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まーさん

物語作りの基礎としても、ショートショートで腕を磨くべく登録させていただきました。 読んだ作品にはなるべくコメントするようにしているので、ウザいかもしれませんがあしからず(笑)。 よろしくお願いします。
性別 | 男性 |
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将来の夢 | ラノベ作家、書籍アニメ化 |
座右の銘 | なせば大抵なんとかなる |
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このストーリーに関するコメント
17/04/12 あずみの白馬
拝読させていただきました。
果たしてスイーツで地球は救われるのか? 着想が面白かったです。
隕石を止められたかどうか、気になるところですね。
17/04/12 まー
>あずみの白馬さん
スイーツ好きにとってスイーツを断つというのは、地球の終わりより大変なことなんじゃないかなんて考えまして。
かりんとう好きの方はハッピーエンドと解釈してくれることでしょう……ん? 逆か(笑)。
17/04/18 夏日 純希
なかなかのとんでも展開で楽しかったです。
神代、かりんとうで白飯は無理だろ(笑)
17/04/21 まー
>夏日 純希さん
やっぱ無いですかね(笑)。
勝手ながら自分の中の執事のイメージってこんな感じです。やる時は主君以上に命をかけるというか、覚悟のねじが外れているというか。(褒め言葉)
17/05/08 泡沫恋歌
まー 様、拝読しました。
甘党にはツライ選択ですね。
きっと、かりんとうで地球が救われることと信じています。
面白い発想に感心させられました。
17/05/08 まー
>泡沫恋歌さん
まったくもって甘党にはこれ以上ないつらい選択ですよね(笑)。
自分もせめて地球は救われたものと信じてます。
17/05/14 そらの珊瑚
まーさん、拝読しました。
地球の滅亡が眼の前にせまっていたら…戦争してるのもばからしくなるでしょうね。
かりんとう断ちの結果がうまくいきますように。
楽しかったです♪
17/05/15 まー
>そらの珊瑚さん
楽しんでもらえたようで何よりです!
自分もかりんとうは好きなので、神代の決死の覚悟には書いた本人ながら尊敬しています。
(さすがにこれで白飯はいけませんけどね 笑)
17/05/24 光石七
拝読しました。
発想がユニークですね。
地球は一大事ですし、登場人物は大真面目に決死の覚悟でスイーツを断つわけですが、楽しく読んでしまいました。
気丈に振る舞うお嬢様と執事の鑑のような神代さんのキャラクターがいいですね。
面白かったです!
ピックアップ作品
〔以上で最後の放送とさせていただきます。それでは皆様、あと一時間ほどで巨大隕石が地球に到来するものと思われますが、是非とも悔いのない過ごし方をされますように〕
天上院家に仕える執事の神代は巨大テレビの電源を切り、深く溜息をついた。
「やはりもう駄目なのか……」
そんな神代と対照的なのは、隣で瞳を爛々と輝かせている金髪の少女だった。天上院家の次期当主、天上院アサヒ。彼女は大机の上に所狭しと並べられたスイーツを熱心に吟味していた。香りを嗅いだり造形にみとれたりしては楽し気な表情を浮かべている。アサヒは苺がのったミルクレープの皿を手に取ると神代のもとに駆けつけた。
「これに決めたわ!」
「ああ……お嬢様が大好きなミルクレープですね。一つと言わず好きなだけ召し上がられていいのですよ。全て天上院様が一流のパティシエを呼びよせてお嬢様のために作らせたものです。……私も今日ばかりは固いことを言いませんから」
「何を言ってるの、神代。断つからアレをすぐに持ってきなさい」
途端、神代の表情は驚きのものへと変わっていく。「お、お嬢様……本気ですか」
「次期当主として当然のことよ。今はお父様とお母様のところにあるはずだから取ってきなさい」
何の迷いもない澄み切った声と瞳に、神代は弾かれたように部屋を出ていった。
間もなく神代は三十センチほどの黄金の金槌を手にして戻ってきた。俗にいう断ち物願掛けのために使用されるものらしいが、時価十億ともされ普段は厳重な金庫で眠っている。『最も好きなスイーツを死に至るまで断つことで、地球上で起きている、または起こりそうな凶事を吹き払うことができる』そんな限定的な願掛け用の代物だ。使用法はごく簡単で、対象のスイーツを金槌で潰すことで発生する。だが断ったスイーツを再び食べようとすると激しい頭痛に襲われる上、断ったところでどの凶事が消えるかも分からない。そのため異常な甘党が多い天上院家にとっては、昔から糞の役にも立たぬ家宝とされてきた。この日までは。
神代は金槌をアサヒに手渡して言った。
「天上院様が、“私たちは一番好きなスイーツを断ってこのザマだ。許してくれ”と……」
「何を言っているのかしら。お父様は抹茶プリン断ちで今世紀最大のハリケーンを消し去ったわ。お隣の国が隕石破壊のために撃った核ミサイルが、間違えて日本に向かってきたときも、お母様の苺大福断ちでミサイルを空中分解させたのでしょう。私もお父様とお母様に見倣わなくては」
「しかし……なぜお二人はお嬢様に会いにこられないのでしょう」
「……私を見ると泣いてしまうからよ。それに抹茶プリンといちご大福を食べられずに命を終えるかもしれないことに絶望しているのね。まあ、私がミルクレープを断つからには世界は救われるに決まってるわ。一等大好きなスイーツだもの。さあ、やるわよ」
言うが早いか、金槌を構えたアサヒは何の躊躇いもなくそれをミルクレープの上に振り下ろした。
ぐしゃりという音と共にミルクレープは見るも無残に潰れ、中のクリームや果物は辺りに飛散した。
やがてアサヒの瞳からは、晴れやかな笑顔とは裏腹に一筋の涙が流れた。神代はそんな光景にくずおれてむせび泣いた。心に躊躇う隙すら与えないよう強気に振舞っていたのだと思うと、神代は胸が締め付けられるようだった。アサヒがその姿をくすりと笑いながら言う。
「馬鹿ね、神代。あなたが泣くことないじゃない」
それから数分後、天上院家の元に電報が届いた。神代は先ほどの自分を払拭しようとでもいうかのように
弾んだ声でアサヒに伝えた。
「お嬢様、大変な吉報です。各国で暴動を起こしていた人たちが静かに黙とうを始めたとのことです。全世界の争乱が止んだのです。これはもうノーベル平和賞ものですよ!」
「黙とうか……隕石はやっぱり回避させることができなかったみたいね」
アサヒは残念そうに散乱したミルクレープを見つめた。だが、そばにあるかりんとうに目を留めると、明るい声で神代に言った。
「私、実はかりんとうが世界で二番目に好きなお菓子なの。ミルクレープが食べられないなら、かりんとうを食べればいいじゃない」
どこかで聞いたことあるようなフレーズだなと思いながらも、何かを心に決めたのか真剣な表情になった神代はアサヒに告げた。
「お言葉ですがお嬢様、私実は……世界で一番愛している食べ物がかりんとうなのです。かりんとうLOVEです」
「え? か、神代?」
金槌を手に取った神代は、それを両手でしっかりと握り高々と上にかざした。そして深く息を吸うと、
「私はかりんとうをおかずに白飯十杯はいけるんだああああああぁぁぁぁ!!!」
猛り狂うように叫びながら金槌をかりんとうの上に振り下ろした。
それから地球は、―――。
了