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和泉 鳴さん

見た目と中身にかなりのギャップがあります。 外見はリア充ギャルらしいですが中身はコミュ障のヲタクです。 普段はもっぱらBLですけどそれ以外も書いてみます。

性別 女性
将来の夢 しあわせになること、しあわせを与えること。 誰かの何かを変える作品を創ること。
座右の銘 泣きたい時は泣けばいい。そうしないと笑えなくなるから。

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約束を破った僕を見て、君は笑ってくれるだろうか

17/04/05 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:0件 和泉 鳴 閲覧数:830

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海斗は、一つの手の平サイズのプレゼントボックスをじっと見つめてみる。白い紙の箱に、赤いリボン。赤いリボンの両端にはキラリと綺麗な金色のデザインがあしらわれている。光沢のない赤いリボンに金だけが輝く。どうやらその金の中にはラメも織り込まれているらしかった。典型的な「プレゼント」だ。中でも、クリスマスにでも贈られそうな。だが、今はクリスマスなどというロマンチックな季節からは程遠い。冷たい雪の代わりにじめじめとした雨が降ることがある。身体を凍てつくような寒さもなく、その代わりに日本を包むのはうだる様な暑さだった。
「海斗が第一志望の大学に合格するまでは開けないでね」
姫乃の、小さな女の子のように無邪気な声が頭の中に蘇る。あの時姫乃は、白いワンピースだった。季節外れの白い雪が降っていた。その雪と姫乃のワンピースは同じ純白だった。

お世辞にも綺麗とは言えない砂浜だったが、風に揺れる腰まである黒いさらさらの髪と膝下を飾るレースの裾。それらは、元より顔立ちの良い姫乃を尚更美しく見せた。目の前に見える海が透き通るエメラルドグリーンで、砂浜に木くずや幾つかの空き缶さえなければ、あの瞬間が映画のワンシーンだと言われても何等おかしくはないほど、出来上がった瞬間だった。
……いや、もう一つ欠けたところがあった。それは、海斗が俳優の様な整った顔立ちではない事と、少しよれたTシャツにデニム、スニーカーだったという事だ。不釣り合いな男女は、交際一年近くになる恋仲だった。
「一足先に東京で待ってるからさ」
姫乃の声は、別れの哀しさなんて微塵も感じさせなかった。むしろ、にっこりと心の底から笑っていたように見えたのだ。
どうしてだろう。けれどひとつだけ確信出来る事は、決して「別れが惜しくも哀しくもないから」笑っていた訳ではないという事だ。思い過ごしだとか、自惚れだと言うように笑われたって良かった。他人が自分にどういう眼を向けようと、そこに大した興味はないからだ。
「何か、浦島太郎みたいだね。もしくは、鶴の恩返し……? いいや、やっぱり浦島太郎だ。だって鶴は何も渡してないもんね」
そう言って、くすりと笑った。笑う時に、軽く曲げた右手人差し指の付け根の骨で鼻を軽く擦るのは姫乃の癖だ。誰か他に気付いている人はいるのだろうか。自分だけであって欲しいと僅かな独占欲に駆られる。
「俺は、これを開けたらおじいちゃんになっちゃう?」
海斗の声は、風の音と同時だった。どこか鼻声だった気がしたのは、どうか自分だけであって欲しい。
「困ったら玉手箱を開けなさい。そう言われてたんだよね。開けておじいちゃんになった浦島太郎は、止まっていた時間を一気に進めたけれど、何の解決にもなってないんじゃないかな。だって、その間に起きた事は知らないし友達もいないから」
姫乃の言う事は最もだと思った。
「大学合格して、その時隣に私がいない事に困ったらこの箱を開けてね」
悪戯っこの様な笑顔を浮かべた姫乃は、普段の大人びた顔よりも幼かった。おてんばな小学生、とでも言えば伝わりやすいだろうか。
「何の解決にもならなかった話を準えるなんて、俺への嫌がらせなのか? 俺だって困ってこの箱を開けても何にも解決しないってオチでも付いているんだろ」
「何の解決にもならなくて途方にくれた海斗が見えたら、私が本当に助けてあげる。……あ、その前にこの箱の中身が助けてくれるよ」

結局、東京にある第一志望の大学には合格出来なかった。第三志望だった三流大学に入学して未だに地元にいる。「大学に合格したら」「その時私がいなくて困ったら」そんな条件の元渡された箱は未だに開けられないままだ。
今頃姫乃は何をしているだろう。原宿にでもショッピングだろうか。それとも、渋谷で友達と遊んでいる? 卒業式の後に海で逢って以来、連絡を取っていない海斗には何も分からなかった。
きっと姫乃は賭けていた。そして、信じていたのだ、海斗の事を。同じように第一志望の大学に合格し、東京まで自分を追って来てくれる事を。だから変更した連絡先も住所も教えてくれなかったのだと思う。
だとすれば……。
今まで考えまいとしてきた箱の中身の検討が付いた。きっと、住所か連絡先だろう。約束を破ってでもこの箱を開ければもう一度姫乃に逢える。あの声に、あの肌に、あの髪に触れられる。そう思った時にはもう決まっていた。
約束を破った自分を許してほしい。
頭の中で、姫乃に謝る。けれど姫乃は、約束よりも自分への好意を嬉しく思う彼女だった。きっと笑ってくれるだろう。
慌ててリボンを解く。一枚の付箋のついた写真と鍵。
「合格おめでとう。写真のマンションが二人の家。その家の鍵です。急いで来て!」
文字を見た瞬間、財布にある金で東京までのバス代が足りるかすら考えないうちに、海斗は走り出していた。


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