1. トップページ
  2. 新宿駅で待ち合わせ

PineLeaf723さん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

新宿駅で待ち合わせ

17/02/10 コンテスト(テーマ):第127回 時空モノガタリ文学賞 【 新宿 】 コメント:2件 PineLeaf723 閲覧数:565

時空モノガタリからの選評

ひさかたぶりの新宿。新しくできたバスターミナルの「水臭いような、よそよそしさ」と、親友との心理的距離への不安がリンクし、明治の新宿駅に迷い込んでしまう展開が面白いと思いました。指摘されているとおり「本来の新宿」などというものはないのでしょう。「過去から未来へと移り変わる途中の一時期を、通りすがりに垣間見ている」という一文には考えさせられました。普段目にしている駅は、その堅固な印象もあり、昔の姿に思いをはせることはあまりありませんが、言われてみれば我々が目にするものは、すべて変化の一過程であるにすぎないのですね。「よそよそしいと感じたのは、成長する彼女の新たな一面に気づき、心細くなっていただけ」と気づいた時、彼女は、自身が前に進む柔軟さと強さを手に入れたのかもしれません。タイムスリップというアイデアだけに終わらず、新宿駅を通して、人間的な弱さと不安、物事や人間関係の普遍的なあり様まで描かれ、着眼点と観察眼が鋭いと感じました。

時空モノガタリK

この作品を評価する

 降車場は巨大な建物の中だった。
 長野発の高速バス。終点は新宿駅のはず。閑散としたフロアに取り残され、やっと私は思い至った。ここ、去年に鳴物入りで完成したターミナルビルだ。
 外へ出ようと階段を下りたが、降りすぎて地下に潜ってしまったらしい。完全に迷い、待ち合わせしている親友に助けを求めた。
『うそ、もう着いたの。何番?』
 見たこともない場所だとLINEに返すと、
『バカ、方向音痴のくせに勝手に歩き回るなんて!』
 とにかく地上に出て、そこで待てと彼女に怒られた。近くの階段をしおしおと登りだす。
 子どもの頃から知っている、慣れ親しんだ新宿。高校時代は通学の乗り換え駅として、また単に遊びにと毎日のように訪れた。なのに、ちょっと開発が進んだくらいで迷子になるとは情けない。
 吹き抜ける風が冷たくて、踊り場でマフラーを巻き直した。
「こっちで進学すればよかったかなあ……」
 自分なりの志をもって地方の大学へ入学した。やり甲斐のある日々を過ごしているが、喧騒を恋しく思う瞬間も多い。そうして一年ぶりに帰省すれば、もう知らない名所が誕生したという。何だろう、この水臭いような、よそよそしさは。
 そんな感覚は、最近の親友に対する感情ともよく似ていた。べったり過ごした高校時代と違い、離れた距離だけ心も離れる。やむを得ない理屈だと理解できる。が、現実と向き合うのはまた別だ。最初に目を合わせた瞬間、ああもう私たち親友じゃないんだ、なんて気付いたら泣くかもしれない。
 しかし階段を登りきったとき、ナーバスな気分は吹き飛んだ。眼前に広がっていたのは、平べったい木造の町並みと、遮るもののない大きな青空。土ぼこりのたつ地面をまばらに歩く、地味な着物姿の人々。のどかな大通りを遠ざかっていくのは、路面電車というやつだろうか。
「……何これ」
 周囲を見回し、唖然とした。いま上ってきたばかりの階段が消えている。
「姉ちゃん、ハイカラな格好してんなあ。洋行帰りかい?」
 声をかけられた。半纏姿の男の人だ。
「さっきの汽車で着いたんだろ。乗ってかないか、安くしとくぜ」と人力車を差す。
「いえ、友だちと待ち合わせしてるので……あの、それより今は何年ですか?」

 車夫さんは訝しみながらも答えてくれた。なんと明治四十年だ。
 彼は私の素性に興味津々だったが、百年以上も未来から迷い込んだとは言えず、長野から上京したとだけ説明した。
「信州かい、そりゃあ遠くから来たもんだ」
 車夫さんは労をねぎらい、駅前の茶店でお茶までご馳走してくれた。そうまで私の服装は珍妙に見えるらしい。天気がよく、仕事をサボりたい心境もあるようだ。
 店先の縁台で、一世紀前の世間話に付き合った。さてどうしようと途方に暮れつつ、温かい湯飲みを手に包む。
「あれは本当に新宿駅ですか? その……私の知っている姿とずいぶん違うので」
 木造の駅舎は平屋建てで、野原のような構内が往来からも見渡せる。
「見違えたろ、建て替え直後でな。街道沿いも賑やかになったもんよ」
 田舎然とした町並みを、以前とは比較にならないほど発展した、と褒めそやす。百年後を知る身としては、その自慢気な口ぶりが可笑しいやら微笑ましいやらだ。
 百年後の様子を教えたらどんな反応をするかなと、ふと悪戯心を起こしそうになった。新宿にはコンクリートビルが林立し、何本もの鉄道が乗り入れて、世界有数の繁華街になるんですよ、と。
 ふと目が覚めたような心地になった。
 街が変わってしまうと感じていたけど、自分の知っている姿は、本来の新宿でも何でもないのだ。物知り顔で通りすぎる誰も彼も、たった百年前にこんな景色があったことをたぶん知らない。皆、過去から未来へと移り変わる途中の一時期を、通りすがりに垣間見ているにすぎない。
 そうだ、私は親友を知り尽くしたつもりになっていた。よそよそしいと感じたのは、成長する彼女の新たな一面に気付き、心細くなっていただけ。彼女のほうも、同様の心細さを感じてはいなかったか?
「私、友だちを探しに行きます」お礼を述べて腰を上げた。
 おう、と車夫さんが笑う。「無事に会えるといいな」
 駅前に戻り、最初の地点を行き来してみた。でも何も起こらない。
「困ったなあ……」
 風の冷たさに襟元を合わせ、あれっと思う。茶店にマフラーを忘れてきた。
 慌てて踵を返した瞬間――よく知る声が聞こえてきた。「こんなとこにいた!」
 親友が走ってくるところだった。
「返事も来ないし、心配したんだからね!」
「わわ、ごめん!」
 平謝りし、笑みがこぼれる。なあんだ、私たち、以前と変わらず会話できてるよ。
 女子高生みたいに抱きつき、はしゃぎ合う。そびえるデザインビル群のてっぺんに、天窓のように開いた高い空。二〇一七年に帰ってきた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/03/08 光石七

拝読しました。
タイムスリップと新宿という舞台を効果的に用いて、主人公の戸惑いや久しぶりに会う友人への思いがみずみずしく描かれていると思いました。
ラストは明るい若さが感じられ、爽やかな読後感でした。
素敵なお話をありがとうございます!

17/03/13 PineLeaf723

素敵なコメントをいただき、大変に光栄です。
読んでくださってありがとうございました!

ログイン