日向夏のまちさん

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夢見

17/02/27 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:3件 日向夏のまち 閲覧数:1307

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 瞬間息を呑む。ぱっと目を見開けば、闇が広がっていた。生ぬるい向かい風。顔をしかめまばたきを繰り返すと、闇になれた視界に森の入口が浮かび上がる。
 深緑をざわざわと鳴らす木々。その間に、道がある。風はそこから吹き付けている。
 生温かく、どこか生臭い。
 息を、しているようだと思った。
 こんなにも強い向かい風であるのに、耳元は静かだ。矛盾にくらくらする中、遠くでキリキリとゼンマイ仕掛けの音が聞こえていた。
 ここはどこ。
 かすかな既視感が混乱を助長する。思考がまぜっ返されて、頭が重い。
 キリキリと音が迫ってくる。
 キリキリキリキリと。あぁ、これは。
 背後からだ。
 振り返ろうと。しかし、体が動かない。風が強い。呼吸が、奪われる。
 さぁ、首をひねるその動きは、はたから見てどれほどぎこちなかったろう。
 ようやく視界に認めたそれは、ひとりでに近づいてくる、錆びた自転車だった。
 不意に風がやむ。つんのめるようにして足が前にでる。キリキリという音は追い立てる声に変わり、声の望む通りに足は走り始める。森に、闇に吸い込まれて、何も見えなくなる。
 つまずいた。
 転がった。
 辺りは、草原になっていた。
 水と草の匂い。やわらかい日差し。春の匂い。綿毛が、青空に舞っている。
 地平線に二つの影を見つけた。自転車の練習をする親子だろうか。子どもはよろよろと危なげで何度も転ぶが、親は何度も手を差し伸べている。
 挑戦は続いている。やり直しはきく。
 繰り返していた。
 遠くで、キリキリと音が聞こえる。
 子どもは次第にコツを掴んで、どこまでも走れるようになった。
 キリキリと鳴っている。
 子どもは親から遠ざかり、段々こちらに近づいてくる。自転車の、錆がわかる。音が近づく。
 キリキリキリキリと。
 子どもは真正面から向かってきて、一切速度を落とすことなく。
 轢かれた。
 とばされて、転がった。
 夕焼けに照らされるアスファルトがあった。
 住宅街。とりわけキツイ坂道の半ば。夏の匂い。焦げた道路の気配である。
 家々は塀で囲まれている。オレンジ色の坂の下には、何があるのか。
 突如背後から風が巻き起こり通り過ぎた。
 鈍色の光だった。目をすがめて見れば、制服の背中とシルバーの自転車が遠ざかる。
 彼はあの坂の下へ行くのである。
 遠くからキリキリと。
 急いでいるように見えた。約束に急いでいるのか、生き急いでいるのかはわからなかった。
 キリキリという音が虫の声にも似て。
 かくれんぼをしているかのように目立たない十字路があった。結末が見えていた。
 まるで、記憶のように。
 キリキリキリキリと響く音はブレーキに掻き消された。
 あ、と思うと同時に、背後からなにかに突き飛ばされる。
 急勾配を転がり落ちる。
 止まった。
 無機質な天井があった。
 病院だ。
 部屋はやけに薄暗い。四つあるベッドの一つに転がされていた。斜め向かいのベッドにも人がいる。真白いカーテンで仕切られていたが、見舞いに来た人の影が三つほど中で揺れていた。
 すすり泣きが聞こえていた。生きているのか死んでいるのか殺したのかわからない。カーテンの中に不幸が詰まっている事だけ確かだった。
 キリキリと聞こえている。
 見舞い人は親と兄弟だろう。
 追い立てる様に責め立てる様に聞こえている。
 さて最後に親にあったのはいつだったか。
 自立心だけで飛び出して、一人暮らしを始めて、きっとうまくやってきた。
 キリキリという音は、本当に錆び付いた自転車の音だったろうか。
 天井を仰いだ。
 自転車と目が合った。
 ごしゃっ。

 そんな所で、目が覚めた。
「…………。」
 テーブルに突っ伏していた。ずいぶんな夢見。腕時計がキリキリと規則的に秒を刻んでいる。
 午後六時手前。
 今日も母さんからの着信履歴と、マメなメールが物語っている。
 まだ心配をかけている。
 こちらから、かけ直す。
 話題はいつもと大して変わらなくて、飯はちゃんと食ってるかとか変わりないかとかそんな事ばかりだった。
 窓の外はぼんやりと滲む人参色の空。
 自転車は、誰かが乗らないと走れないと何かの本で読んだ。
 俺は、誰かに心配をかけずには走れないのだろうか。
 夢の錆び付いた自転車は、ある意味完璧な自立にも思えた。アレを理想とするには、いささか不気味であるけれど。
 けれど、寄りかからずに走りたいものだと、思うのだ。
 遠い記憶を夢に見て、思うのだ。

 何年かぶりに自転車を出した。
 さっぱり、乗れなくなっていた。
 そんな不器用な自分がよく、寄りかからずに走りたいなんて思っていたと。
 無様に思う反面、なんだかおかしくて。
 人生はきびしいなぁなんて、思った。


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このストーリーに関するコメント

17/03/04 待井小雨

拝読致しました。
夢にあたる前半部分の表現や空気感に、惹かれるように読みました。
不安定な悪夢の居心地の悪さや雰囲気が、個人的にとても好きな作品です。

17/03/05 日向夏のまち

はじめまして待井小雨様m(_ _)m
このような作品に足を運んでいただき、コメントまでありがとうございます。
というのもこの作品、近頃の遅筆と妄想力の欠如にかこつけて、「とりあえず書いて載せることだけ考えよう!」と好き勝手に書き殴ったモノでした。
楽しく書きましたが、評価は頂けないと思っておりました。
素で書き殴ったわたくしの表現を楽しんでいただけて、魅力を感じて頂けて、それを教えて頂けてとても嬉しかったですm(_ _)m

ありがとうございました!
またお越しくださいませ。

17/03/06 日向夏のまち

初めましてふぉっくす様m(_ _)m
こちらに足を運んでいただき、コメントまでありがとうございます。

最初の一文に魅力を感じて頂けて嬉しいです!
今回内容はよくないなと思いながら投稿し、訪れた方にはがっかりさせてしまうだろうかと心配していました。
文章そのものを楽しんでいただけたかなと解釈し、勝手に喜んでおります。笑

ありがとうございました!
またお越しくださいませ。

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