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笹山ナオさん

twitter→ asterism0_toki ブログ『徒然なるままにインドア暮らし』はこちら→http://mihonono.blog.fc2.com/ 自作小説の話以外にも、ゲームの話や雑記も載せています。 SF(サイエンス・ファンタジー)やSF(すこしふしぎ)なんかを書いています。

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宇宙服

17/03/23 コンテスト(テーマ):第103回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 笹山ナオ 閲覧数:617

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 都会の街に、ある老人がおりました。その老人はいつも、傍目からは奇妙な色のスーツを着ていることで、街の人々には有名でした。
 奇妙な色とは、形容しがたい色でした。黒に白、赤、青、黄、茶、それからアイリス、メドゥーズ、アランブラ、モーブ、ヘイズ、それからそれから海松茶、錆鉄御納戸、黒紅、象牙、蘇芳…とにかくありとあらゆる色んな色が点々と、星のように散りばめられたスーツを老人は着て、街の歩行者天国を悠々と歩いています。

 ある日、老人のお家に、彼のうわさを耳にした雑誌記者が訪れました。
「それでご用件は?」
「あ、はい。あの、あなたはどうしてそのような色のスーツをいつも召していらっしゃるのでしょうか?」
「確かに毎日この色のスーツを着ているが、そのような色とは?」
 雑誌記者はにやにやしながら言います。
「その、派手とも地味とも言い難い奇妙な色模様のことです」
 老人は、記者に向かってにっこりと微笑むと、
「ふむ。そうだね。私ももう老い先短いことだし、すべてをお話ししよう」
 そう言って、記者の真向かいのソファに座りなおしました。

「私がこの色のスーツを着ているのには大きく二つの理由がある」
「ではまず一つ目は?」
「一つ目は、私の昔の話になる。
 私は幼い頃、服の色のセンスが悪いとよく苛められていたんだ。わたしは苛めてくる彼らを見返したくて、ありとあらゆるファッション雑誌を読み漁り、洋服店を物色した。するとどうしたことだろう、どの雑誌でも一様に同じような色、同じような模様がオススメされているじゃないか」
「まあそうでしょう。だって、今でこそ知っている人も多いですが、毎年毎期、流行の色というのは、なんとかという委員会で前もって決められているんですから」
「そう、その通りだ。例えば、去年の流行はラディアントオーキッド、それから一昨年はエメラルド、遡ってタンジェリンタンゴ、ハニーサックル、ターコイズ、ミモザ――」
「随分とお詳しいですね」と、雑誌記者は遮るように言いました。

「それは私が決めたからさ」
「はい?」
「私は毎年流行色が決められていたことを知ると、今度はその流行色を決める委員会に入ろうと勉強を始めた。その甲斐あって、やがて私は委員会に参加することとなり、委員長のところに挨拶に伺うことになったんだ。すると驚いたよ。委員長は、私が今着ているのとまったく同じような色のスーツを着ていたんだからね」
「はあ」
「しばらくして委員長は老衰で亡くなった。私は若くして彼の後を継ぐことになった。このスーツは彼の生前に受け継いだんだ。当時は着られなかったがね。ともかく、それからは楽しかったよ」
「楽しかったというと?」
「委員会なんていうのは形ばかりさ。毎年新委員長である私が流行の色を決めた。するとどうだ!流行だと、センスのいい色だと、私が決めたとたんに、いたるところにその色が現れだしたんだ!私が言ったとおりにセンスは移り変わった!ほら、君の胸ポケットのそのハンカチ、今年の流行色マルサラ、私が決めた色…」
 それから老人は興奮した口調を落ち着けると言いました。
「これが理由の一つ目」

 雑誌記者はおずおずと尋ねます。
「二つ目は?」
「二つ目は私の研究だ。私は委員長に就任した後、暇を見つけては、最もセンスのいい色を研究することにした。」
「まさかその結果が…」
「そう、このスーツの色さ。いや正確には色と呼ぶべきか怪しい。一つ一つの色は単色でも、こんな風に細かく、境界線も分からないまでに散りばめられていると、模様なのか色なのか判別しにくいからね。
 ところで君は知っているかね?脳の神経細胞と宇宙の構造がとても似通っているという事を。宇宙の成長は、脳内のニューロンの分布に近く、また神経細胞の数は、星の数と同じくらいだとも言われている」
「はあ、いえ、知りませんでした」
「私たちはまさに宇宙の上に成り立っているのさ。ちょっと君、目を閉じてごらんなさい」
 雑誌記者は言われた通りに両目を閉じました。
「何が見えるかね?」
「何も…」
「いいや、見えているはずだ、真っ暗ではないだろう?それは瞼の裏側の色であり、宇宙の色であり、そして、このスーツの色にもよく似ていると思わないかね」
「………」
「目を開きたまえ。この色、あえて言うなら『宇宙色』は、私たちに最も身近で、眠るとき常に見ているものだ。人間が大人になっても、妊婦の胎内の音に安心を感じるように、私たちは『宇宙色』に安心を感じるのさ。もしかすると、前任の委員長も、私と同じ結論に辿り着いたのかもしれない。そして、この色のスーツを着ていた。私と、同じように」
 老人はにっこりと満面の笑みを浮かべました。

 それから数か月後、雑誌に特集された『宇宙色』は、瞬く間に街に溢れかえりました。
 赤ちゃんのつなぎの服や、若者の着るジャケット、井戸端会議に集まる主婦の手提げ袋に、おじいさんが被るニット帽まで、とにかくありとあらゆる服飾が、あの派手とも地味とも言い難い、奇妙で、最もセンスが良い『宇宙色』に彩られました。
 そんな街の外れにある病院で、白装束に身を包んだ老人は息を引き取りました。


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