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むろいちさん

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何それ、知らない

17/03/27 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:0件 むろいち 閲覧数:1110

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 驚いた。
 浦島太郎を知らない人がいた。
 赤子でも、子供でも、外国人でもない。
 俺の彼女(女子高生)である。
 俺も高校生なので、咎められるような関係ではなく、めちゃ初々しいカップルである。まだ手も繋いでいない。
 今日は学校が半日で終わったので放課後にファミレスでランチ。
 俺は王道の目玉焼きハンバーグ、彼女はサラダうどん(何かおしゃれ)を食べ、ドリンクバーで俺はコーラとカルピスを混ぜた『コラピス』、彼女はカプチーノw片手に食後のひと時を味わっていた。
 俺の彼女は可愛い。眺めているだけで満足だ。無論、よく見るとニキビがあるとか、眉毛のバランスが違うなんてこともあるけど、それは瑣末なこと。毎日見ても飽きない。いや、正確には飽きないだろう。確信をもって言えないのは、付き合い始めてまだ二日目だから。きっと明日になっても飽きることはないんじゃないかな。
 でも正直な話、早くも彼女との会話には少し陰りが見え始めている。
 何かもう話題がないのだ。
 基本的に俺が会話を振り、彼女が答える形式が昨日から続いていた。俺は喋りに喋り捲った。学校でのこと、好きな映画、好きな本、好きな音楽、休日の過ごし方。だって、俺を知って欲しかったからね。彼女は笑顔で頷いてくれたので、俺の気分は高まったのだけれど、実は会話の引き出しが空になりそうなのだ。奥の方に手を伸ばしてバタバタしている。
 だから、『コラピス』なんて小学生が好きそうな飲み物をおちょけて作ったのも、半分はウケを狙ったのだ。でもだだスベり。彼女は黙ってカプチーノを啜るだけで終わった。俺は万事休すだった。
 頭をフル回転させ、苦肉の策を思いつき、俺は彼女に質問をした。
 「昔話ってあるじゃん?何が好き?」
 カプチーノを一口啜って彼女は答えた。
 「かぐや姫かな」
 「何で?」「何となく」チーン。会話終了。
 ここで彼女が俺の好きな昔話を尋ねたりするのがコミュニケーションだと思う。でも、彼女はそんなことはしない。だってクールだからね。そこが好きなんだけど。だから、俺は自分で自分をアピールするしかない。
 「俺は浦島太郎が好きだね。善行で幸せを得るけど、魔が差すことでそれが崩れ落ちる。人間らしくてさ」
 「何それ?」
 彼女が初めて質問をして来た。コミュニケーションだ。 
 「格好つけすぎたかな?」
 
 「そうじゃなくて『浦島太郎』って何?誰?」
 「亀救って、竜宮城に行って楽しんで、玉手箱もらって開けちゃダメってのに開けてもうもうと煙に包まれてお爺さんになる人。ってか話」
 「何それ、知らない」
 「マジで!」
 声が大きくなった。おばちゃん店員さんに睨まれたからボリュームを調整。
 「知らないの?」「知らない」
 「普通、子供の頃、嫌でも聞くと思うけど」
 「てか、亀すくうって何?川から掬って飼うの?ミドリガメ?ゼニガメ?」
 「掬うんじゃなくて、助ける方ね」
 「そんな小さいやつじゃなくて、ウミガメかな。竜宮城は海の中だし」
 「は?海の中に行くの?潜水艦?」
 「いや、どっちかというと素潜り」「は?ボンベつけないで?どこまで?素人じゃ無理」
 「いや、その辺は昔話だし」
 「そんで竜宮城で何すんの?」
 「鯛やヒラメの舞い踊りを見たり、豪華な飯食ったり。一番の肝は乙姫っていう美人なお姫様がいて、恋人っぽくなる」
 「何食べんの?海の中で?肉?食わないよね」
 「魚とかかな・・・」
 「仲間差し出してじゃーん。ある種の人身御供じゃん」
 「いや、それ言ったら『かぐや姫』だってわけ分かんないよ」
 「何それディスってる?」
 彼女がカチンと来ていた。こんな表情もするんだと喜ぶ前にこの張り詰めた空気が嫌だった。それを彼女が打ち破った。
 「別れよう」
 どうしよう。浦島太郎が原因かよ。こんな話しなきゃ良かった。まだ二日目だぜ。二日目。手も繋いでないんだよ。せめて、それくらいは進みたかった。でも、こう言われたらどうしようもない気がする。ゴネてもみっともないし、『コラピス』にも笑ってくれず、『浦島太郎』を知らない女なんて、こっちから願い下げだっつーの。でも、やっぱりこんな可愛い子いないし。でもな。未練がましいのもダサいし。
 「分かった。短い間だったけどありがとう。楽しかった」
 彼女がカプチーノを飲み干した。
 「ごめんね。私も意地悪みたいだったし」
 「そんなことないよ」
 言葉が続かなくて、思わず口が先に動いた。
 「おかわりする?」
 彼女が頷いたので、俺は彼女のカップと自身のコップを取ってドリンクバーへと向かった。
 コーラとカルピスを半分ずつ入れて『コルピス』の完成。彼女のカプチーノを入れるためにスイッチを押す。
 湯気がもうもうと立ち上り、俺を包んだ。
 
(了)


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