1. トップページ
  2. 五分間の乗り継ぎ駅

深海映さん

短編やショートショートが好きなモノカキ民

性別 女性
将来の夢 星の見える田舎で晴耕雨読の暮らし
座右の銘 飯は食いたい時が食い時

投稿済みの作品

3

五分間の乗り継ぎ駅

16/12/05 コンテスト(テーマ):第124回 時空モノガタリ文学賞 【 五分間 】 コメント:4件 深海映 閲覧数:247

この作品を評価する

「まもなく次の駅に停車します。反対車線の車両到着を待っての発車となるため、次の駅では5分間停車いたします。お乗換えの際は足元にご気をつけて……」

 車掌がマイクごしにくぐもった声で話す。
 その時僕は高校三年生で、家から少し離れた高校へ通っていた。
 いつものように窓の外をぼんやりと眺めていると、汚れたガラスの向こう側、通勤途中のサラリーマンや通学途中の学生たちが忙しく行きかうその奥、向かいのホームの列車の中に彼女はいた。
 
 少しけだるそうに吊革に体重を預けて斜めに立つセーラー服姿。
 触れれば滑らかな音を立てるであろう細い黒髪が肩にかかる。
 薄い桜色に色づいた白い桃のような頬が、柔らかな朝日を浴びてみずみずしく輝く。
 手入れのされていない素朴な眉。伏せられた黒目がちな目を彩る長いまつげ。大理石に彫りこまれた細工のような小さく繊細に整った鼻と口。華奢な首元に、控えめな上躯。腰元からの丸みを帯びたラインは柔らかく、張りのある白い両脚がまぶしそうに紺色のプリーツスカートから伸びる。

 僕はいつも向こうの列車にいる名前も知らない彼女に見とれていた。
 
 彼女がいつもこの時間になると通学鞄から単語帳を取り出す。そしてその細い指で、一流シェフが魚をさばくみたいに、ほれぼれするほどなめらかな仕草で一枚一枚単語帳をめくっていく。その光景をみるのが、僕の毎朝の楽しみだった。
 しかし、この日彼女が鞄から取り出したのは単語帳ではなく、赤い表紙の参考書だった。
 やがて列車がゆっくりと動き出し、僕と彼女はゆっくりと別々の方向へと向かっていく。僕は参考書の表紙に書かれた大学名をしっかりとその目に焼き付けた。
 

 時は立ち、僕はあの参考書に書かれた大学に入学した。
 大学で僕は必死になって彼女を見つけ出し、同じサークルに入って仲良くなり、付き合うことに成功した。
 やがて彼女は僕の妻になり、結婚から50年経ったある日、彼女は亡くなった。

 僕は最後まで彼女に、高校時代のあの幸せな五分間のことを、二人が大学で出会ったのは偶然でも運命でもなく、僕の執念のなせるわざだったことを伝えなかった。

 あの五分間の出来事は、今でも僕の心の中だけにある。

 肌寒い十五夜のある日、僕は縁側へ出ると、果てしなく広がる星空を見上げて考えた。
 僕が死んでしまえば、僕だけが知っているあの五分間の出来事は無くなってしまうのだろうか? 五分間はゼロ秒間となり、何も起こらなかったことになって消えてしまうのだろうか?

 いや、違う。

 僕の五分間は、確かに彼女と会うという結果をもたらし、そしてその結果、家族が生まれ次世代へと時は連なっていった。五分から物語は始まり、そこから無数の果てしないストーリーが展開していったのだ。
 僕の五分間は、たとえ僕が居なくなっても、きっとそうやって無限に広がっていく。そうして五分間は永遠となるのだろう。

 僕の過ごした時間は永遠という時空の中に取り込まれ、きっとそこで僕は宇宙の意志となった彼女にまた会える。
 そうしたら今度は彼女と手を取り合い、同じ方向へと進む列車へ乗り込もう。あの高い空のかなたへ。きらきらと輝く、銀河鉄道に乗って。
 そこで僕は今度こそ君に打ち明ける。君に出会ったのは偶然じゃなく必然だったのだと。
 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

17/01/03 あしたば

深海映さま

拝読させていただきました。
「彼女」の描写がとても丁寧でいいですね。瞼の裏に浮かぶようです。
それにしても、主人公、すごい行動力。多少ストーカーじみていて怖い気もしますが、「執念」とか言っているあたり、自分でも分かっているのでしょうね。

17/01/03 深海映

17/01/03 深海映

17/01/03 深海映

>あしたば様
コメントありがとうございます!女の子の描写には特にこだわりました!
主人公の執念は凄いですね(笑)でもこういう行動力が、運命を動かすためには
必要なのかも!?

ログイン
アドセンス