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まーさん

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時の流れに身をまかせ……るべきか否か

17/03/27 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:4件 まー 閲覧数:1122

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「まさか老人になってしまうとはな……」
 浦島太郎はそんな愚痴を呟きながら町に戻った。しかし町に昔の面影はなく、自分が住んでいた場所さえ跡形も無くなっていた。
 どうしたものかと混乱する中、町の広場では何やら民衆がガヤガヤと騒いでいる。太郎は引き寄せられるようにそちらへ行ってみた。
 人だかりの中心では白髪の美しい少女がわら敷きの上で正座していた。盲目なのか少女の両目は膜がかかったように白い。隣にはなぜか小さな亀が鎮座していた。
 と、少女の前に足の不自由そうな老婆が身体を支えられながらヨロヨロと出てきた。老婆を支えてきた若者から二、三の説明を受けると少女は片方の手で老婆の足に触れ、もう片方の手は自分の脇にいる亀へとそえた。すると突然、老婆にそえた少女の手の平からは眩いばかりの光の玉が溢れ出した。それから光は少女の身体の中を通過し、そのまま亀へと吸い込まれていった。亀は目をパチパチとさせるのみで、何事もなかったかのように身動き一つしない。
 その後、老婆は自分の足の変化に気づき、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。民衆は「奇跡だ!」「信じられない!」「さすが花子ちゃんだ!」などと感嘆の声を上げている。老婆は泣きながら、自分を治してくれた花子という少女にしきりに感謝した。
 太郎はそんな一連の光景を前に、今自分がすがるべきはこの少女しかいないと確信した。見かけない老人だなという視線を送ってくる民衆を押しのけつつ、太郎は花子の前に倒れこんだ。
「頼む、嬢ちゃんのその神通力で私を助けてくれ」
 いきなり現れ、しわがれた声でそんなことを言う老人を前に、花子は白い瞳を向け興味のこもった不思議そうな顔を浮かべた。
「おじいさんはまるで……時間を越えて存在しているかのようですね」

 花子に家へと招かれた太郎は、自分の身に起こった全てのことを話した。太郎が驚いたのは、花子が神話や伝説について精通しており、思いもよらない考えを呈示してくれることだった。
「竜宮での一日は百年や千年といわれ、それだけでなく彼ら竜宮の住人は百年や千年を一日として感じることもできると言われています。つまり、彼らに時間の概念は無いということです。ですから贈られた玉手箱に関しても悪気はなかったはずです。老人になってしまったのは箱を開けたことが原因とは思えません」
「どういうこと……?」
「太郎さんが時間を気にして地上に戻ろうとされた時点で、乙姫さんは太郎さんが地上に戻ってもこのままの姿ではいられないということに気づいていたのです。時の流れを気にしてしまうのは人間特有のものですから。つまり太郎さんは自分の意識の変化によって老人になってしまったということです。白い煙は、時の流れを含め全ては儚い幻想だということを知ってほしかった乙姫さんの想いではないでしょうか」
 花子の話を聞き終えた太郎は目から鱗が落ちる思いだった。
(ということは考え方を変えれば若返るのか……いや、竜宮にいる間は時間を忘れることができたのだろうが、地上に戻った以上、人間には寿命があり時の流れには逆らえないという意識を変えるのは不可能に近い。しかしまあ……あのような美しい竜宮の世界を見ることができただけで幸せ者じゃないか。うむ……もう老人のまま、時の流れに身を任せることにしよう)
 それから話は自然と太郎のことから花子のことへと移っていった。花子が持つ超能力に興味津々と言った様子で太郎は根掘り葉掘り質問した。花子は太郎の質問に一つ一つ丁寧に答えていった。
 生まれてすぐ両親に捨てられた花子はこの町で拾われ、目が見えないこともあってか自立できるまで町の人たちに大切に育てられたという。花子に不思議な力が備わっていることは、幼少期のころから誰の目にも一目瞭然だったそうだ。そのような中で花子はいつしか広場で病気の人を治療するようになっていった。育ててもらった恩義からか花子が町の人たちから治療代を取ることはなく、様々な人が届けてくれる食糧で日々の暮らしを送っているということだ。
 太郎は感極まっておいおいと泣き出した。
「何て健気な子だ。……しかし」
 そこではたと止まって、太郎は疑問を口にした。
「治療のときに亀を触っていたのはなぜだい」
 その質問に花子はあっさりと答えた。
「ああ、あれは治したい所の時間を巻き戻して、戻した時間を亀へと移動させているんです。亀は万年といって時間の流れには柔軟ですから。もっとも、私の目のように生まれつきだと治すことはできませんけど。あ、この方法を使えばおじいさんも元に戻せるかもしれませんね」
 これを聞いた太郎は、さきほど老人のままでいることを心の中で受容した手前、目を閉じて呻くように言った。
「う、う〜む。時の流れに身をまかせ……るべきか否か……それが問題だ」

   了


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このストーリーに関するコメント

17/03/30 泡沫恋歌

まー様、拝読しました。

人間持つの時間の概念というのは、たぶん思い込みもあるのだと思います。
ちょっと例えとしては平凡ですが、気持ちが若いと見た目も若く見えるみたいな・・・
太郎さんは日常に戻ろうとして、それに伴う年齢も取ってしまったのでしょうか?
ユニークな浦島太郎伝説、興味深く読ませていただきました。

17/03/31 まー

>泡沫恋歌さん

時間の概念って考えれば考えるほど不思議ですよね。苦痛は長く感じ楽しいことはあっという間だったり。
「地上に戻ったところで何ともないわい。じいさんになったような気がするのも気のせいだわい」くらいの気の持ちようでいけば、太郎さんは年を取らなかったかもしれません(笑)。

17/04/28 そらの珊瑚

まーさん、拝読しました。

常々、なぜ乙姫さまは玉手箱などを渡したのだろうと思っていました。
亀を助けてくれた恩人にひどいことするなあ、と。
でも悪気はなかったのですね。
すっきりしました!

17/04/28 まー

>そらの珊瑚さん

自分も全く同じで、なぜ玉手箱なんか余計なものをくれたんだろうと不思議でした。え、なぜにおじいさんに?っていう(笑)。
だからもし乙姫さんに悪気がないとすれば、人間とは全く違った価値観や時の概念を持っているのだろうと、願いのようなものも込めて書いた作品です。
昔話のいいところはこんな風にいろいろな解釈ができるところかもしれませんね。

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