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水面 光さん

■ホームページ「水面文庫」 http://www.minamo-bunko.com/ 忙しい中でも身を粉にして執筆活動しております。ジャンルとしては現代ファンタジーが中心でございます。よろしくどうぞー

性別 男性
将来の夢 物書きでメシを食う
座右の銘 人の心は変わらないから自分が変われ

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死なない人

16/12/18 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:0件 水面 光 閲覧数:438

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「憤怒」──いま私の心の中にはこの言葉にすこぶる威勢のいい命を吹き込む雪解け水のような感慨しかなかった。どいつもこいつも! あるやつはなおしようのない独善家で自分が世界で一番えらいと思ってやがる。またあるやつは外面では善人ぶっておいて内輪ではウワサ話しかしやがらない。さらにあるやつは他人を──お向かいさんでさえ──こけにするのが大好きで、人が100パー見た目で決まることを体現しており、品が微塵もないときてる。──私がこの世界で一番恐れているのはリスクの高いことをしたために残念な結果になることでは絶対にない。他人の意見を認め、オモテウラなく建設的な話をし、利他の精神にしたがって行動し、品格を持つ。もしもあなたがこれらのことを実行できないなら──そんなことはどうだっていい、本当にどうでも。いまたしかに前方の車のせいで茶色い落ち葉がたくさん宙に舞っている。私はその中を走り抜ける。そうとも、この現象を知っているのは私しかいない。私だけの秘密。幸福。いまたしかに私の車が轢きそうになる直前まで飛びたたなかったセキレイが海のほうへ向かって飛びたった。何羽も。繰り返し。ああ、いま私はその道を全力で走っている。なぜ、海のほうへ向かって飛ぶ? なぜ、直前まで飛びたたない? 「死にたいのか?」──いいや、彼彼女らは死にたいんじゃない。むしろ、生きたいんだ。なぜ、私はそう思うのか? いいや、私は死にたいんじゃない。むしろ、生きたいんだ。精一杯、全力で。なぜ、私がそう思うようになったか理由は定かではないが、ひとつだけたしかに言えるのは「命には限りがあり、しかも、一度きりしかない」──そのことを私は心底知っているからだ。それでも怖くて、避けていることも当然ある。しかし、リスクを考えながら生きるのはまっぴらごめんなんだよ! 「虎穴に入らずんば虎子を得ず」──「冒険」していたい。ドキドキワクワクすることを──しかし実際のところ私は極力危険を避けている。これは私の理想とする生き方では絶対にない。どんどん危険を冒すべきだ。最高のスリルを存分に味わいたい。だから私は一歩踏み出した。いや、ことによると二歩三歩、もっと先へ。その結果かなり楽しい毎日を送っている。だが、これはフツーのことだ。誰もが実行している。──ある日、独居老人のところにお弁当の配達に行った。「こんばんは!」裏手のリビング兼寝室の窓の鍵が閉まっていた。「──ですぅ!」カーテン越しに動く影が見えた。いらっしゃる。鍵が開く。「こんばんは。お弁当ですよ」お婆さんはよろめきながらソファーから立ち上がって、「すみませんねえ。すみません」と繰り返しおっしゃった。「いえいえ」「ちょっとこれひっぱって、たわんけえ」「あ、はい、じゃ、失礼します」私は靴を脱いで家に上がり、照明のヒモをひっぱり、消した。疑問に思った。なぜついていた? 答えは他に誰かがここに来てヒモをひっぱり照明をつけた。しかもお婆さんが消すことができないのを知らないらしい。バカが! それともなにか、明日朝一でココに来るつもりだったのか? 低能のヘルパーらしいことがすぐにわかった。とってもお婆さんのことを慮っているこころやさしいヘルパーさんのようだが想像力はないらしい。一瞬、ほんの一瞬、違和感を感じた。私はここにとどまるべきではないと。いずれここでお婆さんの死体がヘルパーさんか私に発見されることになる。ここにとどまるべきではない。かつては立派なお庭だったらしい。鉢物もたくさん。庭は荒れているし、鉢にも乾燥した土しか入っていない。なにもかもが終わりを示していた。ここにとどまるべきではない──少なくとも今は。明日もその次の日も、またその次もここに来る。しかし、とどまるにはまだはやい。母が亡くなった歳で私も死ぬとしたら、あと三十年は生きれる計算だ。あのお婆さんは確実に私より先に逝くだろう。だが、私の中であのお婆さんは生き続ける。少なくともあと三十年は──。ご賢察の通り、私とかかわった人物はたとえ死んでもみな私の中で生き続ける。両親も、伯父伯母もみんなまだ生きている。多少疑問なのはもしも私が先に死んだ場合だ。たぶん私とかかわった人物も同時に死ぬだろう。いや、確実に死ぬ。何分くらい私と対面したらという質問がしたいだろう? ──5分だ。少なくとも5分以上私と対面して言葉をかわすなり、目を合わせたり、手に触れたり、そうだな、私から半径5メートル以内に5分以上居たら。この時間は累積なので、とぎれとぎれでもいい。私とかかわりたくないかね? 私は人にかかわらなければよかったと思わせることは一切しない。だが、死ぬことが絶対にイヤというなら話はわからんでもないが、よく考えてくれ。この世界に死なない人は一人も居ないんだぜ?


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