1. トップページ
  2. 刻の玉手箱

溶石こゆきさん

空想の世界を旅するのが大好きです。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 全てを糧に

投稿済みの作品

1

刻の玉手箱

17/04/09 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:0件 溶石こゆき 閲覧数:905

この作品を評価する

 うだるような暑さの続く夏の日、僕はこの町に戻ってきた。毎年恒例の同窓会。いちいち戻ってくるのは大変だから、いっそこの町で仕事をしようかとも思ったが、都会慣れした身体がそれを拒んだからやめた。年に一度、それくらいがちょうどいいのだ。
同窓会の開始まで僕は辺りを散歩することにした。夕方の六時。部活の終了を知らせる放送が中学校から聞こえてくる。
 この町はずっと変わらない。近所のたばこ屋も、道路脇の雑木林も、体操服のまま走って帰る中学生の姿も、記憶の中の景色と同じだ。中学を卒業したのがつい昨日のことのように思えてくる。
「お、ター坊じゃん。」
 夕日のせいで姿は見えないが、声から察するにケンちゃんだろう。高校を卒業して僕が上京してから頻繁に遊びに来るから、間違えるわけがない。
「久しぶりだね、ケンちゃん。えっと…3年ぶりだっけ?」
「懐かしいなター坊。最後に会ったのは3日前だ」
 傍から見ればくだらないやり取りだが、これが僕らのあいさつだ。これをしないとどうもしっくりこない。
「何してたの?」
「時間があったから散歩してたんだよ」
「そっか。じゃあ一緒に行こうぜ」
 ケンちゃんと話しながら学校前を通ると学校帰りを思い出す。この感じだ。僕はこの感じがたまらなく好きだった。卒業したのがつい昨日のことのようだ。最近話題のゲームの話や好きな芸能人の話、クラスメイトの噂話などをしていると、同窓会会場に着いた。会場は駅前の居酒屋。入るとすでに皆揃っていた。
「それでは、全員揃ったところで、乾杯!」
 委員長の掛け声とともに同窓会が始まった。
 席を移動しながら、友人たちと会話を繰り広げていく。看護師や消防士、OLやサラリーマン。皆それぞれ立場は変わったが、昔と少しも変わっていなかった。男子は相変わらずバカばかりだし、女子はそれを見て呆れた顔をしつつもどこかでそれを楽しんでいた。
 給食のとき誰かが牛乳を吹き出して大惨事になったことや、音楽室の肖像画に画鋲で悪戯をして怒られたこと、部活の練習に夢中だったこと…。思い出話が尽きることは無く、あっという間に同窓会は終わってしまった。


 朝起きると、僕は実家の布団にいた。覚えてはいないが、きっと身体に刻まれた記憶が僕をここまで運んだのだろう。我ながら素晴らしい。自分の部屋でこうして朝を迎えるのは、本当に久しぶりだ。部屋は片付いてはいるが、所々にかつての自分の残り香が漂っている。懐かしさもあり、辺りを物色していると、一つの箱が出てきた。黒一色に塗られたその箱には紙で封がしてあり、「開けるな」と書かれている。字を見る限り明らかに自分が書いたものだ。しかしどれだけ考えてもその中身を思い出すことができない。結局中身を思い出せなかったので箱を開けることにした。
 箱の中には、たくさんのノートが出てきた。1冊を取り出して開いてみると、それは絵日記だった。
「1992年7月25日。今日わ夏体み5日目。ケンちゃんとヨッシーといっしょにプールえ行った。とびこんだらおこられた」
 所々字が間違っていて、おまけに絵も下手くそだ。また別のノートを取り出してページをめくってみたが、全て絵日記だった。そして最後のページ。
「2008年3月26日。今日でこの部屋ともお別れだ。少し寂しい気もするが、夢を抱いて東京に行くのだから、ワクワクして仕方がない。いつか自分がここに戻ってきたとき、今の思いを再び思い出せるよう、これまでの記録を全て思い出と共にここへ残す」
 その後思わず全ての日記を読み返したが、そこには自分の何気ない日常が綴られていた。社会の理不尽さに嘆くこともなく、煩わしい大人の人間関係に頭を悩ませることのない純粋な思いがそこにはあった。あの頃は楽しかったなあ。
「年とったなあ」
 そう口走った自分に私は驚いた。そんなことを考えたのが初めてだったからだ。今まで自分は、少しも変わっていないつもりだった。けれども日記を読んで、私は気づいてしまった。過去の自分と今の自分の変化に。時間の流れに。そして、もう戻れないということに…。
 自分の手を見ると、ゴツゴツして傷だらけだ。鏡を覗くと、髭が伸びて疲れきった顔をしている。私は思わず笑ってしまった。今の状況はまるでタイムスリップだ。高校生だった自分がいきなり30代のおじさんになってしまった。町はどこも変わっていないのに、自分だけが変わってしまったようなこの間隔。


 ふと、ある昔話が思い浮かんだ。「浦島太郎」彼も同じだったのではないか。彼は玉手箱を開けたからお爺さんになったのではなく、玉手箱を開け、自分がお爺さんになっていたことに気づいたのではないだろうか。そんなことを考えながら、自分が変わってしまった事実を受け入れきれず、私は外へ散歩に出るのであった。町は今日も、昔のままだった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン