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欠けたチーズケーキ

17/04/26 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 れもん 閲覧数:726

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平日朝の電車内というのはどうしてこうむさくるしいのだろう。休日にどこかに遊ぶに行こうと乗る電車とはまるで違う。車内に陰鬱な空気がみちていて、生気がまるでない。あれだけの人数が同じ空間にいてあれほどの静寂をつくりあげることができるのは日本人だけであろう。
泉貴子は窮屈な車内でそんなことを考えては、少しでもこれから出勤する会社のことをかんがえないでおこうとした。


OL達の派閥争い、出世、部長の不倫、貴子はどれにも興味がなかった。それらを好むでもなく、嫌厭するのでもなく貴子は関心をもたなかった。


ではどうして彼女が会社にいくのがいやでいやでしかたがないかというと


『男』である。


彼女は先日振られた元ボーイフレンドである同僚と顔をあわせるのが嫌でしかたがなかったのだ。


しかし電車というのは一度乗ったら基本的には止まらない。彼女の思いを嘲笑うかのように電車は唸りを上げながらぐんぐんと会社のほうへむかった。



あーおわった。やっと休みだわあ。
両手をぐっと上にあげて体を伸ばす。明日、ようやく貴子がまちにまった土曜日がやってくるのだ。


帰り道、貴子が最寄駅から家へ向かう途中ケーキ屋がある。彼女はルンルン気分の軽い足取りでその店のドアを開いた。


乙女ならば誰でも目をきらきらと輝かせることであろう、店のショーケースには種々折々の宝石みたいなケーキが並べられていた。


うーん、どれにしようかした。ショートケーキもいいわね、イチゴが食べたい。あらでもモンブランもいいわね。
なんて迷いはするものの彼女が注文するのはいつもチーズケーキだった。


今日も同じように彼女は
「チーズケーキ2つ、持ち帰りで」
と言った。



家の近所、猫の溜まり場があった。そこで彼女は毎週末猫たちにチーズケーキを振る舞った。人間の食べ物は猫にとっては濃すぎるから食べさせすぎてはいけないのだけど彼女は猫にだらしなかった。


にゃーとかわいい声で鳴かれるとついあげたくなってしまうのだ。


ただどの世界にも弱いものはいる。群れている猫にこうしてなにかをやると、それにありつけないものが時折いるものだ。


鼻のシュッとしたその猫はいつもチーズケーキを食べなかった。ただその猫はとりわけ弱いわけではなさそうで、他の猫に譲っているようにも見えた。


だから貴子はもう一つ買ってあったチーズケーキを少しちぎっていつもその猫に食わせてやった。おかげで貴子の食べるチーズケーキはいつも欠けていたけれど貴子は気にしていなかった。その猫がいつも鼻先にチーズケーキが付いている様が愉快で可愛らしかったからだ。


家に帰るとどっと疲れが押し寄せて、とっとと風呂に入って寝てしまうことにした。


はあ、月曜日になったらまたあの人に会わないといけないのね。
貴子の頭には元ボーイフレンドの男の馬面が浮かんでいた。
シャワーがザーッと水を吹いて、浴室内には湯気が充満する。浴室にいるときというのはとにかく考えごとが頭をぐるぐるぐるぐるとまわるもので、シャワーを浴びながらあの馬面に会いたくないなあと貴子は憂鬱になっていた。


風呂からあがり、欠けたチーズケーキを食べた。1人で食べるチーズケーキは少し物足りない気がした。





翌日の午後貴子は駅前のカフェにいた。ちょうどお菓子が美味しく感じる時間。彼女は欠けていない美味しいチーズケーキを食べようとしていた。しかし彼女は依然として憂鬱だった。


店内のちょうど良い具合に日差しが差し込んだほのかな明るさも、落ち着いたシックなインテリアも彼女の心を慰めることはできなかった。


チーズケーキがくればうきうきるんるん気分になるわ。ケーキを食べて元気をだすの。



いざチーズケーキがやってきても彼女は少しの元気も出なかった。


まあ仕方ない、とりあえず食べよう。
そう思い、フォークを手にとったとき。


青年がチーズケーキを食べてしまった。どこから現れたのかいつのまにか貴子の向かいの席に座った青年がチーズケーキを少し手でちぎって食べてしまったのだ。


「ちょっとあなたなにしてるの!?」


「あんたはこうやって食べるのが好きなんだろう?」



「いったいなにをいってるのよ?ナンパかなにか知らないけど迷惑だわ!」


「うるさいなあ。声が大きいよ。はしたない」
青年はシュッとした鼻の先にチーズケーキのかすをつけながらそういった。


「あなただって鼻先にチーズケーキがついてるわ。もう少し行儀よく食べなさいよ」
貴子はそこまで言ってようやく気付いた。


「あらあなた?」


鼻先についたそれが、愉快で可愛らしくて思われてきて、貴子は思わず笑ってしまった。


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