1. トップページ
  2. あの一言が…

末永 DADAさん

萩尾望都先生の漫画と翻訳SFで育った作家志望〇十年。まだまだ滑走路を走り回るエネルギーは残っております。 通報レベルの重度活字ジャンキー。

性別 女性
将来の夢 作家。
座右の銘 明日できることを今日無理にやるな。

投稿済みの作品

3

あの一言が…

17/04/12 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:4件 末永 DADA 閲覧数:1218

この作品を評価する

その男は、海辺の大きな岩の上で黒い漆塗りの箱を前にして呆然と座っていた。
何が起こったのか、まったく思い出せなかった。自分が何者なのか。なぜ、こんなところにいるのか。目の前にある箱はいったい何なのか。
箱の中を見たが、何も入っていない。
彼は海に自分の姿を映してみた。白髭の老人だ。
彼はその姿を見てショックを受けた。
自分はこんな年寄りではない。若者のはずだ。自分の素性が思い出せないのに、なぜか彼はそう思った。
老人は、人里を探せば自分を知っている人間がいるかもしれないと思い立ち、歩き出した。
しばらく歩くと村があるのが見えた。彼はそこへ向かった。
そして、通りかかった村人に聞いてみた。
「私を知っていますか」
村人は変な顔をして通り過ぎるだけだ。
そのうち、見覚えのある家が見えてきた。
「ここは私の家だ!」老人は思わず叫んだ。
すると、それを聞いた村人が言った。
「ここに住んでいた浦島太郎という人は、海へ行ったまま行方不明になったそうですよ。しかも、それは七百年も前の話です」
そこで浦島太郎は、何もかも思い出した。
あの日、海辺を通りかかると、子供たちが亀をいじめていた。それを見た浦島太郎は、子供たちに「亀をいじめちゃいけないよ」と言った。子供たちは聞き入れなかった。それで、亀を買い取ると言って金を渡し、子供たちを追い払った。亀はお礼を言って海へ帰って行った。
数日後、助けてやった亀が浦島太郎の前に現れ、助けてくれたお礼に竜宮城へ連れて行ってくれると言った。竜宮城へ着くと、この世のものとも思えない美しい乙姫様が出迎えてくれた。彼のために宴を開いてくれるという。
浦島太郎のための宴会は何日も続き、極上の酒に極上の料理がふるまわれた。そして、色とりどりの魚たちの踊り。浦島太郎は浮世のことをすべて忘れて夢のような素晴らしい時を過ごした。
だが、さすがに親や友達のことが気にかかり始め、彼は家に帰りたいと申し出た。すると乙姫は、開けてはいけないと念を押して彼に玉手箱の土産をもたせた。
彼は久しぶりに自分の生まれた海辺の村に帰ってきた。すると、何かが違う。自分が生まれた家には誰もおらず、両親の姿も見えない。
村中を歩いてみたが、知り合いは一人もいない。彼は絶望して玉手箱を開けた。中から白い煙がもくもくとたちのぼり、彼は白髭の老人になった。
浦島太郎は考えた。
なぜだろう。なぜ、開けてはいけない危険なものをあえて土産に持たされたのか。
亀を助けたのに。いいことをしてやったのに。夢のような時間とひきかえに、本当の人生を全て犠牲にし、親の死に目にも会えず、孤独な老人として誰も知り合いのいない村に戻ってくることになるなんて。
そこまでの報いを受ける何をしたと言うのか。
そして、彼は思い出した。「亀をいじめちゃいけないよ」と子供たちに言った後、冗談のつもりで自分がこう付け足したことを。
「そんなことをしたら、味が落ちるからね」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/04/15 クナリ

海に住まう者たちからの報復、めっさ怖いですね…!
日ごろから、地上への恨みがたまっていたのかも…。

17/04/15 末永 DADA

クナリさん、コメントありがとうございます。
星新一風のブラックユーモアを目指してみました。

17/05/22 光石七

拝読しました。
オチの一言に見事にやられました。
これぞショートショート、面白かったです!

17/05/22 末永 DADA

光石七さん、コメントありがとうございます。
LOL!が私の信条です。

ログイン