1. トップページ
  2. タイムスリップ?

アシタバさん

未熟者ですが宜しくお願いします。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

タイムスリップ?

17/02/27 コンテスト(テーマ):第129回 時空モノガタリ文学賞 【 都市伝説 】 コメント:0件 アシタバ 閲覧数:619

この作品を評価する

 凍てつく冬だけど彼女と熱々なので寒くもない僕は、はや25歳。
 彼女とドライブに出かけた時だ。助手席の彼女が楽しげに話しかけてくる。
「都市伝説だけど知ってる? この世界は――」
 すると、突然、目に映るもの、ハンドルの感覚、彼女の声、全て消え去ってしまった。叫ぶ間もない。人生という動画に停止ボタンが押されたようだった。

 瞬きをしたら世界が変わった、という言い方がしっくりくる。聞き慣れた彼女の声がした。
「付き合ってください」しかし、妙に声が若い。
 彼女はセーラー服を着て僕の前に立っている。僕は学ラン。あたりを見れば、満開になった桜の並木道。冬のドライブが一変、青春時代の一ページに迷い込んだようだった。困惑する僕の口は勝手に「よ、喜んで」 と答えていた。このやり取りには覚えがある。僕と彼女の学生時代の思い出だった。
 タイムスリップだ!
 何らかの理由で時を遡ったと思われる。SF映画が好きな僕はそう結論付けた。フル稼働した脳が対応策を探しはじめる。
 ところが直後、さらなる異常に見舞われた。告白を終えて浮かれた彼女が「ま、また明日、学校で」と走り去る(明日は土曜)。すると、またこの世に停止ボタンが押されたのだ。
 次には学校の屋上で彼女と弁当を食べていた。彼女がトイレに走り去ると、混乱する暇なく、今度は二人きりで海に遊びに来ていた。昔と同じで彼女の水着姿は太陽よりも眩しいが、頭には異常を知らせるサイレンがけたたましく鳴り響いていた。予測不能の時間旅行が止める術なく、始まってしまった。

 僕はタイムスリップし続けた。しかし、なぜか彼女と過ごした時間だけだ。彼女が僕の元から離れるとすぐさま次の思い出に、飛ぶ。この世界の主役は彼女だ、と言わんばかりだ。時間の移動もきまぐれで、数年前の過去に行ったと思えば、そこから一か月後の未来に行ったりと、法則性に節操がない。アルバムの写真を混ぜこぜにして、たまたま引いた写真の思い出を体験しているようだった。こんな忙しくて、彼女との思い出限定のタイムスリップなど、僕の知るどのSF映画にも当てはまらなかった。
 そして、25歳の冬より先の、まだ見ぬ未来には行かない。
 変なタイムスリップだ。これが映画だったら絶対B級だろう、と僕は思う。唯一の救いは、いつも彼女がいてくれることだけだった。

 僕のマンションで彼女が寝息をたてている。この記憶は特に思い出深い。この日、僕らは初めて――それは置いといて。
 彼女の隣で思考を巡らしていると、あることを思い出した。映画じゃない、この状況下にあてはまる話があった。それは都市伝説だ。他ならぬ彼女から聞いた話だった。興奮気味に仮説をたてる。それが正しければ、25歳の冬に僕と彼女は何かをきっかけに、この異常事態に囚われたのだ。そうとわかれば終わらせなければならない。当然だ。
 しかし、それには一つ問題がある。
 その時僕は、どうなる?

 25歳の冬。
 二人でドライブをしている。記憶の通り。
 しかし、今回は会話の内容が違った。楽しい話ではなく、記憶に逆らって、彼女に伝えることがあった。
「本当はわかってるんでしょ?」
「えっ、何が?」
「僕らはこの後、事故に遭う」
 仮説をもとにカマをかけた。彼女の顔が真っ青になる。
「縁起の悪いこと言わないで!」
「正確にはもう遭っている。現実の世界で」
「何それ。じゃあ、ここはどこだっていうの?」
「ここは君の夢のなかだ」
 僕の答えに、彼女は言葉を失った。
「君は眠っているんだ」
 沈黙の後、瞳から溢れた涙がスカートを点々と濡らす。沈黙を肯定と受け止める。やはり僕は、彼女の記憶がつくった僕だった。そして、彼女は怖いの、と言って僕を見た。
「目を覚ましたら現実の貴方が、生きてないかもしれない」
 でも君が、このままでいいわけもない。
「聞いてくれ。君にとって僕は頼りない男だ。雷の夜に君の布団に潜り込むような情けない奴だ。でも、これだけは誓う。君を悲しませることは絶対にしない」
 昔も、今も、それが僕の誇りだ。ハンドルを離した手で彼女の手を握る。
「今度もそうだ。信じてくれ」
 永遠に思える数秒間。やがて、彼女の心が手から流れ込む。それは、冬を終え、春に向かって歩いていく、そんな気持ちだった。その先で誰かが呼ぶ声がする。
『頼む、起きてくれ』
 僕は記憶の海に自分が消えていく寂しさを感じた。それでも現実に還る彼女の背中を笑って見送る。B級映画でもラストシーンはそういうのが相応しいと思ったんだ。



 私は目を覚ました。白いベッドに寝かされている。病院だと直ぐにわかった。そして、私の手は――
 目が覚めても、しっかりと、彼の手に握られていた。



 ――この世界は誰かのみている夢なのかもしれない。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン