むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

投稿済みの作品

0

影卵

17/03/13 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:1118

この作品を評価する

 内と外では景色が違う。
 一歩目は二歩目のロイター板になって、あの日跳んだ跳び箱八段が眼下で悔し涙だ。
 三歩目で内と外を区切る透明なバリアにねじ込んだ鼻っ面が摩擦熱でチリチリ焦げる。
 ようやく四歩目に恐怖していた内側から外を眺めてリラックス。
 生きるための術、として俺が必携にしていることの一個。
 金田君は怖いものなんてないんでしょう?と、たまに言われる。けど、恐怖を感じている時間が短いだけで感じる恐怖の大きさは俺だって同じだ。でも、怖いと思ってしまうのはそれを外から眺めているせいだと知ったからな。
 想像力は無限大。それも、臆病な胸の水でふやけさせた想像力はどこまでも今にない恐怖を増大して膨らむしね。目を閉じてそいつの内側に跳び込んでしまえば、培養液の胸の水を失くしてオロオロの等身大っすよ。
 天丼の上で偉そうにふんぞりかえってるエビ天も、裸に剥きゃぁ恥ずかしそうに胸と股間に手を添えるってこと。
 吉田さんとのあの会話も、そんな話から始まったんだ。

「エビのオスメスって見分けるの難しいね」
「簡単です、天ぷらにしてから衣を脱がして、胸を抑えたらメスです」
「エビには抑える手がないよ」
「一緒に漫才コンビ組みますか」
 吉田さんとはビール工場の夜勤バイトで知り合った。初日、たまたま隣のパイプ椅子に座って社員さんの説明を受けながしていた。説明が終わって持ち場につく前、吉田さんに言われた。
「派遣通してるだけで君ら直のバイトと、日給で千円も差があるんだよ」
 言い方に嫌味がなかったので、俺はなんだか普通に気の毒になり、
「じゃぁ俺五百円出しましょうか、金が嫌なら夜食代俺が払うとか」
 と、黄色いイボイボの軍手をはめながら言った。
 吉田さんは無精髭を擦りながら、それでも驚いた様子はなく自然な感じで、
「いやいいよ、いい奴だね君」と言った。
「だって仕事の内容おんなじっすからね」

 山のように積まれた缶ビールの段ボールケース。蓋の両端に指を突っ込んで開く。持ち上げてレーンに乗っける。その永遠繰り返し。真冬なのに、汗を垂らしながら、重たい時計の長針ばかり何度も見ては、ため息をつく。
 指の爪は初日で死んだ。指も筋肉痛になるってことと、死んだ爪は真っ白になるってことを知った。シャンプーも満足にできず、帰り道に購入したオロナインのお釣りを受け取る時の恥ずかしさを、俺は帰りの電車の中で反芻した。

「吉田さんは爪大丈夫ですね」
「あぁ、テーピングしてから軍手するんだよ、なんでしなかったの?」
「いや、なんとなく、まさか大丈夫だろうって、甘かったす」
 俺と吉田さんは歳も離れていたし、共通点もこれと言って無かったのだけど、なんでか二人一緒にいることになった。休憩所には薄汚れた冷蔵庫が置いてあって、中にはへこんだ缶ジュースがズラリで、何本飲んでもいい。
 二人、リンゴジュースを飲んで横に座ってた。吉田さんがこんなことを言いだした。
「吉田君さ、お金欲しくない?」
 そりゃぁ欲しい。
「欲しいですね」
「どれぐらい欲しい?」
「車の免許とって、中古でいいから車、それと母ちゃんにカメラの交換レンズ買ってやりたいから、ざっと五十万ですか」「その額じゃ、大した車買えないよ」
「いいんですよ。やっすいので」
「ふーん。稼がせてやれるんだけどな、その額なら。二人で割っても軽く三倍」
 こんな胡散臭い話でも、吉田さんが夜勤バイトの休憩中にすると角がない。けれど、ついついそっちの想像も。
「内臓売るのは御免だし、犯罪事もいやですよ。綺麗な体でいたいっす、母ちゃん泣かしたくない」
「そうじゃなくてさ」
 吉田さんはスチール缶をべっこりへこませて、二本目を取りに行く。俺も真似したけど、手が痛いだけだった。
「都市伝説ってわかる?」
 二本目は白ぶどう、俺にもくれた。
「ありがとうございます。死体洗うバイトとか、骨を折られる治験とか、ファーストフード店の鶏の足は三本とか?」
「詳しいな。そうじゃなくてね、影卵売りがいるんだよね」
「影卵?」
「そう、影卵」
「買った影卵をトツキトウカ自分の影にくっつけとくだけでいいんだって。んで、返せばいいんだ」
「なんですそれ」

 車が欲しかったのか、吉田さんを信用したかったのか。跳び込んだ内側から見る外の景色は何も変わらなかったけど。
 トツキトウカってところで気が付くべきだったんだ。
 きっちり分け前の百五十万受け取った喫茶店。テレビのニュース。
「銀行を襲った犯人は、まるで影のように真っ黒だったとの目撃情報で……」
 俺は悟って若干の後悔。なのに吉田さん、
「金田君、いや、お父さん、君の息子」だって。
「息子か娘かわかんないでしょう」
「天ぷらにしないとね」
 いい気なものだ。まったく。

   
 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン