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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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スィーツな妖怪

17/04/15 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:709

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 とうとうあいつが、トモミの家にもあらわれた。
 彼女が部屋から出たとき、廊下のむこうから異様な姿の妖怪が出現した。
 モコモコとしてとりとめのないその白い体には、グリーンの目、苺色の口、茶色の角、そして全体に色とりどりの星がちりばめられたそいつが、獅子舞のようにたえず全身をゆりうごかしながら、こちらにむかってちかづいてきた。
 間違いなく、噂にきいていた妖怪だった。
 トモミの友達の家にもあらわれて、その友達が頭から丸のみされたという話を、このまえきいたばかりだった。なんでも、日本各地で目撃されていて、トモミのような少女や少年をみつけると、ぶあつい唇をあんぐりあけては、その胴体に似あわぬすばやさで襲いかかってくるのだという。
 トモミは、階下の両親を呼ぼうとした。がその寸前、なんともいえない甘い香りが、ふいに彼女の鼻さきをかすめた。
 そういえば、こいつに襲われた友達も、やはり妖怪からはそんな、匂いがただよってきたという話をした。とはいえ、いままさに得体のしれない妖怪が、襲いかかってくるという瀬戸際に、そんな匂いにかまけている余裕などなく、その友達は恐怖のあまり、身動きひとつできないありさまにおちいってしまったのだ。
 友達の体験談では、大きく開いた唇にいきなり、頭からすっぽり丸のみにされたとか。歯や牙はなく、ぬるぬるした粘膜が全身をつつみこみ、どんなにあがいても妖怪の体内にみるみるのみこまれてゆく。どろどろした生温かい液体があふれてきて、そしてじぶんがそのなかで溶かされてゆくような感覚にみまわれているうち、ふいに目の前が明るくなって、わけもわからないまま外におしだされているのだった。 それは一瞬のできごとで、体のどこにも傷ひとつみあたらなかった。あたりをみまわしても、すでに妖怪は姿をくらましていた。
 いったい、じぶんの身になにがおこったのか、いくら考えても答えはえられなかった。親や友達に話しても、誰も信じてくれないもどかしさに、泣きたくなるくらいだった。そのうち、ひとり、ふたりと、同じような体験をする連中があらわれるようになった。トモミも、その友達のひとりから、この妖怪の話をきいた。
 その妖怪がいま、トモミの目の前にあらわれた。いざじっさいに目の当たりにすると、そのなんとも奇怪な姿に、彼女の足はすくんでしまい、誰かを呼ぼうにも声はかすれ、膝がふるえた。
 ただ、トモミの場合は、妖怪からただよってくる匂いにふれているうち、しだいに恐怖心はうすれていった。それは彼女の大好きな、スィーツの店に一歩足をふみいれたときにする、あのすてきな甘い香りだった。店のケースにならんだ、ケーキやシュークリーム、タルトやバームクーヘン、和菓子ではきんつばにようかん、みたらし団子―――そんないっぱいのスィーツからたちのぼる香りとおなじものがいま、妖怪からふんぷんと匂ってくるのだった。
 トモミの目に、妖怪の緑の目が輪切りにしたキウイフルーツに、唇は大粒の苺のつらなりに、角はチョコレートに、そして全身はまっしろなホイップクリームのかたまりにみえはじめたのは、それからまもなくのことだった。
 トモミはゴクリと喉を鳴らしながら、ちかづいてくる妖怪をまちうけた。
 そして妖怪が、口をあけてせまってきたとき、彼女のほうも口をいっぱいにあけて、その唇にかじりついた。彼女の舌いっぱいに、さわやかな採りたての苺の味がひろがった。
 それは本当に、スィ―ツでできた妖怪だった。いったんそれがわかるとトモミはもうためらうことなく夢中になってたべはじめ、気がついたら、妖怪をまるごとたいらげてしまっていた。
 それからも、トモミのようにスィーツに目のないこどもたちが、やっぱり彼女同様、たべられるよりたべるほうを選んだというニュースが各地で報道された。むしろ妖怪は、そのためにみんなのまえにあらわれるのではという説が、世間一般にうけいれられるようになっていったのもそのころのことだった。。
 最初のころ、妖怪の姿に怯えてたべられたみんなは、妖怪からでてきてからというもの、なぜか甘いものをみるのもいやになってしまった。そんな子供たちは将来、大人になったとき、酒好きの辛党になるぞと脅すものもいたが、それはそれで楽しみのひとつと親たちはふとっぱらにかまえて子供らを擁護した。
 いまではほとんどの子供たちは、妖怪をみればたべてしまうようになった。妖怪とはいえ、それが好物のスィーツでできているとわかれば、もはや怖がるものなどひとりもいなくなった。
 スィーツの妖怪が地上から姿を消したのは、それからしばらくしてからのことだった。こんな妖怪なら、いつでも子供たちにとっては大歓迎だったが、歯が痛くなって歯医者にかけこむものも多かったという。
 


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このストーリーに関するコメント

17/04/20 文月めぐ

こんにちは。物語拝読いたしました。
奇妙な妖怪の姿に思わずぞくりとしてしまいましたが、スイーツなら大歓迎ですね。
最後はくすりと笑ってしまいました。

17/04/22 W・アーム・スープレックス

文月めぐさん、コメントありがとうございます。
おなかがいっぱいでもスィーツは食べられるという人がいますが、この妖怪も、そんな人用に、出現するのだと思います。
それとも、ダイエットを考えて、甘いものを我慢している人の描いた妄想が妖怪になって、現れたのかもしれません。

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