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若早称平さん

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竜と石

17/04/24 コンテスト(テーマ):第134回 時空モノガタリ文学賞 【 正義 】 コメント:6件 若早称平 閲覧数:864

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 むせ返る程の血と肉の焼ける臭いがこびり付いた鎧を重く引きずるようにその騎士は洞窟の最深部に辿り着いた。闇に目を凝らすとその奥に光る双眼が見える。掌にべっとりと付いた、もはや誰のものか分からない血を拭って剣を握り直した。
「立ち去れ! 人間風情が!」
 地を揺らす様な低い怒声がすると同時に壁中の松明が灯り、巨大な体躯が騎士の眼前に現れた。

 城下町の近郊に巣食う竜を退治する為に百人近くからなる討伐隊が結成されたのだが、竜の眷属達との戦いにより生き残ったのはたった一人、この騎士だけになっていた。それも疲労と怪我で立っているのがやっとの状態で、とても目の前の竜と戦える様な身体ではなかった。
 それでも歯を食いしばり自分を睨みつける騎士を竜は嘲笑った。
「虚勢にしか見えぬが?」
「黙れ! たとえ刺し違えてでも貴様を倒す!」
 見下す金色の目に剣先を向け、ジリッとにじり寄る。騎士は一瞬でそれを貫ける距離までの間合いを計っていた。
「何故我を殺そうとする? 我が貴様らに危害を加えたか?」
 それは最初に対峙した時の様な威圧的なものではなく、騎士を諭す様な理性的な声だった。
「私の仲間達の命をどれだけ奪ったと思っている!」言いながらまた一歩竜へと近付く。
「それはこちらとて同じ事。むしろ貴様らがここへ来なければ誰一人死ぬ事はなかった。侵略者は貴様らの方だろう」
「放っておけばもっと被害が出るだろう。そうなる前に邪な存在を駆逐するのは当然の正義だ!」
「正義?」
「そうだ、正義だ。町を、人々を守る。その正義の名の下に私は貴様を倒す!」
 あと三歩分距離を詰めれば一飛びで剣が届く。興奮し、激昂している素振りをみせながらも騎士は冷静だった。
「我がこの地を訪れたのは安住を求めての事。貴様らに害を成すつもりなどない。その剣を納めてさっさと帰ってそれを伝えよ」
「命乞いか?」
 騎士が不敵に笑いながら半歩踏み出すと、竜は咆哮の様な笑い声を上げた。狼狽える騎士の剣が目にも止まらぬ竜の一振りにより壁まで弾かれ、カランと音を立てて地面に落ちた。
「図に乗るなよ、人間。貴様など殺そうと思えばいつでも殺せるのだぞ」
 それでも騎士は腰の短剣に手を添え、一矢報いようと機会を伺っていた。と同時に圧倒的な力の差がありつつも自分を生かしている事への疑念も生まれていた。
「人間よ、我は貴様の強靭さ、勇敢さ、そして正義感とやらを買っている。貴様らが手出ししてこなければ我も貴様らに干渉せぬ事を誓おう」
 騎士と竜が睨み合ったまま暫く沈黙が続いた。騎士は竜のその言葉を信じるべきなのかを思案し、竜はその返答を待っていた。ややあって騎士が短剣から手を離した。それを答えと受け取った竜は「聡明さも付け加えなくてはな」と賛辞を贈る。
「しかしもしその契約を破り町を襲う様な事があれば私は再び貴様を倒しに来るぞ」
「それは我とて同じ事。貴様らの町など瞬きの間に焼き尽くしてくれよう」

「人間よ」
 剣を拾い、立ち去ろうとする騎士を竜が呼び止める。
「ついでに一つ忠告と言うか予言をくれてやろう……」

 暗い洞窟から太陽の下に出ると騎士の白銀の鎧が血でどす黒く汚れているのが分かった。身体中に青黒い痣と傷が出来ている。外にも数多く横たわる仲間の死体を埋葬するよりも、身体を癒し、休息を取るよりもまず果たさなくてはならない使命があった。僅かに生き残っていた馬の一頭に這い上がる様に跨がった。
 町に着く頃には陽も落ちかけていたが、戻って来た騎士を出迎えようと多くの者が広場に集まっていて、騎士は帰って来たその足で人々の前に立つ事を望んだ。
 死闘の痕が色濃く残る騎士の姿に人々は息を呑んだ。フラフラと壇上へ上がった騎士はゆっくりと討伐の経緯を語り始めた。洞窟での戦いの事、生き残ったのが自分一人である事、人々はそれを静かに聞いていた。が、竜とのやりとりと交わした契約に話が及ぶとどこからか騎士にめがけて石が飛んで来た。鎧に当たったその石が発する金属音を合図にしたかのように、次々に罵声と共に石が投げられた。
 無数に襲いくる石つぶての雨の中、騎士は去り際に竜に告げられた予言を思い出していた。
『もしも貴様がその正義とやらを全うしようとするならば、貴様の敵は我だけではないであろう』
 石の一つが騎士のこめかみに当たり、鮮血が頬を伝う。鎧が傷付き、壊れて露わになった皮膚に新しい痣と傷が増えていく。それでも騎士は、自嘲の様な笑みを浮かべる彼が、膝を折る事は決してなかった。


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このストーリーに関するコメント

17/04/24 まー

“自嘲の様な笑みを浮かべる彼が、膝を折る事は決してなかった。”

やだ、なにこの騎士。かっこよすぎる……。
正義を貫くってある意味こういうことですよね。周りから攻撃され非難されて当然ぐらいに考えないと。
しびれる作品でした!

17/04/24 若早称平

まーさんコメントありがとうございます!
カッコいいですよね(自分で言うw) 完全に作者の意図を越えてしまいました!

17/04/24 若早称平

まーさんコメントありがとうございます!
カッコいいですよね(自分で言うw) 完全に作者の意図を越えてしまいました!

17/06/07 光石七

拝読しました。
正義とは何か考えさせられますし、正義を貫こうとする騎士の姿が胸に迫りますね。
テーマに真正面から取り組んだ良作だと思います。

17/06/08 若早称平

光石さんコメントありがとうございます!
正義とは何かは未だに分かりませんが、こういう理不尽な板挟みは結構あるかなと思います。

17/06/08 むねすけ

読ませていただきました
竜と人間、自分が耐えることで平穏にゆくのならばという
主人公のカッコよさが際立っていました
硬派な文体もストーリーに合っていて、素晴らしいと感じました

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