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KOUICHI YOSHIOKAさん

性別 男性
将来の夢
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街の生き神様

17/03/15 コンテスト(テーマ):第102回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 KOUICHI YOSHIOKA 閲覧数:555

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 家の前の庭に掘った穴の中で一日の大半を過ごすのが老人の日課だった。穴は立っていれば首から上が出る深さで、両手を横に伸ばせば土壁に当たった。目の前には高さ八十センチの小さな鳥居が立てられていて、庭向こうにはバス通りがあり人通りが多かった。門はいつも開けっ放しにしていたので、道行く人は頭だけ穴から出した老人を見つけてはぎょっとして立ち止まった。驚いた通行人の顔を見ても老人の表情は変わらなかった。
「なにをしているんですか」
 何人に言われただろう。そのたびに老人は厳粛な面持ちで答えたものだ。
「祈りなさい。さすれば願いは叶えられるだろう」
大抵の人はすぐに理解をした。財布を開いて穴に小銭を投げ入れると手を合わせて祈った。肩まで伸びた白髪と耳まで伸びた白ひげの老人を見て、ローカルテレビやタウン情報誌で街の生き神様と紹介されていたのを思い出したのだ。小銭のお礼に老人はうやうやしく頷いてみたりした。なんとなく御利益がありそうな雰囲気をつくってやった。五円玉や十円玉をいくら投げ入れられたところで生活に潤いができるわけではないが、本物の神様のように崇められるのは大層気分がよかった。
 あるとき、穴の前に色白の男が膝をついて座った。睨みつけると、モデルのように整ったつるつるの顔を丁寧にさげた。
「どうか俺を雇ってください。俺、前から神様の仕事をやってみたかったんです」
「なに言ってるんだ。神様は一人いれば充分だ。駄目だ。新人なんかいらん」
 老人の静止を振り切って色白の男は強引に穴に飛び込んできた。
「よろしくお願いします」と、老人の手を握ると毒のない笑みを浮かべた。
 色白の男は毎日近くのバス停からバスに乗り、この庭の前を通って通勤していたという。穴に入って道を行く人を眺めているだけの老人が、街の生き神様として賽銭を投げられている姿を見て、自分も神様の仕事をやってみたいと思ったそうだ。けして仕事ではないと言ったが、金をもらうなら立派な神様稼業だ、と言って譲らなかった。この仕事をするために勤めていた会社を辞めてきたという。五円、十円を幾らもらったところで飯代にもならないぞ、と老人は脅したが本気にしなかった。
 新人神様になった色白の男は穴の中でじっとしていられない性質だった。すぐに家の前を通るさまざまな人に手を振ったり声をかけたりしはじめた。神様というよりはセールスマンのようだった。そのおかげで参拝者は増えていき賽銭も増えていった。特に若い女性の参拝者が目立って増えていた。
 アイドルのような爽やかな笑顔で新人神様は言うのだった。
「さあ、祈りなさい。きっとあなたの願は叶うでしょう。お賽銭は高ければ高いほど願いが叶います。どうぞこの穴の中にあなたの気持ちを投げ入れてください」
 いつの間にか穴の前には女性の行列ができるようになっていた。老人の神様一人のときには近寄ってもこなかった若い女学生が列には並んでいる。
「ここって、本当に願いが叶うんですか」
「はい、信じることが願いを叶える近道です」
「どちらの神様にお祈りしてもいいんですか」
「どちらでも構いません。ただ、私は新人ですので、ええ、その分お安くても大丈夫です」
「じゃ、ベテランの神様じゃ高そうだから、ぜひ新人神様のほうに」
 若い女たちは皆頬を赤め、この新人神様に向かって銭を投げて手を合わせた。だれも老人の神様など見向きもしなかった。
 新人神様の人気は日毎に増していったが、一か月経った頃、急に辞めると言いだした。思ったよりも儲からないし、神様稼業に飽きてしまったというのだ。
 新人神様がいなくなると、女たちは途端に来なくなった。幸い誰からも願いが叶わなかったと苦情の来ることがなかったのが救いだった。老人がほっとしたのは言うまでもない。ようやく静かな神様生活が取り戻せる。
 老人は一人穴の中で外を眺めた。行列の記憶はすぐに人々の記憶から消え、庭に入ってくる女性も滅多にいなくなった。時々興味を持った人が「どうして穴に入っているのか」と、聞いて来るようになり、街の生き神様と気づいた人が賽銭を穴に向かって投げ入れて拝んだ。老人は拝まれると気分がとても良かった。この気分のために神様稼業を辞められなかった。
 いまでは朝と夕方、色白の男はバスの中から手を振ってくる。きちんとスーツを着てどこかに働きに行っているようだった。新人の神様がいなくなって老人はすこし寂しかったが、もう二度と新人なんてごめんだった。


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このストーリーに関するコメント

17/03/16 まー

妙にリアリティーがあるせいか、こんなことやってる老人がいそうだなと笑いながら読ませてもらいました。(いるのか? 笑)
面白い作品をありがとうございます。

17/03/30 KOUICHI YOSHIOKA

まー様
コメントをいただきありがとうございます。
感謝いたします。

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