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浦島町の夢子さん

17/04/11 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:0件 茉莉花 閲覧数:838

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 僕が夢子に出会ったのは、アルバイト先のコンビニだった。
突然、店に現れた夢子は店内に入ってきて早々こう言った。
「すみません、雇ってもらえませんか?」
別に求人を出しているわけでもないのに、変なこと言うなぁと思ったけど、店長は涼しい顔をしてこう言った。
「丁度求人を出さなきゃなぁと思ってたところだったんだよ。昨日、1人バイトの子が辞めるって言いだしてね。グットタイミングだ」
えっ!美奈さん、辞めちゃったんだ!
美奈さんは僕と同期で半年前に入ったバイト仲間だった。
結構親しく話してたので、何の相談もなく突然辞めてしまったことはショックだった。とはいえ、仕事でしか会うこともなく、一緒にどっかに行くような仲でもなかったから、バイト仲間ってのはそういうもんかもしれない。

翌朝、僕はいつになく張り切った。
しかし、当の夢子は、初出勤だというのに緊張もしていない様子だ。
それどころか、「ホッカイロ、今日は売り切れると思うので、もう少し沢山仕入れたらどうでしょうか?」
と先輩の僕に指図した。
もう4月なのにカイロ仕入れてどうするんだよ!新米のくせに生意気だな!
と思ったけど、僕は女にもてないし、何よりも女性と喋る機会がない。
こんなことで彼女を怒らせたくない。
「でもさ、売れ残ったら大変だから……」とやんわりと断った。
 しかし、彼女の予感は的中した。夕方になると、寒の戻りが起き、ホッカイロは売れに売れ、とうとう売り切れてしまったのだ。
「夢子さんの言うことを聞いて 仕入れておけばよかったね」
僕は素直に詫びた。
 夢子は翌日も又、僕に仕入れの指図をした。
お饅頭に肉まん、メモ帳に赤のボールペン……普通は売れないようなものなのに、なぜか、夕方になると皆在庫がなくなった。
 そんなことが毎日続き、それは気持ちが悪いくらい的中した。
夢子が来てから、まだ1カ月もたたないというのに売り上げは倍増した。
店長からは「太郎と夢子さん、どっちが先輩か後輩かわからないな」とからかわれる始末だ。
確かに、夢子は陳列作業をさせればテキパキと動き、接客をさせれば実に愛想よくふるまう。
それはそれは模範的な仕事ぶりで、文句のつけようがなかった。
 或る時、僕は、彼女にコンビニでバイトしたことあるのか、問うてみた。
「いいえ。ここが初めてです。実は、バイト自体初めてで……」と、意外な言葉が返ってきた。
そして、夢子はこういった。
「実は、私、超能力があるんです。実は浦島太郎の子孫なもんで……」
 なんてこった!
 可愛い顔しているけど、もしかして、頭が少しおかしいんじゃないか? 
 浦島太郎の子孫だなんて、あれはおとぎ話だろ?!
 そんな夢子から、突然デートの誘いが来た。
「家の近所に美味しい焼肉屋さんができたんです。太郎さん、お肉好きですよね? 今度の休み、一緒に行きません?」
「べ、べ、別にいいけど……」
僕はしどろもどろに返事をしてしまった。
ひょっとしてデートなんて1回もしたことがないとばれてしまったか?
事実だから仕方がないけど、一応、バイトの先輩としては弱みを見せたくない。
 デートの日がやってきた。
僕は彼女に言われた通り、横浜駅で京浜急行に乗り変え、『神奈川新町駅』という駅で降りた。
30分も早く着いたので、夢子を待つ間、ぼーと地図を見てみた。するとそこには『浦島町』という文字があるではないか!そう、夢子の住んでいる町は『浦島町』だった。
キョロキョロしながら電信柱の町名を見ていると夢子がやってきた。
「ここは浦島町よ。言ったでしょ。ここは私の先祖は浦島太郎だって。さ、一緒に懐かしの竜宮橋を渡りましょう、浦島の太郎さん!」
 そう言って 夢子は僕の手を引っ張った。
 浦島の太郎だって?!……冗談はよしてくれよ!
「あそこの蓮法寺にはね、浦島父子の墓があるのよ」
 夢子は次々に浦島伝説ゆかりの地を案内した。半日も一緒にいると、夢子と僕は急接近、とうとう初キッスまでやってのけた。なにせ、夢子は 自称 浦島太郎の子孫なのだから積極的だ。僕は嬉しくなった。
 翌日、いつものようにコンビニへ出勤した。
しかし、夢子がいない。1時間たっても彼女は来ない。風邪でもひいたのだろうか? いや事故にでもあったんじゃないか? 不安が募り、仕事どころではない。すると店長がやってきた。
「夢子さん、今日休みですか?」
「昨日で辞めたよ。言ってなかったっけ? 最初から決まっていたんだ」
 嘘だろ? 昨日、彼女はそんなこと何も言ってなかったぞ!
「あ、これ、彼女が太郎に渡してくれって」
店長は僕になにやら箱をくれた。
「こ、こ、これは……浦島太郎の玉手箱!!!……店長にあげます」
 僕は、手を震わせ玉手箱を店長につき返した。


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