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水面 光さん

■ホームページ「水面文庫」 http://www.minamo-bunko.com/ 忙しい中でも身を粉にして執筆活動しております。ジャンルとしては現代ファンタジーが中心でございます。よろしくどうぞー

性別 男性
将来の夢 物書きでメシを食う
座右の銘 人の心は変わらないから自分が変われ

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鳥たちのさえずり

17/04/15 コンテスト(テーマ):第103回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 水面 光 閲覧数:811

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鳥たちのさえずりが聞こえるのは幸福だった。ほんとうに──私は私と同じ病気だった芥川龍之介の言葉を反芻していた。「どうせ生きているからには、苦しいのはあたり前だと思え」──つまり、生きていること自体が苦しみであるという原始仏教の教えとまったく同じ考え方だと気づいて、しかも私もその考え方に手放しで賛同できる境遇に至っていることにも気づいて、いやもうそう考えざるを得ない、血肉が、心が、そう叫んでいるのだ。しかし私はそれでも前を向いて、明るく、笑顔を絶やさず、他人にはやさしく、独りで人生を歩んでいた。絶望的な暗い言葉たちばかりではなかった。それは確かだ。そしてなぜ希望のある明るい言葉を聞くことができたかと思うに、それは私にそれらを聞き取れる素晴らしい、この上なく世界一素晴らしいと言っていい能力があったからではないか。そうとも、そうともさ。苦しむということは気分を変えることができないでいるだけ。しかしだからこそもっと心の底から希望を求める。苦しみなくしてはこの法則は絶対に成り立たない。心のなかに何もない状態では──これは修行だと思えばいい。修行は自分の心をより良い高みに至らしめるためにおこなうものなのだから。──私は仲間が欲しかった。ともに心の高みを目指す仲間が。しかし私は常に孤独だった。孤独にはなれっこだった。人間は独りになったとき、その真価が問われる。──失敗、それは突然だった。しかも何度も犯してしまった私の人生で最大の過ちだった。女性に恋をしたのだ。だが、それだけだった。こちらから何かアプローチできるはずがない。だって、私は病気なのだ。相手が不幸になるのは目に見えている。自分に自信があるわけでもない。強い心は親しい人たちがその命とひきかえに私にくれた。だから独りでは生きていける。しかし異性とでは? まったく想像もしていなかった。恋わずらいなどという厄介なものに罹病してしまった。一人の女性が好きというわけではない──というとすぐよからぬことを想像されるかもしれないがそれぞれにそれぞれの良さがあり、年齢も関係なかった。私は彼女たちに気に入られようと死ぬほど努力した。しかし永遠に実ることはない。片思いのままでよかった。社会的にも、道徳的にも、そして私の心を崇高なままで保っておくためにも。──ほんとうはそんなものかなぐり捨てて、私のすべてを彼女たちに捧げたかった。どれだけ私は馬鹿なのだろう? ──永遠に実ることはない、実らせてはいけない、気に入られようと、社会的、道徳的、崇高、努力、修行、苦しみ、恋、心のなかに──もし私に健常者と同じ心があるなら、怒りや憎しみを惜しげもなく開放するだろう。しかし、私はこれまでの人生で数々の失敗と呼べることをやってきた。怒りや憎しみを解放したらどうなるか知っている。そんなことはどうでもいいと思える瞬間が恋をしているときだった。失敗を回避しているのだから、恋することは失敗ではない──永遠に実ることはない──。ドラッグストアで彼女に2回も会ったのに声をかけなかった。しかしもし、3回目があれば──彼女はもう気づいてる。来て、来て、私に。走ってきて、走ってきて、私に──私はほんとうに変える。あなたが見ているものすべてを。──他人に期待すると失望に変わるだけだった。私はもうその現象を何度も経験してきたから、飽き飽きしていた。繰り返されている。人間は学習しない。何度も何度も繰り返し同じ過ちを犯し、そして悲しむ。年齢はあまり関係なかった。憎まれた異端者は憎み返すしかないのか? ──そんなことはない! 絶対に! むしろ、異端者は己を憎んでいる者たちを深く愛するだろう。気に入られようとして? 否。己を愛してくれた者たちがその命とひきかえに、この世界で最も大切な「愛する」という感情を異端者に教えたからに他ならない。いくら憎まれようと異端者は愛するだろう。いくら負の感情が芽生えようともそれを打ち消すだろう。どんなことがあろうと異端者は愛するだろう。──「どうして! どうして何も言ってくれないの!」異端者はたまらず虚空に向かって叫んだ。するとそれに答えるかのように雨粒が落ちてきた。それはこう言っていた。「あなたのしていることは当たり前のことだから」「私は苦心の末、妙諦を得、それを実行しています」「それは当たり前のことです」「だったらなぜこんなに苦しいのですか? 私は苦しみから解放されたい」「生きている限り苦しみはなくなりません。それを意識するくらいなら、連中と同じく、生きていることを楽しめばよいのです」「楽しむってどうやって?」「本当の幸福を求めなさい。ただ漫然と生きているだけではつまらない。本当の幸福のために行動しなさい」──鳥たちのさえずりが聞こえる幸福は本当の幸福に違いない。


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