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真早さん

ブロマンスやロマンシスが書きたい。 何気ない日常や、日常の中の非日常を書くのが好きです。 http://ienagaworks.php.xdomain.jp/

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サヨナラ、ピーターパン

17/03/27 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:4件 真早 閲覧数:1342

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「ご飯置いておくから」
 ドアの外からババアの声。良いトコロだってのにムカつく。俺はヘッドフォンを机に投げて立って、ドアに蹴りを入れた。邪魔すんな!
 それからドアに耳をつけて、ババアがいなくなったことを確認し、ドアを開けて飯を引きずり込んだ。牛丼だってよ、あー、ピザ食いてえ。イマドキ、ネットでピザの注文くらい出来ることは知ってる。前に一度注文したが、届く時にババアが出掛けてて受け取れなかったからそれ以来やめた。ババアの分際で出掛けやがって。出掛けて良い身分じゃねえってこと、いちいち言わなくても分かるだろ? 普通。
 牛丼とペットボトルの茶を持って机に戻り、動画の視聴を再開する。超イイ動画なんだけど、時々太った不細工オヤジが映り込んでるのはマジ萎える。
 ずっとパソコン起動しっぱなしだからディスプレイも焼けてるし、マウスのボールにはゴミが詰まりまくりでストレス。ジジイからパクった15年前くらいのだもんな。新しいのが欲しいが、クレカの場所分かんねーし。
 何か萎えた。俺は動画をやめて、ミクシーを開く。ミクシーやって、動画見て、飯食って寝るのが俺の日課。
 ぶっちゃけ10年? こんな生活。新卒で優秀な俺をどこも蹴りやがって、バイトなんざやりたくねーし。でも俺が本気出せば楽勝よ? イマドキ、雇われなんて古いっしょ。ノマド? フリー? 本気出しゃ何てことないっしょ。今はまだ遊んでたいっつーか? 縛られたくないっつーか? 本気出せばマジ楽勝だからな?
 でもぶっちゃけそろそろカノジョ欲しい。最近ミクシーで仲良くなったユミちゃん。来週会う約束を取り付けた。俺のコミュ力なら楽勝っしょ? で、ぶっちゃけ、髪伸びすぎてっから切りてえんだよな。
 金は財布に少しだけ残ってたはず。マジックテープを開けて中に入ってたのは、夏目漱石4枚。足りるよな。ババアのタンス漁っても現金出てこねーし。
 今、ババアが出掛けたようで玄関ドアの閉まる音がした。ジジイはもちろん仕事。サラリーマンって空しくならねえのかね? 弟も家を出てリーマンやってるみてえだけど。蛙の子は蛙ってか?
 シャワーは浴びなくても良いか。冬だし。髭も伸びてるが床屋で剃れば良い。普段は週に二、三回、ババア共の寝てる間にシャワーも浴びるし髭も剃る。
 クローゼットから服を出す。大学時代のだが、俺のセンスなら無問題。シャツ、トレーナー、ブーツカットのジーパン、ミリタリーコート。完璧。普段はロンティーにジャージだが、顔は元々なんちゃら王子に負けてねえ。
 玄関でブーツを履いて家を出る。昔行ってた床屋へ、記憶を頼りに歩いた。この辺も変わったんだか変わらないんだか。
 路駐車のガラスにキモいオヤジの顔が描いてあった。趣味悪いが、盗難防止か?
 しばらく歩いて床屋発見。さすが俺の記憶力。ガラス戸にもさっきのオヤジ。流行ってんの?
 ……俺と同じ動きをしてる。嫌な店だ。気分悪いからそのまま帰った。帰途、よく見てみると、あちこちガラスにキモいオヤジが描いてあった。
 家に帰る。ババアはまだいない。会うとウゼエから自室に直行。途中の洗面所の鏡にもキモオヤジ。いい加減にしろよ、くそババア。
 玄関ドアの開く音がした。一言言ってやる。
「あっ」
 後ろでババアの声。俺は振り返った。
「ア……」
 誰だ? 知らないオバンが立ってる。
「……どこか行ってたの?」
 しかしこれはババアの声だ。俺の知ってるババアはもっとデブスだった。しかし目の前にいるオバンは、美人じゃないが痩せてる。髪は白髪だらけだったのに茶色く染まってる。
「お、オイ! ふざけンな!」
 俺は、鏡を指差した。
「何? 鏡?」
「変な、オヤジを! ふざけんな!」
 ババアは鏡を見て顔をしかめた。
「あなたが写ってるんでしょ」
 呆れた顔をされた。もう一度鏡を見る。キモオヤジとババアの姿。ババアは、見えた通りの姿だ。
 これが、俺!?
 垂れた瞼に下膨れの顔。テカテカ肌、汚い髭。一本縛りのボサボサ髪もテカってフケだらけ。
「ア……、何、で……、こんなになる、まで……」
「あなた言ったでしょ。本気出せば楽勝って。だから今は遊ぶって。お母さん、信じてるよ」
「……」
 バカか。とんだバカ親か。
 俺が――、俺が――……、俺が!!!!!!
「ウオオオオオオ!!」
 俺は、ババアに殴りかかった。一度、殴ってやったことがある。外見は変わってようが、所詮はババアだ。
 だが俺の拳の起動は逸らされ、知らない間に床に倒された。
「今、お父さんとお母さん、合気道習ってるの」
 俺の腕を持ったババアが、俺を見下して来る。
 俺の知ってるババアじゃない。俺の知ってるジジイでもないらしい。俺の知ってる俺じゃない。俺の知ってる家じゃない。
「ウ……」
 俺は泣いた。
 俺は、泣いた。


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このストーリーに関するコメント

17/03/29 まー

実際こういった引きこもりは珍しくないような気もします。既に精神病質になっていることに自分でも気づいていないというか何というか。
10年あれば人はいくらでも変われるというのに……もったいない限りです。

夏目漱石の紙幣など小さな仕掛けがウラシマ感を演出していてよかったです。(ウラシマ感ってなんだ 笑)

17/03/29 真早

まーさん
ありがとうございます!
なかなか後戻りできなくてずるずると10年…という感じでしょうか。
微妙に古いものを散りばめてみたので、ウラシマ感を感じていただけたなら良かったです!

17/04/01 スパ郎

10年も引きこもっていて世の中の流れを恐れないこの主人公 最後に母親に合気道で返り討ちにされて泣く所も含めて 個人的に好きですこの主人公 今からでもスタート!と言いたいです。
とてもおもしろかったです、ミクシーとかおもわずニヤリとしました。

17/04/01 真早

スパ郎さん
お読みいただきありがとうございます。
そして、こんな主人公に好感を持っていただきましてありがたいです。
今からでもまだまだやり直せる!この母親にしてこの息子、ってことで、図太く生きていってくれたらなと思います。
ミクシーに思わずニヤリとしていただけまして、嬉しいです。

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