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泡沫恋歌さん

泡沫恋歌(うたかた れんか)と申します。

性別 女性
将来の夢 いろいろ有りますが、声優ソムリエになりたいかも。
座右の銘 楽しんで創作をすること。

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もどってきた男

17/04/24 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:4件 泡沫恋歌 閲覧数:834

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ネット上で自分のことを浦島太郎だと流布する男がいた。
おとぎ話のキャラに成りすまして、どんなメリットがあるのだろうか。――まず、そこが気になった。
どうせ成りすますなら、もっと歴史上の偉人とか、有名人の名を騙るとかあるだろう。
だが、その男はTwitterやFacebookで自分が浦島太郎だとアピールしているのだから、ただのバカなのか?
どんな奴なのか見てみたいと、Twitterにメッセージを送った。
『浦島太郎と名乗るあなたのことが気になるので、せひ取材させてください』
こういう内容で送信したら、三分も経たない内に返信がきた。
『取材OK!! どうせ暇なのでいつでもどうぞ♪ 浦島太郎』
なんか胡散臭い奴だと思ったが、面白い話が聴けるかもしれないと、二人で会うことになった。
言い遅れたが、俺はネットなどに記事を書いているフリーライターで、『不可思議通信』という、都市伝説や怪奇現象などを取材したメルマガを発信している。
俺は自称浦島太郎さんから面白い話が聴けることを期待して待ち合わせ場所へ向かった。

その男は時間ピッタリに現れた。スタバの店内をキョロキョロしながら歩いてくる、青いパーカー背中に『海人(うみんちゅ)』の文字入りを着てくると言っていた。
手を振ってこちらだと示すと男は嬉しそうにやってきた。
「どうも浦島太郎です」
「フリーライターの那由他(なゆた)といいます」
「もっと若い人かと思ってましたが……」
「僕、いくつに見えますか?」
「う〜ん……パッと見、四十くらい?」
「いいえ、先月二十歳になったばかりの大学生です」
「はぁ? 乙姫さまの玉手箱で急に老けたんですか」
俺が笑いながらいうと、男は真剣な表情でこたえた。
「あの島から戻ったら、二十年以上も時が流れていました。その間に両親は亡くなってたし、大学も退学になってる。戸籍も抹消されて僕は死んだことに……みんなに忘れ去られた」
「現代の浦島太郎はボッチってことですか」
「こっちに戻って三ヶ月ほどになりますが、どこにも僕の居場所がない」
なんだか、悲惨な境遇だ。
「あなたが浦島太郎になった切欠を話してください」
「大学の友人たちと伊豆へ釣りに行ったときです。岩場で釣りをしていたら大波にさらわれて、あっという間に僕は沖に流されてしまって……気がついたら、あの島へ流れついていた」
「あの島とは?」
「竜宮島。美しい九人の乙女たちが住んでいる」
乙女が九人とか、ワルキューレか? しかも海に流されて異世界へいくなんて……まるでラノベ展開だと俺は思った。
「さぞ竜宮城の乙姫さまにモテモテだったでしょう?」
「真珠やサンゴ礁で造られた宮殿で、海神の娘、九人の乙女たちの夜の相手をしました」
男は瞳を輝かせて語る。
酒池肉林? やっぱりオカシイ人だった、この話は男の妄想だろう。よくあるエローゲーのシュチエーションだよ。
「信じてないでしょう? これを見てください」
男は手の甲を見せた、そこには十円玉くらいの赤い痣があった。
「あっちから戻ったらこの痣でした」
母斑だろうか、よく見ると亀の形をしている。それが浦島太郎の証拠なのかどうかは疑問だが……。

「なぜ自分が浦島太郎だとネットで宣伝してるんですか?」
「捜しているんです。僕みたいに竜宮島から戻ってきた人を……」
「あなたはどうやって戻ってきたんでしょう?」
「毎夜、違う相手と契り、九日目の乙女が僕に言ったんです。あなたが私を抱いたら、この儀式は終わり。この後、小舟に乗せられて海に流されてしまうのだと、それで彼女が僕を逃がしてくれたのです」
「補陀落渡海(ふだらくとかい)ってやつですか? 海の向うの極楽浄土を目指す」
「違います! 極楽浄土は竜宮島だ。用済みなので僕は廃棄される運命だった」
「要するに、乙女たちの慰め者ですか?」
「ハイ、ですが男なら誰でも夢見る、ハーレムのような日々でした」
途中から、録音も撮っていない。こんなヨタ話は記事にもできない。単なる好奇心から、この男の話を聞いていた。

「僕はあっちの世界に戻ります!」
取材を終えて、別れ際に男がいった。
「どうやって?」
「もう一人の浦島太郎を見つけました。彼は九十歳で老人施設にいます、そこの介護士さんが浦島太郎の話をする老人がいると教えてくれたから会いにいった。彼にも僕と同じ痣があります。……そして戻る方法を教えて貰った」
「本当に?」
「僕が釣りをしていたのは亀岩という引潮にしかでない、あの岩はあっちに繋がるなにかが……」
そこまで話して急に口を噤む。「どうも」一礼して男は去っていった。

それから数日後、伊豆の海岸に若い男の溺死体があがった。
年齢は二十歳代、青いパーカーとジーンズ、手の甲に十円玉くらいの痣があった。
彼がいったい誰なのか知る者はいない――。


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このストーリーに関するコメント

17/04/25 まー

男の妄想なのか、本当に現代の浦島太郎なのか気になります。
浦島太郎の話そのものが、男たちのありきたりな願望が生み出した話なのかもしれませんね。

17/05/14 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、拝読しました。

こわい浦島太郎バージョンもありそうですね。
実はみな、竜宮城の住人たちの陰謀だとしたら…男がかわいそうになりました。

17/10/24 泡沫恋歌

まー 様、コメントありがとうございます。

浦島太郎という人物が存在したならば、彼のような男だったのかもしれませんね。
アニメでよくあるハーレム願望だったのかも、これは世の男性の憧れでしょうから(笑)

17/10/24 泡沫恋歌

そらの珊瑚 コメントありがとうございます。

美味しい思いをしても最後に殺されるなら、けっきょく割に合わない。
それでも帰りたいと望んだ男にとって、そこは死と隣り合わせの楽園だったのでしょうか。

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