1. トップページ
  2. クリスマス・イヴ

デーオさん

コメディから純文学風など 別人じゃないかと思われるほど違う趣のもの 色々書いてます。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 いい加減(これは難しいのです)

投稿済みの作品

0

クリスマス・イヴ

12/11/15 コンテスト(テーマ):第十九回 時空モノガタリ文学賞【 クリスマス 】 コメント:2件 デーオ 閲覧数:1766

この作品を評価する

クリスマス・イヴの午後、電車の中、4,5歳ぐらいの少女が父親と思われる男と一緒に入ってきて座席を探した。あいにく席は塞がっていたが、中年の女性が立ち上がって「どうぞ」と席を譲った。
「あ、すみません」男が礼を言う。女性は「いいえぇ、どうせ次の駅で降りますから」と言った。
父親が娘に「座る?」と聞くと少女は頷いて座った。
父親が「ありがとうは?」と少女を見ながら言うと、少女は「ありがとう」と少し照れたように言った。席を譲った女性がにっこりと微笑んだ。
少女は首から下げているポーチを大事そうに抱えている。何か買ってもらったのだろうか。それにしては表情が固いような気がした。嬉しさと少しの不安が見えた。

     *       *       *

話は一週間前にさかのぼる。少女は母親が入院している病院に父親と一緒にお見舞いにきていた。

「じゃあね」と少女は母親に言って、父親をみる。
母親が「あれっ、帰ることになったら急に元気がでたね」とからかった。
「そりゃそうだよね。病院じゃ遊ぶところ無いしね」
父親が、帰り支度をしながら言った。
「いつもあっさりして、バイバイって帰るよと友達に言ったら、びっくりしてるよ。普通はお母さんの所から離れたくないなんていうものなんだけどね」
母親が、あきれたように娘を見ながら言った。

「しょうがないよ。お母さんは、こうして時々別荘で生活しているから、お母さんはたまに家にいる人になってるんだよ」
父親がそう言うのを聞いてから、少女は、少しだけ後ろめたい表情で母親に手を振った。

「じゃあ、頼んだもの明日ね」と母が父に言うのを後ろに聞きながら少女は病室を出ようとした。同室のおばあちゃんが「ありゃ、もう帰るのかい」と言う。少女は、小さく手を振って、すぐに出口に向かった。ここは好きじゃないなあと思いながら。

少女はエレベーターのボタンを押して、廊下を振り返る。父親が少し疲れたような歩き方でやって来て、エレベーターに乗った。

「うわ〜寒い」少女が声をあげた。
外に出ると、顔も耳も痛いような寒さだった。
「ほら、帽子忘れているよ」と父親が帽子を被せる。

バス停まで歩く道で「お母さん、クリスマスは病院だなあ」と父が言った。
少女は少し間を置いてから「もう、幼稚園でやったよ」と言った。
「明日がクリスマス・イヴなんだけど、お母さんに何かプレゼントしようか」
父が明るい声でそう言ったので、少女が「うん、何がいいかなあ」と明るい声で言った。
「食べるものはダメなんだよね。病院で出たものしか食べられないんだ」
「えー、ケーキもだめなの」
「うん、でも行事食といって、ケーキのようなもの出るかもしれないよ」
「ぎょうじしょく」と少女がくりかえす。そして暗い夜空を見上げる。
「あ、みかづき」
「あ、ずいぶんはっきり見えるなあ」
「お母さん、見てるかなあ」
「いや、テレビ見てるんじゃないかな」
「そうだね、テレビ好きだもんね」
やがて到着したバスに乗り二人は家路につく。

少女は、お母さんへのプレゼントを一生懸命考えたが、何がいいのかわからなかったので、父親にきいてみた。
「お母さんのプレゼント何がいいかなあ」
父親は、「マンガとCDは頼まれた物揃えたけどね、う〜ん、喜ぶものは食べ物なんだよね」と言って父親が少し悲しそうな顔で笑った。
「でもね、秘密のもの持って行こうかな」
父親が、少し悪戯っぽい顔になって言った。
「何、秘密のものって」
「教えられないから秘密のものっていうの」
「ちぇっ」少女が不満そうに言う。
「わたしも、ひみつのもの考える」
少女は真剣な顔になって、自分の学習机に座った。

        *         *            *

話はまた電車の中の二人に戻る。病院へお見舞いに行くところだ。少女が大事そうに抱えているポーチを、そして父親が下げた袋。

父親がが下げている袋には、気分を変えてあげたいのだろう少し派手めの妻のパジャマと、マンガ、小説、CDで膨らんでいる。ビニール袋に入ったタッパーもある。その中身は美味しそうなイチゴが5粒ほど入っている。今回だけと一番高いものを選んで買ったのだ。内緒でそうっと食べるのもおいしいだろうと思って。

少女のポシェットには、稚拙で味のあるサンタクロースを書いたカードと、自分の小さな靴下が入っている。その中には父親をまねて秘密のもの……小さなミカンが1個入っていた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

12/11/15 草愛やし美

デーオさん、拝読しました。
病弱な母親、そしてそれをいつもフォローしている父親、ある意味、二人の愛に恵まれた少女ですね。見方によっては、いつも母親が病院にいて、家にいないのは不幸に思えますが、この二人のプレゼントは、強い親子の絆を感じます。
とても素敵な秘密の贈り物を囲んで、どれほど母親が嬉しいだろうと想像すると、読み手の私も笑顔になりました。
このコメントを書いていて、ああ、やはり、自分は母親の立場で読んでいるのだなと、感じました。よかったです、ありがとうございました。

12/11/15 デーオ

草藍さん

ここは久しぶりです。そして旧作リメイク。
2000文字って難しいです。
コメントありがとうございました。

ログイン