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七瀬さん

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星空パティシエ

17/04/10 コンテスト(テーマ):第133回 時空モノガタリ文学賞 【 スイーツ 】 コメント:0件 七瀬 閲覧数:686

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 ある町に仲の良い兄弟がいました。長男でしっかり者のビスキュイ、長女で控えめなガトー、そして元気が取り柄の末っ子フレジエの三人です。
 ある夜、甘いものが食べたいというフレジエのために、ビスキュイがお菓子を作ってあげることになりました。三人は風邪をひかないよう厚手の手袋とマフラーをし、怪我をしないよう動きやすい靴を履いて外に出ました。
「さあ、今から山に登るよ。ガトー、フレジエ、迷子にならないようしっかりとついてくるんだよ」
 三人は手をつなぎ、冬の寒さが始まりかけた夜の底を歩きました。その間、町の皆を起こさないよう小声で話しながら、時に小さく鼻歌を歌い、時に風の音にビックリしたりしながら、山道を登っていきました。
 山の中腹に差し掛かる頃、三人をいくつもの雲が覆い始めました。白くてふわふわとした、優しい雲でした。それを見ながらビスキュイはみんなに言います。
「さあ、一人ずつ雲をちぎって運ぼう。これは大切な材料だからね、多過ぎたら食べきれないし、少な過ぎたら物足りない。自分に見合った量をちゃんと考えるんだよ」
 二人は言われた通り、ふわふわした雲を掬いました。ガトーは片手にちょこんと乗る分を、フレジエは自分の頭と同じくらい大きな雲を手にしました。
「フレジエ、本当にそんなにたくさん食べられるのかい?」
 ビスキュイは尋ねます。
「大丈夫だよ、ぼく、甘いものならいくらでも食べられるよ」
 フレジエが胸を張って応えます。それを見たガトーは少しだけ笑って、また山を登り始めました。
 ようやく頂上に辿り着きました。パッと開けた草原があり、それまで木や雲に遮られていた空が一杯に広がりました。空の一番高い所で、相変わらず三日月が微笑んでいます。
「二人とも、少しだけ待っててね。今、三日月を取ってくるから」
 ビスキュイがそういうと、グッと背伸びをして、右手を空の方に伸ばしました。しばらく宙を掴んでいましたが、やがて三日月の端に触れる事が出来ると、一気にジャンプをして三日月を取りました。
「よし、三日月が取れた。さあ、二人とも、さっき取った雲を出してくれるかな?」
 言われた通り、二人は雲をビスキュイの前に出しました。それから、その雲に三日月の端っこを差して、ぎゅっと握りしめました。するとどうでしょう、三日月の黄色が雲の中へ入っていき、淡く光り始めていきます。ぽわぽわとした灯りが、ガトーとフレジエの手の中にすっぽりと納まりました。
「お兄ちゃん、これなあに?」
 フレジエが尋ねます。
「これはね、シュークリームだよ。雲のシュー生地に、三日月カスタードを入れた、僕だけが知ってる特製シュークリームさ」
 ビスキュイが得意げに答えました。フレジエは嬉しくなって、ぽわぽわ光る雲を掲げながら辺りを飛び回ります。ガトーはそれを静かに見守りました。
「ねえ、お兄ちゃん、これもう食べてもいいの?」
「ダメダメ、あと少しだけ待とうね。最後にもう一つだけ、することがあるからね」
 ビスキュイは空になった三日月を夜空に戻すと、三人揃って草原に座り込み、空をじっと見ていました。空っぽになった三日月は夜空の闇に溶け込み、見えなくなってしまっています。あとは無限にちりばめられた星がきらきらとしていました。
 その時です。東の空がにわかに明るくなり、他の星たちよりもずっと大きな星が流れてきました。
「お兄ちゃん、あれ、なに?」
 フレジエがビックリして尋ねます。
「あれはね、彗星だよ。砂糖でできているんだ。ほら、後の方に伸びている部分があるだろう? あれは粉砂糖って言ってね、空からぱらぱらと降ってくるんだよ。それをかけたら、シュークリームの出来上がりさ」
 しばらくすると、彗星は三人の真上まで来ました。それから、いくつもの光が三人のいるところに降り注ぎます。それは様々な色があり、赤かったり、青かったり、緑だったりしていました。しゃらしゃらと弾けながら、彗星の粉砂糖はゆっくりと舞い降りてきます。三人はそれぞれ好きなようにシュークリームを空に掲げ、好きなだけ粉砂糖をまぶしていきました。白いふわふわした雲の生地の上に、色とりどりの粉砂糖が乗っていきます。
 ようやく彗星が通り過ぎた頃には、三人とも体中べたべたになってしまいました。それでもお構いなしに、草原に座り込むと、西に消えていく彗星を見ながら三人はシュークリームにかじりつきました。
 ふわふわした雲のシュー生地の中から、濃厚な三日月カスタードがあふれ出し、そこへ彗星の粉砂糖がしゃらしゃら弾けながら混ざり合います。ビスキュイは満足げな表情をし、ガトーは目を閉じそっと微笑み、フレジエは声を上げて喜びました。三人は彗星が西の向こうに消えてしまうまで、ゆっくりとその味を楽しみながら過ごしました。


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