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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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帰ってきたタロー

17/03/27 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1103

時空モノガタリからの選評

家族らが「すでに死に絶えてしまった」はずの村に帰ってきたタロー。そこで待ち受けていたものが意外でした。スープレックスさんらしいちょっぴりシニカルでユーモラスなオチが効いていますね。超高齢化社会となった村に戻ったタローに期待されたのは、若者として村を支えることだったとは、なんとも現代的なエッセンスが詰まった結末でした。また玉手箱が、たった一人で生きる苦しみを救済しようとする乙姫の慈愛が込められたものだったとは、着眼点が面白いですね。地上の様変わりぶりは、さすがの彼女も予想しなかったことでしょう。それにしても親しいもの達死んだ後、彼を支えてくれるものはいないわけで、彼はどうなってしまうのかなんだか心配になってしまいますね。

時空モノガタリK

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 タローは亀に乗せられ、竜宮城をあとにした。
 美しさとかわいさを兼ねそろえた類稀な女性乙姫と過ごした、夢のような幸せな毎日が、頭のなかを繰り返し去来した。
 魚たちが陽気に明るく舞い踊るそのけなげでサービス精神満点の姿に心から癒され、そのうえ、女の魅力のすべてをさらけだして尽くしてくれる乙姫がつねにそばにいてくれるのだから、ままならない浮世の苦労や人生の悩みがたちまち雲散霧消して、時のたつのをタローがすっかり忘れてしまったのも無理はなかった。
 だが、そんな享楽的な日々もいつかは終わりがくるものだ。タローになくても、おそらく乙姫にその意思があったことはまちがいない。はたして彼女がいった。
「このあたりにしておきましょう」
 それが最後通牒だとわかったとき、純真無垢におもえたあどけない彼女の内面にも、やはりエゴの醜い虫がひそんでいたことをタローは認めざるをえなかった。
 永遠の若さの中に生きる彼女にとって、数々の男とのまじわりは不可欠なものにちがいなく、しかしその男には必ず新鮮さという賞味期限が求められた。つまり、タローはあきられたのだ。男と女の関係において、どうあがいても絶対に回復ができないものがあるとすれば、それはあきられるということだ。ほかのことが原因だったら、恥も外聞もかなぐりすてて、乙姫のあしにすがりついていったことだろう。だが、あきられたことを察した時点でタローは、じぶんの気持にもケリをつけるときがきたことを悟ったのだった。
「亀よ、いまの俺の気持がわかるか」
 タローは、自分を乗せて寡黙に海面を泳ぎつづける亀に声をかけると、腰に縄でくくりつけた、玉手箱をみおろした。それを手渡すさい、乙姫はいった。
「楽しい思い出をありがとう。一時でも―――タローにとっては永遠にもひとしい歳月だったが―――恋の炎をもえあがらせてくれたあなたに、心から礼をいいます。これは感謝の気持ちです、どうかうけとってください」
 螺鈿細工を施された玉手箱を見てタローは、これを売ればかなりの額になるだろうと、はやくも娑婆っ気たっぷりに考えた。もとの世界にかえって、これを売って当面の生活費にあてよという彼女の配慮だろうかと、彼は相手を見返した。そんなタローの胸のうちをみぬいて、乙姫はかぶりをふった。
「あなたがここですごしているあいだに、あちらではあなたの家族も知人たちも、すでに死に絶えてしまったことでしょう。誰ひとりあなたをしるものもいないなかで、生きていくことは大変なことです。この玉手箱は、そんなあなたを救済するものです。箱をあければ、なかから煙がわきだし、その煙にふれればたちまちあなたは、石のように硬直しなにものにも無反応な心をもった老人になることができるのです」
 乙姫の顔には、これまでにない慈愛の念があふれていた。この玉手箱がいずれ必要になることを、その無言の表情は語っていた。
「ありがとうございます」
 タローにも、彼女のおもいやりは痛いまでに理解できた。この玉手箱は、近日ちゅうに開けることになるだろう。確かな予感が彼をとらえた。
 海のむこうに、陸地がみえてきた。懐かしいという気持が、ひとつもうかんでこないのを、タローはなぜとも思わなかった。
 波打ち際で亀とわかれ、もちものといえば玉手箱ひとつを抱えてタローは、陸に向かって歩き出した。
「あれ、タローじゃないか」
 腰のおれまがった老婆が、話しかけてきた。
「あんたは」
「ほら、おまえの姪の、アサリだよ」
「あの、アサリか」
 おかっぱ頭の、頬をリンゴのように赤くそめた童の顔がおもいうかんだ。
「タローはかわりねえな」
 かわりなさすぎるとおもうのだが、彼女ほど年をとればもう、ただ眼前の事実のみがすべての判断材料になるのかもしれなかった。
「おまえの両親はいまでも元気だよ」
 とっくに他界しているとばかりおもっていたタローだった。だがアサリにつれられ、彼の生家にいってみると、なんと親だけでなく兄弟もまだ生きていた。当然だがみな年齢をかさね、弟でさえ齢九十にたっしていた。さらにおどろいたことには、隣近所のめんめんも、同様に年老いてはいるものの、皆元気で、畑仕事に汗を流すものもいるほどだった。
「俺もはやく、あんたたちの仲間入りをさせてもらうことにするよ」
 とおもむろにタローが玉手箱のふたをあけようとするのを、すでに彼からその箱がなにかをきいていた長兄が、むんずと弟の腕を抑えて、
「この高齢化社会に、いちばん必要なのは、おまえのような若者だ。タロー、おまえまで高齢者になってになってどうする。そんなものは捨てて、わしらを支える力になってくれ」
 元来、いじめられている亀を助けるほど気立ての優しいタローは、年よりからそこまで頼まれては、さすがにいやとはいえなかった。




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このストーリーに関するコメント

17/03/30 文月めぐ

こんにちは。物語、拝読いたしました。
帰還した後のタローを描いていて、独自性があって面白かったです。

17/03/30 W・アーム・スープレックス

文月めぐさん、ありがとうございます。

独自性といわれるのは大変うれしいのですが、あまりこれを意識するとかえって薄らいでしまうので、結局、書きたいように書くようにしています。

17/05/20 光石七

拝読しました。
浦島太郎で高齢化社会の風刺を描かれるとは、その発想に脱帽です。
これはこれでめでたしめでたし……のような、そうでないような。数少ない若者にかかる負担やいかに。
面白かったです!

17/05/20 W・アーム・スープレックス

玉手箱の煙を浴びて、老けるだけでは芸がないと思い、発想を転換して、高齢化社会をもちこみ、タローを老人を支える若者に据え置きました。おっしゃるとおり、よろこんでいいのかどうか、書いた本人にもよくわかりません。

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