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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
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濃いコーヒーを飲む女

12/11/14 コンテスト(テーマ):第十八回 時空モノガタリ文学賞【 コーヒー 】 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:3374

時空モノガタリからの選評

最終選考

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 高瀬川洋介は『送信』ボタンをクリックし、達成感でふうと息を吐いた。そして「次のお題は何かな?」とぼそぼそと呟き、後はおもむろに新着コンテストの画面に入って行った。
 そこには『コーヒー』と表記がある。
 これを目にした洋介、「コーヒーね、ちょっとなあ」と心もとない。天井を見上げ、自分自身を題材に書いてみようか、それともパスしてしまおうかと迷い始めた。

 洋介は長年のサラリーマン生活を62歳で終えた。そして今は自由な暮らしを楽しんでいる。その一つが、決して上手いとは言えないが、お題からイメージした小説を投稿したりしている。
「だけど、これ、どうしようかなあ? まっ、一応コーヒーで綴ってみるか」
 こう思い至り、過ぎし日々を振り返り始めた。

 そう、あれは30前の頃のことだった。得意先の総務課に現代風な相沢厚子がいた。応対はいつもてきぱきとし、なかなかのやり手だと思われた。営業の若いサラリーマン、洋介にとって憧れのオフィスレディーだった。
 そんな洋介の思いを汲み取っていたのだろうか、なぜか厚子は、幹部との面会時間などを優先的に割り当ててくれた。そしてある日、洋介はお礼にと、思い切って厚子を夕食に誘った。厚子は「ご一緒させてもらうわ」と大人っぽく微笑んだ。
 仕事上で顔を合わし、事務的に会話を交わすだけの間柄だった。だが、それが3年も続くと互いに気心は知れてくるものだ。初ディナーだったが、まるで恋人同士のように盛り上がった。そしてこの流れは止まらなかった。洋介は厚子のアパートへと誘われ、結果、若い男と女の成り行きとなり、洋介は厚子を抱いてしまったのだ。

「洋介さん、夜明けのコーヒーよ。いかが?」
 こう勧められた洋介、コーヒーカップをつまみ、一口口にする。
「厚子さん、これ、ちょっと濃すぎるんじゃない?」
 ブラックが好みの洋介だったが、思わずその苦さに顔を歪めた。
「そうよ、新たな時を刻むスタートには、その苦さが過去を吹っ切らせてくれるのよ」
 こう言い切った厚子、ゆるりとコーヒーカップを口に運ぶ。カーテンの隙間から射し込む朝の光が、その仕草を射止める。厚子がシルエットとなり浮き上がった。そして見たのだ、洋介は……。
 濃いコーヒーを飲む女を。

 その瞬間、洋介は直感した。きっとこの女と生きて行くことになるだろうと。そして予感通りに、二人は結婚した。
 一緒に暮らし始め、洋介はさらに実感する。厚子は、濃いコーヒーに思いを入れるように、いつも何かにこだわっていると。
 まず最初にこだわったもの、それは洋介の服装だった。嫁さんをもらうと身綺麗になるもんだなあ、と同僚からよく冷やかされた。
 その後、娘と息子が産まれた。厚子は子育てに心血を注いだ。お陰で子供たちはすくすくと育ち、社会人として巣立って行った。
 厚子が家庭をしっかり守ってくれたため、洋介は仕事に没頭できたし、また50代後半にはそこそこの役職にも就けた。正直洋介は感謝している。

 しかし、先は読めないものだ。この調子なら無事会社勤めに終止符が打てると思っていた。だが30年の真珠婚を祝った後のことだった。
「ねえ、あなた、私の役目も終わったでしょ。郷に戻って、一人で暮らすわ」
「えっ、離婚したいってこと?」
「違うわ、仮想離婚よ」
 こんな会話のあと、厚子は家を出て行った。それから早いものだ。5年の月日が流れた。
 そんなある日、1枚の招待状が手元に届いた。それは厚子のボタニカルアートの個展。そのカードをよく見ると、コーヒーの白い花が描かれてある。
「厚子の新たなこだわりは、これだったのか。コーヒーまで絵にしてしまって……」
 今まで気づかなかった妻を知り驚いた。しかし嬉しくもあった。

 個展当日、洋介は娘と孫たちと一緒に絵を鑑賞し、久し振りに家族で食事を取った。そんな至福の時に、娘がいきなり怒り出したのだ。
「お父さんもお母さんも、いつまで別々に暮らすつもりなの。もういい加減にしたら。私、老人のお世話は嫌だからね。二人で助け合って、自己完結させてよ」
 これに洋介は返す言葉がなかった。そして厚子は「そうね、新たな出発かもね」と答えた。それから1週間が経ち、厚子が洋介の元へと帰ってきた。

 今、洋介は画面上のお題『コーヒー』を睨み付け、「こんな実話なんて、やっぱり投稿できないよなあ」と腕を組んでいる。そこへ厚子がコーヒーカップをそっと置く。洋介は「ありがとう」と返し、それを一口飲む。苦さが口内にじわりと広がり、洋介は顔をしかめてしまう。
 そんな表情を見ていた厚子が、いつか聞いたフレーズを口にした。
「新たな時を刻むスタートには、その苦さが過去を吹っ切らせてくれるのよ」と。
 洋介はハッとし、目を上げると、そこにいたのだ。

 濃いコーヒーを飲む女が。


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このストーリーに関するコメント

12/11/14 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

これは多少実話が入っているんでしょうか?
何だか実話風に見せてる所がトリックだったりして・・・
興味深く、面白いお話でした。

12/11/14 草愛やし美

鮎風 遊さん、拝読しました。
実話ですか?(含み笑い)興味津々で読み進みました。ミーハーかもですが、他人の家を見るようで楽しいのではと思います。それを狙っての作品かしら……なんていろいろ思いながらコメントしています。
コーヒーの苦さが想像できる気がしました。奥さん戻ってきてよかったですわ。少し安堵(かってな心配しちゃいました・苦笑)

12/11/17 石蕗亮

はじめまして、鮎風さん。拝読いたしました。
他の方同様に、実話?と思う内容で面白かったです。
珈琲の苦さと奥様の苛烈さが酷似していて良かったです。

12/11/17 そらの珊瑚

鮎風さん、拝読しました。
「濃いコーヒーを飲む女」
ピカソの絵にありそうなタイトルですね。
「夜明けのコーヒー」すごく懐かしいフレーズでした。
これからの新たな夫婦の生活がうまくいきますように。

12/11/17 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

へへ、まったくの妄想話しでして。
こんな人生もあったりしてと思いまして。

多分、どこかにあるかも。

12/11/17 鮎風 遊

草藍さん

いろいろあっても、結局は娘に諭されて。
そんなこと世間ではありそうな気がしまして。

しかし、濃いコーヒーを飲む女、妖しいかな。

12/11/17 鮎風 遊

石蕗亮さん

ありがとうございます。

女はいつも勝手気ままなものです。
それでも、まっ仕方ないかと。

そんな縁を飲み込んだ男、それを短い物語に書きたかったもので。
実話ではありませんし、未だ喉の奥につっかかってます。

12/11/17 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

ピカソ、この物語から連思していただいて、嬉しいです。
そうですね、ピカソかシャガールのような物語が書ければ最高です。

夜明けのコーヒー、男と女の物語の始まりかな。

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