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  2. 第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】

第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】

今回のテーマは【平和】です。

恋愛・ちょっといい話・伝説・不思議な話など、
小説・エッセイ等の散文であれば
スタイルは問いません。
体験や事実に基づく必要もありません。

時空モノガタリ賞発表日:2016/12/05

※同一投稿者からのコンテストページへの投稿作品数は2〜3作品程度とさせていただきます。
※R18的な暴力表現・性描写はお控えください。
※二次創作品の投稿はご遠慮ください。
※「極端に短く創作性のない作品」「サイト運営上不適切な内容の作品」は削除対象となりますのでご了承ください。

ステータス 終了
コンテストカテゴリ
投稿期日 2016/10/10〜2016/11/07
投稿数 94 件
賞金 時空モノガタリ文学賞 5000円 ※複数受賞の場合あり
投稿上限文字数 2000
最大投稿数
総評  今回はとても中身が濃いコンテストだったと思います。「平和」というテーマは、社会的にも個人にとってもやはり永遠の課題であり、考える機会の多いものなのでしょう。思った以上に様々な角度からの切り口があり、しかも同時にリアリティも持ち合わせた作品が多く、素晴らしかったと思います。また前回と同じく、最終選考以上の作品には新しい作者の作品が多く入り、そういう意味でも今までと一味違うコンテストだったと思います。  今回は、内容的なかぶりはあまり多くなかったですが、強いてあげれば人間が全ていなくなった後に平和が訪れるという結末と、麻雀のパイを用いた作がやや多かったです。他に少し気になった点を挙げますと、(これは「平和」というテーマの抽象性によると思うのですが)抽象的なままの作が比較的多かったことですね。これは様々な作品を通じて感じていたことでもあるのですが、抽象的なテーマに対しては具体的な描写を、逆に具体的なテーマには抽象的・俯瞰的な視点をどこかに入れ込むと、広がりと深みが出る傾向があると思います。このあたりはちょうど料理のスパイスや隠し味と同じようなものなのではないでしょうか。  最終選考作品の「【エッセイ】帰る場所」は、ふと目にした日本赤軍の実家から重層的に広がっていく観察が鋭く深みがありましたし、エッセイというスタイルも新鮮です。「不透明人間」は透明人間を可視化するという実際とは逆のプロセスにより、現実をあぶり出しているのが良かったです。「苦し紛れ」は、意外な方法で平和を導こうとする方法が面白いですね。「花と雪の幻想」は、身勝手な民に翻弄される英雄の姿から、戦争の虚しさを感じました。「平和と天気予報」は興味深い史実が書かれ、戦争と平和について改めて考えさせられます。  残念ながら選考に残らなかった作品中にも、示唆に富む面白い作品が多かったです。(いつもそうなのですが)特に内容の濃いコンテストでは、ある程度の数に絞らなければいけないのは、なかなか心苦しいものがありますね。また次のコンテストも楽しみにしております。

入賞した作品

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平和の小部屋

16/11/04 コメント:11件 待井小雨

 学校から家に帰るなり、酒で顔を赤くした父親にいつもの小部屋に放り込まれた。階段の上、小窓とテレビしかない部屋だ。無抵抗のまま縄で縛られ、足がつかないよう吊るされる。
 父は僕の顔近くで酒臭い息をいっぱいに吐きながら、ものすごい剣幕で怒鳴りたてた。
「ニュースを見てみろ!」
 父の太い指が指すテレビの中では、日常の一コマのように事故や事件のニュースが流れていた。
「これは何・・・

3

寡婦とヒーロー

16/11/02 コメント:4件 秋 ひのこ

 また、地を揺るがす音と共に、食器棚が小刻みに揺れた。
 音はうんと遠い。多分、山のずっと向こうだろう。ネリ子はちらりと窓の外をみやり、再び手元の刺繍に戻る。
 1日中つけっ放しのテレビが、緊急速報のお知らせ音を発する。ニュースに切り替わらず字幕で済ませる程度なら、たいしたことはない。ネリ子は黄色い糸で細かく花を縫っていく。
<『怪獣』が東京湾沖100kmに出没。『ヒーロー』が応・・・

3

悪の檻

16/11/01 コメント:2件 佐川恭一

《安全運転を心がけます》。そう書かれたプレートが暗い車内で白く光っている。ラジオのニュースが小さなボリュームで流れている。タクシードライバーの名はイシザキといった。目的地を告げた後、僕は気まずさとは遠く離れた沈黙の中で、窓から夜の街並みを心地良く眺めていたのだが、イシザキのかすれた声がそれを切り裂いた。
「お客さん、こんなに遅くまでお仕事ですか」
「ええ、まあ」
 おしゃべりなタ・・・

3

主(あるじ)が呼ぶので

16/10/29 コメント:2件 秋 ひのこ

 時計の針が午前0時を指す頃、犬が帰ってきた。と、思ったら、夫だった。
 夫が犬の姿で帰ってきた。
 「どうしたの、その」と言いかけて、言葉に詰まる。うん? と疲れた顔で見上げてくる夫は、どこをどう見ても、犬だ。
 ごはん? お風呂? と聞くと、「風呂」と返ってきた。
 夫のことを考えながら、夕飯を温めなおす。だが、それも長くは続かない。アノ声が私を呼ぶ。私は電子レンジに煮・・・

2

あの夏の香り

16/10/21 コメント:2件 かめかめ

 長崎には坂が多い。
 僕が通った中学校も坂の上にあった。あの日も僕は夏休みだというのに、息をきらして坂を駆け上がっていた。
 八月九日。長崎市内すべての学校で原爆記念日の平和教育が行われる。戦争の惨禍や現代にまで残る傷跡を写真や文章で見ていくのだ。毎年のことなのに休みに慣れてしまった僕は、うっかり寝過ごして、汗みずくで走っていた。始業時刻もとっくに過ぎた無人の校門にようやくたどり着い・・・

4

笑い金魚

16/10/10 コメント:2件 Fujiki

 夏の昼下がり、ガラスの水槽の中を金魚がふわふわと泳いでいる。南に面した窓から射しこむ光が水槽の中を明るく照らし、たえず口をカプカプと動かして笑い続ける金魚は揺らめくローソクの炎のように輝いて見える。開け放たれた窓から入ってくる心地良い風はかすかに潮の香りをはらんでいるものの、部屋から海は見えない。外に広がる景色は、住宅街に茫漠と連なるコンクリートの屋根と青空だけである。ひきこもり男はガラスを指先・・・

最終選考作品

5

花と雪の幻想

16/11/07 コメント:3件 宮下 倖

 幾重にも重なる灰色の雲から雪片が落ちてきた。勿体をつけたようにゆったりと降りてきては、目を細めて鈍色の空を見上げる男の肩で透き通っていく。薄い外套の襟を掻き合わせ、男は真っ白な息を太く吐き出した。
 冬を越すためには少々厳しい場所かもしれない。無意識に死に近くなる選択をしたようにも思えるし、ここで乗り切れれば今までとは違う春を迎えられそうな気もした。だが越冬のための充分な準備も蓄えもない。・・・

4

平和と天気予報

16/10/28 コメント:6件 あずみの白馬

 天気予報は、雨が降りそうだから今日は傘をさして行こう、とか、あるいは台風などに備えたり(会社や学校が休みにならないかと祈ったり?)するのに必要な情報だ。

 既に知っている方にとっては、いささか退屈に思えるかもしれないが、少しでも目を通していただけたら、筆者としてはこの上ない喜びである。

 ***

――戦時中は、天気予報が無かった。

 正確に・・・

2

苦し紛れ

16/10/22 コメント:2件 林一

 地球上空に突如、巨大なUFOが現れた。UFOに乗る宇宙人から全人類に向けて、テレパシーでメッセージが送られた。
「我々はこの星を奪うためにやってきた。お前達には死んでもらう。抵抗したって無駄だ。我々の科学力はお前達よりも圧倒的に進んでいる。試しにミサイルでも打ちこんでみたらどうだ。しばらくこのまま待っててやろう。まあ無駄だろうがな」
 この緊急事態に、世界中の権力者達が集合した。話し・・・

7

【エッセイ】 帰る場所

16/10/17 コメント:6件 野々小花

 結婚してすぐ、新築のマンションを購入した。常駐の管理人が共用部分の掃除や中庭の草木の手入れをしてくれるおかげで、エントランスはいつもぴかぴかだった。
 ゴミはもちろん、落ち葉や、枯れた草花を目にすることもなく、生活の匂いを感じないマンションであった。
 気づくと、散歩が日課になっていた。知らない町を歩くのが楽しかったのだ。駅へ行く近道を見つけたときは嬉しかったし、昔ながらの商店街や古・・・

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不透明人間

16/10/15 コメント:0件 ひーろ

「博士、ついに完成ですね」
「ふむ。ついになあ」
「博士ったら、珍しく嬉しそうな声をしていますね」
「ふむふむ。これが本当に成功であれば、世界で初めて、人間の可視化に成功することになるのだからな」

 彼らが研究に研究を重ねた末に完成させたのは、人間を可視化させるという“不透明人間の薬”である。本来、人間が不可視透明であることは自明の理であり、覆ることのない人類の常識・・・

投稿済みの記事一覧

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クリスマス

16/11/08 コメント:0件 テツ0425

 午前6時、アキラは銃声の音で目が覚めた。一瞬寝ぼけたように目をこすった後の動きは素早かった。隣で寝ていた相棒のヤスとテツを叩き起こすと、銃を抱え、ヘルメットをかぶってテントの外に飛び出した。
 銃弾は東京芸術劇場の方からひっきりなしに飛んでくる。
「ちくしょう、なんでこんな朝っぱらからドンパチやらなきゃいけないんだ」
アキラが吐き捨てるように言うと、ヤスも「まだ昨日の酒が残って・・・

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やさしい止めの刺し方

16/11/07 コメント:0件 石蕗亮

 その男の戦いはとても静かなものだった。
気配は殺さずあくまで平静を装う。
勘の鋭い相手ならば気配を消したに途端こちらの存在がバレてしまうからだ。
かといって熱くなってもいけない。
確実に仕留めるため、男は平静を保っていた。
この相手を許すつもりも見逃すつもりも絶対になかった。
それだけの恨みと理由を、この男なりにもっていた。
女、といえばそれまでもかもし・・・

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平和という名の鬼

16/11/07 コメント:1件 石蕗亮

 ぎゃあーっ
 ぐぁああああー

 今日も地獄では鬼が亡者を責め苛む。
「この人でなしどもがー!」
鬼はそう叫びながら亡者を火に炙り、槍で突き刺し、刀で切り刻み、金棒で叩き潰す。
亡者はその責め苦から逃がれようと必死になる。
ある者はひたすら許しを請い謝り、ある者は逃亡をはかる。
どんなに泣き叫んでもどんなに責め苦を受けようとも、刑期が明けるまで責め・・・

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平和な走行

16/11/07 コメント:0件 むねすけ

 タクシーがメーターを止めて走りだした。法定速度を誤差の範囲内でオーバーしている。理知的犯人像。目的地の駅からはどんどんと離れていく。平和だった日常にひび割れが生じ、途端にバックミラーにぶら下げられた無垢なキューピー人形の笑顔も怖くなる。五秒以上目を合わせるな、ニヤリとするかもよ。と心の私が言う。
 あ、あのう、駅過ぎてますけど、の言葉がもうとっくに装填済みなのにヒキガネが見当たらない。

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ゆめみず、発注「平和」

16/11/07 コメント:0件 むねすけ

 泡の個数は一定で、プールの水面をプクプクと。
 監視役のサエコはデッキチェアに水着で時折タップを踏む真似。
 プールの中では夢水の潜夫、ヒイチとミズキが夢を誘発中。
 五分に一度、ムクーーっと上がってきては「ぷあああああああ」っと壊れた金管楽器のような音で息を継いでまた潜っていく。
 監視役にこれといった資格も能力も必要ないが、一つ挙げるなら、このホラー極まりない声にビビ・・・

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プーアル茶を飲みながら考えたこと

16/11/07 コメント:0件 ケイジロウ

 小さな川を見下ろす冷たいベンチに腰を下ろした僕は、ネクタイをゆるめ、煙草に火をつけた。冷たい灰色の川を5匹のカモがのんびりと泳いでいた。いや、「のんびりと」というのは僕が勝手に思っていることかもしれない。水面下で何が起こっているかここからでは確認できない。ただ、彼らが通った水面に、穏やかな線がのんびりと揺れているのは確かだった。
 僕は足元に転がっていた小石を拾い上げると、先頭のカモをめが・・・

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最後の平和

16/11/07 コメント:0件 

なんていい天気だ。窓から見える海も青く輝いている。私は髭をナイフで丁寧に剃りあげる。今日はだいじな日だ。身だしなみを整えねばならん。ピン、と二つの鼻の下のヒゲをつまみあげて、私は満足した。

イスにゆったりと腰かけ、朝食に取りかかる。今日はコーヒーとサラダとクロワッサン。それに卵焼きもついている。パンをゆっくりと口にふくむ。さくっ、軽い口ざわりとともにバターの豊かな風味が広がった。・・・

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野菜には、血の気を抑える効果

16/11/07 コメント:0件 にぽっくめいきんぐ

「たかいたかーい!」
「キャハハハ!」
 宙を舞う黄色いパジャマ姿の赤ん坊が落下してくる。11月だというのに半袖の、俺の腕に。

「たかいたかーい!」
「キャハハハ!」
 再び舞う息子。パンダ柄のよだれかけのマジックテープが外れ、畳に落ちる。息子の方は俺が受け止める。

「……意識が!」
 かつて存在した駄洒落を言った瞬間、俺の体の中で、スイッ・・・

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【 寓話 】神さまの実験

16/11/07 コメント:3件 泡沫恋歌

今この瞬間にも世界中のどこかで人々は争い血を流している。どんなに神さまに祈っても戦いのない世界などどこにもないのだ。
戦争が命をなくす破壊行為だと分かっていながら、いつまで経っても人間は平和な世界を築けないままでいる。

敵対している二つの種族のことを、天上から神さまが見ていた。
この種族は100年以上も前からずっと紛争が絶えたことがなく、人種の違いや宗教の違いなどでお互い・・・

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よるの爪跡

16/11/07 コメント:2件 そらの珊瑚

あたしは猫のトラミ。アメリカンショートヘア。銀色に黒のぐるぐる模様。ちょっと見は野生的に見えるかもしれないけど、こよなく平和を愛しています。飼い主のリエコさんとの暮らしは、静かで穏やかで、まさに平和そのもの。のんべんだらりと陽だまりを追いかけながら、秋の一日を寝そべり過ごすのは至福の時でした。
 それもあいつが来たことで、失われてしまったのです。
 ある日のこと。リエコさんが黒猫を伴・・・

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平和にまつわるとある愚話

16/11/07 コメント:0件 光石七

 昔々、ビッグバンが起こるよりも前のこと。そこには、今の宇宙とは別の宇宙が広がっていました。その宇宙の中に、今の地球によく似た惑星がありました。住人の姿も、動植物も、地球と似ていました。
 その星の人々は科学を発達させ、医学で病気を克服しながら、便利で豊かな生活を手にしていきました。しかし、人々がどうしても解決できない問題が一つありました。戦争です。その星の人類史は、そのまま戦争の歴史でもあ・・・

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世界人類が皆平和でありますように

16/11/07 コメント:0件 東屋千歳

 西の国と東の国の争いが止まなかった頃、一人の牧師の元に神様がやってきてこう言った。

 どちらかの国の勝利で争いを終わらせよう、どちらか選びなさい。

 牧師は迷いましたが、西の国の勝利を願いました。
 すると神様は西の国が勝利した後の未来を見せてくれました。
 西の国の人々は喜び、連日お祭りをして勝利を祝っていました。
 しかし、その背後では捕虜とした・・・

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さよならぼくのクマ

16/11/07 コメント:0件 奈尚

 澄んだ空気に星がきらめく、ある晴れた夜。一人の男が鼻歌を歌いながら帰宅した。
「お帰りなさい。ごきげんね」
 出迎えた妻が苦笑するくらい、男ははしゃいでいた。
「一つ、大きな契約を取りつけたんだ。上司も俺を褒めちぎってくれてさ。――和哉はどうした。もう寝たのか?」
 四歳になる息子の名前を呼ぶ。いつもならすぐ足にまとわりついてくるのに、今日は姿を見せようとしない。
・・・

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ろうそく島の祈り

16/11/06 コメント:4件 そらの珊瑚

 隣国との戦争が終わり、恋人のカイが帰還した。戦闘の最前線へ送られたと手紙で知っていたから、どんなに心配したことか。戦争に勝ったことよりも、カイが生きて帰ってきた方が嬉しかった。
 結婚し、幸せな家庭を築く。それが私の夢であり、カイもそうだと信じて疑わなかった。
 けれど、彼は変わってしまった。私とは結婚出来ないという。
「どうして?」
「ごめん。だけど、僕は誰とも結婚しな・・・

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無彩色の虹、昭和二十年八月十四日

16/11/06 コメント:8件 冬垣ひなた

≪昭和二十年≫

七月二十日以降、大阪市を含む18都道府県30都市に50発にも及ぶ原爆の模擬爆弾投下。

七月二十六日、米英、中華民国が、全日本軍の無条件降伏等を求めた「ポツダム宣言」を表明。

八月六日、広島市に原爆投下。

八月九日、ソ連対日参戦、長崎市に原爆投下。

八月十日、日本は国体護持の条件付きでポツダム宣言受諾を申し出る。<・・・

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老夫婦の日常

16/11/05 コメント:1件 欽ちゃん

優しく降り注ぐ日差しが縁側を包み込む
老夫婦に合わせるように空の雲はのんびりと流れていた
田舎の平和な老夫婦の日常

<物忘れ>
「ばあさん、あれはどこじゃったかのぉ」
「じいさん、メガネは手に持ってるでしょ」
「あぁそうかいそうかい」

「ばあさん、あれはどこにあるんじゃ」
「はいはい、テレビのリモコンは机の上にありますよ」
「あ・・・

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この世界

16/11/05 コメント:0件 OSM

 薫風が純白のカーテンを揺らしている。机に刻み付けられた毒々しいメッセージの数々に、私一人が途方に暮れている。眼差しが、笑い声が、痛い。震える手が花瓶に接触し、机から墜落した。
 破砕音。爆笑。嘔吐感。

+ + +

 プラットフォームの白線の上で立ち尽くしていた。
「跳べよ。ほら、早く」
「なにビビッてんだよ。情けねーな」
「さっさとやれよ、バー・・・

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塗り立てる

16/11/05 コメント:0件 OSM

 食堂で夕食を終えた生徒たちが続々と寮に戻ってくる。二階の西端に位置する一室のドアを潜ったのは、先頭から順に、イザベラ、アデル、シンシア、ヘレン。それに少し遅れて、エミリー。
 本日の講義は全て終了し、後は入浴して就寝するだけとあって、彼女たちはリラックスした表情を見せている。ただ一人、エミリーを除いては。
「エミリー」
 栗色の巻き毛を掻き上げ、ドアを背に佇む少女を肩越しに見や・・・

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石を詰める

16/11/05 コメント:0件 OSM

 物憂い昼下がり、フランシスとアルフレッドが川沿いの道をぶらぶらと歩いていると、前方から五・六歳の男児が歩いてくる。
「おいアルフ、見ろよ。男のガキだぜ」
 浮き立つ心を抑え切れない、といった表情と口吻でフランシス。
「探す手間が省けてよかったな、フランク」
 にやにやと笑いながらアルフレッド。
 立ちはだかる二人に行き当たり、男児の足が止まる。怯えた目が二人を見上げ・・・

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平和の定義

16/11/05 コメント:0件 ココア

 あぁ、平和だなと唐突に思うことがある。
 なんてことはない。退屈な授業の真っ最中や下校の時。食事中や風呂に入っている時。ふと、思うのだ。平和だな、と。

 平和の定義なんて人それぞれだ。戦争の反対が平和だと言う人もいれば、幸せを感じる瞬間こそが平和なのだと言う人もいる。
 斯くいう僕は、どうなのだろう。
 戦争なんてものはもちろん経験したことがない。だから戦争の反対・・・

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争いは二つから

16/11/04 コメント:0件 雪解

 寒空の下、私の吐く溜め息はとても白く、空もそれに呼応するように雪を降らしている。
 大学からの帰り道、交差点で若者達が叫んでいた。
「宇宙人に核をぶちこめ! 地球が支配される前に!」
 あの人達が騒いでいる理由は、月にあった。月面上に異星人の宇宙船が停まって、それから半年、だんまりを決め込んでいる。
 私は思う。異星人が強大な力を持っているなら、地球を統治してほしい。世界・・・

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ハトとばし

16/11/04 コメント:0件 有色 彩

 決まって毎朝、ハトを飛ばしている女性がいた。レンガの重なる家の、蔦に飾られた窓からそっと、両手でハトを包み、ふわりと風に乗せるように放す。ハトは決まって一瞬高度を下げ、そこから彼女が自身を放したときみたく、ふわりと上昇してぱたぱたと羽ばたき飛んでいく。僕はその様子を見ながら仕事へ出向く。彼女の顔はよく見えないが、その一連の動作はひどく美しかった。
 ある日、目まぐるしく次から次へ舞い込んで・・・

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ラブオアピース

16/11/04 コメント:0件 若早称平

 ある日突然戦争が終わった。僕が小学生の頃から続いていた隣国との戦争は「本日を持って終戦となります」というアナウンス一つで本当に終わってしまった。
 昨日まで殺せ殺せと狂ったように言っていた軍上層部は手のひらを返したように、速やかに部隊を解散するよう促してきた。僕達ほぼ最前線で戦っていた兵士はぎゅうぎゅうの電車で故郷の町へと帰らされることになった。数時間腕一本動かすこともままならない状態にも・・・

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ママの平和はボクらの不幸

16/11/04 コメント:2件 光石七

 ママが寝息を立て始めた。ボクは寝たふりをやめて、そっとベッドから抜け出した。忍び足で廊下に出る。
「ゴウ兄ちゃん……?」
 小声で呼ぶ。リビングにはいないようだ。キッチンに移動して、もう一度呼んでみた。
「ハヤト、ここだ」
 戸棚の陰からゴウ兄ちゃんが姿を見せた。
「ゴウ兄ちゃん……ごはん食べた?」
「食えるもん食った。心配すんな」
 ゴウ兄ちゃんは明る・・・

2

ちいさなヘイワ

16/11/04 コメント:1件 志奈

「オトナって、何でヘイワができないの?」

 眉根を寄せた、いかにもおマセな少年の言葉。
 その物言いに彼のクラス担任である私は、胸を鷲掴みにされるような緊張感を覚えた。
「ねえ、西先生?」
 小学一年生である彼の純粋無垢な瞳が私を見上げている。何か答えなければ。
「安藤くんは平和って何だと思う?」
「なにって、これでしょう?」
 そう言って彼は廊下・・・

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平和島

16/11/03 コメント:0件 アシタバ

 零式戦闘機の操縦席から眼下に見えるのは果てのない海だ。その海に米軍の戦艦が城のようにどっしりと構えている。私は攻撃すべき城にむけて操縦かんを切った。戦闘機は絶叫のようなプロペラ音とともに落下に近い角度で急降下する。
 刹那、轟音がした。自分の肉体にも等しい愛機の皮膚が無数の弾丸で激しく貫かれるのを感じた。戦艦の対空砲火だった。
 海面に叩きつけられるまであと数秒と覚悟した時、心のな・・・

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消滅した聖域と金色の実

16/11/03 コメント:0件 ちほ

 レナス、テレ、ユガの三国の北方に、『天の欠片』と呼ばれる小さな聖域があった。三国はいつでも敵国同士だったが、どの国も天使達が生活している平和の象徴『天の欠片』だけは攻撃しなかった。
「どうして、三国は戦争をしているの?」
 レナスの九歳のぼくは、洗濯物を干している母さんに訊ねた。
「……ヤイル、三国の誰もが『天の欠片』を自分の国だけで守りたいと思っているからよ。『天の欠片』は、・・・

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月と鷲と枯れた木と

16/11/03 コメント:0件 みや

月は遥か紀元前から一日中地球の側でぼんやりと光り輝いているのだけれど、太陽が光り輝く日中、圧倒的な太陽の光の前では地球からその姿を見る事が出来なかった。けれど確かにそこに存在し続けている。
太陽が消滅してしまった現在では、月のその姿を一日中見る事が出来る。月は昼も夜もずっとぼんやりと光り輝きながら地球の周りを周り続けている。勿論今迄もずっとそうしてきたのだけれど。

「月さん、今・・・

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不憫な和

16/11/02 コメント:0件 石衣あん子

頬を濡らし苦虫を噛み潰したような口で拝むサト。私は歯を食いしばり前を見据える。「笑って」と言うだろう。この瞬間でさえきっとー

私とサトとマキは同じバスケ部だった。監督から信頼されていたマキは責任感が強く皆を勇気付けまとめた。最後の総体、一進一退の攻防が続く中ベンチの応援にも力が入り皆が一体化した。全力を出し切った私たちは互いを許し合い認めあえる仲間になれた。晴れ渡る青と白のコ・・・

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平和な世界

16/11/01 コメント:2件 ミラクル・ガイ

 カレンダーを見た。今日の日付は『2094年8月21日』、明日は記念すべき私の100歳の誕生日だ。机の上にあるピースの箱を手に取り、一本取り出し口に咥えて火を点ける。深くゆっくりと吸い込み、そして勢いよく煙を吐いた。
 私が煙草を吸い始めたのは大学の頃だった、今からもう80年も昔。大学生の自分と今の自分、だいぶ変わったような気もするしあまり変わっていないような気もする。しかし世界は確実に変容・・・

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札幌モスクワ特急

16/11/01 コメント:0件 かつ丼

西暦二千三十一年、北海道新幹線が札幌まで延伸された。その十五年前に開業した函館までの区間は利用が伸び悩み、札幌まで開通したことにより乗客が増加する事が期待されていた。だが北海道の人口減少は加速しており、その中にあって繁栄を続けていた札幌も近年は人口が減り始めていた。こういった状況で新幹線の開業は経済活性化の鍵を握ると期待されていた。

北海道ではもう一つの大プロジェクトが次の年に完成し・・・

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R村狂詩曲

16/10/31 コメント:0件 こんちゃん

P県の山奥に、Rという村がある。
地図で探してみても、その位置を見つけるのはとても難しい。太平洋に突き出した半島の先にあり、陸側は険しい山がそびえている。こんなところに村があろうとはだれも思わないようなところだ。山向こうの最寄りの町であるTという町までは山を迂回するように拙い道が太平洋に吹きさらされながら続いているばかり。漁業といくばくかの畑と。ただそれだけの村だ。冬になれば雪が降り、唯一世・・・

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【コスモス畑と不発弾】

16/10/31 コメント:3件 吉岡 幸一

 河川敷のコスモス畑の前で老人が絵を描いていた。
 老人はイーゼルにキャンバスを立て掛け、小さな折りたたみ椅子に腰をかけている。キャンバスにはコスモスの花がいっぱいに描かれていて、河川敷に広がる現実のコスモスと溶け合っていた。
 老人は朝から一人絵を描いていた。一心に描いているというよりも、のんびりと眺めているというような描き方だった。そこに芸術家の激しさはなかった。
 お腹が空・・・

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平和なセカイの作り方

16/10/30 コメント:0件 上村夏樹

 重たいまぶたを持ち上げると、俺は見知らぬ場所に立っていた。
 より正確に言えば、ここがウォルテアという国であることは知っている。だが、土地勘のない俺には、ここがウォルテアのどこなのかわからない。
 俺の認識では、ウォルテアは商業が盛んで活気づいている国だ。

 それがどうだ。この眼前の光景は。
 すべてが赤に染まっていた。
 街が、緑が、空が、大地が、そして人・・・

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孤軍

16/10/30 コメント:0件 猫島 れな

 ある動画をスマホで見ながら、わたしは中学校のときの特別授業を思い出していた。
 そういった授業ではよくある、戦争体験についての講話だった。戦時中の悲惨な状況、戦後の厳しい生活。もちろんわたしは真面目に聞いていたし、他の生徒が講話中に居眠りをしている姿やヒソヒソと喋っている様子をみて、眉をひそめた記憶がある。話の最後は、戦争の恐ろしさを忘れずに、もう二度と、戦争なんかを引き起こさないようにし・・・

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ピースメーカー

16/10/29 コメント:0件 つつい つつ

 ラズ兄ちゃん達の帰りを待つため、見晴らしのいい高台に座っていた。戦いに出かけて一週間、そろそろ戻る頃だった。
「ハウリー、まだみんな戻ってこない?」
 振り返ると、幼なじみのルーラムがいた。
「でも、毎日偉いね。みんなの帰りを待つなんて」
「僕はまだ、戦いに参加出来ないから」
 そう、僕はもうすぐ十四歳になる。だけど、右手の刀はペラペラのままで、紙一枚切れやしない。・・・

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僕と黒猫

16/10/29 コメント:0件 修平

 真っ黒な毛並みを靡かせて優雅に歩いている。それが僕が初めて目にした、その黒猫の姿だった。
 ひん曲がった尻尾。黄金色の瞳。ふてぶてしい顔。漆黒に覆われた風貌と、爛々と輝く瞳が、僕には妙に不気味に感じられた。
 嫌なイメージを想起させる。そう、死神だ。不幸を連れてくる、死神のイメージ。
 そいつは近所の野良猫だった。種類は分からない。僕は猫の種類には詳しくはなかった。
 こ・・・

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鉄の鳥は何を孕む

16/10/29 コメント:0件 日向 葵

 27歳の冬、僕は広島を訪れた。ふと思い立って赴いたそのわけは、今となってはわからないが、おそらく過去の残痕に安心感を求めたのだろう。もしくは、片足を失ったばかりでナーバスになっていたのかもしれない。まあ理由はともあれ、鉄骨が剥き出しになった、そのコンクリートの塊を眺めていると不思議と心が落ち着いたのは事実である。
 辺りには幾つもの人影があったが、誰も口を利ける者はいなかった。歩き回ってい・・・

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二足歩行に睨まれて

16/10/29 コメント:0件 浅月庵

 敵国との対立が激化し始めたとき、相手方の国王が宣言する。
「我々は血を流す争いではなく、平穏なる決着を望む」
 まさかこんな人道的な言葉が戦争開始の合図になるなんて、夢にも思わないだろう。
 だけど実際に自国の人間が次々命を落としていくと、ぼくは敵国の真意を嫌でも悟ることとなる。 

 ーー眼前には、子どもがついた大袈裟な嘘みたいな砂漠が、昨日と変わらずどこまでも続・・・

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ピース・フラワー

16/10/28 コメント:0件 j d sh n g y

「少しめまいがするので、休ませてください」
平野優一はやっとの思いで保健室のドアを開け、そういった。
「たしかに、顔色が悪そうね。熱はない?」
保健室の先生、桜木麻衣は優一に体温計を渡した。
 優一はベッドに横になり目をつぶった。目をつぶると、先ほどの光景がよみがえってくる。
 彼は、男子生徒杉下を中心としたクラスメイト数人による、同クラスの笠間への陰湿ないじめの・・・

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マチちゃんに星が降る

16/10/28 コメント:0件 

「五月にマチちゃんの靴がなくなったでしょ。あれ、やったの私なんだ」
 真夜中の音楽室。マチちゃんは黙ってピアノを弾いていた。私は彼女に懺悔でもするみたいに、ぽつりぽつりとつぶやいた。
「マチちゃんの机に落書きしたのも私。悪口言ってた。クラスのみんなにマチちゃんを無視するように言ったのも私、」
「……の、いたグループの女の子たちだったね」
 この曲、なんだっただろうか。小学生・・・

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むろん布にはなんの罪もない

16/10/28 コメント:0件 結簾トラン

ベッドの上には起毛のシーツ。ふかふかの掛布団にも起毛のカバー。両方とも、手触り抜群。
この間に私が挟まる。これぞ至福、安息の顕現。明日の朝陽が昇るまで、このキャパシティ少なめの頭に詰め込まれている全ての悩みつらみ生きる苦しみからの解放を許されているこの時間、私の心は凪のように平和である。
眠りに就くまで好きな書き物についての妄想をあれこれと繰り広げてもいいし、ただひたすらこの起毛の感触・・・

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平和は白い湯気の中

16/10/28 コメント:0件 PineLeaf723

 腹を割って話すなら、一緒にメシを食うに限る。
 あちこちから香ばしい匂いの漂ってくる昼時、俺とNは大学を抜けだし繁華街を歩いていた。
 顔を合わせてから、まだ互いに一言も喋っていない。ケンカの原因は瑣末な出来事で、要はどちらが先に謝るか。だが話は瑣末であっても、そう簡単に頭など下げられるものではない。男のメンツの問題なのだ。
 大盛りで有名な焼肉店を嗅覚にとらえ、二人して吸い寄・・・

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サゴヤシの平和

16/10/27 コメント:0件 かつ丼

日本人の主食は言うまでもなく米である。アジアの他の国でも種類の違いはあっても大抵は米を主食としている。然しもっと広く世界を見渡すと、それは小麦、ジャガイモ、バナナ、トウモロコシ等様々である。それぞれの土地の気候に合った作物が選ばれ、品種改良が加えられ、現在見られるような豊かな食文化が世界各地で形成された。

世界には変わった作物を主食として利用する人々がいる。例えばパプアニューギニア等・・・

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フォロー・ミー

16/10/26 コメント:0件 alone

男は朝食を食べながら、ニュースを見ていた。
「今週のフォロワー数ランキングの発表です! まず第十位から――」
ハリウッド俳優や有名モデルの名前が次々に挙げられる。誰もが知っており、一度はフォローしたであろう有名人ばかりだ。
「そして今週の第一位は……ジャスビー・ティンバー! 平均フォロワー数は驚きの三億越え、さらに今週で十週連続の一位です!」
人気ポップアーティストのジャス・・・

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死にたくなるほどクソ平和

16/10/24 コメント:0件 血文字の雁木麻里子

最近どうも脳の働きがおかしい。不意に「ピストルで自分の前頭葉を吹き飛ばして自家版ロボトミー手術したい」等の邪念がチラチラと去来して、真摯に考えている最中にこうなっては頭の中がぐしゃぐしゃして落ち着かない。

これでは駄目だと思い、久し振りに外に出る事にした。だが今の自分の姿を衆目に晒したくなかった。社会の負け犬。世間様に徒手空拳で突撃し、無様に敗北を喫した男。それでもグズグズと自室で燻・・・

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デイジーの咲く庭

16/10/24 コメント:0件 深海映

 私は脚を引きずりながら30年ぶりに隣国の地を踏みしめた。

 私の国は30年前に和解条約が締結されるまで長いこと隣国占領されており、私も若い頃は祖国復帰のため兵士として戦ったのだ。
 辛い戦争の記憶から、私はしばらく隣国を訪れるのを躊躇していたが、いざ来てみればなんてことは無い、隣国は戦争の面影など無いほど発展しており、もはや私の知る街はそこには無かった。

 大き・・・

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熟したカレー

16/10/23 コメント:0件 j d sh n g y

 市宮まどかは、夫の帰りをリビングで待っていた。テレビにはコメディタッチのドラマが映っている。リビングの掛け時計は午後九時半を過ぎていた。
 夫の正弘はまだ帰ってくる気配がない。鍋の中のカレーから湯気は消えている。
 午後十時、ドラマが終わったタイミングで玄関の鍵が開く音がし、娘の紗矢が予備校から帰ってきた。二週間後の模試に向けて、寝る間も惜しんで勉強している。
「カレーあるわよ・・・

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【タルト生地の上に】

16/10/23 コメント:0件 吉岡 幸一

 街はずれにあるケーキ屋は今日も賑わっていた。
 タルトケーキが人気の店で、わざわざ遠方から買いにくる客が多くいた。季節ごとに野菜や果物が変わっていくのを楽しみにして、何度も足を運んでくる客もけっこういる。
店の外観はレンガ造りで、古いイギリスの民家を思い起こさせた。裏にある公園の樹々を背景にして建つ店は、おとぎ話に出てくるような可愛らしい雰囲気だった。
なによりも若い夫婦が仲・・・

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頭に咲く花

16/10/23 コメント:0件 みんなのきのこむし

 
 歩道で擦れ違う人たちのうち何人かの頭に、花が咲いていた。
 真っ青なガーベラ、蛍光ピンクのチューリップ、手の平ほどのラフレシア。種類も色も柄もばらばらだが、どれも人間には見えていないらしい。
 ろくろ首の僕は家に帰ると、妖怪特捜員の仲間、猫又のニャア太に、花のことを訊いてみた。
「花咲か仙人の仕業にゃ。あいつ、また現れたにゃ」
 人の頭に花を咲かせているのは、花・・・

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下界

16/10/21 コメント:0件 三風党

 麗らかな春の一日だった。
 私は籐椅子に横たわり惰眠を貪っていた。
 世は全く平和である。

「大変でございます!」
 刀を携えたまま二郎が飛び込んできた。
「どうしたのだ、そんなに慌てて」
「さ、猿でございます。猿が暴れております」
「猿?」
 私は上半身を起こして尋ねた。
「はっ、花果山で猿が暴動を起こしております」
「ああ、・・・

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平和と正義

16/10/21 コメント:0件 新木しおり

 平和と書いてヒラカズと読む。それが俺の名前だ。昔からこの名前をからかわれたことは幾度となくあったが、俺はこの名前を気に入っている。平和。自分で言うのもおかしな話かもしれないが、それはなんとも穏やかで優しい名ではないか。
 そんな俺は今、高校の屋上で険しい顔をして親友と対峙していた。
 正義と書いてマサヨシと読む。それがこいつの名前だ。俺と同様に、名前をからかわれたこともあると聞いた。・・・

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温かい場所

16/10/21 コメント:0件 新木しおり

「うつ病ですね」
 都内の大学に通い始めて一年半。私に言い渡された診断名はそれだった。
 憂うつ感、無気力感、そして、希死念慮。それらの症状がじわじわと私を襲った。そのことを大学のカウンセラーに話したところ心療内科の受診を勧められ、今に至るというわけである。
 やや躊躇ったが、私は電話で母に事実を伝えた。すると母は別段驚いた風もなく、ただ一言、こう言った。
「帰っておいで」・・・

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平和のレシピにYはいらない

16/10/21 コメント:0件 本宮晃樹

 聞いてください! ここだけの話、恒久平和はもう目の前なんです。
 Y染色体がいかに野蛮で、下品で、近視眼的で、存在価値がないかはみなさん知るところでしょう。有史以来まさにこの野卑で、品性の欠けた(中略)見るもみすぼらしい染色体を持つ殺人狂たちのせいで、この世界は蹂躙され続けてきました。そんなこと許せますか? 断じて許せませんよね。
 サモア諸島のアピアに逃げ込んだ〈最後の野蛮人〉たち・・・

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午前十時十五分

16/10/21 コメント:0件 

「ぴんふ?」
 中国語らしき文字が刻まれた小さな石を指先に摘まんで、由紀夫は冷やかすように言った。
「で、これがなんだっていうんだ?」
「わからんのか? これは桜子嬢からのメッセージなのだよ!」
 林田はぐっと身を乗り出して由紀夫から牌を奪い取った。ズームされると目の下の立派な隈が強調され、がりがりのパンダのように見えた。机の隅に置かれていた眼鏡ふきを取り、牌を丁寧に拭くと・・・

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魔神よ叶えたまえ!

16/10/20 コメント:0件 高田コウセイ

 ある所に一体のランプの魔神がいた。昔話に良く出てくる願いを何でも叶えてくれるという魔神の仲間である。こいつはどういう訳か、変わっていた。他の魔神に比類なき偏屈者であった。
「願いはもちろん叶えるとも。しかし、せっかくの願いなのだ、世界平和を望むべきである。すなわち我が輩は世界平和のみを叶えて進ぜよう」
 呼び出した者の望みを叶える気はないようだった。
「ちなみに願いは一つまでで・・・

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楽園追放

16/10/17 コメント:0件 かわ珠

 楽園と呼ばれるこの場所は、僕にとって世界そのものだった。この場所で産まれ、育ってきた僕たちは、半径百メートルのこの世界しか知らない。けれども別に、それを不幸と思ったことはない。楽園と呼ばれるだけあって、この場所では僕たちが生きていくうえで必要なものは何不自由なく与えられた。衣食住も娯楽も。ここには全てがそろっていて、間違いなく平和が具現化した楽園と呼ぶにふさわしい場所だった。
 けれども、・・・

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おぼろげな標識

16/10/17 コメント:0件 石衣あん子

揺れる蜃気楼の中で太陽と汗が混じった獣の匂いを確かめる。
大きい体、少しだけ荒い鼻息と艶のある下唇に酔いしれた。
茶色い瞳とは対照的に青黒い髪がくるんくるんと遊びながら私の頬に触れる。
わ、くすぐったい。
「あっぷる!」くしゃみをひとつ。
「僕のりんごちゃん。眼鏡はかけない方が可愛いね」
私の眼鏡を外す5センチ目前のイケメン。

『根暗メガネ』と・・・

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麻雀狂

16/10/17 コメント:0件 林一

 雀荘を経営していた両親の影響もあり、俺は3歳の頃から麻雀をしていた。当時の俺は役もよく理解できていなかったが、常連のおじさん達に教えてもらいながら、麻雀を楽しんでいた。
 幼稚園に入園した頃には、完璧にルールを理解し、常連さんとも対等に打てるようになっていた。
 小学生になると、アマチュアの麻雀大会にも参加するようになり、大人達に混じって表彰台に上ることも珍しくなかった。
 そ・・・

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タイラワの実

16/10/16 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

ノユキは、ながい間いっしょにやってきたお爺ちゃんが、亡くなるときまでその種のことは知らなかった。
「ノユキや、わしが死んだら、この体を家の前の畑に埋めておくれ」
「お爺ちゃん、いや、そんなこといっちゃ」
「人が死ぬのは、花が枯れるようなもので、自然なことなんだよ。ノユキやそれより、わしを埋めたら、その上から、納屋のすみにおいてある袋の種を、すべてまいとくれ。いいね、頼んだよ」

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平和という都合の良い言葉の裏側にあるものは

16/10/16 コメント:2件 しーた

ーーもう、戦争は始まってる。
 そのメールの一行目には、そう書かれていた。
ーーついに奴らが攻め込んで来たんだ。地球の場所を特定されたみたいで、円板型の機体を操作して、一直線に地球に向かってきてる。世間に隠し通すのも限界だと思ったので、この手紙を君に送る。
 知らぬ間に汗でじんわりと湿ってきていた手のひらを服で拭きつつ、続きに目をやる。
ーー世間に奴らのことを発表して欲しい・・・

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P Program

16/10/13 コメント:0件 かわ珠

 今日の世界は平和か?
 毎朝、博士はそう自問する。答えはいつも決まっている。
 そんなはずがない、と。
 未だ世界中の各地で争いは絶えず、暴力は消えず、殺人は果て無く続く。
 西暦2064年。有史以来、人類誕生以来、人間同士が争い合わない平和な時というものは、今日に至るまで、ついに一度とて在り得なかった。
 何故だ?
 人類の平和という願いは数千年も前から願わ・・・

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くまくんのラッパ

16/10/15 コメント:0件 こぐまじゅんこ

ぷ −ぷーぷー
く まくんが ラッパをふく
ぷ −ぷーぷー
く り毛色のリスさんが
の このこと あるいてる
は っと 耳をすませて
と まると くまくん
を みる
み どり色のラッパをふいているくまくん
る るるる リスさんは うたいだす
そ よ風が さやさやそよぎ
れ −す のような花びらがゆらめく
だ れもほかにはいない・・・

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平和の香り

16/10/15 コメント:2件 文月めぐ

 夕食時の帰宅はとても面白い。扉の向こうに漂う夕食のにおいは外まで漏れ出てきていて、あ、揚げ物のにおいがするな、と思ったら、こちらではマーボー豆腐か何か、中華の香りがするな、などとあれこれ推測できるから。で、肝心のうちの夕食は。
「サバの味噌煮、か」
 マンションのドアを開けた瞬間、見なくてもにおいでわかった。少し冷えてしまった身体を優しく包んでくれる、なんとも平和なその香り。料理が好・・・

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ある生存者の手記

16/10/15 コメント:0件 堂那灼風

2017年9月8日?
(※日付は不正確だ。なにしろまともなカレンダーを確認したのはもう半年ほど前のことなので)
 我々は東京から逃げてきた13人のグループだ。現在地はあなたがこの文書を見つけた洞窟、まさにここである。あなたが何者でどういう状況に置かれているのか知る由もないが、ひとまず我々の状況を知らせたい。もし人類が生き残っているのならこれも資料の一つにはなるだろう。
 およそ半・・・

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何もない日

16/10/14 コメント:0件 石衣あん子

『ありがとさよーなら』
紙の端切れに書かれた一行。そこから伝わる投げやりさに胸を撫で下ろした。
しがらみから解放され、自由を手に入れた俺には見える平和。まさか彼女から告げてくれるなんて。板チョコを煎餅のようにバリバリと食べ、遠くに輝く月明かりを確認する。
唯一心配なのは、2.3ヶ月後に誰が俺の髪の毛を切るのかということくらいだ。
新しい俺を鏡の中で確認する。血の気が引い・・・

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地球買収プロジェクト

16/10/13 コメント:0件 比些志

地球は完全に破綻した。人口爆発、戦争、大気汚染、森林伐採、資源の乱獲などにより自然の再生循環システムは崩壊し、一年中厚い雲に覆われた空からは、昼間でも日光が差し込まないばかりかほとんど一滴の雨さえもふらなくなった。寒さと水不足のために多くの生物や植物が死滅し、このままでは人間自身が滅亡しかねない深刻な事態となった。
この難局を乗り切るため世界中の国は統一政府をつくって、大改革を推し進め・・・

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平和の宝石

16/10/13 コメント:0件 海見みみみ

 深夜の博物館。警備員の男女三人組は集まると話し合いをした。これからこの博物館から宝石を盗み出す。そのための作戦会議だ。
 作戦は既に決まっており、宝石を盗み出すのはとても簡単な事だった。セキュリティは警備員である彼らが握っている。それに目的の宝石は他より警備が薄く、盗むのが楽だった。
 宝石を盗み出し、三人は車に飛び乗ると逃避行を始める。
「楽な仕事だったな!」
 すきっ・・・

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終わる世界のマリオネット

16/10/13 コメント:0件 



『カットインいける?』
『客電スタンバイ』

 舞台袖から照明スタッフが散った。
 芽衣は促されるまま劇場の黒幕裏に立つ。

 観客は完成された舞台しか知らない。
 だが彼女は間違いなく板付きに支えられていた。
 舞台を構成する全てに愛を感じる芽衣。
 組立てられてゆく舞台の、最後のピースは芽衣だ。

 さあ、歌うた・・・

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真の平和をあなたに

16/10/12 コメント:0件 W・アーム・スープレックス

来賓たちを乗せた乗用車は、山につづく道路にはいる寸前に、反乱軍たちのはげしい攻撃にみまわれた。防弾用の厚さ数センチの鉄板にまもられていたおかけで、一人の負傷者もでなかったが、これから地雷の脅威がまちかまえているとあって、安堵するものは誰もなかった。
「まだ、遠いのですか」
目的地は最初にきいていたミトベが、案内者のデン氏にわざわざたずねたのは、車内の張りつめた空気を少しでもやわらげたい・・・

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グラスに残る唇跡

16/10/11 コメント:0件 ポテトチップス

 土砂降りの雨が降る夜、今夜は客など来ないだろうなと諦めかけていると、ドアを開け中に入ってくる客がいた。
「いらっしゃい!」と、順子が笑顔で迎え入れる。
 室井という名の常連客の男は、カウンターの中央の椅子を引き、スーツの上着を脱ぐと、それを椅子の背もたれにかけて椅子に座った。
「ビールちょうだい」
「はい。ありがとうございます」順子はしゃがんでコールドテーブルから瓶ビール・・・

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平和を食い荒らす者

16/10/11 コメント:0件 海見みみみ

 葬式会場。両親の遺影を前に春菜が泣く。春菜はまだ小学生、両親の死はあまりに大きすぎる不幸だった。
「大丈夫だよ、春菜。お姉ちゃんがついてるから」
 姉の夏美は春菜の手を握り、気丈に振る舞う。これからは春菜のために生きていこう。そう夏美は決心した。



 両親の事故死から二年目の春。夏美と春菜は両親の遺した家で二人暮しをしていた。
「ちゃんと制服着られ・・・

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遠い戦争と遠い平和

16/10/11 コメント:3件 空蝉

土の中に爆弾があるだとか、同じ空なのにそこではミサイルが飛んでいくだとか。
世界にはそんな戦争真っ只中の国なんて、ごまんとある。
互いの正義を押し付け合って、今日も弱い者は朽ちていき、強い者が生かされる。
弁当を食べた後の、眠たい空気が漂う五時間目の教室。
僕は頬杖をつきながら、ふと考える。
こうしている間にも、僕らと同じように心があって、笑ったり泣いたりしていた人が・・・

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お好み焼きと和平君(かずひらくん)

16/10/11 コメント:0件 葵 ひとみ

 箱庭和平(はこにわかずひら)君――

彼は父親からベトナム戦争が早く終結されて
「平和」になりますようにという願いを込められて、和平(かずひら)と名付けられた。
彼は梨がとても美味しいので有名な、埼玉県蓮田市に住んでいる。

彼の父親は内村鑑三氏を尊敬する敬虔な無教会派のプロテスタントの信者であり、
母親はカトリックのお嬢様短期大学を卒業しているアメイジ・・・

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マシュマロの弾丸

16/10/10 コメント:0件 かわ珠

 携帯電話のアラームが鳴って、目を覚ます。
 重たい瞼を擦りながら怠惰で緩慢な動きでのっそりと窓を開けると、まだ冷たい朝の空気が部屋の中に滑り込んでくる。それが一瞬にして私の身体を包み込み、眠気を払い落とす。
 両腕を上に持ち上げて、思いっきり体を伸ばすと、重力に逆らうように自然とつま先立ちになる。背骨や腰、首のあたりがポキポキと音を鳴らすと、私の身体は完全に目を覚ました。
「お・・・

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平和で譲り合う人たちのゆくところ

16/10/10 コメント:3件 葵 ひとみ

 ある日、暖かい干したてのお布団の中でヌクヌクしていると、
いきなり空中に仙人が顕れました――

「これからそちに天国と地獄を見せてあげよう」と、

「まずは地獄から」仙人につれられて私は空中を飛んで、
地獄らしいところへ辿り着きました――


「あれ?」と私は拍子抜けした声をだしてしまいました。
てっきり悪をなしたり人を騙した人間たちが・・・

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ミラノサンド

16/10/10 コメント:0件 葵 ひとみ

 ミラノサンドにはどこか「平和」を感じさせる響きが私にはある――

ドワイト・デヴィッド・アイゼンハワーが、連合国軍を指揮してナチスドイツから
平和を勝ち取るきっかけになった長い一日に、
彼はミラノサンドを食べていたに違いない。

アメリカが独立戦争で「平和」を勝ち取った時にも、
ミラノサンドとコーラを楽しみながら熱狂していたに違いない。

ベ・・・

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南国の罠

16/10/10 コメント:0件 白取よしひと

 丸い水平線を背景に白砂の波打ち際で燥ぐ子供たちを眺めながら、裸足の足を放り出し妻が買ってきてくれたソーダ水を流し込む。背後には絵に描いた様に濃いビリジアンの葉が時折寄せてくる浜風に揺らいでいる。東京では窮屈な革靴で汗だくになりながら電車を乗り継ぐ多忙な毎日だ。南の島でのんびりと、そんな夢想を思い切った奮発で実現した。
子供たちが歓声を上げ僕の手を引いた。それを傍らで笑う妻。平穏で穏やか・・・

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ねえ誰か

16/10/10 コメント:0件 水面 光

「ねえ? 僕たち生きてるよね? 君の声を聞くことができて、僕の声が聞こえるということは、間違いなく生きてるよね? 僕は、老いているし、病気持ちだし、身も心もボロボロだけど、それでも確実に生きてるよね? だったら、君に何か言えるのは──生きてくれ──ってことだと思うんだ。大丈夫、心配は要らないって」道端で老人とすれ違ったとき、お互いに顔を確認し、すぐに目をそらし、黙って通り過ぎる。あれは幻聴だ。私の・・・

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冷たい麦畑――ジレル・イルギスは謝罪する

16/10/10 コメント:0件 クナリ

 貴族に弄ばれるのが嫌なら、君はこの街から逃げるんだ。
 僕にはまだ、ここでやることがあるから……



 『歌と水の街』は、大陸随一の芸能都市である。
 その規模の肥大と同時進行した腐敗の中、踏みにじられ続けた下層階級の尊厳を取り戻そうと、特権階級の転覆を狙った革命勢力の動きが、この十年来激しさを増していた。

 『街』から離れたある村に住むオー・・・

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優しさは犠牲の香り

16/10/10 コメント:0件 浅月庵

 神林は自分の時間や労力を厭わず、校外のボランティア活動に精を出している。
 彼女はそういう人間特有の香りを放ち、その匂いを好む狡猾な奴らは、神林を使えそうな奴と判断した。俺はそれが許せない。
 
 ◇
 関谷は神林の人の良さにつけこみ、掃除当番を押しつけて帰ってしまう。用事があるなら仕方ないよと、神林は嫌がる素振りも見せず、満面の笑みを浮かべた。いつもこうだ。

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暗幕が降りるときに銃声

16/10/10 コメント:0件 蒼樹里緒

 部屋の窓に四角く切り取られた夜景は、遠くが鮮やかな橙色に燃えている。陽はとっくに沈んだのに、僅かに西の端に残った夕焼けを見ている気分だ。現場では、今もマフィア同士のくだらない抗争が続いているんだろう。街の連中が、必死に劇場の消火作業をしているのかもしれない。けれど、俺にはもうどうだっていいことだ。
 潜り込んで元ボスの息子の右腕という地位にまでのし上がったファミリーも、この手でやっと潰せた・・・

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平和主義者の牙

16/10/10 コメント:1件 海見みみみ

「この野郎!」
 大柄な男が俺に殴りかかる。それよりも先に俺が腹に蹴りをいれると、男は白目をむき倒れた。地面には他にも不良達が転がっている。
「はい、おしまい」
 俺は不良とのケンカを終え、その場を後にした。

 ケンカを終え家に帰る。そこにはお袋と親父の姿があった。
「あんた、また不良とケンカしたんだって?」
「なんだよ急に。絡まれたからしたけど、何か問・・・

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