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浅月庵さん

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ファッションババア

17/03/04 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:4件 浅月庵 閲覧数:1119

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 私の前方に、一人の女性が立っている。噂通りの髪色だ。
 
 彼女は赤髪のボブで、今日の服装はレオパード柄のシャツ。首にはレトロ柄のスカーフを巻き、一歩間違えるとチグハグになりそうだけど、その人の持っている独特のオーラが説得力を持たせる。
 顔はおばさん。だけどお洒落。この人が巷で話題になってるファッションババアに違いない。

 私は恐る恐るババアさんの横を通過しようとしたけど「ストップ」をかけられてしまう。どうやら検問に引っかかってしまったみたいだ。

「お名前は?」
「か、カナです」彼女は私の周りをグルグル回り始める。「あのー」
「まぁ、合格でしょう。トップスはワンサイズ小さくて良かったかもね」
「あ、はい」
 ファッションババアは人の服装にうるさいと話で聞いていた。やっぱりこの人だ。
「ちなみにカナちゃん。青柳タイガって知ってる?」
「最近テレビによく出てる、通行人のファッションチェックするモデルさんですよね」
「私、彼のことすごい好きなのよ〜」
 いきなりババアさんの声のトーンが変わった。
「身長が高くてイケメンですもんね」
「でも何と言っても、センスが素晴らしいと思うのよね。自分に似合う服を熟知してる。あれって一種の才能だと思うのよ」
「はぁ……」
「それでね。今週の土曜日、駅前で青柳タイガが抜き打ちファッションチェックをするって噂を聞きつけたもんだから、私嬉しくって!」
「それは良かったですね」
「カナちゃん、すごい見込みあるから、勉強に来るといいわ」見込みって何だよ。勉強って何だよ。「私のファッションが青柳タイガに絶賛されるところ、その目に焼き付けて」
「あぁ、はい。行けたら行きますね」

 何だったんだろう、今の時間。
 でも、ババアさんは単にお洒落と青柳タイガが好きな一人の女性なんだって考えると、必要以上に敬遠する必要もないのかな、なんて思った。

 だから私は、土曜日に駅前へと向かう。
 ババアさんの勇姿とやらを見届けることにしたのだ。

 私が到着した段階でもうすでにファッションチェックは始まっているようで、青柳タイガは通行人の服装に次々メスを入れていく。

 そうなのだ。青柳タイガは甘いマスクとは裏腹に、毒舌っぷりが凄まじい。そこが人気の理由の一つなのだ。

「カナちゃん、お待たせ〜!」
 私の背後に、聞いたことのないアニメ声が飛んでくる。何かの間違いかと思いつつ振り返ると、そこには様子のおかしいババアさんが立っていた。
「あの、その格好は一体……」
「おめかしってやつぅ? ほら、カナちゃんも一緒に来て! 一番近くで見ててよ」
「あの、えっと」
 いやいや、いくらなんでもキャラ変わりすぎでしょ。ただの恋する乙女じゃないですか。

「はぁ〜い! 今度は私を見てほしいで〜す」
 ババアさんを無理にでも止めたかったけど、青柳タイガのファッションチェックが間髪入れずに始まってしまう。あー。
「色味も今年のトレンドに合わせてますし、サイジングもバッチリですね」
 ババアさんは、私に向かってドヤ顔をする。いや、そうじゃないんですよ。そういうことじゃなくて……。
「それじゃあ、私のファッションいけてますかぁ?」
 どっから出してんだ、その甘い声は。
「でもですね」
「はい!」
「あなた、もういい歳でしょ」
「へっ?」
 あ、言っちゃった。
「その歳で、その格好は無いですよ。身の程を知りましょう」
 今日のババアさんのファッション。ベビーピンクのワンショルダー(片方肩出し)半袖トップス。下はオフホワイトのショートパンツって、完全に若作りしすぎでしょ! しかも茶髪セミロングのウィッグまで付けて、最初に会ったときのオーラはどこに行ったんですか。あんなに青柳タイガの“自分に似合う服を熟知してる”点を褒めてたのに。

「ひぇーーーっ!」
 ババアさんが悲鳴をあげながらその場で倒れるので、私は慌てて駆け寄る。
「おっ、君のファッションは100点だね」
 青柳タイガに指を差されてウィンクをされた私は、今は素直に喜べない。
「カナちゃん……私、もう駄目みたい」
「し、しっかりしてください!」
「私が死んだら……ファッションリーダーに、あなたがなるのよ」
「いえ、結構です」
 ファッションババアって世襲制なのかよ、絶対こんな風になんてなりたくない。

 ーー結局ババアさんは単なる青柳タイガの追っかけで、噂のひとり歩きならぬ噂の自分歩きみたいな人らしかった。今日も別の街で彼女は話題になっていることだろう。

 ちなみにババアさんのファッションチェック部分はテレビのオンエアに乗らなかったらしい。当たり前か。

 それこそ、いい歳こいたおばさんが絶叫しながら卒倒する姿なんて紛れもない放送事故だし、本当にある種の伝説になってしまうことだろう。


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このストーリーに関するコメント

17/03/04 雪見文鳥

ラストで吹きました。とても面白かったです。これからも頑張ってください。

17/03/04 浅月庵

雪見文鳥様
早速のご感想ありがとうございます!
ギャグ路線に振り切って書きましたので、
面白いと言っていただけて光栄です。
お互いがんばりましょう!

17/03/08 冬垣ひなた

浅月庵さん、拝読しました。

なんだか分かります。どこの街にも居ますよね、歩く都市伝説的な方が。
振り回されるカナちゃんは大変ですが、テンポの良さに引き込まれて思わず笑ってしまいました。ファッションババアさん張り切り過ぎちゃったんでしょうね。楽しい話をありがとうございました!

17/03/09 浅月庵

冬垣ひなた様

ご感想ありがとうございます!
どこの街にでもいる名物みたいな人、をイメージしてみました。
正直、文字数が足りなくて駆け足になってしまったのですが、
テンポが良いと言っていただけてホッとしております......。

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