1. トップページ
  2. ちほさんのページ

ちほさん

心のあたたかくなるお話を じっくりと書いてみたいです。

出没地
趣味 読書。
職業
性別 女性
将来の夢 図書館にある子どもの本を全て読むこと。 童話作家になること。
座右の銘 たいせつなのは、どれだけたくさんのことを したかではなく、どれだけ心をこめたかです。(マザー・テレサ)

投稿済みの記事一覧

0

約束は春の日のお弁当

17/11/30 コメント:0件 ちほ 閲覧数:66

 いつもベッドの中でのんびり過ごしているカレル叔父さんが、布団の足元に正座しているウォルターに絵本の読み聞かせをしていた。手元の絵本では春の桜が満開なのに、ここリンブルグはまだ冬。ウォルターは、ベッドの上を這っていって、叔父さんの隣に並んで座った。
「叔父さん、絵本を読んでいるときは優しいのに、どうしていつもはイジワルなの?」
「そりゃあ、君が僕を、何処にいてもすぐに見つけられる・・・

0

塗れない空白をどうしたい?

17/10/26 コメント:0件 ちほ 閲覧数:136

「あら、どうしたの?」
  泣き出しそうなわたしは、声をかけてくれた女の先生を見上げた。幼稚園の『りんごぐみ』のみんなが、わたしの塗り絵を覗き込む。まだ1つも塗れていないわたしに、「また迷っちゃったのねぇ」と先生は困った顔をした。他の子も先生のマネをして「まよっちゃったの?」「まよっちゃったんだって。かわいそうだねぇ」……と心配そうに口々に言う。わたしは、ぼんやりとクレヨンに目を落とした・・・

0

こんなはずじゃなかった!

17/09/26 コメント:0件 ちほ 閲覧数:171

 リンブルグ村のパブ『ロビン』の店主・ピートは、家庭用のマッチが足りないことに気がついた。そこで思いついたのが、一人息子のウォルター(5歳)の『はじめてのおつかい』である。「大根1本抜いたら、1円。ほうれん草は、2円」と野菜の引っこ抜きのお手伝いはしたことはあるが、一人で買い物はしたことがない。どこまで売り買いを理解しているものかも確かめたいので、ピートの実弟カレルと妻アメリーが営んでいる雑貨屋『・・・

0

我が子の未来は輝いている……と思いたい

17/09/21 コメント:0件 ちほ 閲覧数:176

 僕は、このパブ『ロビン』をいつか息子のウォルターに譲る。ここは僕の大切な場所。あの子にとっても、そう悪くないはずだ。もし、他に夢があるなら、そちらへ進むのもいいけれど、できればこの店を大好きな場所として大切に思ってほしい。
      ◇
「きのう、お父さんがお話ししてくれたことは、ほんとなの? ボク、気になってなかなか眠れなかったの」
「店のこと? うん、あげるよ。約束しただ・・・

0

人が次々と死んでゆく。そして、ついに僕も……。

17/09/16 コメント:0件 ちほ 閲覧数:152

グリーンゲート音楽院には、世界中から音楽においての天才児が集められている。中世ヨーロッパ時代の巨大な城を幾つも連ねているような重厚な建造物で、生徒たちのために用意されている楽器……例えば、ピアノの数は2000台もあるとの噂が流れている。音楽室の全てが、完全防音システム付きで、生徒は好きな時間に楽器を奏でることが出来た。ここは全寮制。クリスマスの時だけ、帰国を許されている。家庭の事情で、帰国し・・・

0

わたしのお母さん

17/08/30 コメント:0件 ちほ 閲覧数:223

アリアは、母のアーニャが村で特別な存在として扱われていることが不思議だった。母の営んでいる雑貨屋がないと村人の生活は成り立たないが、そんな理由ではないようだ。
ある冬の夕方、店の暖炉に2人で当たっている時、母はアリアの疑問に答えてくれた。
「お母さんは、あなたと同じ10歳だった。そして、彼は6歳だったの──」
    ◇
「あなた、だれ?」
アメリーが胡散・・・

0

だ・い・す・き

17/08/20 コメント:0件 ちほ 閲覧数:205

 リンブルグ地方の北方ユースチス・レイにリンブルグ初の映画館ができた。若き領主ユキヤは映画が好きではなかったが、領民の強い希望で渋々ながらも受け入れた。
「ユキヤさん、忙しいんじゃないの? ボクと映画みてていいの?」「ブライに君のお守り役をさせようとしたら、苦手だからと逃げられた」「ボクも暗いところは少し苦手なの」「……。(いや、ブライが苦手なのは、いきなり突拍子のないこと言い出す君の・・・

3

見えたり見えなかったりするもの、なーんだ?

17/08/05 コメント:7件 ちほ 閲覧数:350

 僕らは中学3年生で、あと10日もすれば卒業する。期末テストも高校入試も無事に終わり、眠たくなりそうな優しい時間に包まれていた。クラスメートと共にいられる大切な時間を誰もが楽しく過ごしていた。もう授業はない。卒業も近く、飛び飛びに休みが入っている。家でのんびりしてもいいのだが、誰もが友だちとのお喋りを楽しみに登校していた。ここでいう『友だち』は『クラスメート全員』のことだ。46人のクラスメ・・・

2

黒板に導かれ掴んだ未来

17/08/01 コメント:0件 ちほ 閲覧数:227

僕の記憶に『弟が生まれた夜』が強烈に残っている。
    ◇
<6歳の貴方は、父上様に命じられて狭い一室に軟禁状態にありました。そして誰とも口をきいてはならない、とも命じられていました。マロリー家の長男として生まれたけれど、望まれた命ではなかったからです。母上と愛人との間に生まれた子だったそうです。父上様は、自分にまるで似ていない貴方を憎みました。次に生まれる子が妹であれば、貴方・・・

0

なんだか大変だったけど、お金もらえたー

17/07/21 コメント:0件 ちほ 閲覧数:192

 パブ『ロビン』の店主ピートは、6歳の息子ウォルターと『ごはん部屋』で昼食をとっていた。そして、食後のデザートとして用意された色とりどりのフルーツでいっぱいの大好きなパフェを、ウォルターはうっとりと見つめる。スプーンを手にした時、玄関のドアのカウベルが鳴った。ウォルターはパフェに夢中になりすぎて、ベルの音も父が席を外したことにも気がつかなかった。だから、父の友人である領主のユキヤにいきなり片・・・

1

君の心は鞠のよう〜はずんではずんで何処へゆく?

17/07/12 コメント:0件 ちほ 閲覧数:224

 ボクんち、お酒とお料理のお店なの。
 2階には宿屋さんもあるよ。
 「お店があるから猫は飼えない」って、おとうさん言ってたの。
 だからお店から2階にのぼってく階段の一番上にすわって、ボク目を閉じて耳をすますの。
 お店のドアのカウベルが鳴るよ。

──カランコロン……カランチリン……チリンチリン……

 ほら、猫さんの鈴が鳴ってる風にきこえてきた・・・

1

小さな小さな恋のものがたり

17/07/04 コメント:0件 ちほ 閲覧数:254

「あのね、ボク、アリアちゃんのこと好きなの」
 アリアが隣村に引っ越すと聞いた一週間前から、ウォルターは彼女に心を込めてこの言葉を伝えてきた。そして、とうとう彼女の出発は、明日の早朝と迫った。
「……ごめんね」
 アリアも、いつも同じ言葉を返す。仲の良い二人だった。5歳のウォルターは、亡くした母の代わりに、7歳のアリアを母親代わりにしていた。アリアは、それでも彼が大好きだった。二・・・

0

遅れてやってきた幸せ

17/06/27 コメント:1件 ちほ 閲覧数:218

 アグネス孤児院に、8歳のポムを欲しがる人が現れた。大農場主のフェロー氏だ。彼は、7歳の病弱な娘の話し相手を探していた。お嬢様に孤児院の子など乱暴な話だし、心を閉ざしているポムには無理だと誰もが彼の決意を翻させようとしたが、フェロー氏はどうしても欲しいと言う。彼がそこまでの想いをどうして抱くのか誰にもわからなかった。
           ◇
 ポムは孤児院の庭に立って、桜の枝々の間か・・・

0

カイジュウさんのマーチ

17/06/16 コメント:0件 ちほ 閲覧数:215

  青年は、昨日から地下1階の古着屋でアルバイトをしていた。落ち着いた雰囲気の店だ。この店に辿り着くには、U字になっている長い階段を歩かなくてはならない。彼は暇だった。さっきまで本を読んでいたが、それにも飽きた。そこに、小さな子どもの可愛い歌声がきこえてきた。
「〜ぼくは歩くよ〜どこまでも〜犬さんワンワン〜ネコさんニャーニャーないても〜ぼくは歩くよ〜どこまでも〜ウシさんモーモー〜ひつじさ・・・

0

彼とピアノとわたし

17/06/07 コメント:0件 ちほ 閲覧数:212

 7歳のわたしは、ピアノは大好きだが勉強は大嫌いだった。特に、母が自宅で催すパーティーは何よりも大嫌いだった。パーティーでは誰もが母の美貌を賛美し、ついでにわたしのことも「お母様に似て、将来が楽しみね」などと言う。そんなお世辞は嫌いだったし、化粧の匂いや香水、煙草には息が詰まりそうだった。
  お客様に対して礼儀正しく愛想笑いをしていたが、疲れてしまった。ピアノの演奏も終わったことだし・・・

1

塔の上のピアニスト

17/05/29 コメント:0件 ちほ 閲覧数:266

 築100年のマナーハウス。ここにはグランドピアノがあり、いつもヨハンが弾いている。12歳のウリーは、大きな窓からそっと覗いてみた。ヨハンが何者かは知らない。わかっているのは、綺麗な音楽を奏でるということだけ。たくさんの音が小さな泡になって、ふわりとそよ風に飛ばされていくような優しい透明感に、ウリーは夢見心地になる。しかし、その夢を破るようにピアノの演奏が止まった。数秒後、目の前の窓が開いた。

0

リンブルグの新しい祝日

17/05/16 コメント:0件 ちほ 閲覧数:282

 春の花が咲き乱れる中庭を眺めながら優雅に仕事を、と考えて領主館の1階にも仕事部屋を作ったのだが、実際にはそんな余裕はなかった。リンブルグの領主ユキヤは、いつものように仕事に追われていた。彼は、精力的に仕事をこなす青年だったが、2週間前に生まれたばかりの我が子を眺める暇もない。彼は、大変子ども好きな人だった。一人であれこれやっていることに少し虚しさを感じてきて、思わず呟く。
「あぁ、猫の手も・・・

1

最終回! 「グリーンゲートの少年たち」★文化祭での小冊子 『文化祭当日 午後から』冬華

17/05/09 コメント:1件 ちほ 閲覧数:270

 午後二時に冬華は学校へ向かう。二回目の登校だった。今頃、みんなは何をしているだろうか。もう一般客も受け入れているから、本がたくさん売れているかもしれない。その本には冬華の作品も含まれている。小冊子のことも数に入れると、彼の作品が一番多く載せられている。それを思うだけでも愉快になってくる。それだけのチャンスを与えてくれた朝香先生に感謝したい。
 冬華は、ふと足を止めた。病気を治すことを優先で・・・

4

ウォルターの正義

17/05/05 コメント:6件 ちほ 閲覧数:463

 昨夜、リンブルグ領主館に泥棒が入り、犯人の男は領主ユキヤに捕まって地下牢に放り込まれた、という記事が新聞に載せられた。パブ『ロビン』の店主ピートは、常連客のユキヤが悪党を捕まえてくれたので上機嫌である。ピートの肩越しから、5歳の息子ウォルターが覗き込んで不平を言う。
「ボク、『リンブルグ』と『ユキヤ』てところしかよめないよー」
「あとで、ちゃんと読んであげるよ」
「やだ、・・・

2

べっ甲飴と涙

17/04/26 コメント:5件 ちほ 閲覧数:279

 雑貨屋『ショコラ』の店主・アーニャは、雪解けの泥水を避けるため、スカートの裾をちょっと持ち上げ、通りを横切り店の中に入る。薄暗い小さな台所には火の気もなく、たった1つのランプにも火が入っていない。薄暗闇の中、何かがテーブルの方でごそりと動いた。
「誰?」
  問いかけてから、天井から下げられたランプに手を伸ばす。ランプの光に照らされたのは、末娘のアリアだった。テーブルに突っ伏し・・・

0

「グリーンゲートの少年たち」★文化祭での小冊子 『文化祭当日 午前中』冬華

17/04/17 コメント:0件 ちほ 閲覧数:308

 文化祭当日。
 冬華は誰かに言われたわけでもないのに、学校に持ち込むお茶の準備をしていた。紅茶のポットとカップ&ソーサー四客に欠けたところはないか、お気に入りのダージリンも最近手に入れたものに間違いないか、角砂糖もちゃんと準備できているか。何度もチェックしてはホッと安心し、とろけるようににっこりと微笑む。
「まいったねぇ、文化祭くらいでうっとりされては」
 居間に現れた兄の鳴海・・・

0

飴玉1つでみた地獄

17/04/11 コメント:0件 ちほ 閲覧数:264

 高校2年生ともなれば、学校生活にも慣れ余裕が出てくる。1時間目が始まるほんの少し前、私は制服のポケットに手を入れて、そこにコーラの飴が1つ入っていることに気がついた。1つ20円で売っている大きな飴だ。昨日、ゆりちゃんにもらった。食べてしまおうか? うん、口に入れておけば先生にはばれないって。ポケットの中で包み紙をゴソゴソと取ってしまう。先生がガラリとドアを開けたと同時に、口の中へ放り込む。

1

「グリーンゲートの少年たち」★文化祭での小冊子 『文化祭前日から』冬華

17/04/03 コメント:0件 ちほ 閲覧数:358

 文化祭は、学校のお祭り。
 冬華は、生まれて初めての文化祭がとてもとても楽しみだった。友達の誰かが言っていたが、文化祭当日以上に準備期間も楽しいものだ、と。ところが冬華は、文化祭だろうが準備期間だろうが、学校に一時間しかいられない。何時間も準備に明け暮れることができるだけの強い身体を持っていなかった。
 『文芸部』と『ものがたりクラブ』のメンバーが、みんなで輪になって話し合うという楽・・・

0

「グリーンゲートの少年たち」第7話・しおり〜最終話・おわりに(旅の果て)

17/03/20 コメント:0件 ちほ 閲覧数:313

 夏休みが終わっても、ここグリーンゲートの木々は緑に溢れ、街の中央に流れる川は穏やかだった。春に星流学院高等部に転入したばかりの鳴海は、あと半月もすれば秋の嵐が来ると友人から聞いていた。穏やかに見えて、激しさを見せつけてくると。でも、水も空気も綺麗だから、ここに療養に来る者もずいぶんと多い。
 窓から顔を出してグリーンゲートについて考えていると、玄関からお手伝いのあやちゃんと桃ちゃんが出かけ・・・

1

田園都市線は過激に走る!

17/03/17 コメント:2件 ちほ 閲覧数:345

 田舎から上京してきた私は『田園都市線』をなんと牧歌的な路線名だろうと思っていたが、現実は……なんというか……まぁ、読んでいただければお分かりいただけるでしょう。

「な……何でこんなに混んでるの?! 何かあったの?」
「うるさいぞ!」
 隣の若い男が声を荒らげる。
 私は、身体の左右を人の壁で固められ、少しも動けない。蒸し暑く濁った空気が滞る空間が、私を苛立たせる。・・・

1

17/03/08 コメント:0件 ちほ 閲覧数:327

 夕方5時からパブ『ロビン』の店主ピートは休憩時間をとる。幼い息子ウォルターとの夕食のためだ。調理室の続きの間に小さな畳敷きの部屋があり、そこを『ごはん部屋』と呼んでいた。ちゃぶ台があり、幼い手が皿を並べていく。二人の大切で楽しい憩いの時間だった。それでも客が声をかければ、ピートはカウンターへ飛んでいく。
 夕食前の忙しい時間に、ウォルターは父に黙ってひよこ豆の入った麻袋にそっと手を伸ばし、・・・

0

「グリーンゲートの少年たち」第6話・迷子の小鳥

17/03/06 コメント:0件 ちほ 閲覧数:349

 夏休み三日目。
 朝六時ちょうどに電話が鳴った。布団の中にいた静波は慌てて起きだし、廊下に出て受話器を取る。
「もしもし?」
 自分の声がのろのろしている。頭がまだ眠い。
「……」
 相手の癖のある声に静波は首を傾げた。が、相手が誰だかわかると「えーっ!」と大きな声になる。
「は……はい、お久し振りです、我が父上!」
 どうしてこんな間抜けな返事をしたの・・・

1

駆け落ちは強い男の必須条件!

17/02/27 コメント:0件 ちほ 閲覧数:348

 昨日、ウォルターは5歳の誕生日を、父や友達や父の店・パブ『ロビン』のお得意様に祝ってもらい嬉しかった。大人になれたと思ったので、7歳のアリアに愛の告白をした。彼女は、ばら色に頬を染めて頷き、こっそりウォルターの耳に囁いた。
「駆け落ちしましょう」
「カ・ケ・オ・チ?」
「えぇ、愛しているなら駆け落ちよ。2人だけで生きていくのが大切なの。明日の夜6時、桜の木の下で待ってるわ。お父・・・

0

「グリーンゲートの少年たち」第5話・夏の秘め事

17/02/20 コメント:0件 ちほ 閲覧数:380

 グリーンゲートで暮らし始めて四か月が過ぎた。月帆は、この土地が大好きになった。綺麗な空気と水。病気療養に適した土地のためか病弱な二番目の兄・冬華も、散歩ができるようになった。それどころか、一日に一時限だけだが学校の授業にも参加できるまでになった。大都会のスコーピオンにいた頃は、空気も水も悪くて、薬だけで症状をどうにか押さえているという有り様だった。グリーンゲートでの冬華の療養を選んだのは正しかっ・・・

1

妹は、口裂け女か???

17/02/13 コメント:0件 ちほ 閲覧数:304

  1979年 春〜初夏〜?
日本全国、何処にでも口裂け女がいた。
赤い服を着て、大きなマスクをつけて「わたし、綺麗?」と聞いてくる。
その時は「わからない」と答えること。
それ以外の答えでは殺されてしまう。
マスクの下には、耳まで裂けた口があるという。

  大学のレポートを書き上げて、僕は東海道新幹線に乗った。東京から名古屋までの約2時間の旅。今朝ま・・・

1

「グリーンゲートの少年たち」第4話・小さな大冒険

17/02/06 コメント:0件 ちほ 閲覧数:438

 あと一時間もすれば、昼食の時間という頃。
「……もったいないことよねぇ」
 お手伝いの女の子・桃ちゃんが話しているのが障子越しに聞こえた。
 桃ちゃんとあやちゃんは、冬華の家のお手伝いをしている。二人とも十六歳で、二年前にこの家に住み込みで働きに来た。彼女たちはどんな仕事でも愚痴一つこぼさずにこなしてしまう。冬華も、病気が重い時はずいぶんと世話になった。
 二人は、冬華の・・・

1

自転車のおせわって、とってもたいへんなの……

17/01/30 コメント:1件 ちほ 閲覧数:385

「こっちに来て、ウォルター。あなたの自転車よ。素敵でしょう?」
 子ども用のひよこ色の自転車。母の新しい恋人ピートが手に入れてくれたそうだ。ウォルターは、背の高いピートを背伸びして見つめる。ピートは、笑顔で右手を軽く振った。この人は、いつも笑顔を向けてくれる。優しい人かもしれない。
「……ありがと」
 ウォルターは、ちょこんと頭を下げた。そして、初めての自転車を家の前の道へ引っ張・・・

1

「グリーンゲートの少年たち」第3話・兄と弟の構図

17/01/23 コメント:0件 ちほ 閲覧数:309

 大きくひらいた窓からまだ少し冷たい春風が吹きこんでくる夜。末の弟の月帆とその友人の静波は、もう二階の寝室で仲良く寝入っている頃だろう。
 ソファだらけの広い客間の一角で、鳴海と冬華が春の宵を楽しんでいた。紙をめくる音だけの静かな時間の中で、窓際の向かい合わせの二人掛けソファにそれぞれ座っていた。鳴海はファッション誌に軽く目を通し、冬華は新聞の広告を眺めていた。
 鳴海は、最近面白くな・・・

0

ウォルターと不思議な304号室

17/01/22 コメント:0件 ちほ 閲覧数:359

「おたまちゃん、おはよう」
 6歳のウォルターは、おたまじゃくし5匹に挨拶する。イヌさんかネコさんが欲しいと父にねだったら、おたまじゃくしがやってきた。家でお客様相手のパブを開いているので、抜け毛の心配のないおたまじゃくしを父は選んだ。「おたまじゃくしはね、大きくなったらカエルというドラゴンに変身して、空を飛ぶんだよ」という父の言葉を信じていたので、成長するのを楽しみにしていた。
「ボ・・・

0

5歳児の「理由ある反抗」

17/01/15 コメント:0件 ちほ 閲覧数:324

 5歳のウォルターにとって、母親の再婚相手は邪魔な存在だった。大好きな母親はウォルターのものだったのに、いとも簡単に奪われた。ウォルターは、ベッドに潜り込んで毛布の端をギュッと握った。
「ウォルター」
「……」
「ぼくのことは嫌いかい? でも、少しは好きになってほしいな」
 新しい父親が、布団の中のウォルターに優しくささやく。ウォルターは、不機嫌な顔をしてみせたが、この父親・・・

0

「グリーンゲートの少年たち」第2話・はじめての友だち

17/01/09 コメント:0件 ちほ 閲覧数:327

 同好会『ものがたりクラブ』に提出する作品をかなり適当に書いたら、顧問の朝香先生に怒られた。いつもなら、静波がカタツムリの旅行についての作品をいい加減に書いても、怒らない。枚数が原稿用紙でたったの二枚の作品を書いても、怒らない。
 静波にとって『ものがたりクラブ』は、深呼吸できる時間であり憩いの場所だった。ゆったりのんびりできる。
 静波の作品を完成させるのは月帆と小雲で、静波が部室で・・・

0

おにいちゃんとの約束

17/01/07 コメント:0件 ちほ 閲覧数:342

  太陽が沈む直前の世界が金色に輝く時間だった。幼いわたしは、名前も知らない『おにいちゃん』と公園の砂場で遊んでいた。彼はいつも優しかった。いつどんな風にして出会ったのかは記憶にない。今では、顔すらも覚えていない。でも、幼いわたしへの彼の別れの言葉は覚えている。
「もう君には会えなくなるんだ」
「とおくへいっちゃうの?」
「またこの町で暮らせるようになったら、君に大きな花束を贈・・・

2

大根

17/01/06 コメント:2件 ちほ 閲覧数:383

 パブ『ロビン』の2階の自宅の居間で、小さな男の子が膝を抱えて考え込んでいた。いつも忙しい父親の誕生日に何をプレゼントにしようかと悩んでいた。
「お父さんの好きなものは何だろう?」
 突然、居間に父親が入ってきて、ほとんどうわの空で「大根……大根……」と呟き、いきなりクルッと男の子に顔を向けた。
「大根を畑から抜いてきてくれないかな?」
「うん、いいよ。裏の畑?」
・・・

0

「グリーンゲートの少年たち」または「ものがたりクラブの少年たち」 第1話 ・甘食とソーダ水

17/01/01 コメント:1件 ちほ 閲覧数:412

 この土地は、グリーンゲートという。
 大きな川が街の中央を流れ、河川敷は緑にあふれていた。丸く削られた石々の隙間からも、小さな緑があちらこちらで顔を出し、川は非常に綺麗で、光が反射する様は美しい。 
 川と平行して走っている遊歩道では、桜が満開だった。数え切れないくらいの桜が花びらを風に舞わせ、見る者を夢見心地にさせた。
 月帆は一つ頷いた。ここは間違いなく美しい。空気も水も良・・・

0

あの子にサンタクロースは来てくれるかしら?

16/12/13 コメント:0件 ちほ 閲覧数:399

暖炉が赤々と燃える居間で、父は家族一人一人にクリスマスプレゼントを手渡していく。
「さて、末娘のサラのプレゼントは? エイダ叔母様から届いていたはずだが?」
 わたしは、そっぽを向いたまま答えた。
「わたし、早く見たくてイブの真夜中にプレゼントを持ち出したの。お母様に叱られ、怒りに駆られてプレゼントの靴の片方を川に捨てました」
 父は、わたしの頬を平手打ちした。
・・・

1

お父さん、大好き!

16/11/30 コメント:0件 ちほ 閲覧数:471

 白いセーターに紺色のズボンの小さな男の子が、パブ『ロビン』の飴色の階段の一番上に腰を下ろしていた。父親は『ロビン』の主人で、一階は大人達が酒を楽しむ場所なので子どもは二階の居住スペースから一階に降りてはいけないと厳しく教えていた。だから男の子は、階段の上で小さくなっていた。悲しそうな目で、賑やかな一階を見つめていた。下に行けないから悲しいのではなかった。もっと大きな理由があったのだが、父親には・・・

3

ロイド美術館のEエリア

16/11/22 コメント:0件 ちほ 閲覧数:442

 マニラのロイド美術館の館長をしている私は、奇妙な質問を数人の客から受けた。
『Eエリアは、いつまで工事中ですか?』
  ◇
「お待ちください、館長!」
 受付係が追いかけてくる。私は足音も高くEエリアに向かう。学芸員が両腕を広げて通せんぼしてきた。私は彼女を軽く突き飛ばし、さらに進む。Eエリアの入口で、体の大きな守衛が立ちはだかっていた。彼が胸に下げている警笛を鳴らすと、・・・

0

消滅した聖域と金色の実

16/11/03 コメント:0件 ちほ 閲覧数:389

 レナス、テレ、ユガの三国の北方に、『天の欠片』と呼ばれる小さな聖域があった。三国はいつでも敵国同士だったが、どの国も天使達が生活している平和の象徴『天の欠片』だけは攻撃しなかった。
「どうして、三国は戦争をしているの?」
 レナスの九歳のぼくは、洗濯物を干している母さんに訊ねた。
「……ヤイル、三国の誰もが『天の欠片』を自分の国だけで守りたいと思っているからよ。『天の欠片』は、・・・

0

宝石箱に秘められた想いと刻の交錯

16/10/07 コメント:0件 ちほ 閲覧数:466

 新年の祝いの鐘を聞きながら、寒さと飢えで少年は死にかけていた。彼の心は絶望だけだった。そこに、凍り付いた道を蹴飛ばす勢いで馬車が止まった。幼い少女が転がり落ちるように降り、少年の方へ駆けてきた。
「お母様、この子が欲しいわ。新年のお祝いに」
 8歳の浮浪児ジャックは、こうして6歳のメイソン家のアニーに拾われた。ジャックは、命の恩人である彼女をいつか自分のお嫁さんにし、恩返ししようと心・・・

0

『パピプぺポ』の記念日

16/08/08 コメント:0件 ちほ 閲覧数:510

 生後六か月で喋るなんてことは有り得ないと思うのに、僕ら夫婦は娘サクラの口から飛び出す宇宙語から想像してしまう。あの言葉を話してくれないかなぁ、と。妻の方が僕よりずっとそう思っているようで、母親だけにわかるという子どもの宇宙語ってやつに真剣に耳を傾けている。そして、そこから『言葉』というものを導こうとあれこれと話しかけている。話しかければ娘は嬉しいようで、きゃあきゃあと機嫌よく笑う。
 娘が・・・

0

いつでも傍に

16/08/01 コメント:0件 ちほ 閲覧数:510

 花開く春も入道雲が沸き立つ夏も木の葉の舞う秋もしんしんと寒い冬も、いつも一緒に暮らしていたい。それが二人の願いだった。しかし、長い人生を幸せに生きてきた彼らにも、不安はいつも胸の横にそっと居座っていた。それは、ときに妻の心を食い破ろうとするかのように痛みを運んできた。それに耐えかね、妻は愛する夫に尋ねた。
「あなたがいなくなったら、わたしはどうしたらいいの?」
 夫はいつだって答えた・・・

0

お弁当レッスン

16/06/27 コメント:0件 ちほ 閲覧数:558

わたしは、普通サイズの四角い弁当箱とアルミホイルに包まれた細長い何かを胸に抱いて、校舎の屋上へ向かった。
屋上には誰もいないと思っていたら、可愛い女の子が敷物の上に座っていた。彼女はわたしに気がつくと、にっこり微笑み、品のある仕草で手招きしてくれた。わたしは、隣に座った。と同時に、彼女の弁当が目に入る。……何か事情があるのだろうか? 彼女は美味しそうに食べているけれど、その弁当箱って、・・・

0

全ては『弁当可』から始まった

16/06/20 コメント:0件 ちほ 閲覧数:543

「園子さんは、お弁当を持参していらっしゃるの?」
リーダー格の女生徒が、他の数人にチラッと視線を寄こした。それを合図に、彼女達は堪え切れないと言いたげに、次々と笑い出す。わたしの人格を否定する笑い方で。この学校には恐ろしい伝統があるそうだ。
『パンこそ、上流階級の食べ物に相応しい。弁当を食べる者は卑しい人間です』  
生徒手帳には『弁当可』とされている。けれど、入学初日に持参・・・

1

雨降らしもラクじゃない 〜がんばれ ラファエル君!〜

16/06/11 コメント:2件 ちほ 閲覧数:643

「ラファエル君。先生は、あなたのこと本当に心配しているの。情に左右されてはならないお仕事なのに、あなたは……いえ、お説教は止めておきましょう。ただ覚えておいてね。物干しざおのお布団を見ても、風にはためくお洗濯ものを見ても、雨模様なのにカサを忘れた人を見ても、ずぶ濡れの犬を見ても、自分の気持ちだけで行動することがないようにしなさい」
「『じぶんのきもち』って何ですか?」
「先生が言いたい・・・

0

僕の得たもの、そして失ったもの

16/06/03 コメント:0件 ちほ 閲覧数:576

 雨降る街メモリーで、高校生をやっている僕は、ある日博物館の裏に広がる森に迷い込んだ。三時間も迷い続け、疲れ果てた頃、真っ白な洋館を見つけた。大きな窓から覗くと、僕と同じくらいの年齢の少年が窓際で一人チェスに興じていた。僕は、窓を軽く叩いた。彼の驚いた顔が、すぐに笑顔になる。彼は、慌てて家の中に入れてくれた。
「シャワーを浴びて。そこがシャワー室だよ。タオル持ってくる。外は、まだ雨なの?」<・・・

1

ぼく、ハムスターなんです……。

16/04/21 コメント:3件 ちほ 閲覧数:566

 わたし、オリガと呼ばれていてね、雌猫なんだけど子どもはいないわ。でも、昨日のお昼に仔猫が我が家にやってきたの。えーと、確か名前を『ハムスター』と言ってたわ。ちっちゃくて可愛くて……きっとわたしの生き別れの子だと思うの! 子どもはまだ一度も産んだことないけど。そんなちっぽけなことなんかどうでもいいの。大切なのは、ハムスターがわたしの子どもだということね。だから、夜中にケージから逃げ出したハムスタ・・・

2

呼ぶ声がきこえる

16/03/30 コメント:4件 ちほ 閲覧数:705

 もうすぐ八十歳の松じいは、一人暮らしだった。
 ある夕暮れ時、窓越しに一匹の仔猫がおろおろしているのが見えた。仔猫は、雪のように白かった。屋根から鴉が狙っている。彼女は「みぃみぃ」とか細い声で鳴いていた。襲いかかってくる鴉に怯えていた。松じいは、これを放っておくことはできなかった。サッと飛び出すと、履いていた青いサンダルを手にして鴉に向けて振り回す。
「コレはおれのだ! 何処へでも行・・・

1

ジンベイザメと少女

16/03/19 コメント:0件 ちほ 閲覧数:594

 俺は、水族館内を歩き回っていた。……正直つまらん。薄暗い館内の水槽を泳ぐ色も形も大きさも様々な魚たち。平和だ。館内に客は俺しかいない。一回りしたら帰ろう。一緒に来るはずだった明美には、ジンベイザメのぬいぐるみでも買ってあげようか。彼女は、この水族館に来たことはない。彼女の感性なら「面白い!」と喜ぶかも。などと思っていると……いた! 俺以外の客! 
 一人の少女が、七色の光が次々と変化してい・・・

1

アーネストとロジー

16/03/07 コメント:2件 ちほ 閲覧数:666

 ボクが家に帰ると、二階への踊り場で、四つ年上の兄さんが、模型飛行機を手にいかに美しく飛行させようかと思案していた。彼は「おかえり。この飛行機をどう思う?」と問いかけてきた。「かっこいいよ」と答えると、「ほんとに」と目を輝かせた。
「うん、兄さんは器用だ」
 そう答えて、台所のドアを開けた。テーブルが見えて……部屋には入らず慌ててドアを閉めた。とんでもないものを見てしまった。
「・・・

0

弾丸一個分に込められた想い

16/02/10 コメント:0件 ちほ 閲覧数:655

 私はいつの間にか、薄暗く麝香の香りのする部屋にいた。毛足の長い絨毯は、複雑な模様だが上品さに欠けている。円形の部屋に合わせた円卓。置かれた蝋燭の火に浮かび上がる人々の疲れた顔。人数は、私も入れて十人。人数を確認した時、隣の夫人から渡されたのはリボルバー式拳銃一丁。私は、この夫人を知っているような気がしたが思いだせない。いや、それよりこの拳銃は何だろう。私の怪訝そうな顔を見た夫人が声をかけてきた。・・・

0

不思議の国のお茶会と真面目すぎる男

16/02/08 コメント:0件 ちほ 閲覧数:571

 一緒に住んでいる姉が、台所でネギを刻みながら言う。「あんたは真面目すぎるわ」と。自分では特に真面目だとは思っていない。週末に友達とお茶会に参加する姉は笑って言う。
「あんたが『不思議の国のアリス』のあのお茶会に参加することになったら、どうなるかしら?」
 そういう彼女の足元を、白兎が懐中時計を手に走り抜けていく。目の錯覚ではと目を擦ってみる。……いつの間にか森にいた。陽気な歌がきこえ・・・

1

最後の獲物とギャンブル狂の終わり

16/02/01 コメント:0件 ちほ 閲覧数:584

 教師たちは知らなかった。中学生しかいないこの学校が、ギャンブルにより大混乱を来していることを。休み時間になった途端に、誰もが懐中時計について大騒ぎする。売れば二万円になる時計は、入学時に生徒全員に贈られる。校則で、試験時には机の上に提示しないといけない代物で、しばらく試験はなかったが、明日は大切な期末試験である。
「どうするよ? あのギャンブラー・健太に懐中時計を奪われた件。明日は試験だぜ・・・

1

濃い紅茶は平和の香り

16/01/27 コメント:0件 ちほ 閲覧数:656

 ケイ、あの話をしろって? それはあんまりじゃない? 知ってのとおり、私はあまりいい子ではなかったでしょ? 私の一言が四人の決心を固めて、結果的に命が助かったとしてもね。うーん、どうしても? じゃあ、話してみますね。初めて話を聞く孫たちもいることだし。
 ……コホン、昔のことです。私はまだ十四歳の小娘で、薄い紅茶に飽き飽きしていた頃のこと。ある日、私が住んでいたアパートに、まだ年若い四人の音・・・

1

一日のはじまりは、紅茶館から

16/01/18 コメント:2件 ちほ 閲覧数:666

「おはよう、月帆。いらっしゃい。……ぼく、まだ眠いや」
「おはよう。すぐ紅茶を入れるから待ってて」

 食堂に入ると、カウンターの向こうで、やかんの湯が沸騰していた。月帆は、慌てて火を止めに行った。静波は中央の円形のテーブルにつく。感じの良いレースのテーブルクロスには、汚れ一つない。光の入ってくる大きな窓のレースのカーテンが、光と戯れながら輝いている。窓の前には、六つの観葉植物の・・・

0

漱石の『それから』にこじつけ自分の不倫を正当化する男のこと

16/01/04 コメント:0件 ちほ 閲覧数:841

陽が落ちる直前の燃えるような朱色が、小さな窓の片側からさっと入り込んで、ただでさえ疲れているというのに私の心を苛立たせる。いっそのこと今夜は、この狭い第二書庫で寝てしまおうか。古い机に山積みにされた純文学の本を、一冊一冊丁寧に本棚に収めていく。脚立の上り下りを延々と繰り返す作業は、単純で退屈なものだ。高校三年生の私は、大学受験の緊張から解放されると、ありがちな『学生生活の残された無目的の日々の退・・・

1

雪割草

15/12/21 コメント:0件 ちほ 閲覧数:620

 ロロに手を掴まれた少女は、その手の温かさと同時に不思議な熱い想いが胸いっぱいに溢れて、硝子玉のような目から涙を零した。慌ててロロは彼女に、窓辺に咲く白くて可愛い花を指差した。
「これ、ぼくがここに持ってきた雪割草というお花で……そうだ、君を『ハナ』と呼ぼう」
「ハナ?」
「うん、君はすごく可愛くて……えっと、お花みたい、だよね?」
 それを耳にしたテオ博士は大笑いしてから・・・

0

領主の秘宝 〜未来に向けて〜

15/10/19 コメント:0件 ちほ 閲覧数:640

 雪深いリンブルグ村の上空を、豚橇が夜空を斜めに切り裂いて滑っていく。村人は、橇を操る人をよく知っていた。黒いコートを着込み、左手に手綱、右手に大きな鞭。内気だけれど心優しい年若い領主ユキヤ。人々が彼を愛するのは、暮らすには厳しい領地を救うために、彼が身を粉にして働いているから。天才的なトレジャーハンターでもあるユキヤは、世界中を駆け巡り秘宝を次々と見つけ出す。手にした秘宝は全て売り払い、得た金で・・・

0

うしろの正面だあれ?

15/10/07 コメント:0件 ちほ 閲覧数:684

 定禅寺通りで信号待ちをしていると、豪より少し年下の謎の少年に出会った。華奢な体つきの少年の豪を見る目は、怯えながらも喧嘩を挑もうとする子犬の目のようだった。少年は、どこか意地のように豪に話しかけている。東京の学校のこととか、自分のこと。仙台にいるより東京にいる方が生きやすいこと。その理由はもちろん……と言いかけて、少年は言葉を止めた。そして、びっくりしたように訊いてきた。
「もしかして、ぼ・・・

0

天女のおかあさん

15/10/05 コメント:0件 ちほ 閲覧数:675

 砂川つかさ先輩は、おれの大学での先輩で趣味は旅行。それも何故か国内限定で、それも何故か沖縄だけは行ったことがない。その理由を聞けずじまいでいたが、ある土曜日の昼下がり、先輩の旅行ガイドブックの古いものを処分してしまおうということで、その手伝いをしていた時、山積みの旅行関係の本が突然崩れた。先輩が勢いよく立ち上がったのだ。決して小さくはない一冊の本を、ギラギラした目で読み込んでいる。
「どう・・・

1

十八歳と五歳は悩んでいた。

15/09/21 コメント:0件 ちほ 閲覧数:714

「あーあ……」
 空が高い。もうずっとクレヨン公園のベンチから見上げている。秋の空はどうしてこんなにも冷たい色をして、あんなに高いところにあるのだろう。そう感じるのは、俺が今どん底に落ち込んでいるからだろうか。高校入学時からずっと好きな女の子がいて、卒業前に想いを打ち明けたくて裏門で待ち合わせの約束をした。嬉しそうに了解してくれたから、絶対に交際OKだろうと思っていた。ところがやってきた彼女・・・

0

ルルの春休み

15/09/07 コメント:0件 ちほ 閲覧数:775

 庭では可愛い花々が咲き、昨夜の小雨の名残でピカピカと水滴を光らせている。綺麗。今日はわたしの十三歳の誕生日で、レーネ海岸沿いにある大好きな別荘へ家族で遊びに行く。部屋を出ると、隣室から妹が飛び出してきた。まだ九つのアンナだ。羊のぬいぐるみを抱き、わたしには目もくれず階段を下りていく。挨拶を忘れる子じゃないのに。玄関では、使用人たちが荷物を馬車まで運んでいた。忙しいせいか、誰もわたしがいることに気・・・

0

幽霊とピアノとクレイアニメ

15/08/24 コメント:0件 ちほ 閲覧数:820

 柱時計が、夜六時を打った。と同時に、ピアノが美しい旋律を奏ではじめる。しかし幾らも進まないうちに演奏は止まり、陶器を床に叩きつける音が始まった。いつものことだ。この屋敷には幽霊がいる……と思う。
「行きましょう、先輩。二階です」
 おれは冷静なふりをしたが、二階への階段を登ろうとすると足が止まる。後ろから続いて登ろうとしている先輩に、思い切って小声で打ち明けてみた。
「庭から先・・・

0

水上村に伝わる祭りは、謎に包まれている

15/08/12 コメント:0件 ちほ 閲覧数:757

 水上村の語り部をしていた八十歳の源じいさんは、祭りのクライマックスにこの土地に昔から伝わる橋渡りに参加するそうだ。源じいさんの後継ぎは俺しかいないため、母と共に東京から呼び戻された。
 摩訶不思議な祭りは、現代の常識を超越しており門外不出と伝えられている。源じいさんは、俺に語って聴かせた。
「水上村と湖を挟んだ対岸に朝陽村があり、年に一度、祭りの時だけ水上村と朝陽村の間に長い橋が出現・・・

1

やりましたね、お母様

15/07/31 コメント:4件 ちほ 閲覧数:900

「梅子さぁーん」
一階から母が呼んでいる。
蝉の鳴き声のうるさい台所で、母は白い三角巾で頭を覆い、割烹着姿で朝からせっせとお菓子を作っていた。お手伝いの春子さんが里帰りをしているので、腕の見せ所とばかりに大好きなお菓子作りに励んでいる。
「これを教会の神父様に届けてきてくれないかしら」
これ、とは出来たての南瓜パイのことだ。お向かいの教会に行けばいいのかしら。わたしは・・・

2

ちっちゃな末っ子の大きな勇気

15/07/14 コメント:2件 ちほ 閲覧数:862

 私たち夫婦には三羽の息子がいる。
 上の二羽は何をやらせても器用にこなした。生まれてたったの十日で、もう飛ぼうとし始めたことには驚かされた。隣の奥さんも感心していた。
「まぁ、お早いこと」
 それで我々夫婦も有頂天になっていたのだが、三つ目の卵から生まれてきた子には、別の意味で驚かされた。全身が真っ白で、目も赤い。
「この子、誰の子?」
 妻も首を傾げるばかり。我々・・・

1

モナ・リザの微笑み

15/06/29 コメント:2件 ちほ 閲覧数:832

 ルーブル美術館の片隅に飾られた美女の絵『モナ・リザ』。彼女は誰をも魅了する不思議な微笑みを人々に向けるが、昔は美しさを鼻にかけた高慢ちきな笑顔でしかなかった。そんな彼女を、わざわざお金を払ってでも見てみたいなんていう奇特な人はあまりいなかった
 今日も今日とて、女性客への蔑みと自分への賛美で一日を締めくくった。
「あのおかしな帽子を被った夫人のかかしのような様は、なんてみっともなかっ・・・

3

エミーが運んだ幸せ

15/06/27 コメント:4件 ちほ 閲覧数:1193

「出ていけ! よくも大切な原稿を焼いてくれたな! 二度と帰ってくるなっ!」
 作家は怒鳴って、冬の寒空の下、ゴミ焼却ロボット・エミーを家から追い出した。
 エミーは七歳の子どもの背丈ほどで、ずんぐりむっくりな体型をしていたが、二つの車輪で移動できた。今、彼は舗装された道をゆっくり進んでいた。目的地などない。ふとゴミを見つけると、左の金属アームを伸ばして掴み、頭部をパカッと開いて、そこに・・・

1

友樹16歳。初めて掃除をする。

15/06/15 コメント:2件 ちほ 閲覧数:937

 僕は、掃除が好きというわけではない。嫌いでもないが、こいつがいる限り掃除は僕の担当といったところか? とんでもない!
「僕だけが掃除をするなんて、絶対におかしい!」
 ここは高校の寮で、僕はルームメイトの友樹と暮らしているのだが、この男まったく掃除をしない。入学した頃からそうだが、いっつも床に寝転がるだけ。寝転がって漫画でも読んでいるのだろうと思って覗きこんだら、教科書を読み込んでい・・・

4

君の幸せを希(こいねが)う

15/06/02 コメント:6件 ちほ 閲覧数:1511

 大きな運搬船の檻の中で、子象がひとりぽっちでぽろぽろ泣いているのをねずみは見つけた。
「どうして泣いているんだい?」
 ねずみの優しい言葉に安心して、子象は泣くのを止めて答えた。
「ぼく、両親から引き離されて、知らない処へ連れて行かれているところなの」
 ねずみは、よいしょと子象の背に乗って楽しげに話した。
「そう嘆くものではないよ。旅の果てには幸せがきっとあるさ」・・・

1

世界に一つだけの動物園

15/06/01 コメント:2件 ちほ 閲覧数:881

「……届いたわ。ようやく届いたわ」

 翌朝、あかねはバネのように跳ね起きた。昨夜のお母さんの声が気になる。あれは隣の部屋からきこえた。夢でなければ。もしかして、お誕生日のプレゼントのことかもしれない。そう思うと、心が落ち着かなくなってくる。隣のベッドで眠りこんでいる弟の翔太が目を覚まさないように、ゆっくりとベッドから下りて、そっと部屋を出た。
 隣の部屋の前に立って、少し迷って・・・

0

ガラス細工のロザリオ

15/05/07 コメント:0件 ちほ 閲覧数:857

 セロンは、ミッシュア大教会縁の小さな教会の、前から三列目の会衆席につき、組んだ手を額にあてていた。閉じられた目の奥に、輝く光が見えた。それは幸せの構図で、いつでも愛する人と共にいられた彼の記憶。幼い頃から一瞬なりとも忘れずにいた彼女への想い。二人で一緒に生きようと強く願えば、きっと運命は悪くない方向に動いてくれる。今は、ただ神にそう願う。
「……時間切れです、セロン様」
 この奇妙な・・・

0

むくむくぶらざーず

15/04/30 コメント:0件 ちほ 閲覧数:913

 秋の動物大運動会の華といえば、子ブタによる『かけっこ競争』でした。そう、子ブタが走るだけ。いえいえ、この競技はそれだけで終わるものではなかったのです。他の競技では禁じられている賭けが許されていますし、何より賞品が豪華なんですよ。だから、見る側も夢中になりますし、子ブタ達にとっても力が入ります。なんでも代々主催者が子ブタ好きだそうで、他の動物たちは(あぁ、自分も子ブタに生まれていたら……)と溜息ま・・・

1

ユウジが通学できない理由

15/03/26 コメント:2件 ちほ 閲覧数:937

 昨日から学校のテスト期間に突入だった。テスト期間は五日続くが、ユウジはもう三日も前から学校に現れていない。心配なので彼を訪ねることにした。実は以前にも同じようなことがあり、親友である僕が訪ねたことで、彼は復帰してくれた。以前学校へ来なくなった理由は……馬鹿馬鹿しくて語れないが、今回も悪い予感がする。
 古いアパートの201号室で、彼は僕のことを待っていた。僕が来るのを感じたらしい。彼の両親・・・

2

罪と罰

15/03/24 コメント:4件 ちほ 閲覧数:1052

 大陸一広大な大教会は、外界から切り離されている。周囲を海で囲まれ、一つきりの石橋の果てに教会への扉も一つだけ。祈りを必要とする者がくぐり、そして……
「なんだよ! 尻を蹴飛ばすんじゃねぇ!」
 おれみたいな罪人が大教会に落とされる。罪人と呼ばれるのに年齢は関係なく、実際、おれは子どもの部類に入る。
 大扉が、振り返ったおれの目の前でガタンと閉まった。もう戻れない。一か月後にはま・・・

1

15/03/09 コメント:2件 ちほ 閲覧数:873

 セピア色をした十両編成の電車から降りると、途端に真夏の風に包まれる。静波は両手に持つ学生鞄をぎゅっと握りしめた。学校帰りである。
 親友の月帆が、不安げな顔で教室を飛び出したのはつい先程のことだった。次兄が倒れたのだという。そんな彼に、クラス中の生徒はまたか、と眉をひそめたが、月帆を庇う言葉を、臆病な静波は持っていなかった。月帆の親友なのに情けなくなる。
 静波は、鞄の持ち手を再び握・・・

2

ゆかり

15/03/03 コメント:5件 ちほ 閲覧数:1082

 ほんの冒険心から近づく者は誰もいない旧図書室に向かってしまった。一歩足を踏み入れる。床に積もった埃がふわりと舞い上がり、私は少し咳き込んだ。少女のか細い声がした。その声に導かれるように、図書室の奥へ奥へと向かう。壊れかけた本棚の前で足が止まる。私の右手は一冊の本を抜いていた。表紙の埃を手で払う。『秘密の花園』だった。ページを繰り、真ん中辺りで四つ折りにされた古い手紙を見つけた。
≪わたしは・・・

1

「カフェ渋谷」のある一日

15/02/20 コメント:2件 ちほ 閲覧数:920

「まったく! 渋谷に入るためだけのパスポートは、さすがに高いと思うわ、ディズニー・スカイじゃあるまいし! 大財閥のお嬢様をしている私だってそう思うもの」
「でも、君のお父さんは君にその特別レアなパスポートを与えている。さすがだなぁ。そして、君は毎日ここに通っている」
「でも、さすがに店ごとの入場券は無理よ。ここ『カフェ渋谷』は無料だけど、他の店なんかは『109』も『オーチャードホール』・・・

0

レクイエム

15/01/24 コメント:0件 ちほ 閲覧数:760

 誰もいない真夜中の商店街を、冬姫は制服姿で歩いていた。その表情は真剣そのものだった。冬の冷たい風が、彼女のスカートの裾を揺らす。ふと、自分を呼んでいる声が聞こえた。そのよく知っている声に、彼女は駆け足になる。
「陽斗……陽斗!」
 夜の闇を切り裂くほどの二つの金色の光をぶつけられても、冬姫はもしかして彼が近くにいるのではないかと思い、彼の名を呼んで走った。
 気がついたら冬姫は・・・

1

三本の鉛筆は……?

14/12/22 コメント:2件 ちほ 閲覧数:1350

 緑色の鉛筆のHBと書かれたその横に、クリス・シュナイダーは星の印を彫刻刀で刻みつけていた。壁に押しつけられた右耳からは、隣室のシュルツ兄弟の喧嘩の様子がこちらに聞こえていた。
 ここグリーンゲート音楽院には世界各国から音楽の才能のある少年少女たちが集められ、専門的に学ぶ彼らは寄宿舎生活をしていた。クリスマス休暇にはみんな自分の国に帰る。帰れない事情のある僅かな子どもたちだけが残っている。<・・・

1

汽笛が鳴るまで

14/10/20 コメント:2件 ちほ 閲覧数:856

 薄汚れた煉瓦造りの小さな駅の隅には、一面ガラス張りの小さな図書館があった。そこにはダルマストーブが設置されてあり、この季節には有り難い。読書家の月帆にとっては、これ以上素晴らしい駅は存在しなかった。
 彼は、ふと銀の懐中時計を懐から取り出し、時間を確かめる。学校からもらった入学祝いの懐中時計だ。
「遅いな」
 彼は親友を待っていた。
 暇つぶしに、本棚に収められた様々な背・・・

  1. 1
ログイン