1. トップページ
  2. 都市伝説は夢を夢に見る

日向夏のまちさん

書いて載せること。 楽しく書くことを目標に。

性別 女性
将来の夢 慎ましい生活
座右の銘

投稿済みの作品

2

都市伝説は夢を夢に見る

17/03/13 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:1件 日向夏のまち 閲覧数:970

この作品を評価する

 オカルト研究会というやつ。
 決め手は、最初に勧誘してきた事。
「キミはどう?」
「あ、」
 さーせんなんすか。先輩達のオカルト談義に呆けていた。まだ顔も覚えきれていない先輩が、呆れた笑みをくれた。

 曰く、割のいい短期バイト。
 しかしどうやら、雇用主は随分と遊び心に富んだお方らしい。
 廃校の壁にぺたぺたと手形をつけながら思う。先輩に連れて行かれたボロアパートの一室、その光景といえば、実に奇怪で素晴らしく愉快だった。
 曰く、都市伝説を作るバイト。
 紹介料らしき茶封筒を受け取りさっさと消えた先輩。黒いスーツの、秘書風の女性。世間をほんの少し面白くする仕事だ、と秘書ははにかんで言った。
 部屋には楽屋を思わせる一角があった。壁掛けの鏡に向かい座った女が、絵の具にまみれた画家風の男にメイクを施されていた。
 今まさに、口裂け女が造られている。
 説明する秘書の足元に、人面犬が歩いてきて丸くなった。異形の都市伝説は特殊メイクから生まれるの、と秘書がはにかんでいた。
「人手不足なの、音楽の経験は?」
 美術の経験。生物学の心得。全てにノーと答えると、廃校の位置と赤茶色のペンキを渡された。
 ぺたぺた。
 深夜の校舎にはピアノが響いている。時折鳴るチャイムは、音割れがひどい。
 何かあったとしたら同業者の仕業だから、と秘書が言っていた。
 雲一つない、満月の夜。
 なんだか楽しくなってきた。
 裸足になる。手足をペンキに突っ込んだ。反響するピアノに誘われ、廊下をさまよい歩く。くすんだ赤で手形や足型を気ままに描いた。階段の踊り場にペンキをぶちまけ、ワルツの真似事をしては、血痕を残す。校舎内は月明かりに照らされていた。
 気がつけばピアノが近かった。七不思議の鉄板。誰もいない音楽室の演奏である。
 半開きの扉。
 けれど覗けば、窓際につなぎの後ろ姿があった。空を眺めているようだった。
「ばんわ。」
「……オゥ。」
 驚きもせず振り返る。同業者かいと問う様子はひどく気だるげで、手元で燻る煙が印象的だった。かたわらのピアノは、奏者不在のまま音楽を奏でている。煙草の匂いがした。
「ひでェ格好だな。」
 血まみれにも見える俺の事だ。
「どんな仕掛けすか。」
「今時自動演奏なんざ珍しくもねぇ。」
 なるほど。
 自動車工場にでも勤めていそうな男は、工具箱ひとつを提げて音楽室を後にした。美術室の石膏像が目で俺を追いかけたのも、あの人の仕業だろうか。
 なにはともあれ、石鹸で落ちる優しいペンキで助かった。
「車の免許は?」
「一応。」
 初心者すけどと付け足すが問題ないわと秘書がはにかむ。事務所のソファではのっぺらぼうが仮眠をとっていた。
 なんでも、今度はツチノコを放してきて欲しいとの事で。
「蛇にネズミでもやったんすか。」
「まさか。」
 一から創ったの、と自慢げに。生物学の心得があったら、俺は今頃キメラを創っていたのだろうか。
 事務所前の駐車場。深夜十二時に待っていると、ツチノコを運んできたのは音楽室の男だった。男は「血まみれの兄ちゃんかィ。」とだるそうに笑うと、ぬるい缶コーヒーを奢ってくれた。俺の道案内と、人面犬を野に放つ仕事があるそうで。
 高速を走っていた。
「夢のねェ仕事だよなァ。」
 折角の七不思議も技術のせいで台無しだ。楽しげに男は言う。
「各地で目撃されてるUFOは俺が飛ばしてンだ。」
「マジすか。」
「さァな。」
 からかわれているのだろうか。くっくっと笑う男を見て、だるそうに見えるのはタレ目のせいだと気付く。
「こっくりさんは知ってるかィ。」
「まぁ一応。」
「全国の学校には色々仕掛けがしてあンだ。こっくりさんは、何度も呼ぶとセンサーが声に反応してギミックが作動すンの。」
 流石に信じねっすよと言いつつ、小学生の時にやったこっくりさんを思い出す。ラップ音。揺れるカーテン。耳鳴り。
 随分と遊び心に富んだ雇い主。
「夢をバラ撒く仕事だよなァ。」
 サンタみてェなもンだ、と、愉快そうに。
 子供はサンタの夢を見る。サンタは、夢を見るだろうか。
「どんな夢見るんすか。」
 問いに、煙草の匂いを纏ったサンタはだるそうに笑った。

 夏を前にしてバイトは終わりを迎える。
 廃校を呪われた校舎に仕立てあげ、ツチノコが出る霊峰に一枚噛み、口裂け男としてひと芝居打つと、噂を流して少しは世間を騒がせた。
 けれど奇々怪々な事務所は空き家になっていて、大学のオカルト研究会すら綺麗さっぱり消えていた。
 都市伝説のように。
 春先の短期バイト。都市伝説を作る仕事、という都市伝説だとでも言うかのように。
 夢をバラ撒く仕事の夢を見ていたのか。そう、思うほどに。
 だとすればなんて。
 なんて、粋な話だ。
 きっとサンタは、夢を夢見ている。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/04/03 光石七

拝読しました。
都市伝説を作る仕事、実際にあってもおかしくないですね。
跡形も無く消える展開が見事だと思いました。
面白かったです。

ログイン