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タキさん

次のステージ目指します。最近カクヨム始めました。色々書いてます。https://kakuyomu.jp/users/taki20170319 noteという創作サイトを本拠にしてます。 https://note.mu/taki20161214

性別 男性
将来の夢
座右の銘 風船じゃなく、自分の翼で飛べ

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3、0、4

17/01/16 コンテスト(テーマ):第126回 時空モノガタリ文学賞 【 304号室 】 コメント:11件 タキ 閲覧数:430

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バイトの後輩の子は、妥協を知らない猛烈な働きぶりと隙の無さで、バイト仲間から【マシーン】と陰で呼ばれていた。いつも無表情だったせいもある。でも僕は納得がいかなかった。頑張って働いているだけなのに、からかわれるなんて間違ってる。

ある時、後輩の様子がおかしい日があった。ずっとうわの空で、つまらないミスを連発した。「マシーン、故障かな?」と他の連中は意地悪にささやきあった。後輩がバイトを辞める事になったと聞いたのはその日だ。

送別会が用意されたが、肝心の後輩はなかなか現れなかった。「まだ働いてたりして」と誰かが言ってみんなが笑った。
「そんなに面白いですか」
たまらず僕が言ったら、場が静まり返った。後輩が現れたのは、ちょうどその時だった。皆は露骨にひそひそ声をたてた。後輩は聞こえてないかのように無表情に僕の隣に座った。

彼女はほとんど口を開かなかった。まともに話したのは二回だけだ。「両親が離婚したんです」「もっと稼げる仕事を始めるつもりです」僕にだけ聞こえる声でそう言った。言うべき言葉を探しているうちに、送別会は終わった。

下戸の店長は僕と後輩を車で送ると言った。後部座席に座った僕と後輩は、ただ黙って窓の外を流れる春の夜の街を眺めていた。
ふと後輩の指が僕の指に触れた。その手が僕の手と重なる。彼女の手は震えていた。どちらからともなく僕たちは手を握った。僕たちは互いの方を見ずにそのまま手を繋ぎ続けた。

後輩が「ここで良いです」と車を止めたのは見知らぬ住宅地だった。「マンションの前、車止めにくいですから」
そして僕達の手は離れた。
「元気で」
口から出たのは、思っていたのとは別の言葉だった。

しばらく走ってから、ようやく僕は決心して車を戻してもらった。車を降り、彼女を探して走り回ったが、その姿はもうどこにも無かった。 彼女はそんな風にして、春の闇の中に消えた。
すぐに僕もバイトを辞めた。そして一年が飛ぶように過ぎた。

翌年の春、アパートのドアを出たところで隣のおばさんがバツの悪そうに話しかけてきた。「ごめんなさいね。これずっとウチに紛れてたみたい」と手紙を渡してくる。差出人の名前も住所も無い桜色の封筒。あて名は確かに僕だ。
消印を見て驚いた。一年前。後輩がバイトを辞めた後だ。震える手で開封して中身を見る。
「先輩、いきなりごめんなさい。あて先は店長に聞きました」とその手紙は始まっていた。

「元がどんくさい私は必死で頑張るしかなくて、失敗しないように、迷惑かけないように、いつも緊張して、余裕なんてまったく無くて。どこがマシーンなんでしょうね」
「送別会の先輩の言葉、涙が出そうなほど嬉しかった」
「来年の春にはこの町を出て新しい暮らしを始めます。私の住所は書きません。返事、期待しちゃうから」

来年の春…今だ。
僕は後悔した。もっと彼女をかばってあげるべきだった。連絡先を聞くべきだった。自分から手紙を書くべきだった。何としても彼女ともう一度会うべきだった。
祈るような気持ちでバイト先に電話をかけた。「現在使われておりません」というアナウンスが流れた。すぐに店まで行ってみたがすっかり更地になっていた。僕はバイト先の誰ひとり連絡先を知らなかった。

僕は、彼女が車を降りた場所を必死で探した。でも、あの夜と同じく闇雲に走り回る事しか出来なかった。町は出口の無い迷宮のようだった。

「新しい仕事はとても辛いです」そう手紙の中にあった。「自分の心がバラバラにされるような気がします」

春っていつだ、と僕は考えた。まだ彼女は町に居るのか。間に合うのか。
「マンション」という言葉が蘇る。このあたりにそう多くは無い。でも部屋はどこなんだ。何号室なんだ!

「あの夜、車の中で、このまま時間が止まれば良いのにって思いました。ばかみたいでしょ? でも今でも思います。あの時に戻りたいって」

僕だってそう思った。
本当はずっと言ってあげたかった言葉がある。
「そんなに頑張らなくて良いんだよ」
何度もチャンスはあった。後悔するくらいならその時行動すべきなんだ。肝心な事はいつも手遅れになってから気づく。
僕は、ベランダに、窓に、駐輪場に、自販機の前に、桜の木の下に、僕を待つ彼女の姿があるという都合の良い妄想にすがった。
一際大きな桜の木を見上げる。その向こうのマンションの窓に、カーテンの隙間から桜を眺める彼女の姿が小さく見えたような気がした。すぐに人影はカーテンに隠れた。僕は、その部屋を数えた。地上から三階。角部屋。

人違いかもしれない。見間違いかもしれない。幻想かもしれない。
それでも僕は、エントランスに入り、インターホンのパネルの前に立っていた。
今度はためらわなかった。迷わなかった。思い出になんてするもんか。

3、0、4…


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このストーリーに関するコメント

17/01/16 クナリ

放たれる心の行き交いがとても切なく、突き刺さるようでした。
冒頭の人が複数現れるシーンと、後半の登場人物が極端に絞られるシーンとの対比もあり、とても鮮やかに心のありようが描かれていると思います。

17/01/16 デヴォン黒桃

チョット切ない恋心を思い出しました。僕もバイト先で、連絡取りたい人とかいるのですが、主人公と同じく、バイト先の人の連絡先がわかりません。そんなことも有って少し自分と重ねて読みました。
最後の3、0、4、を押す主人公の気持ちを思うとドキドキしてしまいました。

17/01/16 タキ

前半と後半の対比は特に表現したかった点なので、クナリさんのコメントは嬉しいです。丁寧に読んでもらって感謝です。

17/01/16 タキ

2000字って書ける事が限られてますから、「誰の思い出にもあるかもしれない、ちょっとした切なさとか後悔」みたいな普遍的な物を書ければと思いました。タイトルでもある「3、0、4」をプッシュする時のドキドキを感じてもらえたら、書き手としても嬉しいです。デヴォンさんコメントありがとう。

17/01/22 上辺 練

良い。すみません、上手いコメントが浮かばなくて。でもこれは良いわ。

17/01/23 タキ

練さん。飾らない言葉だけに胸に響きました。ありがとう。

17/01/23 タキ

練さん。飾らない言葉だけに胸に響きました。ありがとう。

17/02/04 むねすけ

読ませて頂きました
集団の中で逸脱する言動が心の重なりを生む
そこからのすれ違いの切なさと
希望も残すラスト
ズキズキしますね、とても面白かったです

17/02/04 タキ

むねすけさんへ

実は作者の中には1つの結末の形がありました。でも、読んでくれた人が自分なりの想像を出来るように、あえてボカしました。
「不完全さ」が小説の素晴らしさのように思えます。コメントありがとう。これからも、お互い創作活動がんばりましょう。

17/02/19 光石七

拝読しました。
素晴らしかったです!
主人公も彼女も少ない描写の中に人柄がしっかり伝わってきます。こういう人たちは応援したくなりますね。
締め方も秀逸で、主人公と一緒にドキドキしつつ、この先に待っているであろう奇跡と希望を想像して温かい読後感でした。
素敵なお話をありがとうございます!

17/02/20 タキ

光石七さんへ

「頑張り過ぎてる彼女」と「もう少し頑張った方がいい僕」の話なんですが、応援して頂けて嬉しいです。
三階の角部屋って、絶妙な位置なんです。地表から見上げたら自然と視界に入る。
低層階だとドラマが生まれないし、高層階だと視界には入らない。『304号室』と、少し変わり種のテーマでしたが、そんな風な切り口を考えたら面白かったです。コメントありがとうございました。

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