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八王子さん

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童話・大人の浦島太郎2nd

17/03/27 コンテスト(テーマ):第132回 時空モノガタリ文学賞 【 浦島太郎 】 コメント:0件 八王子 閲覧数:603

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 ある日、村に一人の男が現れた。
 誰もそいつのことを知らず、そいつは村の誰のことも知らなかった。
「僕は浦島太郎と言います。昔ここにあった家に住んでいたのですが」
 俺の自慢の家を奪おうとでもしているのか、村の中をうろちょろしては、あっちこっちで疎まれていた男は、日が傾きだしてから俺の家のドアを叩いて言った。
「そうかい。でもな、生憎だが、今は俺が住んでいる。漁に出て日銭を稼いで、ようやっとこさ金を貯めて、大工に高い金を払って建ててもらった上等な一軒家よ」
 村の誰よりも先に漁に出られるように、海のすぐ近くに建ててもらった。
「それを奪おうだなんて、ちぃーっとばかし調子が良すぎないか?」
「それは申しわけありませんでした」
 素直に頭を下げる浦島太郎と名乗る男を見た俺は、困って後ろ頭を掻いた。
 こんな村中から疎んじられる男を助けるのは、村の堅物連中から反感を買いかねないが、俺の性分がそうさせるのか、見捨てることもできない。
「まあ、悪いやつじゃなさそうだし、俺の家でよかったら一晩泊まっていくか?」
 浦島太郎という男を家に招き入れ、天日干しで作った魚の開きを炙って振る舞った。
「これにな、酒が最高に合うんだよ」
 米から作った酒に炙った魚を浸して齧る。
「いただきます」
 酒と魚を何時間も一緒に堪能し続けて、すっかり出来上がった浦島太郎は赤い顔で懐から紐で括られた小箱を取り出した。
「ほう、これがさっき言っていた、海の底にある竜宮城にある美人の乙姫さんからもらったっていう玉手箱か」
「もしよければ、これを受け取ってください。僕にはこれしか持ち物がありませんから」
「いや〜、そんな大事なモン受け取れない。俺はお前から礼が欲しくて泊めてやるわけじゃないんだから、それは仕舞っておけ」
 すっかり酒の回った二人は、床に転がるようにして眠りに就いた。

「しまった」
 翌朝のこと、俺の声で浦島太郎は目を覚ました。
「昨日の酒が楽しすぎて、つい飲み過ぎて酔い過ぎた。漁に出る時間をとっくに過ぎちまった」
 誰よりも早く海に出るために、海沿いに家を造ったのに、寝坊をしてはその利点も意味がなくなる。
 一人の時なら深酒などすることもなかったのに。
「今日の飯はなしだ。起きてると腹が減るから寝る」
 俺は不貞寝することにした。
「僕が来たばかりに申しわけありません。これは本当に心ばかりのお礼の品です。僕は出ていきますね」
 腹が鳴りすぎて力が出ず、浦島太郎を止める元気もないまま、静かに家を出て行った。
「この小箱の中になにか入ってるんじゃないのか?」
 玉手箱と呼ばれた箱を持ち上げてみるが軽く、振っても物音はしない。
「空かよ」
 でも、作りは上等だ。もしかして箱自体が金目の物なのではないか?
 そう思って、封をしてある紐を解いて中を検めて俺は驚き、言葉にできないまま家を飛び出した。
 小さな村にいる部外者はすぐに見つかった。
「おい、浦島太郎。すぐに家に戻ってきてくれ!」
 別の家のドアを叩いて頭を下げていた浦島太郎を自宅まで呼び戻せば、浦島太郎も家の中を見て仰天した。
「玉手箱を開けたら、魚が出てきたんだ。それもタイにヒラメに、なんか見たことのない深海魚と、あとグッピーもいるな……これ食えるのか?」
 所有者だった浦島太郎が俺よりも驚いているので、出てきた魚を刺身にしたり、焼いたりして調理して舌鼓を打ちながら、浦島太郎に語った。

 翌日は荒天で漁に出られず、昨日勢いに任せて食べつくしてしまった魚を残しておけば今日の分になったのに、と浅はかな行動を後悔していると、玉手箱のフタがカタンと音をさせた。
 そちらを見れば、活きの良いタコが吸盤のついた足を覗かせている。
「なんだこれは。中身を取り出して、フタをして、また開ければ魚が出てくるぞ」
 一日に何度も出るわけではなく、困った時にしか出てこないようで、漁に出られないこの日は、タコを使って一人じゃできないたこ焼きパーティーを浦島太郎とした。

 俺は浦島太郎とずっと一緒に住んでいいとさえ思えるぐらい、今の生活を気にいりつつあった――それなのに、ある朝、浦島太郎と玉手箱が幻のように消えていた。
「箱の価値に気づいて、それを独り占めする気か」
 元はあいつの持ち物だから、文句は言うまいが、寂しいやつだ。
 漁に出ていた時の癖で朝早くに起きて、久しぶりの漁に出て朝陽が昇る時間に、陸に戻って来ると、家の前に誰かがいた。
「あの……浦島太郎です……箱を開けたら煙が……」
 そこにいたのは昨日までとはまるで別人の、白髪に白い髭を生やして、背中の曲がったガリガリのお年寄りだった。
「ここにお前の居場所はない」

(了)


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