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冬垣ひなたさん

時空モノガタリで活動を始め、お陰さまで3年目に入りました。これからも勉強を重ね、たくさんの作品を書いていけるよう頑張りたいと思います。 写真を撮り、絵も描きます。こちらでupするなかで、特に記載のない画像は冬垣の作品です。 ・ツイッター https://twitter.com/fuyugaki_hinata ・時空モノガタリでもお読みいただける、拙作「渋谷スイングバイ」の動画があります。 内容は同じですが、音声読み上げ朗読、エンディング付きです。 「softalk朗読渋谷スイングバイ」  https://www.youtube.com/watch?v=6nsb8bo8Egs (=は半角に直してください)

出没地 スーパー銭湯、スイーツの美味しい喫茶店
趣味
職業
性別 女性
将来の夢 いつまでも小説が書けるように、健康でいたいです。
座右の銘 雄弁は銀、沈黙は金

投稿済みの記事一覧

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ラブゲームではいられなくて

17/11/20 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:58

 やっぱり、あなたが好きだった。
 高校時代の思い出を飾るスクラップブックのページ。内緒で撮ったあなたの写真は、跳ねっ返りな少女だった私の大事なお守りで、いつか羽化するように大人になれると信じていた。あなたとの『love』を愛だと錯覚して。
 知っているよ、テニスでの『love』は『0』のこと。
 無得点で終わった駄目なラブゲームじゃ、あなたの思い出にもなれないですか?
 ・・・

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桜紅葉の恋

17/11/06 コメント:3件 冬垣ひなた 閲覧数:111

「ごらん、満開の桜の花は美しいね。けれども、僕は桜紅葉(さくらもみじ)も好きだ。冬を前にして、必死に枝にしがみついている一瞬の鮮やかな秋の色が、大層いじらしく思えてくる。まるで君のように」
 そう囁いたあの人は、お国の為に戦に行ったきり。
 時代の強い風に吹かれて、儚く散った恋でした……。


 秋風の冷たくなった昼下がりの公園は閑散としていた。日野清は、90才を越え・・・

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mothers〜白猫スノウと、こころの財布〜

17/10/22 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:145

「気を付けてお行き」、人間のマリアさんは捨て猫スノウの頭を撫でました。
 わけあって母とはぐれた生き物は、大きくなったら自分の力で母を探し出さなくてはなりません。見つからなければさだめに従って形を失い、何者でもない怪物になってしまいます。
 スノウが母を探す唯一の手掛かりは、綺麗な花の模様が入った財布でした。
「こんなに美しい財布を娘に残してくれたんだもの、きっとお母さんはお前を・・・

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歴史書に、僕たちの悲鳴は残らない

17/10/08 コメント:0件 冬垣ひなた 閲覧数:192

『あなたの秘密を知っています』
 郵便受けの手紙が告げた脅迫は、僕の17年に至る波乱の人生をさらに揺さぶるのに十分だった。


 革命により王制が崩壊し、富は市民に流れた。正確に言えばごく一部の市民に。十数年が経ち、いびつに成長した街には無数の工場が汚水と黒煙を流す。
 そんな俗世とは無縁に、白亜の館が佇む姿は異様だった。富の象徴たるこの市庁舎は、美しさとは裏腹に、今・・・

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鯉昇る夢に賭けて〜ヒロシマの約束〜

17/09/25 コメント:2件 冬垣ひなた 閲覧数:239

 明日を生きるのも困難だった頃、数少ない国民の娯楽は野球だった。
 道具をこさえて、投げて、打って、走って。
 自由への渇望はスポーツに変わり、人々はこぞってプロ野球の選手に夢を託した。
 地面に目を向ければ焼け野原。
 高く打ちあがったボールの吸い込まれる空の青さに希望をつなぎ、誰もが上を向いて生きる。そんな時代に、復興の象徴として広島カープが産声を上げたのは1950年(・・・

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ポンテ・ヴェッキオの恋人たち

17/09/25 コメント:0件 冬垣ひなた 閲覧数:189

「さあ、ジジ。戻って欲しければ約束を守ってちょうだい。ポンテ・ヴェッキオで待ってるから」
 おお、愛しのリリアーナ。俺の部屋から荷物をまとめて出ていこうなんて、そんな酷い話はないぜ。情熱の国イタリアに生まれてこのかた25年、一途に愛してきたというのに何たる仕打ち……。
「出会ってまだ2年だけど」
 可哀想に、心に氷河期が到来したんだね。今抱きしめて温めてやろうじゃないか……。待て・・・

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斜陽、あるいは黎明

17/09/11 コメント:2件 冬垣ひなた 閲覧数:348

「副工場長、生産ラインの稼働を来月から縮小する話ですが、工場従業員もリストラ対象ではないかと、皆動揺しています」
 東京出張中の工場長に代わり書類に目を通す滝谷は、製造部1課長の報告に耳を傾けながら、これまでの人生を振り返る。


 老舗電機メーカー傘下の工場に滝谷が就職したのはバブル崩壊前の好景気時であった。職場としては今も恵まれている。不況の折にも会社が業界のトップクラ・・・

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ブラックボード・ジョーク

17/08/28 コメント:0件 冬垣ひなた 閲覧数:199

「俺たちって、結構刹那的な生き方じゃないか?無限に書いては消され、その場だけで喜んで……たまに、この生き方でいいか考えるよなぁ」
「あるある」
 ……居酒屋『一家言』に集まったホワイトボード(以後『白板』)と、駅勤務の伝言板。そして黒板は、ひときわ大きな顔で愚痴をこぼす。
 恒例の飲み会のネタはハバネロ並みに世知辛い世の中の話だ。
「『13たす2は18』なんて間違えて答える・・・

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憂国の授業

17/08/27 コメント:5件 冬垣ひなた 閲覧数:348

 環境調整区から出て、旧時代型の車で一時間あまり走ると、古い街並みが残るエリアに差し掛かる。
「人の居住が許されなくなって何十年も経つ場所だが、文化保護の目的で国の管理は行き届いているから、比較的状態はいいと思うよ」
 車の運転をする老人の隣で、結城は闇市で買った違法所持のビデオカメラを起動した。かつて「教師」という職に就いていた老人の人生を後世に残す事は、ジャーナリストの使命であると・・・

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鬼ヶ島異聞

17/08/14 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:407

 女をさらった。
 道の両脇に咲く黄色い花がどこまでも続いて、息子らしい少年が泣きながら、女を担ぐ私の後を追ってくる。
 私はこの国の言葉を知らないが、その子の叫びが虚ろに響く夜の事を、忘れはするまい。
「このオニめ……!」

  ♢

 突然の嵐で、祖国の港に帰るための貿易船が漂流し、名もない無人島にたどり着いた時には途方に暮れた。生き残った・・・

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皇帝ペンギン〜氷上より愛を込めて〜

17/08/14 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:201

 南極。真冬の気温は−60℃まで下がるという吹雪く大陸で、僕らの祖先がなぜ暮らそうと思ったか分からないけれど、生き物の中でも変わり者には違いない。
 僕らの名は皇帝ペンギン。よちよち歩く姿を見て、人間はその愛らしさに心ときめかせるらしい。嬉しいな、種族を越えてもメスにもてるのは大歓迎さ……おっと、こんなこと言ったらパートナーにつつかれるなぁ。
 そんな僕らは、地球上で一番大きなペンギン・・・

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道草しながら、馬の旅

17/07/31 コメント:0件 冬垣ひなた 閲覧数:233

 私は人間が苦手ですが、馬はとても好きなのです。
 トロくてドジな私ですが、馬はひゅうひゅうと私を乗せて気持ち良く駆けてくれます。
 私がバカで分からずやでも、馬は愛くるしく長い顔で頬ずりしてきます(たまに鼻水や涎をつけて服を台無しにしますが)。
 風になびくたてがみや滑らかな体毛に、しなやかな筋肉質の体躯と力強いひづめ。馬は時に、俺様といわんばかりに我が儘で、誰もいないとヒヒー・・・

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雨。時々、ライオン。

17/07/17 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:284

 その金色を湛えた眼光は、僕が動物園で描いたライオンの絵によく似ていた。
 絵の中だけでもと思い檻を外して描いたライオンは、とてもけだるげな表情で、暮らしには困らないだろうに満足そうには見えなくて、僕は次第にやるせなくなった。
「これは、ライオンじゃない……」
 気が付くと、サバンナに置き去りにした本能をみなぎらせ、牙をむき出しにした獰猛な肉食獣の顔を、僕は紙に描き出していた。<・・・

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琥珀色のメモリー〜続・とある猫のお話〜

17/07/17 コメント:7件 冬垣ひなた 閲覧数:348

 君はこの世に生まれてから、奇跡を何度も起こしたね。赤ちゃんの時に一人ぼっちになったときも、事故で身体の自由を失いそれを乗り越えたときも。
 雄猫だったのに子猫たちの面倒を見る君は、茶虎の明るい毛並みが自慢の、逞しいヤンチャ猫でしたね。繰り返される思い出話の中で語られるのは、君の元気だった姿ばかりです。
 君がこの世を去ってしまったのは、きっと不本意な事だったでしょう。私たちのお別れは・・・

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海女と真珠の街にて

17/07/03 コメント:2件 冬垣ひなた 閲覧数:342

 三重県の先志摩(さきしま)半島。北は真珠の養殖で有名な英虞(あご)湾を囲み、南に面する太平洋の恵みは素晴らしく、海女たちがこぞって潜(かず)く豊かな漁場であった。


 1963年、夏。
 ウエットスーツに身を包む女たちが、磯メガネを付け、光が波打つ水面から、ほぼ垂直に海底へと降下する。海の青に映える赤や緑の海藻が、巡る四季の移ろいを告げ、さまざまな魚群が視界をすり抜けて・・・

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夏色アンセム

17/06/19 コメント:0件 冬垣ひなた 閲覧数:270

『事務の立花さんだ』
『存在感ないし、ちょっと気持ち悪いよね……』
 不意に届いた『心の声』に栞は腹が立ったが、結局胸の奥底にしまい込む。こんな気持ちでも、クシャクシャに丸めてポイ捨てしたら、世の中に嫌なことが溢れてしまう気がして。
 夏が近づき暑苦しいスーツを着た栞は、会社帰りの雑踏をすり抜けるように家路につく。


 不協和音にサンドイッチされた人々の思念が・・・

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安息日に、もし君が絶望したなら

17/06/05 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:423

 1943年、6月の蒼褪めた空の下で錆びついた鉄の音が、村の平穏を引き裂くように今日も響いてくる。レオは顔を上げ、黄金色の麦畑の向こう、厳めしい列車が走ってゆくのを見つめる。走行が緩やかなのは、ユダヤ人を大量に押し詰めて運んでいるからだろう。
 土曜日。ユダヤ教徒は神が休まれる安息日を頑なに守るという。金曜日の日没からローソクを灯し、労働を禁じられ礼拝をして一日を過ごすのだ。そんな権利をナチ・・・

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正義のみかた(仮)

17/05/22 コメント:4件 冬垣ひなた 閲覧数:345

「この書店はなっとらん!」
 小さな『増山書店』の店内に怒鳴り声が響き、レジを担当するアルバイト店員の僕の前にいた客が、びくりと身を震わせた。
 ああ……見るからにガラの悪い男性客が、先程から店長に食って掛かっているのだ。
 自分が購入した落丁本の苦情を述べるのはいいとして、やれ清掃が行き届いていないだの、声が聞き取りづらいだの、段々本筋に関係ない話で店長を責める。
 気さ・・・

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グレーテルの薬

17/05/08 コメント:2件 冬垣ひなた 閲覧数:292

 私たちは小さい頃から正反対だった。
 入っていた劇団で催された『ヘンゼルとグレーテル』、ヒロインのグレーテルは可愛くて人気者の愛砂香(あさか)。地味な私なんて、目印に落としたパンを食べる小鳥の役だ。
 好き、嫌い、好き、嫌い……。
 不用品の小道具の花を千切って、彼女を花占いで試したのは内緒。
 愛砂香は空気を読まずよく大人に叱られもしたけれど、めげる所のない、強気で真っ・・・

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【エッセイ】竜宮城の春の夢

17/04/24 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:279

 我が家の近くの川を、ちょっと川上の方に自転車で走ってみると、洒落た吊り橋が架かっているのが見える。鉄筋コンクリート製の造りに、アーチ状の装飾を施された白い主塔がお城のような『玉手橋』、その橋の向こうにあった『玉手山遊園地』は、幼い私の聖地であった。
 今は遊園地はなく、夢の跡地には公園が残る。昔はとても遠い場所に思えたのに、こんなに近くにいられるのは郊外の現在の家に引っ越ししたためだが、そ・・・

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鮮魚列車

17/04/10 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:463

「親父、行ってくる」、定期入れに挟んだ写真を手に呟くのが毎朝の日課だった。
 春の訪れとともに、ようやく栄二の立つ駅のホームもこの時刻、朝日が照り返し寒気が緩むようになった。早朝4時の鮮魚の仕入れで一仕事を終えた栄二は、くたびれたナイロンコートのポケットに入れてあった栄養ドリンクの蓋を開け一気に飲み干す。徐々に老いの忍び寄る体に気を使って、妻が手渡してくれたものだ。
 栄二の足元には、・・・

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人道的兵器のあやまち〜フリッツ・ハーバー伝〜

17/03/27 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:522

 ドイツのとある学会でフリッツ・ハーバーが、クララと再会したのは奇跡であった。何せ淡い恋心を抱いたのは青年と少女という時で、「まるで夢の中の童話の王子と王女のようです」とロマンを抱くハーバーは新進気鋭の化学者であり、クララもまた化学者だった。二人は1901年に祝福を受け結婚する。時にハーバー32歳、クララ30歳。ドイツの未来はまだ明るく、前途洋々な道が開けているように見えた。
 これはのちに・・・

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空襲の夜に消えた地下鉄

17/03/13 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:635

 アツイ、アツイヨゥ。タスケテ。至る所から呻く声が聞こえる。
「千津子……!」
 母の呼ぶ声がする。広い道路一杯に逃げ惑う黒い人波に押され、転んで倒れていた千津子は、ぐっと空を仰いだ。
 焼夷弾の火の滝で、夜空は真っ赤だった。大阪随一といわれる洒落た御堂筋の街並みを焼き尽くしながら、炎の壁が嘲笑うように人々を追い詰める。1945年3月14日未明、華やかだった大阪の中心街は、三〇〇・・・

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ホワイトデー・パニック

17/03/04 コメント:4件 冬垣ひなた 閲覧数:432

 『ねえ、聞いた?こんな話』
 『知ってるよ。新米カップルは、ホワイトデーに破局する……』


「おはよう!」、高校の廊下で和弘の姿を見つけたとき、まどかはほっとした。
「また後で」
 友達と談笑していた和弘はすぐ自分の教室に入って行く。新米カップルは冷やかされないよう、貴重なアイコンタクトの時間は迅速に。本当は今すぐ駆け寄って話したかった。今日は3月14日のホ・・・

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アオイトリ

17/02/27 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:441

「諦めないで、意外と近くに青い鳥がいるものよ」、就職戦線に放り出され四苦八苦する私にくれた、先生の慰めの言葉だった。
 アオイトリ、なんて素敵な響き。
 でも先生。
 私、夢を鳥籠に飼いたい訳じゃないんです。
 どうか飛び立って、お願い……。


 専門学校の卒業式を迎えるだけとなった冬の終わりは、私にとっては憂鬱だった。図書館からの帰り道に、川沿いのサイ・・・

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ころび地蔵さん

17/02/26 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:338

 昔々、という程ではないけれども、まだこの鄙びた村に車が通っていなかった頃、村の入り口に『ころび地蔵』と呼ばれる地蔵さんがあった。
「地蔵さん、どうかうちの坊を転ばせないで下さい」
 こう言うて、這っていた赤ん坊が歩くようになると、家族の者は地蔵さんにお参りするようになる。ころび地蔵は童たちの成長を見守る、優しい地蔵さんじゃった。


 その頃、村には勇(いさお)とい・・・

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新宿文壇バー『黄金虫』にて

17/02/13 コメント:3件 冬垣ひなた 閲覧数:543

 新宿の昼の喧騒を夜に譲る頃、少し古びたネオンに明かりがともる。狭く雑然とした路地に差す煌びやかな光に、くだらない日常から解放されたがる大人たちが、次々と誘い込まれる。今日は馴染みの店か、それとも新規開拓か……。ここに来れば男も女も、酒と肴と噂話に飽きることがないのだった。
 歌舞伎町の一角、店がひしめき合う『新宿ゴールデン街』の赤い文字が眩しい。その片隅で、文壇バー『黄金虫』は今日も営業し・・・

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【エッセイ】初めての新宿

17/02/13 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:593

 東京都庁が出来てしばらく後のことだったので、ああ、私が新宿へ足を運んだのは旧世紀末の出来事だったのかと思い出した。
 当時社会人になりたての私の憧れは、東京の名を冠した千葉県のTDLだった。まだ大阪にテーマパークはなく、さらにテレビに映る噂の新都庁の姿を見るにつけ、東京はズルいなあと悔しがったものだ。
 念願のTDL旅行を決行するべく、ついに夜行列車で東京入りした私と友人が、「ついで・・・

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凍える幻

17/01/31 コメント:4件 冬垣ひなた 閲覧数:359

 私の心がひび割れた瞬間だった。
『娘・鳥嶋カレンの心境はいかがなものでしょうか?』
『はっきり言って旬の過ぎた女優ですがね。今後の仕事にどう影響が出るか……』
 チャンネルを変えても、憐憫に毒の混じった、私たち母娘の風評がひっきりなしに流れている。私はテレビを消し、座っていたベッドの上に身を投げ出した。
 数十年行方知れずだった母は、一昨日から殺人事件の容疑者となっていた・・・

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ナルシスの花盛りに

17/01/15 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:573

 雨上がりの西の空が、いちご水のような赤に染まり始めました。
 この季節の自然はみな、枯れそうな寒さに震えていましたが、緑の葉を風に揺らした早咲きのナルシス(水仙)だけは、今を盛りに咲き乱れていました。
 春の先触れにはまだ早い、かぐわしい香りが辺り一面にたちこめ、花畑は蛇行する川沿いを続きます。夕陽を浴びた白い花弁は一斉に薄い赤を透かし、今日の終わりを彩ります。

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徒歩5分のパントマイム

16/12/31 コメント:2件 冬垣ひなた 閲覧数:520

「あの家、売れたらしいね」、そんなことを言ったのは買い物帰りの母さんだ。
 日曜日のチラシに載っていた、『新築一戸建て、駅から徒歩5分』。駅前にある、ぼくの住むマンションからも徒歩5分。ぼくはランドセルを降ろし、野球帽をかぶって、早速偵察に出かけた。
 マンションを出て、黄葉が落ちる並木道を下り、川沿いの石畳を歩きながら、橋が見えた所でぼくは足を止めた。
 つい先日までモデルハウ・・・

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明日、消えるかもしれないこの光を

16/12/19 コメント:16件 冬垣ひなた 閲覧数:822

 そうだ、今日は星がとても綺麗で、どれか一つでもいい、木の上にこぼれ落ちて来たら立派なツリーになるだろう。
 父さん、母さん、メリークリスマス。
 この手紙がいつ届くかは分からないけれど、ロンドンに帰れなくてごめん。愛してる。
 24 December 1914 
 フランドルにて ブライアン


 土を掘って身を隠す塹壕のぬかるみに、軍靴の足先は凍て・・・

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イノと小さな美術館

16/12/03 コメント:5件 冬垣ひなた 閲覧数:558

 
 やあ、君たち。
 画聖イノを知ってるかい?知らないとは言わせないよ。
 それじゃあ、彼が何故あの小さな美術館に籠るようになったのか。これも有名な話だ。


 赤毛で太っちょのイノが絵を始めたのは、7歳の時だった。
 折れたクレヨンで真剣に描き始めた天使の絵を見て、両親は目の色を変えたんだ。
 何故って、それはもう神々しく清らかな絵だったからね。・・・

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意地っ張りなグッドモーニング

16/11/21 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:470

 ジリリリリリンッ!
「うるさいな、もっと静かに起こせ!」
 数矢様の言葉が、乱暴に私へと投げつけられます。
 けたたましく鳴る私のベルを止め、モサモサの髪を撫でながら、寝ぼけ眼の数矢様は部屋を出ました。7時13分起床、まずまずのタイムです。


 申し遅れました。
 私、目覚まし時計でございます。大量生産品のしがない身分ではありますが、数矢様の高校入学の・・・

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無彩色の虹、昭和二十年八月十四日

16/11/06 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:628

≪昭和二十年≫

七月二十日以降、大阪市を含む18都道府県30都市に50発にも及ぶ原爆の模擬爆弾投下。

七月二十六日、米英、中華民国が、全日本軍の無条件降伏等を求めた「ポツダム宣言」を表明。

八月六日、広島市に原爆投下。

八月九日、ソ連対日参戦、長崎市に原爆投下。

八月十日、日本は国体護持の条件付きでポツダム宣言受諾を申し出る。<・・・

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ラフ&ピース〜大阪すっぴん姉妹〜

16/10/24 コメント:5件 冬垣ひなた 閲覧数:668

「あんた、しょうもない。なんでそんなこと言うんや?」
「最近暑いやろ?うちわがめっちゃ好きやねん」
「その心は?」
「うちは一番、センスない!」
 リビングの椅子に立ち、ふたりぼっちで肩を並べた小さなあたしたちは、お笑い界のてっぺんにいると本気で信じてたんや。
 神様が、意地悪だったとは思わない。
 ピン芸人になった妹の彩は、大阪のTVに出るとちょっとしたお茶の・・・

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これが、最後の親孝行

16/09/14 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:1100

 認知症を患った佐和子が、粥の入った椀を畳の上にぶちまける。茂は苛立たしくて仕方がなかった。
「ああ……う……」
「飯も一人で食えねえのかよ」
 茂の家は、ずっと母一人子一人だった。父親は、田舎娘の佐和子が身ごもるとあっさり捨てて逃げた。生まれた茂は、荒んだ幼少期を送り、家の借金を返済するため馬車馬のように働かされた。挙句の果てに勤めた会社は倒産し、60を目前にした茂に独身無職と・・・

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ヒミツの八夜子さん

16/09/11 コメント:5件 冬垣ひなた 閲覧数:1474

「素敵な彼氏と東京Dランドで1泊したいな……」
 何でもない昼下がりの学生食堂で、八夜子(ややこ)さんがため息をつく。
「あの。僕は素敵じゃないけれども彼氏じゃないですか、八夜子さん」
 磨いて光り輝き過ぎたダイヤモンド、それが八夜子さんに対する大学の仲間内の評価だった。
 怜悧な眼差し、透き通る肌、触れたくなる艶やかな黒髪、魅惑的な唇、穏やかな物腰、スタイリッシュな立ち姿・・・

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昭和古本屋ものがたり

16/09/10 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:1230

「お母さん、おこづかいちょうだい」
「無駄遣いしたらあかんよ」
 夕食の買い物に出かける母は、わたしに100円玉を握らせた。
 近所で駄菓子を買って、おつりの20円は週末までためておく。
 日曜日に通うスイミングスクールのそばには、年季の入った古本屋があった。
 ためたお金は、そこでマンガを買う。ほらね、ちっともムダじゃない。
 そんなわたしに母は苦笑するが、何・・・

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闇の掌

16/08/28 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:1566

『お父さ……ん……私……』
「愛花……!」
 泣きじゃくる父親には見えない。見えないが、此処にいる。
 霊視を終え、仏壇に浮かぶ透き通る制服姿の少女の霊に手を合わせ、黒いワンピースに身を包み正座したレミは、労わるように父親へ語りかけた。
「大丈夫。お嬢さんは、お父様を恨んでなどいませんよ」
 声にならない声で、父親が両手の拳で畳を何度も叩いた。最愛の娘を失った傷はいつ・・・

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パポプピ!コンペイ島

16/08/15 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:1091

≪夏休みの日記≫桂木 英太
 8月○日、はれ。おじいさんのいる島へ、初めて行くことになりました。
 お父さんとお母さんは、仕事があるから東京でおるすばんです。
 代わりにおじさんのムラタさんといっしょで、たのしい旅になりそうです。



「グブォァ、ゲロゲロー!」
「だ、大丈夫か、英太!もうすぐ島が……見えてきたぞ、ほら」
 東京から離れ、英・・・

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アイナ〜北国のハワイから〜

16/08/01 コメント:13件 冬垣ひなた 閲覧数:1156

『空』にかかる『虹』を見上げ
『夢』のように
『私』は、『あなた』を『愛しています』

 ハワイはその昔、文字の文化を持たず、その豊かな自然に宿る神話と歴史は、書物ではなく、フラ(踊り)やメレ(歌)によって、人々に受け継がれてきた。
 フラは語る。
 手話のように優雅なハンドモーション。
 波のリズムで揺れるステップ。
 踊る動作の一つ一つには意味が・・・

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プロトタイプ

16/07/18 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:914

「水無瀬。答えと違えば、○はやれない」
 苛々した国語教諭の高橋は、恨めし気に私を睨み付けた。
 夏休み前、昼休みの職員室は、高橋には数少ない休憩場所であり、訪ねた私がそれをじわじわと奪っていることは百も承知だ。
 私は先程返ったばかりの答案用紙を指し示した。
「確かに私の解答は作者の意図とは違うかもしれない。ですが、テストの問題としてあの文脈だけ抜き出した場合、これは間違・・・

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あなたのそばの、蕎麦がいい

16/07/02 コメント:14件 冬垣ひなた 閲覧数:1007

 私は蕎麦。
 あなたに私が思い起こされるとき、どんな姿であるだろう?
 名店の暖簾をくぐり十割蕎麦として誇らしげに頂かれた時もあるけれど、あなたが駅の立ち食い屋で3分で啜り終え、短い一生を終える事もある。
 贈答品の箱に熨斗紙をつけて、あなたのもとに届けられた時は舞い踊りたかった位だ。
 けれど、家族団欒の席で「3玉100円なんて」と愚痴をこぼされたりしたら、最後まで食べ・・・

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砂礫の花

16/06/19 コメント:7件 冬垣ひなた 閲覧数:853

 途切れぬ雨音が、鼓膜を叩く。
 砂漠の国サフィヤにも雨期はやってきた。
 太陽に打ちひしがれる民も、この時ばかりは家から駆けだして服と髪を濡らし、仕事を放り出し肌をさらして踊る。
 シャン、シャン!
 鈴の音を高く低く奏でると、澄んだ歌声は空に波紋を描くように響き渡る。
 そこには、雨と交じりながら歌い、練り歩く巫女イゼッタの姿があった。
 天が裂けたような激・・・

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天空の駅、ひとり

16/05/30 コメント:11件 冬垣ひなた 閲覧数:1637

 1人分の朝食、1人分のリュック、1人分の切符――。
 平ヶ谷 有希様(ヒラガヤ ユウキ サマ)。
 プリンターで印刷した宿泊情報に書かれた、元の姓には簡単に馴染めなくて、私はすぐさま防寒着のポケットに突っ込んだ。
 2人が3人にならず、1人になった時思った。
 心の財産は等しく割り切れることはない。離婚して軽くなったのは、心から見えない血が流れすぎたからなのだ。
<・・・

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のさりの甘夏

16/05/23 コメント:14件 冬垣ひなた 閲覧数:1343

 忘れ難い、5月が巡り来る。
 熊本県・不知火海(しらぬいかい)に面した山の斜面は、濃い緑に包まれていた。
 果樹園に注ぐ太陽の光は、日に日に増し、木々は新しい大地の果実を育むために花咲かす。小さく可憐な白い花が、艶のある葉の間から顔を覗かせ、柑橘類の花の芳香が農家の人々の鼻孔をくすぐった。
 健やかな甘夏の無事を祈りながら、今年もまた一年が始まった。
 ここからは住み慣れ・・・

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薔薇窓

16/05/09 コメント:7件 冬垣ひなた 閲覧数:1031

「神は光あれといわれ、光ができたわ」
 聖書の創世記を口ずさむ涼やかな少女の声。
 祈りを捧げていたアンナは、薄暗い教会の入り口を振り返った。
 まず少女の姿より、採光の良い南の扉の上にある巨大な薔薇窓が目に入る。
 天空の青、若草の緑、熟れた苺の赤、向日葵の黄、ミルクの乳白色……。あらゆる色の硝子が職人の細かい手仕事によって、透き通る絵画に仕上げられ、まるで幾多の花びらが・・・

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春らんまん

16/05/09 コメント:5件 冬垣ひなた 閲覧数:745

 夕陽がまだ落ちず、見慣れた風景を金色に染め上げている頃、幸一は家路についた。
 くたびれた自転車の前篭に、小さな買い物袋を乗せて。
 通い慣れた坂道を、2つの銀輪は錆びついた音を立てながら、幸一を乗せて上って行く。あと、もう何回だろう。定年間近の幸一は、数えようとしてやめた。


「ただいま」
「お帰り、おじいちゃん」
 自宅に帰ると居間の座卓に、近くに・・・

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キトンブルーの雨〜とある猫のお話〜

16/04/25 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:920

 君が家にやってきたのは、梅雨のさなか。
 知人が言うには、君は打ちつける雨の中たった一匹、夜の道路脇で鳴いていたそうだ。拾われた、それだけで奇跡だった。飼ってくれ。そう言われ渡された君は小さく震えていて、よろよろと立つのが精いっぱいの子猫でした。
 目を開けたばかりの子猫は全て、青みがかった曇り空をかさねたキトンブルーという色彩を経て、それぞれの目の色になって行く。
 君の目は・・・

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こちらうりずん水族館

16/04/11 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:784

 またうりずんの季節がめぐって来た。
 この時期出番が近づくと、透は何だか緊張してしまう。
 今日も立つのは、客席の一望できるステージ。
 そして沖縄の潤んだ空へ、あいつらは元気に跳ぶ!


 沖縄の海に憧れて何年だろう?三重県の水族館でアシカショーを担当していた透は、この南国の水族館への異動が決まった時有頂天だった。右も左も分からぬ観光客に混じって、透が「うり・・・

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True world

16/03/28 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:859

 工場の近い大通りには煤けた空が広がっていた。帽子を目深に被った金髪の男が、屋台で買ったハンバーガーをかじり付いていると、誰かジーンズの裾を引く者がある。
「これ、おじさんの犬?」
 見ると、見知らぬ少年が痩せた子犬を抱きかかえている。
 男が首を振ると、「じゃあ、飼ってよ」と少年は聞いて来た。
 少年のヘーゼルの瞳に映り込んだ男は、考え込んだ後自分の首から認識票を外し、チ・・・

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それでも僕は君に恋をする

16/03/14 コメント:10件 冬垣ひなた 閲覧数:770

 マンションの呼び鈴が鳴ったのは、何年ぶりの事だろう?
 フィギュアに囲まれ独り暮らしを謳歌していた僕がドアを開けるとそこには、2次元の嫁に負けぬくらい斬新なスタイルの女の子が立っているではないか。
「こんにちは」
 彼女の体は、うっすらと向こうの景色が透けて見える。腰を抜かした僕はずり落ちた眼鏡を上げながら、彼女に聞いた。
「ききききき、きみ、もしかしてユーレイ?」

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神は砂塵の彼方に

16/02/29 コメント:10件 冬垣ひなた 閲覧数:901

 今朝も、目覚めたのは夜明け前だった。
 洗い場に馬を連れていくと、蹄鉄を焼く臭いが漂っていて、インストラクターの律子は睡眠不足の頭を軽く振り、装蹄師に取り次ぎをする。
 2011年3月11日、東日本大震災は、この仙台市にも激しい爪痕を残した。
 あれから2週間が過ぎ、律子の所属する乗馬クラブは、営業再開のめども立っていないのに、厩舎が満杯で人手も足りない。律子も休日を返上して働・・・

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一服の夢

16/02/15 コメント:7件 冬垣ひなた 閲覧数:758

「あれは誰の夫人か?」
 第18代アメリカ大統領の任期を終えたグラント将軍が、日本を訪問したのは1879年、明治十二年の事であった。天皇に謁見した将軍は日本の名所を巡り、この長崎では華々しく搭乗艦リッチモンド号の艦上パーティが開かれていた。
 鎖国を解かれた長崎の港は、すでに貿易の特権を失っていた。そんな折からの米国重鎮の訪問である、屈強な軍人に囲まれ、このパーティーに国賓として招かれ・・・

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紅茶と彼とマーメイド

16/02/15 コメント:7件 冬垣ひなた 閲覧数:681

「負けるな!」
 最後のターンで選手が水中から浮き上がると、天井の高いプールサイドから拍手が大きくこだまする。
 水面を蹴るバタフライの水しぶきがコースに長い尾を残した。
 あともう少し。余力を温存していたなぎさは溜息をつくほどに綺麗なフォームで、両手を大きく羽ばたかせ、ぐいぐいと二位以下と差を広げていく。
「あの子はマーメイドだよ」
 10歳なのにもう水泳選手の卵だ・・・

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花の顔

16/02/01 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:876

 ――文学は所謂煮こごりだ。味気もないゼラチンに優れた価値を与えるのは、美味い魚と煮汁、熱に冷たさに、料理人である。だが冷めた目で見れば煮こごりは添え物どころか、余り物に過ぎず、それを毎日の主食にする事は料理人ですら厭うであろう。煮こごりとなら死んでも構わないと云う奇天烈な料理人は居るまいが、その酔狂さこそ、文学者の本望なのだ。
                              (・・・

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リサイクルショップ『恋ばな』

16/01/18 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:790

「あなたの恋、高く買います」
 洒落た看板を尚子は目にした。
 『恋ばな』はリサイクルショップらしい。
「タンスの引き出しや押し入れ、引き出しに眠った恋はありませんか?破れていても、鑑定の上買い取らせて頂きます」
 早速、尚子は実家を大掃除して集めた品を手に、店に入ろうとした。
「いらっしゃい」
 内側からドアが開き、ワンピースに身を包んだ清楚な黒髪の女性が出迎・・・

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なにわの未練に、雪は降る

16/01/18 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:1055

 なにわの神さんは、アメリカ人や。
 通天閣の展望台には、米国生まれのビリケンさんがいて、足の裏を触ると御利益がある。小さい頃からアホ可愛いく信じて俺たちは今日もビリケンさんを拝む。
「コウ。今日な、いい事あるんやで!」
「お前幼稚園から何度言うとるんや、耳のたこでたこ焼き5ダース作れるわ。物忘れ激しすぎ、リカコは」
 家は通天閣のおひざ元。俺ん家はたこ焼き屋で、リカコん家・・・

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不朽の名作

16/01/04 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:759

「皆さん、あけましておめでとうございます!」
 2016年正月・神殿では猿年を祝う宴会が催され、羽織袴に身を包んだサル達が所せましと集まり、おせち料理に舌鼓を打ちながら、樽酒などを酌み交わして、和気あいあいとした雰囲気でございます。
 動物たちはこうして新年に得た神通力で、あらゆる包囲に目を光らせて、四季二十四節気を通じてこの国を災厄から守っているのですよ。
 ええ、私がどうして・・・

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池袋コメットハンター

15/12/24 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:883

 ここは、その昔巣鴨プリズンという戦犯の収容所だったそうだ。
 東条英機を始め、多くの戦犯たちが処刑された跡地は、その後再開発され一大複合施設となった。
 池袋サンシャインシティ。
 冬休みに入ったばかりのクリスマスイブ、サンシャイン水族館はカップルと親子連れで満員御礼だった。
 あたしが見目麗しくスライスされた日常に怖気づき、薄暗い館内の隅っこに立って、ライトアップされた・・・

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聖者のメルヘン

15/12/14 コメント:7件 冬垣ひなた 閲覧数:962

「……以上が作戦の概要だ!昨年のテロは、タザンノイシとし……」
 恰幅の良い隊長は言ったが、僕の翻訳辞書にはその単語がなかったので、隣席のミモザに聞いた。
 他山の石。成程、他人の過ちを糧に自分を磨くとか、そういう意味の日本語で、打算の意思ではないらしい。
「テロは良くないわ。100年か昔のように、皆が集まって話し合いで解決できないかと思うの」
 テロリストの横行する昨今、・・・

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ダ・カーポはもういらない

15/11/30 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:831

「これが、お互いの責任で、二人の友情が終わりを告げた顛末である」
 とある批評家は、そう話した。


 死の床にあったクロード・ドビュッシーは、数十年来の友人からの手紙を引き裂いた。
「すまない」、彼は目に涙を浮かべ絶望の淵からこの世を去った。
 ドビュッシーの間近にあった者は手紙の主を恨み、世間に沈黙を守ったため、事実が明らかになったのは、その男の死後だった・・・

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掟破りなロマンサー

15/11/16 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:873

 遥か昔、僕らの星は戦争でなくなり、生き残った民は宇宙に活路を求めた。
 惑星ガーヴ。危険生物が多く気温差の激しいここでは、農作物を育てるような生活は望めず、祖先は地下に街を築き上げ、飢えをしのぐようになった。


 ガーヴ歴9438年、かつて天翔けた文明は都市戦争を繰り返し衰退、僕らは原始的な狩りをしながらその日暮らしを続けている。
 地下都市レネティアは今、食糧危・・・

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愛昧

15/11/02 コメント:9件 冬垣ひなた 閲覧数:981

体育の授業で膝に出来たかさぶたをめくると、痛みと血がにじんだ。治りきらないまま、傷口に逆戻りした跡は、今も脚に残っている。
その足先に、オレンジがかったピンクのペディキュアを添えると、私は古傷をストッキングに包み、地味なパンプスを履いた。
それは郷里の母が誕生日にくれたものだったが、念願の専業小説家になった夫はにべもなく捨て、ゴミ箱から拾い上げたら涙が出た。
ゴミは私だ。
・・・

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優鬱

15/10/19 コメント:10件 冬垣ひなた 閲覧数:1113

初めてカフェへ行った日を覚えているだろうか?
居心地の良いソファーに肩を並べ、小難しそうなメニューを片手に囁き合う、12歳の少年だった冬を。
見晴らしの良い高台からは、木枯らしの吹くお前の家が見えた。
母親はとうに男を作ってあの家を出て、酒乱の父親はよくお前を殴った。ノロマだ愚図だと罵り続ける声が、近所に住む俺の家にまで届いたが、誰も警察に言う者はなかった。
「あの子も年頃・・・

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ガジュマルは戦場で死んだ

15/10/05 コメント:11件 冬垣ひなた 閲覧数:1382

ガジュマルの枝からキジムナーの姿が消えたのは、雨季の音が訪れた頃だった。精霊が何処へ去ったのかは定かでない。
枝から髭のように垂らした褐色の気根は、幹と変わらぬ強靭さで巨木を支え、いかにも長寿の風情を漂わせていたが、枝葉はまだ若い。
この、ハイビスカスの咲き乱れる南国の島では、豊かさや幸せは、海の向こうのニライカナイからやってくるといわれていた。楽土に渡れば憂いもないだろう。
大・・・

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2.5次元の魔法少女

15/09/21 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:838

「あーや、お昼のご飯だよ!」
美月はおしゃもじを持ったまま、娘の沙羅がいるリビングを覗いた。いつもならワンパクマンのお茶碗を持って飛んでくるのに、今日に限ってやけに大人しい。
「あーや!」
おもちゃが散らばったままの床に沙羅は座り込んでいる。
「ママ」
沙羅が振り回している宝石のついたピンク色のステッキは、4歳児が持つには大きすぎて、ハンマーにしか見えない。
そ・・・

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おじゃみ山の女神さん

15/09/07 コメント:7件 冬垣ひなた 閲覧数:963

「今年は台風もなかったし豊作や」
その日、村を巡回する嘉助は上機嫌であった。
燦々としたお天道様の下でそろそろ稲穂の実った広大な田は、全て村一番の地主である嘉助のものだ。
そしてそれを守るように、お社のあるおじゃみ山はそびえている。
「これも田の神さんのお陰やな!」
娘のトヨは声を大にして言った。
この村もいずれはトヨの婿になる男が継ぐ。嘉助は満足だった。二人は・・・

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山の彼方のヒマラヤンブルー

15/08/24 コメント:10件 冬垣ひなた 閲覧数:2757

今年の夏の始まり、志を持った1人の青年が突然に天へと召された。
私は泣いた。
あの頃聞いた蝉時雨は、今はもうかすれて遥かに遠い。


8月も後半に入ったとはいえ、こんなに蝉が少ないのは、毎年残暑の厳しい大阪にしては珍しいことだった。
とはいえ、都会の風景に馴染んだ鶴見緑地も、昼はやや暑くなる。メタセコイアの並木道を通り抜けると、眼前に大きな噴水が広がっていて、ビ・・・

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言葉はかたちにならないけれど、

15/08/24 コメント:4件 冬垣ひなた 閲覧数:966

玄関前に飾られたポートレートは、父と母、それにこの春中学生になったばかりのちとせが写っている。
年の離れた慶太が、手に馴染んだカメラのファインダーから覗く世界は、彼の置いた距離そのものだった。
いつだったか、母が手を繋ごうとしたその時、慶太は驚いて手を振り払った。その時の切ない父の顔を、ちとせはよく覚えている。
ずっと昔に貰ったモノクロームの写真もそんなぎこちなさの一つだった。<・・・

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遠ざかる彼女

15/08/09 コメント:5件 冬垣ひなた 閲覧数:1014

ようやく、ようやくたどり着いた、彼女の待つ城へ……。
彼女いない歴を生かし、山登りで鍛えた身体は伊達じゃない。
岩で出来た堅牢な城壁は、バーチャルゲーム内とは思えない質感で圧倒するが、俺には無意味だ。
開始から2時間が経過している。俺の活躍を陰ながら見守る彼女を、これ以上待たせてはならない。
俺は意気揚々と城内へ足を踏み入れた。
「あっつい!」
叫んで俺は引き返・・・

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エス〜かなしき蝶〜

15/07/27 コメント:10件 冬垣ひなた 閲覧数:1184

エス。
彼女たちはsister(姉妹)の頭文字をとって呼ばれた。
上級生のお姉さま1人に、下級生の妹は1人。
約束を交わしたその日から、秘密のお手紙を靴箱に忍ばせ、彼女にふさわしい美しきものをお贈りし、心から一途にお慕いする……。
大正時代から昭和の初めにかけて、蕾の頃の少女たちが通う女学校には、そんな秘められた決まりごとがあった。

エス。
それは処女の・・・

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僕の甘党シンデレラ

15/07/13 コメント:0件 冬垣ひなた 閲覧数:866

お客様、来ないな……。
ケース越しに見るケーキやデザートは色鮮やかで、いつもより何割か増しで美味しそうだが、外は雨。
梅雨が終わってすぐ台風だ。ついていないな。
エプロン姿の大地の足元に、気が付くと大きな水たまりができていた。
水源はケースの下だ。
「しまった!」
大地は慌てふためいた。
洋菓子ケースは乾燥防止に適度な湿度を含んでいて、雨の日の排水量は半端・・・

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檻を溶かしたメロディー

15/06/29 コメント:7件 冬垣ひなた 閲覧数:1076

草をはむシマウマに、飛び跳ねるカンガルー。
気ままに泳ぐアザラシたち。
涼しげな顔のラクダの親子に、風を切って走りたげなダチョウの群れ……。

それは満ち足りた、安全で平和な世界の輪だ。
レインが立っているのは、どうやら動物園らしかった。
それも緋色のドレスのまま。
仕事がハネたあと、深酒をしてしまい、きっとそのまま眠ったのだ。
最近酒にばかり逃げて・・・

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大魚、白河を泳げば

15/06/14 コメント:5件 冬垣ひなた 閲覧数:1013

『白河の清きに魚の棲みかねて もとの濁りの田沼恋しき』

そんな狂歌が、お江戸のブームらしい。
白河とは元白河藩主の松平定信、つまりはわしの事。
田沼とはもちろん、あの宿敵・田沼意次の野郎だ。

わしはむんずと鯉の餌を掴むと、パアッと勢いよく池に撒いた。
すぐさま錦鯉が跳ねながら集まってくる。
よしよし、可愛い奴じゃ。
わしはニコニコと笑い、心・・・

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目指せ!クイズ王〜相談屋ケイジロウ 新宿編〜

15/06/13 コメント:1件 冬垣ひなた 閲覧数:893

大広間にずらりと机が離れて並ぶ、その数は100を越えるだろう。学校で使うようなパイプを使った華奢で小ぢんまりした作りだ。
その椅子に正装姿の男が大勢、身を縮めるよう座り一心不乱に何か書きつづっている。
『お嬢様争奪杯 1000問クイズ』。
辞書のように分厚い問題集の表紙にはそう書かれている。
そしてけたたましいベルが鳴り響くと同時に、男たちは紙の束をアシスタントの女に渡す。・・・

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アタシの消失≠スキゾフレニア

15/05/31 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:1089

「玉ネギが、川に、飼ってる」
言葉のサラダと呼ばれる領域。
どうしよう?そこに辿り着いたら、きっとアタシは、アタシでなくなる。

病院の大部屋のベッドで、独りごとをこらえるアタシは改めて時計を確認する。時刻は麗しのミッドナイト。なのに、別のベッドからラジオが聞こえるのは何故?
まぁ、みんなは文句言わないけどね。
悪化と診断され、外出禁止の保護室入りは誰もが嫌う。・・・

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真珠の眠る庭で

15/05/17 コメント:10件 冬垣ひなた 閲覧数:1432

その濃い肌の女は、よく波止場にたたずんでいた。
年の頃ははたち半ば、短い頭髪にエキゾチックな顔立ちで、肉付きの良い身体を惜しげもなく海風に晒して、そんな垢抜けないさまに、隅修一は奇妙な親近感を覚えた。
コバルトブルーの海、浜風に色あせた陸、女の存在はそんな風景から孤立している。初めの頃、隅にはそれが不思議で、白人が作った近代的な港町がアボリジナルに全くそぐわないのだと理解するまで、時間・・・

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寂しがりな子豚の反乱

15/05/03 コメント:2件 冬垣ひなた 閲覧数:992

大麦は今をたけなわに穂を垂らし、先ほどは陽を受け金色に光っていた波が、白銀にたゆたう。
いつも3匹の子豚が密かに見る、漆黒の薄幕を敷いた天上は、一面に氷を砕いたような光の粒が瞬き、零れおちた明かりが大麦を濡らしていた。
そこに一陣の風が渡ると大波が起こった。すると時期の早い蝗が一斉に飛び立ち、何百もの小さな放射状の光を描く……。
我らは家畜。宴に饗される、ただそのために生きている・・・

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泣かないで、ピーコック

15/04/20 コメント:8件 冬垣ひなた 閲覧数:1113

猫が喜びそうな縁側の日だまりに、円い木製のテーブルとチェアがちょこんと置いてある。
その飴玉を溶かした様に青みがかった緑の彩色は、瓦造り畳住まいの家にはあまりに鮮やかで、琴子のおばあちゃんは「これはピーコックグリーンよ」と初めて会った日に教えてくれた。
「ピーコックは英語で孔雀のオスをいうの。広げた羽のようにあでやかだからそう呼ばれているのね」
ニコニコ笑うおばあちゃんは編み物が・・・

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トラブルメーカー

15/04/11 コメント:3件 冬垣ひなた 閲覧数:910

ここは新宿歌舞伎町。まだネオンには早い時間帯に、瑠花は雑居ビルの狭い階段を上って行く。この界隈に似つかわしくないセーラー服姿の純正美少女は、自分の足音に重なるもう一つの足音を耳に留めていた。

「……そういうことならな、まず箸の納入業者を押えておけよ」
事務所兼自宅の扉の向こうから、ケイジロウの声が聞こえる。
「マルサはそこから実際の客数を割り出し、売り上げを計算にかかる。・・・

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しーちゃんと旅する魔法使い

15/04/05 コメント:5件 冬垣ひなた 閲覧数:924

「りんごあめにポン菓子っ!」
「紙芝居だよー、どうだ今日は新作だよ!」
「おじさんが仕上げたゴム鉄砲だぞ、これで坊主たちもガンマンだ」
通学路に時折露店を出すおじさんたちが、どこから来てどこに行くのかは誰も知りません。
PTAは煙たい顔をしていましたが、子供たちは帰り道にお目当てのものを見つけると、走って家に帰り、なけなしのお小遣いを持っておじさんの所に行く、それがとびっき・・・

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しーちゃんと踊る象

15/03/22 コメント:4件 冬垣ひなた 閲覧数:938

軽トラ以外の自家用車もまだ珍しかったバブル景気の前、まだ砂利道が多く、田畑にはタンポポと蓮華草が咲き乱れていました。その一方、上向きになりかけた景気は工場をガンガン稼働させ、垂れ流される排水や光化学スモッグがしばしば社会問題となりました。
日暮れまで外で遊ぶ子供の間でもインベーダーゲームやゲームウォッチが流行し、ようやくファミリーコンピューターがお茶の間に登場した時代。
今は昔、そんな・・・

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お隣はユートピア

15/03/15 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:1174

小さい頃からお隣の借り物で暮らしていた。警察、消防署、学校、バスは一時間に一本、コンビニも病院もない。
そうそう、自然は豊富にある。山林の維持はボランティアだが、それもいつまで続くか。
役場で働く二十代は俺一人。
そして……村は、もうすぐ消える。

「今更、S市と合併とか言われてもなぁ」
広報室長は呟き、俺はワゴン車の中で反論した。
「でも村議は反対だし、・・・

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渋谷スイングバイ

15/03/08 コメント:10件 冬垣ひなた 閲覧数:1986

ビルの最上階、『コスモプラネタリウム渋谷』の入り口前。
なんで、ツイてないんだろう?落とした百円は、自販機の下に隠れて見えない。
あたしが膝をついて下を覗き込んでいると、何かがその上を通過して、自販機のカチャッと動く音がした。
ああ、まだお金入ったままだって!思ったその目の前に、買うはずのチケットが舞い降りる。これがにやけ面の茶髪男ならナンパが目的だろう、しかし予想は違った。

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信繁の土竜

15/02/07 コメント:6件 冬垣ひなた 閲覧数:955

兵吾は卑賎の身だが土木に非凡な才を持つ。もとは石田三成に仕え、忍城戦にて長大な堤を築き上げ、これをもって水攻めしたほどだった。が、忍城が持ちこたえると三成は激怒した。
その時、兵吾の命を繋いだ若い武将の名を、信繁といった。
信繁はまめに働く朴訥な兵吾を重用し、兵吾もまた忠義を尽くした。関ヶ原で信繁は敗残の将となり紀伊国に流されたが、二人は変わることなく、世は徳川の天下となった。
・・・

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ハツコイバンビ☆

15/01/30 コメント:4件 冬垣ひなた 閲覧数:1146

溝口先生が亡くなった。
風呂場で脳卒中を起こし、そのままだったそうだ。顧問の突然の訃報に、N高校吹奏楽部の皆は涙を流し、その死を悼んだ。

「広瀬。先生の、追悼演奏会をやらないか?体育館使えるって」
言ったのは、コンサートマスターの杉谷だった。
「部長は僕だぞ」
「実は、もう曲を決めてある」
杉谷は強引だ。クラリネット奏者としての実力は誰もが認めるが、ワン・・・

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