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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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無人の自転車はアマリモノ

17/02/27 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:1796

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 深夜二時過ぎ、月のない夜を選んで僕は自転車散歩。
 公園の柑橘は夜目に眩しいけど、あれは柚子なんだろうかみかんなんだろうか、いつか近づいて見ないと判然としないままだね。
 ジャングルジムの錆びは知っててほくそえんでいるだろうか。
 綺麗になった駅前は歩道が広くなって、野良の黒猫は居心地が悪そうに見えた。ウィンクしてやると、ちゃんとウィンクを返したよ。
 深夜に明るいのはコンビニとガソリンスタンド。姉ちゃんがバイトしてた時、「愛をくださいって聞き間違えたんだよ、ハイオクくださいなのにさ」って笑い話をしてたけど、あれは作り話じゃなかったんだろうか。
 
「僕は剣道部でした。冴島さんは?」
 深夜、冴島さんに誘われて夜の回遊。回遊なんて詩的でポエミーな表現で申し訳ないけど、そんな感じだ。
「当てられたら賞品出しましょう、コンビニでアンマンでもなんでも」
「そんな不自由なでもなんでもは初めて聞きます」
「そう?初めまして」
 僕はこんな時間だしすれ違う人もないだろうはずれの駅のことだし、すっかり呑気なジャージ上下だったけど、冴島さんはそのままホテルで記者会見でもどんと来いなフォーマルスタイル。タイトな身体の描線は初春の夜に輪郭が鋭角でカッコウがいい。横に歩いてて胸を張ってしまうカッコよさだ。
「腕時計、ジャケットの袖の上からしてるんですね」
「うん、ミステリー小説の主人公の真似なんだ」
 なんだ、ミーハー。
「ところで、冴島さん」
「ん?」
「何にもいませんね、アマリモノ」
「いないねぇ」
 冴島さんは世の中に余るアマリモノを世に余らせないための団体に所属して、夜な夜な闇に紛れて出現するそれらを捕縛する仕事をしているらしい。人間の視力を大層苦手にするそいつを、目視で串刺して後、特殊なカメラで撮影するそうだ。見せてくれたけど。
「僕のサイバーショットとクリソツなんですけども」
「その言葉遣い好きじゃないな」
「僕の愛用のコンパクトデジタルカメラと瓜二つなんですけど」
「特殊なカメラなんです」
「ねぇ、冴島さん、もう楽になりませんか」
 前から怪しいと思ってたんだ。冴島さんの誇大妄想に付き合わされているんじゃないかって。
「全部作り話でした、それでいいんじゃないですか?」
「だってしょうがないじゃない、本部にはアマリモノを視認した経験のある子しかつれてけないんだもの」
「子、かぁ、僕は今年で22になりますよ」
「女を知らないうちは大人の男扱いしてやらない」
「う、早ければいいってもんじゃないでしょう」
「わったしは、15のふっゆ〜」
 メロディーまでつけて冴島さんは教えてくれる。いいなぁ。
「ねぇ、冴島さんもう疲れましたよ、責めたりしないから、楽になったら?」
 僕が冗談半分そう言うと、冴島さんは歩くのをやめて僕を見る。そして言った。
「なれるならなりたいよ、浦井君」
 その顔があんまり美しくて悲しげで、僕は困ってしまう。叶わない願い事に気が付くのは悲しいから。
 しかし、冴島さんの顔は瞬間に砕けてしまった。
「ん、いる」
 にやりぃっと笑う顔が猫バスに酷似していた。
 アマリモノを探知する冴島さんの掌は異物に敏感だ。ひと撫ですればそこに後から紛れた侵入物に気付いてしまう。その違和感を感じられたからこの仕事やってんの。と得意そうにいつも言う。冴島さんの掌は日々の鍛錬により、半径200メートルまでの違和に気が付くそうだけど。
「やろー、意識的によけてんな」
「冴島さん?」
「浦井君、ついておいでね、足速いんでしょう?100メートル?」
「12秒4高2の10月」
「私11秒9、いつだったかは忘れた、まぁ、ガンバレ」
「うっそだぁ」

 カシャン、金網の音、ザっと着地した階段、冴島さんは六段目から跳んだ。
 タイヤ止めにしゃがんだカップルをゴミ袋に間違えたのはごめん。冴島さんの腕時計に置いてかれないように必死でさ。
「ポストんとこ、右に折れたらすぐ、シャッター切るから」
 結論。
 この世にアマリモノは存在して、冴島さんの作り話は現実で、僕もそのとんでもない現実にお呼ばれしそうで、ワクワクしとけばいいらしい。
 ちなみに、今回のアマリモノは無人の自転車。割合多いらしい。シャッター音と同時に消えたので一瞬だけ目視。
「浦井君どうだい、いたろう」
「冴島さん」
「うん」
「茶道部!!」
「突然だね、でも、正解!」
 冴島さんはアンマンを二つ買ってくれて一個に食いつきながら、踊る。
「この時間に熱々なのよ、踊るでしょう、ふつう」
 らしい。
「冴島さんをあのカメラで撮ったら消えたりして」
 思ったからそう言った。
「浦井君って、怖いこと言うね」

 
    

 


   


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