環 巽さん

文系の学生

性別 男性
将来の夢 税理士
座右の銘 思考が人間の偉大さを為す

投稿済みの作品

2

反転

17/04/15 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 環 巽 閲覧数:443

この作品を評価する

 私の姉は可愛らしい女性である。大きい瞳を長い睫毛が縁取り、小ぶりな鼻に厚めの赤い唇。幼い時には白雪姫という渾名が付くほどに可憐であった。そして、社交性が高く、友人も多い。クラスのマドンナ的存在だ。
 私は、そんな姉と同じ顔を持っている。ただ、社交性は低く、陰鬱とした姿容には人が寄り付くことがない。正反対の姉妹であった。顔が同じこと、そして甘い物が好きだという事以外は、まるで違っていた。
 ある日、姉が消えた。原因は私のようであった。

 「貴方がお姉ちゃんの甘い物を食べたから、いなくなってしまったのよ」

 高校生にもなって、子供騙しのような叱り方をされて、私は胸の内が煮え立つのを感じた。
 私の事を馬鹿にして楽しいか、そんなに私は子供のようなのか。怒鳴り散らすのを堪え、私は顔を俯かせた。母は溜息をつき、姉の笑い声が聞こえたように思えた。

 どうせ数日で帰ってくるだろう。そう思っていたが、一週間経っても姉は帰ることがなかった。
 母は私のせいだと詰る。日に日に憔悴していく姿は酷く哀れで、強く頼りになった母は居ないのだと、日を追うごとに突きつけられた。謂れのない罪悪感が私を蝕んでいく。姉のスイーツなど食べていないのに、私が食べたせいだと毎日言われ続け、私は甘い物が嫌いになっていった。
 そもそも、仮に姉のものを私が食べていたとして、姉が帰ってこないなんておかしすぎるのだ。警察に連絡をすべき事である。
 しかし、母は警察に連絡をしなかった。次第に母は私に暴力を振るうようになった。額が投げつけられたお椀の破片で裂けてしまい、血が沢山出てしまった。フローリングが血で不気味に輝いていた。

 友人がクレープを食べに行こうと私を誘った。嫌いである事をうっかり忘れ、了承し二人で食べに行った。
 二人で歩きながらクレープを口にした。温かく薄い生地、ぬるくなったホイップクリームと冷たいアイスクリーム、たっぷり掛かったチョコレートソース、カットされた苺。全てが甘ったるいもので構成されていて、不快感がせりあがる。慌てて水筒の蓋を開き、お茶で流し込む。不快感は少しではあるが消え去り、息を吐く。
 顔色が悪い、と友人が心配して家まで送ってくれる事となった。罪悪感で押し潰されそうだった。せっかく誘ってくれたというのに、だ。

 玄関を開くと母は居なかった。買い物へ出かけているらしい。靴を脱ぎ、姉の部屋を覗いてから私の部屋まで行くと、私はそこで首を吊った。


 帰ってくると、妹が死んでいた。その衣服を無感動のままに庭で燃やし、冷蔵庫からプリンを二つ取り出した。スプーンを一つプリンの上に置き、ダイニングの椅子へ座る。蓋を開き、プリンを口に入れたところで、丁度よく母が買い物から帰ってきた。お帰りなさい、とダイニングから声を掛ける。何故か驚いた様子の母が此方を凝視していて、思わず笑みが溢れた。

 お帰りなさい、ああ、酷い怪我をしているわ。そんなに大きな傷をおでこに拵えて、一体どこへ行っていたというの?
 矢継ぎ早に言い、抱き締めてきた母へ静かに腕を回し、耳元で呟く。妹が悪い子だったから、外へ行っていたんだよ。
 笑んで、口の中のプリンを吐き出した。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン

ピックアップ作品