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宮下 倖さん

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光る葉

17/03/13 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:2件 宮下 倖 閲覧数:656

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 幽霊が見えるようになる方法っていう都市伝説、知ってるか?

 学校の帰り道、ソウタが声を潜めてそんなふうに言うのをミツルはその場では鼻で笑った。
 オカルト好きのソウタの熱弁によると、神社の境内の木に光る葉がついていることがあって、その葉でまぶたを擦ると幽霊が見えるようになるというのだ。それにまつわる怖い話も聞かされたが、ミツルは「興味ない」と一蹴した。
 しかし今、ミツルは近所の神社の境内を、目を皿のようにして歩き回っている。光る葉っぱ光る葉っぱとぶつぶつ言いながらだ。鳥居の周り、手水舎の裏、狛犬の近く……灌木をかきわけ背の高い木を見上げ、人けのない夕方の境内をうろうろしていたミツルは、注連縄の張られたご神木に目を凝らして「あっ!」と声をあげた。
 薄暗がりの中に白っぽく光る葉を見たように思ったからだった。小走りに寄ってみると一枚の葉がわずかに発光しているように見えた。夕陽の照り返しとは違う気がする。
 ミツルは手を伸ばした。これでおかあさんに会える、と。
 
 ミツルは昨年母を亡くした。交通事故だった。唐突な別れに泣きじゃくっていると、唐突な再会がやってきた。 
 母の幽霊である。しかしミツルに母の姿は見えない。声だけが聞こえるのだ。
『洗剤の買い置きは廊下の戸棚の左よ』
『学校で喧嘩したの? 謝るなら早いほうがいいわね』
 母と思えば幽霊であっても怖くない。
 生前と変わらぬ口調でミツルに寄り添う母の声にどれだけ助けられたか知れなかった。
 けれど最近その声が小さくなっている。もしかしたらもうじき聞こえなくなってしまうのかもしれない。もし本当に消えてしまうなら、その前に母に会いたい。どんな怖い怪談を聞かされても、幽霊が見えるようになるならためらわない。
 ミツルは必死に葉に指を伸ばした。
『だめよミツル』
 耳元で母の声がした。咎めるような口調だがやはりどこか弱々しい。
「どうして? おかあさんに会いたいのに! このままじゃ……」
 消えちゃうんじゃないの? と口にすることはできなくてミツルは唇を噛んだ。
 声は聞こえてもどこに向かって話していいのかわからない。それがひどく悲しい。
 ソウタが仕入れてきた怪しげな都市伝説にだって縋りたい。
 もう一度母の姿が見たいのだ。たとえ幽霊でも。
『あのねミツル。ソウタくんが言ったのは本当なの。その光ってる葉っぱでまぶたを擦ると幽霊が見えるようになるの。でもそうすると、ミツルはおかあさんのことも見えるけど、ほかの怖〜い幽霊も見えることになっちゃうのよ』
「それでもいいよ!」
『おかあさんはイヤだな。だってミツルが困ってても、もうすぐ助けてあげられなくなっちゃうから』
 ミツルははっとした。やっぱり母はいなくなってしまうのだ。
「やだよ……おかあさん、もう一回会いたい……」
『ごめんねミツル。でもあと十年経ったら……きっともう一度会えるよ……きっとね』
 母の声は、すうすうとすきま風が入ったようにところどころ聞こえなくなった。
 何度も母を呼びながらミツルは急いで光る葉を探したが、それはすでに輝きを失ったようで、もうどこにも見つけられなかった。

―― * * * ――

「爽太、おぼえてる?」
 ミツルはとなりを歩く長身を見上げた。昔は同じくらいだったのにと思うと少し悔しい。
 首をかしげる爽太にミツルは道路から見える鳥居の奥を指さした。
「小学校の頃おしえてくれたじゃない。幽霊が見えるようになる都市伝説」
「あーあれか。光る葉っぱでまぶた擦るやつな。ガキだったよなあ、あんなの信じてたんだから」
 照れくさそうに笑う爽太に微笑みながら、ミツルは路駐されていた自転車のミラーに映った自分の顔を覗き込む。
 二十歳を過ぎたころから急に顔つきが変わった。それまで父親似だったのが、母親に生き写しとまで言われるようになった。あんなに会いたかった母が、毎日鏡の中にいる。
 十年経ったら会えるってこういうことだったのかと不思議な気もちになったものだ。
 ミラーに気をとられて、道路の窪みに足をとられそうになったところを爽太に支えられた。ひるがえったスカートを思わず押さえる。
「大丈夫か? 美鶴」
「平気。ありがと爽太」
 気をつけろと言いながらそのまま手をつないでくれる。
「ねえ爽太。あの都市伝説ね、本当なんだって」
 わざと声を低めてそう告げると爽太の目がまんまるになった。その様子がおかしくて美鶴は思わず吹き出す。
 神社の奥から抜けてきた風が木々をざわめかせふたりの襟元で遊ぶ。風の中で優しい笑い声が聞こえた気がした。


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このストーリーに関するコメント

17/03/18 むねすけ

読ませていただきました
てっきり少年だと思っていたら
カタカナ名前と漢字の名前
見事でした
お母さん以外の怖〜い幽霊
でもなんか個人的に、お母さんみたいなやさしい幽霊の方が数多い気がしますね
読後感もあったかい、素敵なお話ありがとうございます

17/03/21 宮下 倖

【むねすけさま】
「都市伝説」というテーマに対してはいささか物足りない内容だったかなと思っていましたが、コメントいただけて嬉しいです。
ミツル=美鶴は、本当に小さなミスリードですが使ってみたかった手法なので勝手に満足しています。
私も個人的には彼女の周りにはそんなに怖い霊はいないような気がします。でも母としては心配なんですよね、やはり。
作品を読んでくださり、コメントもいただき感謝しております。ありがとうございました。

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