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秋 ひのこさん

歯について考える時、右と左がよくわからなくなります。右奥だっけ、左奥だっけ。虫歯が絶対にあると思われるあの場所を伝えるべく「ええと、右です。そして上な気がします」と言ったら先生が「うん、上は上でも左ですよね」とか言う瞬間が恥ずかしいので、虫歯は放置しているような人間です。こんにちは。 

出没地
趣味
職業
性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの記事一覧

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Sまち伝言板物語

17/08/18 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:51

 町役場の一角に、S町歴史資料館がある。「館」とは名ばかりで単にだだっ広い展示室があるだけだが、中学の夏休みの課題のため、私は初めてそこを訪れた。
 あまり管理も整理もされていない展示物を見て歩き、あるものの前で足を止める。
 力ずくで記憶が呼び出される。
 それは、駅の「伝言板」だった。



『なわとびのテスト がんばれ! じい』
『ぜんぜんだ・・・

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グランマの心得

17/08/10 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:61

 血管の浮き出た骨ばった手がさっと台拭きを掴み、小さな口とその周りをゴシ、と音が聞こえるような手つきで拭った。
 それ台拭きです、と言う間もなかった。
「はー、きれいきれいね」
 乾いた唇に口紅だけ塗りたくった顔が、くしゃりと微笑む。
 
 夫が3ヶ月の海外出張に出たことで、夫の母フジエが「産後育児の助っ人に」と40年前のおんぶ紐や玩具を抱えて現れたのは、3週間前のこ・・・

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方針

17/08/03 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:73

 その女児は、「世界最後の子供」として生まれた。
 人間の生殖機能が不全になり久しい。もう世界のどこにも、新しい子供は生まれない。
 現在12歳以下の子供は100人余り。この度ようやくその全員を世界中からかき集め、とある島に保護――隔離した。

「地球上で、子供はここにいる者がすべてだ。我々はこの子たちの育て方に重い責任がある。方針を決めなければならない」
 施設長が・・・

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テンジョーさん 〜リカちゃんとちゃうで

17/07/25 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:73

 どこをどうみてもリカちゃん人形なそれが、野太いおばちゃん声で喋った。
「長旅お疲れさんでした。この度は『テンジョーさん』のご利用おおきに、ありがとうございます。最初に言うとくけど、リカちゃんちゃうで。マイちゃんや」
 ロサンゼルス国際空港で、アサミは人形を片手にスマホでアプリを起動させたところである。
「今日から5日間お世話させてもらいますよって。早速やけど飴ちゃん食べる?」<・・・

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悔しいけど愛、ということ 

17/07/19 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:132

 東名高速を東京から西に下ると、新幹線と違い富士山がほぼ正面に見える。大井松田ICの手前にきたところで、すっきりと晴れ渡る空に悠然と現れた名峰に並子はわざと「わあ、富士山」と声をあげ、ちらりと隣を見やる。
 中二の娘、彩は脇目もふらず、スマホに夢中だ。
 東京から京都に行くにあたり、何を思ったのか車で旅することにした。1泊2日、母娘のドライブ旅行である。
 富士川の河口に開ける富・・・

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僕のキイ

17/07/09 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:117

 政吉(まさきち)の世界は、川のせせらぎと鉄橋を電車が駆け抜ける時の家の振動、生物と煙草の臭いが充満するこの部屋、そしてばあちゃんとキイで成り立っている。
 キイは猫だが、ただの猫ではない。体は熊のように大きく、二足歩行する。おまけに、かれこれ20年近く生きている。
 この奇妙奇天烈なイキモノの姿を、政吉は知らない。そもそも、本来の猫の姿はおろか、人間の姿形もわからない。生まれた時から・・・

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お魚くわえたどら猫を追いかけて

17/07/06 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:106

 とある日曜の夕方。ハナエは台所で機嫌が悪かった。
 今朝は町内会の草刈なのに、夫も姑も知らん顔。仕方がないので自分が出向いたら、木に上って下りられなくなった野良猫を何故か助ける羽目に。おかげでパートに遅刻するわ、参加賞のビールはもらい損ねるわで朝から踏んだり蹴ったりだ。
 仕事中は、若い主婦からカゴの詰め方を細かく指示され、そのおかげで後ろの老人からレジ打ちが遅いと怒鳴られた。休憩時・・・

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2万分の1という愛と夢

17/06/27 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:97

「これを作ってほしい」
 老人がWに差し出した色褪せた写真は、どこかの海岸線。濃い色の海を臨む丘の上には灯台が建つ。入り江に沿って小さな漁村が広がり、山から単線列車が出てきたところだ。
 いかつい電動車椅子に身を納めた老人は、干し柿のような顔と、異様に細い足が不気味な威圧感を放つ。足の付け根で血が止まってしまわないか心配になるほど太い猫が、太ももの上にのっていた。
 
 W・・・

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門出

17/06/23 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:150

 中途半端に大きくて、子供の数の割りに小中高まで揃い、なんとなく大人になって、高卒でも島に残れば働き手として重宝され、結婚して子供を生んで、それなりに何不自由なく一生を過ごせてしまうこの島で私は生まれた。
 私は小さい頃からここが大嫌いだった。
 それは多分、本土から嫁にきた母がここを嫌っていたからだ。つまらない、下品、閉塞的。それが呪詛のように生まれる前から私の隅々に染み込んでいるの・・・

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音楽などヨコに置いた浅く広い底の底

17/06/09 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:167

 誰かを信用するきっかけというのは、案外情けないほど青臭かったりするのかもしれない。
 タカノの場合、サダが同郷出身、卒業と同時に同じようにギター片手に上京し、夢破れて今に至る、という話を聞いた瞬間、取引を決めた。
 特に気に入ったのは、サダもまた、自分と同じくかつて馬鹿にして嫌っていた星の数ほどある無名の音楽事務所に就職し、デビューを夢見る若い連中を喰い物に日銭を稼いでいる、という点・・・

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妖怪ババアに捧ぐ

17/06/06 コメント:4件 秋 ひのこ 閲覧数:213

「この阿呆! 染物の風呂敷を洗濯機で回す馬鹿がおるか! 脳みそカラか! え? 空っぽか!」
「洗濯してやったのに文句言うな鬼ババア! たかが風呂敷じゃねぇか!」
 今日も、陣内家の軒先は騒がしい。
 70の祖母キヌと、10歳の孫トモだ。
 母が男と逃げ、父ははじめからいない。地方でひとり暮らすキヌの元へトモが移されて、半年になる。
 気性が荒く、口が悪いキヌは実の孫に・・・

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最後のサラリーマン

17/05/26 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:160

 林課長は最近、休みの日が辛い。
 森部長にゴルフに誘われるからだ。ゴルフは下手だし興味がないし、金がかかる。おまけに、家族からは「またゴルフ」と白い目で見られ、「行きたくて行っているわけではない」と言ったところでやはり「根性なし」と呆れられる。踏んだり蹴ったりである。
 わざと仕事を作り、若手に交じって休日出勤すれば、今度は総務から怒られた。会社は休日手当てを極力支払いたくない。

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かつて充実した1日

17/05/24 コメント:5件 秋 ひのこ 閲覧数:230

「お母さんは次の日曜日、お休みします」
 ユミの突然の宣言に夫とふたりの子供、同居の義母は目を丸くした。
 母、妻、嫁、を丸1日休むという。
 子供が生まれて14年、ずっと家族を最優先に365日朝から晩まで「働いて」きた。
 主婦だって、休みたい。



 決行日

【計画1】昼まで寝る
 8時。夫が先に起きて目が覚めた。いつもは・・・

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父ゆえに

17/05/19 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:237

 Aはその世界では「正義の味方」と呼ばれている。
 未解決、或いは法の結論に納得できない事件の被害者が「紹介者」を介し人から人へつながり、Aを頼る。
 Aの方針はいたってシンプルだ。
 目には目を。
 ひき逃げに遭い半身不随になった被害者には、加害者を見つけ出し半身不随に。いじめで自殺した子供には、いじめの首謀者に同じ死を。
 闇から闇へ。独自のネットワークで成り立つ・・・

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歩道橋にて

17/05/17 コメント:2件 秋 ひのこ 閲覧数:280

 駅前で中学生数人が、同級生を堂々とカツアゲしている。
 少年は顔を真っ赤にして抵抗するが、ニヤニヤ笑って囲まれなす術もない。
「あ、あ、財布出したよ。万札! 今日びの中学生は万札持ち歩いてんのか。あー、とられちゃった」
 苦虫を噛み潰したような顔で悔しがるのはトチさんだ。
「見ろよ、誰も止めやしねえ。知らん顔だ」
 トチさんの隣でマツさんがぼやく。

 ・・・

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甘すぎるゆえ

17/05/06 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:209

 深さのあるバットに、フィロと呼ばれる紙のように薄い生地を、間に溶かしバターを挟みながら幾重にも重ねていく。オーブンで焼き上げ、ひたひたになるまで全体にシロップをかける。
 小皿にのって出て来たそれは、小さなパイ菓子。覚悟を決めてフォークを刺すと、数十の層からじゅわ、とシロップが染み出す。
 世界で最も甘い菓子のひとつと言われる、トルコのバクラヴァ。

「いぃーーーーー」<・・・

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あの男が大福を喉に詰まらせて死んだ後の話

17/05/02 コメント:2件 秋 ひのこ 閲覧数:205

 丸々太った大福が、むにむにと互いを押し合うようにして六個詰まっている。
「じゃあお父さん、いただきまーす」
 線香の香りが漂う狭い仏間で、フミと母は手を合わせた。丸い卓袱台には、遺影。人の良さそうな男が微笑んでいる。
「おいしい。やっぱり大福は『よつば』に限るね」
 亡くなった義父の大好物を、こうして年忌の度に母娘で食べている。今年で三回目。
「お父さん見て。じゃー・・・

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夏、カマキリ浦島とロンリー亀

17/04/20 コメント:2件 秋 ひのこ 閲覧数:413

 香川県の北西、瀬戸内海に突き出た荘内半島のとある中学。二年の春に東京から若林という転校生がやってきた。
 讃岐の方言も田舎生活も見下し、いつも冷めた目で一匹狼を気取るため、夏休みを迎えた今も友だちはひとりもいない。

 全身から湯気が昇るほど酷暑の午後、若林はいつもの場所に赴く。
 鴨之越。
 穏やかな瀬戸内の海と、こんもり緑に覆われた丸山島を望むここは、童話『浦島・・・

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竜宮の乙姫

17/04/11 コメント:2件 秋 ひのこ 閲覧数:242

「また、帰ってしまわれましたね」
 陸に帰った浦島太郎を共に見送ったヒラメが言った。
 連れてきても連れてきても、男は皆帰ってしまう。
 乙姫はきびすを返し奥へと戻る。
 客がいなくなった竜宮城は広いだけでひっそりと静まり返っている。一日中何をしてもよい反面、取り立ててやることもないのが、城の主である乙姫の日常だ。
 機嫌が悪い乙姫の後を慌てて追い、タイが進言した。<・・・

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車内放送

17/04/06 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:207

 地方の中核都市。郊外から市街まで十駅を結ぶ東西線は、四両編成の市民の足である。
 車内で女子高生が話している。
「そういえば、あの変な車掌のアナウンス、今日ないね」
「K子、昨日休んだじゃん。昨日が最後だったんだよ。『皆様、わたくしは本日をもって退職でございます』って言ってた」
「あ、そうだったの?」
 え、そうだったの? ネットニュースを読むふりをしつつ、T田は女・・・

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走れ、赤い守り神

17/04/01 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:223

 これは、携帯電話もパソコンもない、世の中がもう少し不便でもう少し柔らかかった頃の話。

 
 山深い集落に二駅分の区間を伸ばす計画が出たのは戦後間もない時期だった。揉めに揉めてようやくまとまった青写真で、うち、つまり祖父の家だけがちょうど予定経路上にあるということで立ち退きを迫られた。
 祖父は断固拒否したが、最終的にお上と企業様の前に膝をつく結果となった。
 僕が・・・

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わらいもの、それから

17/03/22 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:214

『ううう、顔だけ良くてすみませんんん』
 アイドル顔負けの童顔をくしゃくしゃに歪め、半泣きで決め台詞。スタジオがどっと笑う。「失敗芸人」として一気に躍り出た「ムーちゃん」の顔が画面いっぱいに映る。
「ムーちゃん昔からああだったもんね」
「ムーちゃんがいたから笑いが絶えなかったな」
 同窓会という名目で頻繁に集まる地元の飲み会で、20年来の元級友たちは懐かしそうにムーちゃんこ・・・

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教訓

17/03/15 コメント:4件 秋 ひのこ 閲覧数:509

拝啓
突然の手紙をお許しください。
あなたが近く内田鮎雄さんと結婚すると偶然耳にし、大変驚き、また困惑し、いてもたってもいられず筆をとりました。

アユオさんはあなたに私という存在のことをどれだけ話していたのでしょう。
あなたに「略奪」という自覚がどれほどあったのでしょう。
正直、私には知る由もありません。

単刀直入にお聞きします。
あなた・・・

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りんごぱんだ

17/03/08 コメント:3件 秋 ひのこ 閲覧数:278

 しゃりしゃりしゃりしゃり。
 カリッ、しゃくしゃくしゃく。
 
 道端でぱんだが座っていた。電信柱にぐにゃりともたれ、ぱんだが両足を投げ出しりんごをかじっていた。
 茜色の陽光を浴び、眩しそうに目を細めているが、甘酸っぱさに酔いしれているような顔にも見える。
 ノエは三歩離れたところで立ち止まり、眼鏡の下に押し込んだ指で両眼をぐりぐり揉んだ後、眉の間を2本の指でぎゅ・・・

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桜雪姫

17/03/03 コメント:6件 秋 ひのこ 閲覧数:427

 S県立小児病院は、駅を挟んで山側にある。
 会社から駅まで歩き本来電車で帰宅するところを、駅からバスに乗って丘の上の終点で降りるのが、この春から勇一の日課だ。

「お父さん、おかえり」
 病室のベッドで愛加はぱっと顔を輝かせる。
「ただいま。はい、お土産」
 父ひとり子ひとりである。この春、突然胸の痛みを訴え、病院に連れて行った。まさかそのまま入院になるとは思・・・

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ケイコク

17/02/23 コメント:2件 秋 ひのこ 閲覧数:365

『盗らないでください。乗る時は、ひとり1回まで』
 自転車の前かごには、そのような貼紙がついていた。歓楽街から1本入った路地に、青く輝く車体がぽつんと一台。
 そこへもんどりうって駆け込んできた男がひとり。
 背後でひとの叫び声がする。スリがバレた。昨日まで刑務所にいたとはいえ、腕が落ちたものだ。
 貼紙など目にもくれず、キダはこれ幸いと自転車に飛び乗った。
 いたぞ・・・

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壁のない箱庭の中で、わたしたちは

17/02/19 コメント:6件 秋 ひのこ 閲覧数:412

「スズ、お茶淹れてくれ」
 畑から戻ってきた舅が汗を拭いながら台所に顔を出した。そのタオルをスズの鼻先に押しつけてくる。
「ほれ、男の臭い」
 スズは思い切り眉を寄せて顔を背けた。舅は「興奮するなよ」とニヤけ、スズの尻をパンとはたく。
 毒があればとっくに仕込んでいる。スズは急須に湯を注ぎながら、唾でも入れてやろうかと口内を舐める。
 次いで、姑がやってきた。
・・・

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ハコイリ

17/02/11 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:263

「ツダさんは何故、新宿ばかり撮られるんですか?」
「月並みですけど、僕、生まれも育ちも新宿なんです。いちばんよく知っていて、それなのに街が日々成長するもんだからどんどん知らないことが出てくる。それを追いかけるために、全部知るために、撮ってるようなものです」
 西新宿のニコンサロンで開いた写真展が無事に終わった。新宿を撮り続けるツダの10周年記念展だ。
「ファンです。ツダさんのよう・・・

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サヨナラ、新宿

17/02/07 コメント:2件 秋 ひのこ 閲覧数:447

『今日未明、「未確認飛行物体」が新宿上空に出現。雨のような光線を発射し、およそ1時間に渡り攻撃しました。「未確認飛行物体」の無差別攻撃は、東ヨーロッパのベラルーシ共和国、アフリカのジンバブエ、中国の天津に続き、4件目です』
 厳しい表情で女性キャスターが原稿を読み上げると、隣で夫がうなった。
「なんで日本だけ主要都市やねん。ほかは微妙なとこばっかやのに」
「そんな失礼なこと言いな・・・

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ハナと名無し

17/01/23 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:249

『あたしを撮ってよ』
 重たい鼻声でハナが言った。
『ねえ、あたしを撮ってよ』
 うるせえな、と男は畳の上で寝返りをうち、ハナに背を向ける。
 ハナはふんと鼻を鳴らし、けだるそうに欠伸をした。
 男は黙って半目を開ける。日焼けして毛羽立ちが目立つ畳に、カップ麺の器や雑誌、空の缶ビールが転がっている。テレビのリモコンも、箱ティッシュも、耳かきも、すべて転がっている。六畳・・・

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あの江野先生なら、

17/01/14 コメント:4件 秋 ひのこ 閲覧数:348

 江野先生は、枯枝のようになった手足を小さく床(とこ)におさめ、毛布にくるまっていた。
「先生、お久しぶりです」
 Kは表情ひとつ変えず、丁寧に挨拶する。
「あなた、Kさんよ。20年前の教え子さん。いま、お医者さんなんですって」
 先生の妻が顔をうんと先生に寄せて紹介する。締め切った部屋の生活臭に混じり、体臭だか口臭だか、強い人間の臭いが漂っている。臭いのもとである先生にそ・・・

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5分間延長保険

16/12/10 コメント:6件 秋 ひのこ 閲覧数:625

『「5分間延長保険」のおかげで、主人ときちんとお別れすることができました』
『僕のお父さんは交通事故で死んでしまいました。でも「5分間延長保険」があったから、お父さんは戻ってきました』
『「5分間延長保険」で、妻が命がけで生んでくれた子供を最期に見せてやることができました……』
――5分間延長保険は、お亡くなりになった後、5分間だけどこにでも、どなたにでも会いに行ける保険です。と・・・

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1の夜明け

16/12/03 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:390

【クリスマス】投稿作品「512の夜」続編(約8000文字)


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「どう、一(はじめ)。気に入った?」
 普通にしていても微笑んでいるように見える丸顔の母が、隠そうとしても隠し切れない不安を滲ませた目でじっと僕の様子を伺っ・・・

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512の夜

16/12/03 コメント:5件 秋 ひのこ 閲覧数:567

 512は担当のN地区に到着すると、長年使いすっかり手に馴染んだ懐中時計をピタリと止めた。
 闇に舞う雪が、宙に浮いたまま堕ちることを止める。明かりが灯る街から音が、動きが、臭いまでもが消える。512と、彼をのせた橇(そり)をひくトナカイの息遣いだけが、白く漂っている。
「さ、行くか」
 512は最初の家へ手綱を切った。

 12月25日午前0時、識別コードのついたサ・・・

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君のサンタでいたいから

16/11/24 コメント:1件 秋 ひのこ 閲覧数:372

「今年はね、レゴにしたの。人気あるんだって、小学生に」
 真弓が嬉しそうに大きな包みを見せてきた。青い包装紙に黄色いリボン。去年は戦隊ものの人形だった。一昨年は、確かトラックのおもちゃ。
 買い物は真弓に任せ、英一は夜中にそれを枕元に置きに行く。何度やっても、この瞬間こそ父親の醍醐味だとしみじみ思う。
「ケイちゃん、気に入ってくれるかな」
 真弓は目を細めて包みをそっと紙袋・・・

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マキとフゴー

16/11/19 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:354

――理想の「家」は。
「理想っていうか、夢はぁ、自分の家にびじゅつかんを作ること。エヘ」
 「一風変わっている」「ネジが1本抜けている」「夢見る夢子ちゃん」と評されるマキが、バラエティ番組で口にした言葉である。
 知恵も教養も何もないが、百年にひとりの美女、と謳われるほど突出した美貌と体型を生まれ持ち、気がつけばスカウトされ、勝手にメディアから「おばか美女」ともてはやされて今に至・・・

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水曜日、12時まで

16/11/17 コメント:6件 秋 ひのこ 閲覧数:509

 水曜日、12時までの入場無料。
 F市立美術館は、水曜日をそのように解放する。
 無名に近い地元作家が所蔵の大半となれば観光客は期待できず、訪れる者は年金受給の老人か、幼子を連れた母親グループ、或いはフリーターか無職あたりに限られるのだった。同じ顔ぶれが、同じ絵を見に、毎週やってくる。
 Hもそのひとりだ。
 46で職なし、夢なし、やることなし。なんと住所までない。だが、・・・

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東京、捨て『ゼリフ』の怪

16/11/11 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:341

 小学2年になる息子、朔太郎が小さなハコ型テレビを持って帰ってきた。子供の腕で抱えられるほど小さい、赤いブラウン管のテレビ。
 弘美はうんざりして開口一番、「なにそれ」と尋ねる。
「拾った」
「拾ったって、また?」
 口数が少なく感情表現も好奇心も乏しい長男は、何故か最近やたらと捨て犬だの捨て猫だの、瀕死のハトだのを拾ってくる。その度に「後始末」に奔走するのは結局母親の弘美・・・

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忘却の音、耳を傾け

16/11/08 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:343

「『軍曹殿、用を足す方が大事であります』って、これだけじゃ状況が全くわかんねー」
 隣でADの新沢がケラケラ笑い、次のメールを覗き込む。
「あ、これなんかどうすかね。『お教室の先生の言葉です。<文字は心を映す。心は文字を描く>』」
「お題が難しかったかな。どれもズレてる」
 美里は自分のパソコンで同じ画面を眺めながらひとつ溜息を吐く。
 美里がディレクターを務めるラジ・・・

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寡婦とヒーロー

16/11/02 コメント:4件 秋 ひのこ 閲覧数:587

 また、地を揺るがす音と共に、食器棚が小刻みに揺れた。
 音はうんと遠い。多分、山のずっと向こうだろう。ネリ子はちらりと窓の外をみやり、再び手元の刺繍に戻る。
 1日中つけっ放しのテレビが、緊急速報のお知らせ音を発する。ニュースに切り替わらず字幕で済ませる程度なら、たいしたことはない。ネリ子は黄色い糸で細かく花を縫っていく。
<『怪獣』が東京湾沖100kmに出没。『ヒーロー』が応・・・

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主(あるじ)が呼ぶので

16/10/29 コメント:2件 秋 ひのこ 閲覧数:637

 時計の針が午前0時を指す頃、犬が帰ってきた。と、思ったら、夫だった。
 夫が犬の姿で帰ってきた。
 「どうしたの、その」と言いかけて、言葉に詰まる。うん? と疲れた顔で見上げてくる夫は、どこをどう見ても、犬だ。
 ごはん? お風呂? と聞くと、「風呂」と返ってきた。
 夫のことを考えながら、夕飯を温めなおす。だが、それも長くは続かない。アノ声が私を呼ぶ。私は電子レンジに煮・・・

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サンポと木村さんと、ご主人(たち)

16/10/21 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:466

 隣で、強烈な臭いを放つ白くびろびろしたものをかじりながら、ご主人が涙を流さんばかりにケタケタ笑っている。
 『笑いはスマイルとちゃうで』というステッカーが貼られた薄いテレビで、人間が「にょにょにょにょきーん」とか「わんこにお水をワンコップ」とか言うたびに、テレビからもご主人からも笑いが生まれる。
 酒とびろびろと笑い。ご主人の至福のひとときを、私は邪魔するでも積極的に共有するでもなく・・・

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