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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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甘い殺人

17/04/18 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1059

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 宅配の包みをあけると、きれいな箱があらわれた。
 開けない前から、甘い香りがたちのぼってきた。
 両手でゆっくりふたをあげると、小型のデコレーションケーキがあらわれた。まんなかに苺がもりつけられ、そのまわりを生クリームがたっぷりとりまく、女子高生あたりが喜びそうなケーキだった。
 大吾は、ケーキの上に立てかけられたチョコレートプレートを手にとると、茶色の上に白のクリームで書かれた文字に目を走らせた。
 そこにはある男の名前と、電話番号と住所が記されていた。それが今度の殺人依頼の相手だった。期限は一週間以内となっている。いそがなければならなかった。
 大吾は、いまみたばかりのチョコレートをバリバリとかじりはじめた。証拠隠滅には、この手が一番だった。
 殺人依頼はすべて、いまのようにデコレーションケーキでやってきた。殺人方法に指図はない。彼の場合は、手製の銃を使った。簡単な組み立て式で、おわると分解するやつだ。電話をかけて居場所を確かめた相手にちかづき、射殺する。これまで一度の失敗もなかった。
 チョコレートだけ食べたケーキを、再び箱にもどすと大吾は、紙で対寧に包み直した。その箱を前に、こんどはグラスにウィスキーをついだ。あまったるい口のなかを、ぐいとあおった酒で清めた。
 それから数時間後、玲子のマンションをたずねた大吾は、例のケーキの箱を彼女にさしだした。
 玲子は箱をあけることもしないで、
「また、これ」
「甘いものは嫌いじゃないんだろ」
「嫌いじゃないけど………」
 それどころか、甘いものには目のない彼女だった。あんのじょうがまんしきれなくなった彼女は、彼の持参した箱をあけると、飛びつくようにケーキにむさぼりついていた。
 数日後、大吾はふたたび玲子の住いにやってきた。それもいつものことで、なにか一仕事おえた達成感を表情にみなぎらせて、すでにだいぶアルコールがはいっているらしく、足元も覚束ないまでに酔っていた。
 玲子は、グラスについだ酒を、さらに何杯も彼に空けさせた。さすがに、限界をさとってグラスをつきかえす彼に、それでもまだ執拗に強い酒をすすめる今夜の彼女だった。
 大吾の目が、とろんとなってきたのを玲子は確かめた。心底酔っぱらうと、彼の口が軽くなるのを知っている彼女は、ふだんから疑問におもっている質問をぶつけてみた。
「あのケーキ、あたしのしらない女から、もらったんじゃないの。何度も、何度も―――」
「ちがう、ちがう」
 大吾は呂律のまわらない舌で、否定した。
「じゃ、なんであんなにしょっちゅう、あたしのところにもってくるのよ」
「そのわけは………」
 あとになって大吾は、このとき玲子に話した事柄を、ひとつもおもいだすことができなかった。

 その日も、殺人依頼のケーキが大吾のところに送られてきた。
 いつものように、チョコレートの文字を読み終えると彼は、そのプレートをたべてしまった。あとで頭のなかで反芻しようと思った矢先、たちまち、胃の奥からこみあげてきた灼けるような痛みにたえかねて、彼は腹を抱えてうずくまった。薄れゆく意識の中で彼は、チョコレートプレートにしるされていたローマ字が、自分の名前だったことに気がついた。

 先日、玲子の部屋で、酔った大吾がほとんど無意識で語ったこととは、つぎのような内容だった。
「―――これらのケーキは、殺すためのものだ。これを、食べれば、死ぬ………」
 しどろもどろではあっても、たしかにそう聞こえた。
 玲子は先日うけた定期健診で、血糖値が異常に高いのをしった。明らかに、甘いものの過剰摂取が原因だった。
 大吾からこの話をきかされたとき、てっきり彼が、じぶん以外に女をつくって、邪魔になったじぶんを殺すために、これでもかとケーキをたべさせるのだとおもいこんだ。
 いったんそうおもいこむともう、ほかのことはなにも考えられなくなった。そして彼がそれからも、酔った勢いで殺人を依頼する組織のことや、その連絡先を、問いもしないのに喋るのを耳にした玲子は、そんな組織が実在することを驚くとともに、その組織をじぶんも利用できないものかと考えた。後日ひそかにその組織に連絡をとった玲子は、大吾殺しを依頼した。その依頼料はばかにはならなかったが、やられるまえにやる必要にかられて、指定された銀行にATMで振り込んだ。
 あとになって大吾が、劇薬のはいったチョコレートをたべて死んだことをしった玲子は、甘いものが大の苦手な彼が、そんなものを口にしたことじたい、不思議でならなかった。とはいえ、ひとまず一件落着した解放感も手伝ってか、無性に甘いものがほしくなった。おさえきれない欲望に負けて彼女は、買ってきた大量のケーキをむさぼりくった。血糖値のことなど、このときの彼女の頭からはきれいに飛んでいた。


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このストーリーに関するコメント

17/04/21 まー

チョコレートの文字を読んだときに自分の名前に気付かなかったのかなと、?と思う点はあったのですが、習慣になっていることで反射的に食べてしまったといった感じでしょうか。

血糖値を気にしている人にとっては、こんなプレゼントも疑心暗鬼になるのかもしれませんね。面白い作品でした!

17/04/21 W・アーム・スープレックス

まーさん、コメントありがとうございます。
そうですね、自分の名前に気づかない者はいないですよね。でも、いつもどおりチョコプレートは食べるのでは、という甘い発想で押し切りました。

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