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眠々瀬未々さん

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アイスクリーム

17/04/23 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 眠々瀬未々 閲覧数:504

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 食前に注文をしたアイスが、二人のもとに運ばれて来た。僕のアイスは、チョコレートアイス。七緒のアイスは、抹茶アイスである。
 二人は、沈黙を保ちながら、スプーンを手にとって、アイスを掬った。僕の方は、固くて、上手く掬うことが出来なかった。一方で、彼女の方は、掬ったアイスを口に運んでいる。僕は、もう一度アイスを掬ってみることにした。アイスは固く、やはり上手く掬えない。僕が、溜息を吐くのと同時に、彼女はもう一口、アイスを食べていた。アイスを食べている彼女の顔は、幸せそうに見える。彼女の後ろにある窓に、雨が力強く叩きつけられている。向こうに見える信号は霞んで、点灯している色だけがボンヤリと見える。
「そのアイス、美味しい?」僕は、ぼそぼそとした感じで喋り出した。彼女には聞こえなかったのか、幸せそうな顔をしたまま、アイスを食べている。既に、アイスは半分程食べられてしまっていて、僕は、もどかしくなった。僕は少し欠けたアイスに目をやり、それからスプーンを置く。僕は、もう一度窓の外を見つめた。こんな雨の中でさえ、きっと、君は直ぐに帰るだろう。むしろ、この雨が、君の帰路を早めてしまうのだ。そう思うと、この固いアイスが、急に愛らしく思えてくるのである。
「僕のアイスは、まだ食べ頃ではないみたいなんだ。良かったら、少し待ってくれないだろうか」
「私の方も固かったけれど、私は固いのが好きだから」と彼女は言った。彼女は、不機嫌な顔をしている。また、だ。僕は、どうしたら彼女が不愉快な思いをしないで済むのか、何度か考えたことがある。そうして出た結論は、僕がいなければいい、である。でも、それは、彼女が不愉快な思いをしないための最適解である。僕は、君と会うことが何よりの楽しみであるし、人間、酷く自己中心的であるからこそ、また、他人に優しく出来る所も、多少は、あるのではないだろうか。
 嗚呼、僕は言い訳をしている。僕は、自分が愚かであることを、どうにかして、否定しようとしている。「ねぇ、もう食べ頃でしょう」そう言って、彼女は僕のアイスに、スプーンを突き刺そうとした。無論、僕が使っていたスプーンである。スプーンは、突き刺さるというよりも、入り込んでいった。皿の底に、溶けたチョコレートアイスが漂っている。「そうだね」僕はスプーンを掴むと、口に運んだ。甘ったるい味がする。安い味だ。徐々に変化していく、上品な味のコントラストを感じることが出来ない。口に入れた瞬間から、喉を通るまでの間、只甘いだけ。冷たさが舌に不愉快に染み渡っていく。主食を食べ終えた後、疲れきった舌を癒そうという、優しさは感じられなかった。抹茶アイスは、どんな味がしたのだろうか。
「美味しい?」彼女は冷ややかな目を、僕の手元に向けている。僕は、まあまあとだけ答えて、席を立ち上がる。彼女は、露骨に嫌そうな顔をした。そうして、小さく何かを発した。

 店を出ると、彼女は、一人で駅の方へ歩きだしてしまった。僕は、車を指差したり、立ち止まったりしてみたが、彼女は、こちらを見ようともしない。僕は、最後に声を発した。だが、声は雨にかき消されてしまった。傘に、雨が当たっている。僕は、財布を取り出して、中を覗き込んだ。肩を竦めてみせる。店内の誰か一人にでも、僕の思いは伝わるだろうか。結局、僕は車に乗り込むと、エンジンをかけて、ラジオから流れる音楽に耳を傾けた。


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