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滝沢朱音さん

♦️第2回ショートショート大賞・優秀賞 http://shortshortawards.com/results-2017/ ♦️『時空モノガタリ文学賞作品集#零』(書き下ろし含む3作掲載) https://www.amazon.co.jp/gp/product/4908952000/ ♦️時空モノガタリ入賞作「このP−スペックを、唯、きみに。」幻冬舎パピルス掲載 http://www.g-papyrus.jp/backnumber59.html ♦️Twitter @akanestor ♦️作品添付画像:『写真素材 足成』

出没地 京都
趣味 音楽
職業 画面越しにサポートする仕事
性別 女性
将来の夢 作家として在りたい
座右の銘 http://akanestory.blog.fc2.com/

投稿済みの記事一覧

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ナツメグには毒がある。

17/08/14 コメント:0件 滝沢朱音 閲覧数:254

 赤ん坊を見た母は、「この顔立ちは間違いなく榊家の血筋だわ!」 と相好を崩した。父も「君にそっくりだ」と頷く。二人ともご名答。だってこの子は、母、本人なのだから。
 腕の中で眠る赤子。僕はその無垢な笑顔を愛おしく感じることができた。こんな僕にでも人を愛せるのだ。

 人間はその受精卵のスペアを胎内に秘めて十月十日を過ごし、それを臍帯、いわゆる臍の緒に排出してから誕生する。そうわか・・・

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誕生日を覚えてる。でも、伝えるすべもない。

17/07/31 コメント:3件 滝沢朱音 閲覧数:296

 古びた誕生日占いの本をめくる。三六五日それぞれの頁にはあちこちに名前が記されていて、どれも旅の途中で会った友達≠フはずだけど、正直あまり覚えていない。だけど今日、八月三十一日の頁だけは別だ。
 航くん――旅の途中で私の誕生日を尋ねてくれたのは、彼だけだった。

 転校生として紹介されるとき、いつも私は無愛想を演じた。あの夏の日もそうで、チャイムが鳴ると私は周囲に構うことなく鞄・・・

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アラートの街、未完のレクイエム

17/06/19 コメント:3件 滝沢朱音 閲覧数:367

 校門にたどり着いたとき、私は舌打ちした。時間がないけど家に戻らなきゃ。だってイヤーポッドをつけ忘れてきてしまったんだもの。耳に手をやり立ちつくしていると、同じクラスの男子が話しかけてきた。
「もしかしてポッド忘れた? スペア貸してやるよ。君も響の新曲、ダウンロードしたんだろ?」
「うん!」
 思わず二人で顔を見合わせ、微笑んだ。
 響って、私たち十代にとってのカリスマミュ・・・

2

1985年のバニラ・ボーイ

17/05/08 コメント:2件 滝沢朱音 閲覧数:355

 スイーツという呼称さえなかったあの頃。

「カブトムシのにおいがする」
 私がそう言った途端、初めての席替えでざわめいていた教室が静まった。周囲はなぜか目を背ける。どうやら私の隣席になった男子を気遣ってのことらしい。不自然な沈黙の中心にいるその男子――林君は、携帯用エチケットブラシの鏡を覗き込み、髪型をチェックしている。幸い聞こえていなかったようだ。
 カブトムシ好きな弟・・・

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遠い未来のトロイメライ。

17/04/24 コメント:10件 滝沢朱音 閲覧数:764

 銀色の車体は、まるで息継ぎをするかのように浮上した。窓から春の自然光が注がれ、車内の照明が消える。都心のターミナルからしばらく地面の下を這い進むこの路線は、郊外で闇を抜け、地上駅を北へと辿る。恵はほっと一息ついた。
『デパートにでも行っておいで。孝は俺が見ておくから』
 朝、珍しく夫がかけてくれた言葉を反芻する。育児疲れの妻を心配したのだろう。その優しさに甘え、恵は久しぶりにきちんと・・・

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この唯一の赤で、あなたと私を繋いでいてほしい。

16/12/19 コメント:3件 滝沢朱音 閲覧数:429

「小雪には、赤が似合うね。俺が一番好きな色だ」
 あなたはそう言って微笑み、真新しい首輪を私に見せた。その強烈な革の匂いにむせて鼻を鳴らすと、あなたは満足げに頷き、早速私の首に巻こうとした。
 逃げるなら今――でも、もう駄目だ。私は飼育されてしまう。あなたという唯一の存在に。

「他のみんなも、私と同じように暮らしているの?」
 最上階のスイートルームで、私の頭を撫で・・・

3

赤薔薇のユリア

16/12/05 コメント:2件 滝沢朱音 閲覧数:512

 私の左腕にたえず灯る赤い光は、夜明けとともに光量を増す。
「朝でございますよ、ユリアさま」
 女奴隷が枕元に立つと、私の顔が赤く灯った。ほんのりとした温かみでそれとわかる。彼女が窓を開けようと背中を向けると、その温かみも消えた。
 食堂に降りていくと、家族は皆すでに食卓に着いていた。
「おはようごさいます」
 今度は顔が一気にほてる。なぜか胸元にも赤い光が一つ。目線・・・

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©「アイソカイム」製作委員会

16/03/28 コメント:9件 滝沢朱音 閲覧数:1182

 とっておきの呪文は「アイソカイム」。最悪な夜にしか使わない魔法。だって、効力が薄れてしまうといけないから。

「映画?」
 素っ頓狂な声を発した僕の唇を、玲奈は指一本で制した。
「大声出さないで。私がバラしたって知られたらたいへん!」
 話があると呼び出された玲奈の部屋には、相変わらず本ばかりが並んでいる。とびきり頭が良くて気も強い彼女は、中二のくせに生徒会長になっ・・・

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その灰が轍(わだち)に降り積もるまで

16/02/29 コメント:8件 滝沢朱音 閲覧数:1219

 幽霊が去ったあとには、塩をうんと濃く溶かした水を作ることにした。それを鉄階段の錆びた部分にかける。お清めにもなるし、塩分は錆を進行させるらしいから一石二鳥。ロシアン・ルーレットだ。

「鉄は、錆びたほうがむしろ安定する。そのままだと極めて不安定な物質なんだ」
 黒沢はそう言いながら、黒板に『酸化鉄』と書く。あたしは最前列の席に座りながらノートも取らず上の空で、右手は頬杖をつき、・・・

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罠尾軒の人々。

16/01/17 コメント:16件 滝沢朱音 閲覧数:2236

 灰次郎は、今日も天秤棒をかつぐ。
 桶には「猫、買い〼(ます)」の札。にゃうにゃうと騒がしい蓋の隙間からは、かわいい手が交互にのぞく。年の瀬は仕入れ時だ。
 人目を避けて近づく着流し姿の男は、憔悴した顔をしていた。まだ若そうな三毛猫が、男の懐からちょこんと顔を出している。
「文猫(ふみねこ)ですか?」
 灰次郎が聞くと、男は首を横に振った。
「では、あ・・・

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スネヲノキモチ。

15/10/07 コメント:5件 滝沢朱音 閲覧数:988

この世界は果てしなく平らで、一生この平面から抜け出せないと知っていながらも、ボクはその果てを目指して走ったのだ、全力で。
 だって、君なら耐えられるかい? 愛しい人を目の前で奪われることに。

 主役として甘やかされたあのメガネは、設定(この世界の絶対的なルールだ)によると、グズでのろまでどうしようもない男だけど、本当は違う。
「やってらんねーな、永遠の小学生なんて」

9

愛妻と、祭のあとに。

15/09/07 コメント:13件 滝沢朱音 閲覧数:1443

 それは、剣先が触れ合うか否かの瞬間、相手の力量を見抜いてしまうようなもの。

 転校してきたばかりの君が軽音楽部の見学に来たとき、僕がギターをわずかに鳴らしただけで、君は落胆したはずだ。
 なのに僕ときたら見せ場はこれからとばかり、いかにも上級者な顔で、わざとハーモニクス音でチューニングしていたのだから。
「いつからドラムやってるの?」
 部長でもあるベースが尋ねる・・・

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シークレット・ガーデン、シークレット・プロジェクト。

15/08/24 コメント:9件 滝沢朱音 閲覧数:1391

 時折彼は、聖飢魔U(せいきまつ)というバンドについてつぶやいていた。
 プロフィールで「地獄からやってきた文学青年」と名乗ったのは、有名な文学作品のタイトルからだけでなく、その聖飢魔Uにもかけていたのかもしれない。

 先ごろ、芥川賞を人気漫才師とW受賞した小説家が、デーモン閣下の世を忍ぶ仮の姿=i悪魔風のメイク)で受賞の電話を受けていたり。
 今をときめく女性脳科学者・・・

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今はまだ、痛くなく居たい。

15/04/17 コメント:10件 滝沢朱音 閲覧数:1247

 『能楽堂』に機種変更した。
 二年縛りって結構長いし、シンプルな和テイストのほうが飽きないと思って……というのは後付けで、本当の理由はセールで破格値だったから。それと、あえて古風なHOMEを選ぶ私って素敵、みんなに褒めてもらいたい。そんなあざとい気持ちもあったかもしれない。
 設置当日、私の個室を訪れたイケメンの宅配員は、テーブルの上の『女子高生の部屋(姫系)』を手際よく解体した。い・・・

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夕学路。

15/04/06 コメント:6件 滝沢朱音 閲覧数:1119

 僕の通学路は、およそ三キロの山道だった。

 小学校低学年の子どもにとっては、酷な道だ。現代ならとても一人では通わせないだろうが、今よりのどかな時代の片田舎、当然のように僕はその道を毎日歩かされていた。

 通学路のほとんどは、舗装もされていない土のままの山道で、それでもいちおう通学路であることを示すためか、中央に白線が引かれていた。

 放課後少し遊びすぎる・・・

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OTHERS:EXTRA

15/03/23 コメント:7件 滝沢朱音 閲覧数:1109

――友だちのIDを入力して検索
――追加


見つけたーよろしくね

検索してくれてありがと!

一緒のクラスになったことなかったね。

うん、これからいっぱい話そ?

みらるって呼んでいい?

もちろんー
 ・
 ・
 ・
みらるの声ってすごい。卒業式で実感した。みんなざわめいたもんね、み・・・

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SHIBUYAにSAKURA、また咲くらむ。

15/03/05 コメント:6件 滝沢朱音 閲覧数:1148

 今宵は花見の宴。また春が来たか。
 毎年このときだけ現(うつ)し世をかいま見ることができるのは、祭りに私の名が残っているせいだろう。お館さまが私のために植えてくださった桜は、今年も見事に咲いている。
 桜の精霊として姿が見えないのをいいことに、私は境内を歩きまわる。八幡宮の外には出られないが、八百有余年後の世の空気を楽しむには十分だ。
 こうして鎧(よろい)をまとうのなら、御堂・・・

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歸(とつぐ)―ある印判師の初恋―

15/02/22 コメント:10件 滝沢朱音 閲覧数:1872

 左平が座敷に上がると、既に座っていた僧衣の男は居住まいを正し礼をした。
「恐れ多い……お顔をお上げ下さいませ、沢彦(たくげん)様」
 沢彦宗恩。昇竜の勢いの武将・織田信長の師である彼は、かつて京の妙心寺にいた僧だ。印章を作る篆刻(てんこく)職人の左平とは、若き日に友誼を結んだ仲であった。
 その沢彦が都を去って早や幾年月。ここ尾張へ招かれた左平は、歴史に名高い『天下布武』印の作・・・

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アダムとイブが愛した音楽は

15/02/07 コメント:7件 滝沢朱音 閲覧数:1153

――この地に堕ちたアダムとイブは、裸で、長髪で、小箱を一つ手にしていたという。そんな言い伝えを知ってるかい?

「サリってば、またクラシック聴いてる」
 僕の部屋に入ってきたアマは、BGMに顔をしかめた。僕には耳馴染みのよい定番曲だが、彼女には不快らしい。
「いいよ、クラシック。聴けば聴くほど深いし、飽きないよ」
「私は嫌い。古くさいし、重っ苦しいし」
 アマは・・・

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カラトムライ。

15/01/21 コメント:4件 滝沢朱音 閲覧数:976

 沈む陽を追うように、ゆっくりと山に墜ちてゆく幾筋もの光。
「あ、あれってUFO? いや、隕石かも!」
 興奮した僕が指し示す方角を眺めた少女は、助手席でククッと笑った。
「あれ、ただの飛行機雲だよー」
「飛行機雲……?」
「夕陽に照らされて、あんなふうに光るの。知らないと確かに驚くかもね、近くに空港もないし」
 そう、僕は今日、遠方から車を飛ばしてきたのだ。空・・・

4

獏の棲む、その部屋は。

15/01/13 コメント:6件 滝沢朱音 閲覧数:1095

――私は獏。悪い夢を食べるという、獏。

 ここに住んで、もうどれくらいになるだろうか。七室並ぶ古くて小さな集合住宅。私はその中央の部屋に長年居座り続けている。
 巷でここが「出世ハイツ」と呼ばれているのは、実は私のおかげであることを誰も知りはしない。このハイツを出て行く者はね、みんな誇らしげな顔をしてるのさ。

 ベストセラーを連発し続けているAっていう作家、知って・・・

8

このP−スペックを、唯、きみに。

14/12/29 コメント:14件 滝沢朱音 閲覧数:2410

 はずむ息を整えた。目の前には、まさにホームに飛び込もうとする僕。お気に入りのネオンカラーのダウンジャケットが軌跡を描き、ひらりと線路に舞い降りる。そこで泣いている幼い女の子を拾い上げ、ホームに押し上げた瞬間、背後から迫るライト。けたたましい警告音。ブレーキの摩擦音。そして、「びゃっ」という耳障りの悪い効果音。
(今、死んだ)
 自覚するより一瞬早く、透明だった自分の両手にほわんと色が・・・

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不時着カタログ。

14/12/15 コメント:5件 滝沢朱音 閲覧数:987

佐登子、僕は君に謝らなくてはならない。
あの型録は、同じ時代、同じ世界に生きる僕が、終生送り続けたものであったことを。

おそらく君は、不思議に思っていたに違いない。
なぜ毎年、縁もゆかりもない酒造会社の型録が、こうも律儀に送られ続けるのか。
酒屋でもない、ごく普通の家庭の主婦である君に。

しかし、気付くはずもあるまい。
酒造会社は義父の姓を冠して・・・

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絡糸嬢の落日。

14/12/01 コメント:8件 滝沢朱音 閲覧数:1626

久しぶりだね、直接会うの。例の新彼、その後どう? 今もエロ写メほしいとかって言う? ……へー、すごい、よく送れるね。アタシには無理だ。あ、悪口じゃないって。彼氏宛とはいえ、勇気あるなってだけ。まぁラブラブってことよね、いいじゃん、幸せそうで。

あ、気を遣わせてごめん。うん、そう。別れてはないんだけど、たぶんもう駄目。今日はそれ、ちょっと聞いてほしくてさ。

――最初はさ、・・・

5

Tapestry -季(とき)にあひたる彩を-

14/11/17 コメント:8件 滝沢朱音 閲覧数:1525

「ああ、美しいね」
北の対一面に広げていた彩とりどりの布を、急にお出ましのこの邸の主は褒めそやした。
「秋を染めるという竜田姫も、かくや見事に仕上げられまい」
「恐れ多うございます」
女神に例えられて私は恐縮する。夫は絞り染めの一枚を手に取った。
「これはどのようにして作ったの?」
「先に糸で模様を縫って絞り、それから染めるのですわ。そうしてほどくとご覧のように・・・

3

Life in the Fast Lane

14/11/01 コメント:5件 滝沢朱音 閲覧数:1169

彼はいつも醒めていた。哀しいほどに、全ての事象に――

「既視感って、知ってる?」
そう尋ねられて、私は頷いた。
「デジャブ、だっけ。どこかで見たことがあるっていう感覚のことでしょ」
彼にとっての帰り道、私には遠回りの道のり。徒歩通学の彼にあわせ、自転車を押して歩く対価に得られる恋人気分を、私は手放せないでいた。
「もしさ、どんなことにも既視感を覚えながら生きな・・・

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デジタルモグラ。

14/10/20 コメント:4件 滝沢朱音 閲覧数:1017

――扉の向こうに立っていたのは、例年と違って若い女性だった。

『即日届けます。愛さえも――』
そんなCMで有名なネットスーパーでバイトを始めたのは、大学に入った年の夏。24時間対応をうたうその会社は、夜から早朝にかけての顧客サポートの時給が極めて高く、竜太は募集に飛びついた。
しかし、パソコンが趣味な上に人との直接の関わりが絶望的に苦手な彼にとって、この仕事はあまりにも水・・・

3

夏の終わり、かそけき羽音は。

14/10/06 コメント:5件 滝沢朱音 閲覧数:1301

「やるね、侑くん」
 店を出たとたんに冷やかすヨッさん。
「わかってんだろ、美羽ちゃんのこと。ありゃどう見ても、侑くんにベタ惚れだぁ」
 ニカッ。黄ばんだガタガタの歯が年齢よりもさらに彼を老けてみせている。
「……んなことないっすよ」
 俺は「木村たたみ店」と書かれた軽トラの運転席に座り、エンジンをかけた。助手席に滑り込んだヨッさんはなおも続ける。
「美人てわけ・・・

5

さよならアクセス。さよならメモリーズ。

14/09/15 コメント:7件 滝沢朱音 閲覧数:1109

ARROWS A 202F。
この英数字の羅列に、今日も見守られて――

「え、なんで? 意味わかんない。だって藍のほうだよね、フられたの」
美久が無神経に言い放つ。
「そんな毎日チェックするかなあ? 自分がフッた元カノのブログなんて」
(だから相談してんじゃん)
彼女が口さがないのはいつものことだ。
「……でしょ。しかも私、全然ブログ更新してないの・・・

5

此処ではない何処かへと、駆け抜けて。

14/09/08 コメント:8件 滝沢朱音 閲覧数:1308

――闇の中、廊下の唸り声で目が覚めた。

「……もう去(い)ぬる。もう去ぬるんよ」
(まただ)
チィィッ。かなり下品な音で舌打ちしてしまってから、美琴はそんな自分を恥じた。時刻は2時すぎ。朝が早い父は二階で熟睡しているだろうし、看護師の母は夜勤。自分しかいない。
「ばあちゃん」
ドアを開けてそっと声を掛けると、小さな影は玄関を向いたままで言った。
「わし、・・・

2

Last Flowers

14/08/25 コメント:6件 滝沢朱音 閲覧数:963

――私の涙には、かつて、魔法の力があった。

涙の玉を線香花火のように調節しながら、ゆっくり顔を上げる。
「美月に泣かれると弱いな」
父は幼い私の頭を撫でた。私はまだ涙を止めない。
「お父さま」
丸く膨れ上がった玉は瞳で最高に美しく輝いたあと、順調に頬を伝ったはずだ、たぶん。
「わかったよ。もう一晩だけ、な」
腑抜けた顔で私を見つめる父に、母はたたみ・・・

3

断髪式。さよならなんだ。ひそやかに。

14/07/23 コメント:7件 滝沢朱音 閲覧数:2073

――違う。
――手が覚えているの。

「まるで別の人に抱かれてるみたい」
素直にそう囁いたら、男は苦笑した。
「言うかな、そういうこと」
「だって」
両手を伸ばし、彼の髪に触れる。短く苅られてしまったその毛は、あたしの手のひらでちくちくと嫌な感じに主張する。
「何。違う奴とやってるようで、興奮するって?」
「……」
男の長い髪を下から掻き・・・

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『私は夜に光る』

14/07/17 コメント:6件 滝沢朱音 閲覧数:1010

――何を見ているのかな。空?

そのトナカイは四本足で立ち、胸をぐっと反らせて上を見上げている。体は木でできていて、半透明なミルク色の立派な角はずいぶんと重たそうだ。
僕も真似して、のけぞるように上を見た。でもここはただのちっちゃなお店。古ぼけた天井が見えるだけ。
「気に入ったの?」
コクンと僕が頷くと、おばあさんは微笑んだ。
「君にあげるわ」
「えっ、い・・・

2

My Sacrifice

14/07/02 コメント:5件 滝沢朱音 閲覧数:927

僕は素知らぬ顔で、死体になった彼女を見つめた。目尻を伝うその涙は相変わらず美しかった――


「それ、興味ある?」
背後の声にあわてて僕は振り返った。
「あ、天野さん」
天野美月。話したことすらないこの同級生のフルネームを、僕は余裕で知っていた。この中学に入学してまもなく、僕は友達と一緒に別のクラスまで彼女を見にいったことがある。
有名な監督か誰かが言って・・・

2

Blazing Red

14/06/17 コメント:7件 滝沢朱音 閲覧数:1493

念願の車、BMW MINI Cooper。鮮やかなブレイジングレッドにブラックルーフ。この歳にして初めての新車だ。
俺は煙草を吸うふりで何度も家の外に出ては、少し離れた路上から愛車を眺めうっとりと悦に入る。ダークな背景に映えるメタリックな赤が美しい。
家を建てる際、外観だけは俺の思い通りにさせてくれと妻に頼んだ。濃グレーの外壁、焦げ茶の扉や窓。背高な狭小住宅だがモダンに見える。庭を兼ね・・・

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Silent Stone

14/06/03 コメント:7件 滝沢朱音 閲覧数:1162

「息子さんがね、痛い痛いってのたうちまわるから、救急車呼んだんだって。浜本さん」
「ふんふん」
「どんな病気かと思ったら、胆嚢結石だって」
「ああ、胆石か。激痛らしいな」
父が咥えたトーストに、すかさず目玉焼きをのせる母。見事な連携プレー。
「大きな石なのに、今まで何の症状もなかったって。サイレント・ストーンって言うらしいわ」
「ビル・ワイマンか、元ストーンズの・・・

2

『認証済みアカウント』になる方法。

14/05/19 コメント:6件 滝沢朱音 閲覧数:1196

俺の名を騙ってツイートしているアカウントがあると知ったのは、全国ツアーに出る三日前。
連日のリハーサルで疲れ気味の俺は、スタッフが渡すスマホ画面を不機嫌に見つめた。

――
蓮音@lennon***
ロックバンド・アイリーンのギターやってます。
――

「何これ、もろ俺じゃん。プロフ写真まで」
「公式の認証済みアカウントのマークもないんですが、・・・

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引換券の王子様

14/04/29 コメント:2件 滝沢朱音 閲覧数:1046

華やかな顔立ちにふさわしく、佳澄は恋多き乙女として生まれついた。

小さい頃から恋に積極的だった彼女は、小学校に上がってからは毎年クラス替えのたびに、激しい時は席替えごとに、好きな男の子を変えた。

学年が上がりますますマセた口ぶりで恋を語る彼女に、母親は心配を募らせるあまり、何度も何度もこんなことを言い聞かせるようになった。

「いい? 佳澄。“赤ちゃんができ・・・

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Bloody Mary

14/04/26 コメント:0件 滝沢朱音 閲覧数:1063

「多分、あたしを抱いたらもう満足なんでしょう」

「…………」

「男としての刻印を残したことで」

「…………」

「あなたはさらりとおうちに帰ってゆくんでしょう」

「…………」

「ケーキの箱を手に、やさしい笑顔で」

「…………」


――男の左手の薬指には、指輪が光っていた。女にはなかっ・・・

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