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山盛りポテトさん

ショートショートがすきです。 星新一さんの小説が好きです。 社会でもがいています。 わかりやすい王道のショートショートを書きたいと思いつつ・・・脱線してます。

性別 男性
将来の夢 海外旅行!一度でいいから行ってみたかったり。
座右の銘 人見るもよし見ざるもよし我は咲くなり 跪く前に開き直る

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それでも人は

17/04/14 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:0件 山盛りポテト 閲覧数:932

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郵便ポストにねじこまれた朝刊を取り出すと、ヤカンに火をかけお湯を沸かした。
これが私の日課にだ。
時計に目をやると10時を少し回っていた。定年を迎え退職してからは、最初はとても貴重だと思えた、のんびりと迎える朝の時間が退屈で仕方なくなっていた。
息子二人は大学進学を機に家を出て、その後就職、ローンを組んで買った一戸建ては、妻と二人で暮らすには少々広く、さびしさが感じられた。
妻はというと、まだまだ働けるからという理由でパートに出ており、日がな一日、私は家でテレビを見たりボーっとすることが多かった。
「少し散歩でも行くか・・・」
騒がしいワイドショーを消して、静まり返った家をあとにして海辺へ向かうことにした。
海までは少し距離はあったが、なにせ運動不足だったので、歩くことは手間ではなかった。人間、頭も体も使われなければどんどんダメになってしまう。
海辺についた私は思いきり深呼吸をして、どこまでも続く水平線に心を躍らせた。なんで気持ちいいんだろう。あの向こうには何があるんだろうか。等と年甲斐にもなくセンチメンタルな気分に浸った。しかし、こんな時に誰しも理性が邪魔をしてしまうだろう。日本海の向こうにあるのは朝鮮半島だ。
私たち現代人には何かを探るという伸びしろがほとんど残されていないような気がする。
先人たちがもてあました時間を使い、この世に散らばるあらゆることを調べあげてしまった。今の私の好奇心にかなうことなどあるのだろうか・・・。
すると浜に数台のスクーターが停めてあることに気づいた。そこには金髪の若者も数人おり、何やら座りこんだりスマートホンなるものを地面に向けている。
面倒なことには関わりたくないないのだが、これも人間的な交流だ、なーに私を邪険にすることはないだろう。
私は彼らが何をしているのか確認するために、近づいてみることにした。
彼らは、何かを取り囲んでブツブツ言っている。
「うわ!これ亀じゃん!超でけえ!ツイッターにあっぷしまあーす、棒でつんつんしまーす、あ、それつんつん」
「やべえ、やべえでけえ、っつうかくせえよ」
そう言いながら棒切れでツンツンしたり、その様子を動画に収めたりしていた。
「こらこら、君たち、動物をいじめちゃいかんよ、海に返してあげなさい」
「なんだ?ジジイほっとけよ」
「うわ、クソジジイに絡まれた、ツイッターにアップしまあーす」
呆れて言葉も出なかった、若年の頃より少林寺拳法を学んでいた私は、エイヤ!と掛け声をかけすぐさま、若者たちを地面に伏した。エーーーーイ!と再び声をかけると、一目散に立ち去っていった。
どうだ見たか、私もまだまだ捨てたものではない。
亀を海まで戻してやり、もうあんなバカな人間に見つかっちゃいけないぞ、と声をかけると、亀は途端に言葉を発した。
「ありがとうございます、あなたから受けたご恩、私は忘れません。そうだ、一緒に竜宮城へきてくださいな、そこでおもてなしをしてさしあげましょう」
「ほうほう、今時の亀は喋るのかね、いやいやこれはかたじけない、では少し世話になろう」
亀の背中に乗ると勢いよく海底までもぐっていった。息苦しさは感じたものの、竜宮城につく頃には呼吸も楽になっていた。
「つきました、さあ、思う存分宴を楽しんでくださいな」
中へ案内されると、それはそれは豪華絢爛なもてなしを受けた。美女にたちに囲まれ、贅沢な料理を味わい、とても楽しい時間をすごすことができた。
帰り際になると、大きな箱を渡された。乙姫なる者が言うには、この箱は絶対に開けてはいけないというのだ。
何やら奇妙な感じもしたが、何か理由あってのことだろう。竜宮城を後にして、帰宅した私はとても充実感に満たされていた。こんなことなら毎日でも散歩しよう。
ご機嫌な私とは裏腹に、妻はえらく不機嫌であった。
「こんな時間までどこほっつき歩いてたの?お風呂沸かした?ご飯の準備は?」と責め立ててきた。
「すまんすまん。今準備するよ」
まったくこの女は、以前は台所に立つことすら許さなかったくせに都合がいいものだと思いつつ、乙姫からもらった箱をテーブルに置いた。
これが不用意だった。妻はめざとく、その箱に目をつけた。
「あら、荷物でも届いてた?お歳暮の時期なんかとっくの間に過ぎたのに変ね」
スルスルと紐を解いて開けてしまったのだ。
「うわ!」
部屋中に白い煙がモクモクと広がり、視界がさえぎられてしまった。
一瞬、静寂が空間を支配したかと思うと、真っ白な壁に四方を囲まれ、ベッドの上で体を横たえていた。
体がまったく思うように動かせない、視線をチラリと横へ向けるとシワだらけの手が見える。
もう一度、視線をチラリとあげると、
白衣を着た男と年配の男二人が心配そうに顔を覗き込んでいた。


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