、それに囲まれた小さな二階建ての家、という佇まいで、木は家の丁度真横に生えていて、その約半分は家屋に食い込んでいた。その木を間近で見ると、大分古ぼけていたが、一つ一つの枝が静かに存在感を主張していて、表面に刻まれた幾つもの傷跡は威厳あるものに見えた。
 その木の下に寄り添うように佇む小さな二階建ての家も、外壁に塀と同じで蔦が張っていた。所々に小さな花が顔を覗かせていて、その辺りを蝶々や蜂が飛んでいた。まるで絵本の一ページをそのままくり貫いたような光景だったが、家の屋根だけはそのファンタジーな光景に歯向かうように先の尖った二等辺三角形を空に伸ばしていた。
 そんな佇まいだったので、人が住んでいるようには見えず、僕はてっきり廃墟だと思っていた。しかし、家の真正面まで行くと、塀から家の扉まで綺麗な間隔で石畳が並んでいて、木製の扉の取っ手には、「OPEN」の文字が刻みこまれた楕円形の木彫りが掛けてあった。そこで僕はこの家が何かのお店だということに気付く。でも、何のお店かは分からない。
 家の扉の横に窓は無く、木が食い込んでいる側に二つの窓が見えるが、光の加減で外から中の様子を見ることは出来ない。僕はその店をグルグル見て回ったのだが、結局何の店なのか手がかりは得られなかった。
 結局、その店に入るまで、僕は何回も何回も足を運び、扉の前に立っては帰るというなんとも度胸が無い、思い出すと少し情けなくなる行動を取っていた。
 そして、特に理由もなく、僕はその店に入ることが出来た。
 扉を開けてお店の中を覗き込むと、右側には直ぐ木製のカウンターがあり、そこには同じく木製の椅子が四つだけ並んでいた。
 そこの一番晩奥の椅子に、一人の少女が座っていた。、
 不思議でしょうがないが、その少女のことは強烈に覚えているが、どうしても外見を思い出せなかった。しかも何一つ。
 カウンターの反対窓側の席には二名掛けのテーブル席が二つあるのだが、そこは少し高い所にあり、扉を開けて直ぐ左側にあるたった六段の階段を登らないといけないようだ。
 カウンターを背にテーブル側の壁に突き当たると、そこには森の中に浮かぶ銀河が描かれた変わった絵画が飾ってあり、その隣には木製の扉があった。そして、その上には店内なのに蔦が絡まっている柵があった。
 店の作りは今でも覚えているのに。
 
 そうして僕は、そのお店の中でコーヒーを飲むようになり、少女と一度だけ話すこととなる。
 ある時、カウンター席真正面の壁に掛かっている、「森の中の銀河」という絵画の横にある扉が少し空いていたのだ。その少し空いている扉の隙間を覗いてみると、1メートル先の辺りから薄く光が漏れていて、延びる光芒が古びた床板を淡く照らしていた。僕は意を決して扉を完全に開けると、本当に短い廊下を挟んだ向こうに、もう一枚木製の扉があることに気付く。そこの扉も僅かに開いていて、そこから光が漏れていたのだ。
 ここで僕は高鳴り尚且つ焦る思考を抑えて、一瞬だけ冷静に考えてある答えに行き当たるが、その前に自然と扉に手が伸びた。
扉を引いて開けた先には、星の木に半分埋もれている木の幹が窓から入る光に照らされていた。見上げるとそこは吹き抜けで、外から見ると全く気付かなかったが、天井即ち屋根の一部分はガラス張りになっていて、そこからも入る光が木の枝に実る葉を淡く輝かせていた。
 僕は視線を下に落とし、小さく声を上げた時のことを、鮮明に覚えている。そこに床板は無く、綺麗に生えそろった緑の草が、その部屋一面に敷き詰められていた。大きさにして8畳程度の広さの部屋に広がる小さな草原。
 その部屋の床の壁際から、恐らく外の敷地から伸びているであろう草木花が、木の幹と壁、ガラスの隙間を埋めていたのだった。扉から、壁を突き出しから部屋に入り込む木の幹までの距離は2メートル程。その間に生い茂る、まるで御伽噺に出てくるかのように柔らかい印象を与えてくれている草の床に、少女が寝ていた。柔らかい草に埋もれているその様があまりにも自然で、僕は不思議と驚かなかった。初めてのこの場所に立ち入る癖に、やっぱりここにいたんだと、前から知っているかのような感覚を抱かさせてくれた。
 気がつくと彼女は目を覚ましていて、僕に一杯のコーヒーと、オルゴールを差し出していた。
 そこから先の記憶は無く、僕はその後、その喫茶店に行ったか覚えていない。
 だから、僕はコーヒーを飲んで、タイムスリップする。


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