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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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何かが足りない

12/11/19 コンテスト(テーマ):【 箸 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1842

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 いよいよ、その時がきた。
 これまで映画で、小説で、なんども描かれてきた異星人による地球侵略―――がこれからはじまる。特異な形の未確認飛行物体が地球に接近してきたとき、世界中のだれもがそう思ったにちがいない。
 日本のアマチュア天文家天野祐樹くんの見解はちょっとちがった。天文家といっても、手で持ち運びできる天体望遠鏡を、我が家の物干し場において星を観察する程度の、ピンからキリまでいるアマチュアの、いちばんキリにあたる天文家だった。
 それでも夜中、あたりのだれもが寝静まったときに一人、星に満たされた宇宙を望遠鏡でのぞくときのあの、雄大な気分はなんともいえなかった。
 月の横にうかぶ―――望遠鏡だとそうみえた―――ながながと伸びる光り輝く一本の線。それこそが宇宙のかなたより飛来した未確認飛行物体そのものだった。いま全世界が注目しているその物体を、彼がはじめてみたときなぜか、何かが足りないという、奇妙な感覚にとらわれた。
  天野くんのものよりよりもっと、はるかに優秀な天体望遠鏡によってそれが発見されたのはつい先日のことだった。テレビでも、ウェブでも、その拡大された写真はいつでもみれた。どこにも窓のない、白銀色の滑らかな光沢をおびた表面、直径30メートル、全長10キロにおよぶ細長い胴体にはひとつの翼も確認できなかった。
 だれかがそれを造ったことはあきらかだった。現代の地球の科学力では到底建設不可能という結論が学者たちから下された。その事実は地球人たちの劣等感をつっつかずにはおかなかった。侵略説がうかびあがったのも、相手を悪者に仕立て上げることによってなんとか優越感を保とうとする人類の苦肉の策かもしれない。
 天野くんはその物体をひと目みるなり、
「なんて美しいんだ」
 その、かけらも無駄のない、あくまで一直線の優美な姿に驚嘆した。
 こんな美しいものをつくる種族が、武力を用いて他の惑星を侵略なんかしたりするはずがない。この宇宙船?の搭乗者の目に、地球はどのようにうつっているだろう。我々が地上からかれらをみているように、かれらもまた我々をもっと高度な技術で仔細に観察していることは十分考えられた。かれらの目に我々は、なんとも幼稚で未熟な生命体にうつっているにちがいない。かれらを侵略者ととらえて、はやくも右往左往している姿はおそらく、地面で蟻が、人間の足におどろいて、あたふた逃げ回る様のようにみえているのではないだろうか。
 諸外国では、核ミサイルの準備もささやかれているが、恒星間飛行をすでに達成している相手に、それが通用するかははなはだ疑問で、もしもそんなことをしてかれらが機嫌を損ね、蟻を踏みにじるような行為にはしらないとはだれにも断言できないのだ。
 天野くんの心配をよそに、じっさい諸外国では着々と、核搭載ミサイルが装備されはじめていた。仮に宇宙船?が親善大使をのせていたとしても、一応は攻撃体勢を確立してから平和交渉におよぶという、いかにも人類らしい矛盾を担っての外交を各国はもくろんでいた。
 そんなこととは無関係に、天野くんは今夜も、ひとり物干し場で望遠鏡をのぞいていた。宇宙船はいまも、最初とおなじ位置に浮かんでいた。いつまでもじっとしている理由というものを彼なりに考えてみた。このあいだの日曜日、駅前で彼女をまっていたときのことをおもいだした。約束の時刻はすぎていた。15分まち、30分まち、1時間がたった。それでもまだくるものとおもって、さらに30分おなじところにたちつくしてから、とうとうあきらめて帰った。結局自分はふられたのだ。重い足取りで歩きながらようやくその結論にたどりついた。
 あの宇宙船?も、なにかを待っているのでは。自分の体験と照らし合わせてその結論にたどりついた天野くんは、もしかして、待ち人きたらずかと、ちょっぴり自虐的な気持ちでいま一度、望遠鏡にうつる物体に目をこらした。
 すると、まったくそれにタイミングをあわせるかのように、彼方から飛来してくるものがあった。やはりそれも、まっすぐのびた白銀色の物体で、ゆっくりとではあるが着実に、最初からいたものに平行するように接近してきた。おそらくこの光景はいま、世界中で目撃されているにちがいなかった。
 まもなく二本の直線は行儀よくならんだ。そのふたつが静止していた時間はながくはなかった。最初は目にとまらないぐらいゆるやかに移動しはじめ、しだいに速力をはやめながら、ふたつの宇宙船?は、月のそばかからしだいに離れはじめ、やがて天野くんの望遠鏡では―――いや、世界中のどんな望遠鏡にもとらえられない彼方まで飛びさっていった。
「箸だ」
 天野くんは大きな声でつぶやいた。最初みたとき、何かが足りないと思った彼は、いまようやく、その答えをみつけたのだった。






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