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むろいちさん

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恥知らず

17/04/24 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:2件 むろいち 閲覧数:1479

時空モノガタリからの選評

規則を守ることは大切ですが、「正義」をなんの疑問も持たずに振りかざした時、人はなんと危険な生き物になってしまうのでしょう。今はSNSなどで簡単に情報を拡散できるだけに個人の力が肥大化しやすく、社会的正義を自負した暴力も起こりやすい環境になってしまっているのかもしれませんね。“悪”を懲らしめる側だった彼が痴漢の冤罪にあってしまうという正義と悪とが混沌としてしまうようなラストが良かったと思います。彼を証拠もなしに責め立てる人々の群集心理はやはり怖いです。テーマが明快で、そのアプローチも掌編向きだったかもしれません。まとまりがよく、作者の意図がしっかり伝わりました。

時空モノガタリK

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 靴は左足から履く。
 つま先でトントンとはしない。
 家の玄関を左足から出る。
 鍵をかける。
 鍵を抜き、ドアノブを回して、鍵がかかっているか確認をする。
 階段を左足から降りる。
 左足を最初の一歩にしているのは単なるポリシー。
 踊り場にタバコの吸い殻が落ちている。
 恥知らず。
 吸うのは構わない。だが、ポイ捨ては喫煙者失格。
 ティッシュを取り出し、包んでビニール袋に入れ、とりあえずカバンに戻す。
 
 左右を確認し、マンションから出る。
 路側帯を歩く。
 小学生二人組が車道の方に広がって歩いている。
 ため息が出る。
 子供だから仕方がない。
 背後から声をかけ注意をした。
 キョトンとしていたが路側帯を歩き出した。
 
 大通りに差し掛かる。
 歩道の信号は点滅。
 走れば間に合うという問題ではない。
 点滅し始めたら、横断開始はアウト。
 途中なら早く渡るか引き返さなくてはいけない。
 法律に書かれている。
 どっこい背後から自転車のベルを激しく鳴らされる。
 飛び避けるとママチャリのおばさんが猛スピードで駆け抜けた。
 恥知らず。
 怒鳴ってやりたいが信号は赤。
 悔しいので携帯電話でおばさんの後ろ姿を写真に撮る。
 ツイッターにアップ。
 『信号無視の恥知らず』

 一方通行の道を歩く。
 道幅が狭くなっている。
 軽自動車が止まっている。
 違法駐車。
 恥知らず。
 再び写真を撮り、ツイッターにアップ。
 『違法駐車の恥知らず』
 ナンバーもそのまま。
 モザイクや加工はしない。
 世間へ警鐘を鳴らせれば幸いだ。

 駅に着き、電車を待つ。
 整列して電車を待つ。
 他の人もきちんと並んでいて気持ちが良い。
 電車が来て、扉が開き、降車のお客さんが降りきってから我々が乗り込む。
 割り込む輩もいなかった。
 だから、つり革も掴めないほど満員でも非常に心地良い。
 一体感さえ感じる。
 車掌の「ドアが閉まります」の声と発車のベルが鳴り響き、ドアが閉まり始める。
 男が息急き切って飛び込んできた。
 ドアが一旦開き、また閉じ、出発した。
 男は悪びれた様子もない。
 恥知らず。
 男のイヤホンからは音が漏れている。
 恥の上塗り。
 携帯電話を取り出し、こっそりと男の顔を撮る。
 シャッター音は消してある。
 ツイッターにアップする。
 『飛び乗り&音漏れの男。恥知らず』
 これにもモザイクや加工はしない。
 公にすることで戒めになるのだ。
 カバンに携帯電話をしまう。
 電車が大きく揺れる。
 踏ん張れず、ふらつく。
 隣から女性の悲鳴。
 一斉に視線が集まる。
 女性が私の手を掴み、大声をあげる。
 私が尻を触ったと喚いた。
 イヤホン男が私を背後から羽交い締めにしてくる。
 私はそんなことはしないと伝えた。
 別の女が車内で写真を撮っていたと叫んだ。
 「盗撮」という言葉が響き、「降ろせ」という怒号が轟いた。
 「盗撮」ではない告発をしているだけだ。
 疚しい気持ちは微塵もない。
 と弁明をしたら「証拠を見せろ」と誰かに言われた。
 見せるのは構わないが、この状況で誰が正当で平等なジャッジを下すのだろう。
 触ったと声を上げる女性もイヤホン男も、盗撮と発した誰かも冷静でない。
 冷静な人はいない。
 恥知らずばかり。
 多勢に無勢。
 四面楚歌。
 孤独。
 
 私は無実。
 携帯電話を取ろうとカバンに手を突っ込む。
 吸い殻を入れたビニールが破れており、吸い殻を掴んでしまった。
 手が臭くなる。
 吸い殻をこのまま捨てると私も恥知らずになってしまう。
 だから、カバンに再び戻し携帯電話を取り出す。
 私を囲う連中の顔が気色ばんだ。
 カメラを起動し連写。
 未知のものを見るような目つき。
 車内は静まり返り、私の次の行動に注視している。
 私は恥知らずたちの写真をツイッターに投稿した。
 『人を悪者に仕立て上げる恥知らずたち』
 背後のイヤホン男が耳元で「気持ち悪りぃ」と呟いた。
 それに端を発し、非難轟々、衣服が引きちぎられ、私はボロボロ。
 電車が駅に着き、ドアが開かれた。
 モーゼの十戒のごとく、人波が割れ、イヤホン男が私を押し出す。
 触ったと騒いだ女が被害者ヅラして降りてくる。
 騒ぎを聞きつけた駅員が待ち受けている。
 何も悪いことはしていない。
 正しいことしかしていない。
 私は全身の力を込めてジタバタ。
 イヤホン男の拘束が外れた。
 私は逃亡。
 捕まえようとしてくる駅員に拳を食らわせる。
 イヤホン男が追いかけてくる。
 一気に改札まで駆け、定期をかざして駆け抜ける。
 ちりぢりのスーツ姿で走る姿が珍妙なのか通行人たちに写真を撮られまくる。
 恥知らず。
(了)


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このストーリーに関するコメント

17/06/07 光石七

拝読しました。
初めは主人公の義憤に共感していましたが、ツイッターに投稿するくだりから違和感を覚え、いい意味でモヤモヤする、ざらつく読後感でした。
短く端的な文章が主人公の性格をよく表していると思います。こういう人、実際にいそうですね。
面白かったです!

17/06/08 むろいち

光石七様
コメントを頂戴し、ありがとうございます。
楽しめて頂けて大変嬉しいです。
こういう人に似た人の話を聞きまして、実際に近い人はいるようです…
ありがとうございます。

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