1. トップページ
  2. 安眠玉手箱

そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

投稿済みの作品

2

安眠玉手箱

17/04/24 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:3件 そらの珊瑚 閲覧数:752

この作品を評価する

「じーじ、うらしまたろー、よんでー」
 三才になったばかりの孫のえんじぇるが、今夜もお気に入りの浦島太郎の絵本を持って来た。
「愛」と書いて「えんじぇる」と読む。
 どこでどんな変換をしたらそういう読み方になるのか、わしにはさっぱり分からない。が、可愛いのでよしとしよう。
「はいはい、よんであげようね。えんじぇるちゃん」
 えんじぇるは、絵本を片手に、わしのベッドにもぐりこんでいる。
 えんじぇるのほっぺたは、大福もちのように柔らかそうだ。つまんでみる。ふにゃっとしている。試しに伸ばしてみたら、あらあら、どんどん伸びていく。それでもえんじぇるは、くすくす笑っている。
「痛くないのか?」
「ぜんぜーん!」
 今度は、えんじぇるがわしのほっぺたをぎゅっとつまむ。五才といえども、かなりの力だ。わしのほっぺたもどんどん伸びる。けれどえんじぇるほどの弾力がなかったせいか、途中でぷっつりと切れた。それはそうだろう。えんじぇるがつきたて餅なら、わしのは鏡開きを過ぎてしまった、かびが生えた硬い餅だ。
「じーじ、いたい?」
「わしも全然痛くないぞ」
 えんじぇるは、切れたわしのほっぺたの切れ端を団子状にして、パクッと食べた。やることなすこと、本当に可愛い孫だ。ほっぺの切れ端など惜しくない。おまえが望むなら、この身ごと、いや魂だって、えんじぇるにやってもいいくらいだ。

 浦島太郎の絵本の中で、えんじぇるが一番好きなのは、最後の頁だ。
「玉手箱を開けると、けむりがもくもく。あっというまに浦島太郎は白いおひげのおじいさんになりましたとさ。めでたし、めでたし」
「けむり、もくもくー」
 えんじぇるが手をたたいて喜ぶと、わしも嬉しくなる。
 
 思えば年をとって、いいことなどひとつもない。
 老後はゆっくり妻と旅行でもして過ごそうと思っていたのに、先に旅立たれてしまったのだ。息子夫婦は仕事に忙しく、最近は顔を見ていない。が、そんなことはもうどうでもいい。
 わしにはえんじぇるがいる。
 えんじぇるさえそばにいてくれるなら、それでいい。

「うらしまたろー、じーじにへんしーん!」
 えんじぇるがさけぶ。
 そうか、変身か。えんじぇるからみたら、玉手箱は変身できる魔法のようなものかもしれない。
 だとしたら、おじいさんみたいなつまんないものでなく、もっといいものに変身させてやりたくなった。うーん、小さな女の子がすきなものといえば……王子様だ!
 
 わしは、えんじぇるの真似をして
「うらしまたろー、王子様にへんしーん!」と叫んだ。
 すると絵本の中の浦島太郎が、白馬にまたがったりりしい王子様になった。
 とたんにえんじぇるの顔が悲しそうになった。
「おーじさまは、キライ」
「どうしてじゃ?」
「おーじさまは、まだ、しにそうにないから、つまんない」
 死にそうにない? 
「じーじ、あたし、えんじぇるだよ。てんしだよ。しんだら、てんごくにつれてくこどもだよ」
 そりゃあ、いい。天国か。
「けむり、もくもくー」
 えんじぇるが楽しそうにはしゃぐ。
 きよらかなその声を聴いていると、わしの心も浄化されてゆく気がする。
 わしは死ぬまで生きたんだ。
 もうこの世に何の未練もない。
 いつのまにか、白い煙が部屋に立ち込めている。
 ふわりと空中に浮いたえんじぇるがわしの手をとる。
 連れてってくれ、天国とやらに。
 ああ、とても幸福な気分だ。



 介護の世界は、重労働で、報酬も少ない。結果、離職率も高い。なのに老人はますます増えていく。そこで開発されたのが『安眠玉手箱』だ。
 それのおかげで今夜も介護施設「竜宮ホーム」の入所者は穏やかに安眠中。
 『安眠玉手箱』が開発されるまでは、夜は眠れぬ認知症の老人の方々が徘徊し、職員はおちおち仮眠もとれなかったのだ。
 
 取り扱いは簡単。安眠玉手箱と呼ばれる小さな箱を開け、老人のベッドサイドに置いておくだけでいい。そうすると強力な睡眠導入磁場が部屋中を満たし、朝までぐっすり夢をみることが出来る。
 どうやら自分が見たいと思う夢が見られるらしく、安眠のおかげで、日中の老人たちの機嫌も良く、職員は仕事がやりやすくなった。
 たまに副作用でそのまま永遠に眠りから醒めない(つまり亡くなってしまう)老人もいるらしいが、皆、一様に安らかなほほえみを浮かべていた。
 もちろん遺族からの苦情はないという。
 めでたし、めでたし。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/04/25 まー

実際にこんなキラキラネームをつける親がいるようですね(笑)。

“ほっぺたをぎゅっとつまむ〜途中でぷっつりと切れた”のあたりから、おっ?といった感じで現実か否か気になるので、引き込み方が巧みだなと感心しました。

17/04/29 そらの珊瑚

まーさん、ありがとうございます。

キラキラネーム、進化してますね。もはや私なんかには読めないものもあって。どこまでいくんだろうって思っちゃいます。

そこのところ、展開の伏線として書いたので、気が付いていただき、嬉しいです。

17/05/08 泡沫恋歌

そらの珊瑚 様、拝読しました。

キラキラネームって、Youtubeでよくやってるけど、ホントに子どもの将来考えて付けたんかいな?
思うものばかり、その中で「王子」と書いて「キング」と読ませるのがあったけど・・・こんなのよく役所が受け付けたね(笑)

安眠玉手箱じゃないけれど、老人専門の病院では睡眠薬をずっと飲ませて死なせてしまうところがあるらしい。

ログイン