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木野 道々草さん

2017年1月から参加しています。よろしくお願いします。(木野太景から道々草に変更しました)

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自転車の共有

17/02/27 コンテスト(テーマ):第128回 時空モノガタリ文学賞 【 自転車 】 コメント:0件 木野 道々草 閲覧数:548

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 南東アフリカの日差しの下、学校帰りの子どもたちが、自転車で赤土の道を並んで走っている。道の両脇に緑色の草と木が広がり、その景色の奥に山々が続く。快晴の空。この鮮やかな色彩の中で、子どもたちの制服の白いシャツが一番生き生きと輝いている。
 十年前、この光景は見られなかった。子どもたちの住む地域から最も近い町の学校までは距離があり、徒歩での通学は困難だった。アフリカの他の地域はいざ知らず、彼女彼らの住む村で自転車通学者が増えたのは、ここ数年のことだ。
 平らな一本道を、自転車の群が快走する。この群から少しだけ遅れて、双子の兄妹が乗った一台の自転車が走る。兄がペダルを漕ぎ、荷台に乗る妹が二つの鞄を背負っている。
 二人の年齢は、十三歳。他に兄弟姉妹はいない。ともに義務教育を終えたが、祖母と母親が二人の教育に熱心で、町の中等学校に進学させた。父親は通学のためにと兄妹に一台ずつ自転車を与えたが、今の二人には一台の自転車しかない。

 二人が村の入り口にさしかかると、兄はペダルを強く漕ぎ始めた。村の通りをトラック、バイク、自転車が走っている。道の端で人々が談笑している。携帯電話で誰かと話している知り合いの男性が、二人に気づくと手を振った。二人は、サッカーをして遊んでいる級友たちに「またな!」「またね!」と声をかけ、それから近所の女性に挨拶し、家に着いた。
 広い庭を囲む草の塀の向こうに、ピカピカと小さく光るものがある。風車だ。
 風が吹き庭のとうもろこしの葉が揺れると、風車が回り始めた。太陽が反射し、回転に合わせて体を白く光らせている。
 風車は、直径が七十センチに満たない大きさの円形で、近づいて見ればそれが自転車の車輪(ホイール)で作られていると分かる。放射状に伸びるスポーク間に透明のテープが貼られて、風車の羽根になっている。
 妹は、父親が通学用に買い与えた自転車を分解して、前輪で風車を作ってしまった。彼女は地元のラジオで聴いた話からこのアイディアを得た。少年が自転車から風車を作った話だ。発電の仕組みを勉強したかったので、実際に自分も風車を作ってみた。
 その結果、前輪のない自転車を見つけた父は激怒した。もう学校へは行かせないとまで言った。しかし娘が実際に風車を作り、その発電でLEDの豆電球を点灯させると、父親は考えを改め彼女ともう一度話し合った。「将来、エンジニアになりたいか?」と父親がたずねると、「なる」と娘は力強く答えた。その決心を聞くと父親は彼女を許し、新しい自転車が手に入るまで一台を二人で使うように言った。
 
 兄妹は宿題を済ませると、祖母と一緒に夕食の準備を始めた。三人でラジオを聴きながら会話する楽しい時間でもあった。兄妹が野菜を切ったり海老の殻を剥いたりする間、祖母はトウモロコシの粉を蒸し豆を煮込んでスープを作る。
 三人のお気に入りは、司会者が各地の視聴者と電話で繋ぐラジオコーナーだ。今日の視聴者は、インターネットが数日間使えなかったせいで苦労した話をした。祖母は「でも、インターネットが使えるだけいいじゃないの」と言い、若者がするブーイングポーズをおどけて真似たので、二人は笑った。
 司会者は、視聴者を励まして最後にジョークで締めくくり電話を切った。それから思い出したように「朗報があります」と話し始め、衛星を利用してアフリカ全土にインターネットアクセスを提供する外資プロジェクトの話題を紹介した。
「兄さんの出番が増えそうね」
「そうだな」
 彼は、セキュリティエンジニアになると決めている。もともとアプリケーションを開発したいと思っていたが、サイバーアタックのニュースを聞くようになって気持ちが変わった。
 夕食の手伝いが終わると、妹は風車の実験をしに庭に出た。兄はその後ろ姿を頼もしく感じた。

 父親と母親が仕事場から帰ってきた。五人は家族揃っての食事を楽しんだ後、テレビを見ながら団欒した。すると突然、家中の明かりが消えた。この地域では頻繁に停電があったので誰も驚かなかった。父親がすぐに部屋用の蓄電ライトを点灯し、居間はまた明るくなった。
 妹が外に出たので、兄は電灯を持って後を追った。彼女は風車の前に立っていた。
「これも役に立てばいいんだけど」
 妹は手で風車を回した。
「役に立ってるよ」
 兄は妹の肩を抱いた。
「どんな風に?まだ蓄電システムが完成してもいないのに」
「希望の光を灯してる」
 彼は、妹の風車に期待を託している。インターネットの普及も、アプリケーションの開発も、ネットワークの安全も、電気がなければ何もできない。
「道は長い。焦るなよ」
 彼自身に対する言葉でもある。エネルギーの課題と情報技術の発展が共存する時代。この時代に生まれた者としての使命感。二人が共有しているのは、自転車だけではなかった。


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