1. トップページ
  2. アイ・クローズド

水面 光さん

■ホームページ「水面文庫」 http://www.minamo-bunko.com/ 忙しい中でも身を粉にして執筆活動しております。ジャンルとしては現代ファンタジーが中心でございます。よろしくどうぞー

性別 男性
将来の夢 物書きでメシを食う
座右の銘 人の心は変わらないから自分が変われ

投稿済みの作品

1

アイ・クローズド

16/09/12 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 水面 光 閲覧数:805

この作品を評価する

「待ってたよ」──夜道を歩いていた。コオロギの鳴く声と風が耳を切る音、自分の足が湿ったアスファルトに置かれたときの砂利の音、たまに小石を蹴ってそれが転がっていく音。そうだ、あの声も聞こえる。子供たちの遊び騒ぐきゃっきゃいう声。風呂にでも入ってるのかな? まるで狭い車道でスピードを上げるくそいまいましい車のように走り去っていく音たち。待ってくれ!──「待ってた?」呉服屋の裏の薄暗い殺風景な──ペインターが落書きしていないだけましだったが──白い壁に背中をつけて体育座りをした半袖半ズボンの少年? ──が確かに私に向かってそう言ったのだ。だから訊き返した。「ずうっとね」「ずっと? わしは君なんか知らん。呉服屋の子か?」「いいや、おじさんだよ。ボクはおじさん」「は? おい、大人をからかうもんじゃない。暗くなったら家に帰る、それが子供の仕事だ。こないだ回覧板にこの辺で不審者が出たと書いてあった。晩メシ食ったのか? 早く帰れ」その少年は立ち上がってお尻をはらってから鼻をひとつ大きくすすってこう言った。「ずうっと待ってたんだよ、おじさんを。一緒に行こうよ!」「どこへ?」「幸せだった頃にさ」「バカ言うな、確かに独り身でさみしいがもう慣れたよ。それに過去になんか戻れるはずないだろ。お前まさかお迎えさんじゃないだろうな? いいぞ別に。思い残したことなんかひとつもない。常に全力を尽くしてきた。どこへなりとも行こうじゃないか」少年は右手を差し出す。私はその手を迷うことなく握った。──黒いワゴンに気をつけて──気がつくと少年は消えていた。私が今居たところだし、何も変化はない。ただ、少年が消えた。私はぶつくさ言いながらコンビニへの道中をひたすら歩き、そして用事を済ませた帰り道、ふと駅前のロータリーのほうに目をやった。黒い大きなワゴンが止まっていた。車内灯をつけて二人の男が何か話し込んでいたがこっちに気づいた連中はすぐに車内灯を消し、ヘッドライトをつけて、アイドリングしていたエンジン音を何倍かにして急発進してこちらに向かってきた。私は立ち止まって見ていたわけではない。ほんの一瞬の出来事だった。道路を横切ろうとしていた私は小走りで渡ったが黒いワゴンのスピードのほうが速く、すんでのところで轢かれるところだった。ニアミス。急ブレーキをかける黒いワゴン。ウインドウを開ける運転手そして怒号が。「死にてえのかオッサン! くたばっちまえよ!」「何言ってる。お前こそウジ虫入りのマンマを食いたいのか!」「たははは! 実に面白い! あんたあ生きてちゃいけねえんだよ!」「老害だとでも言う気か?」「そういうことじゃねえ、あんたあガキの頃に──」「しいー!」助手席側の男が制する。「なんなんだ、あんたら?」私は訊いた。「クローズド」「は? 横文字か?」「あんたの目はすでに閉じてる」「どういう意味だ?」「知らなくていい。おとなしく回収されろ」「かいしゅう?」「たははは! おもしれえ!」「おい、それくらいにしておけ」助手席側のわけ知り顔の男がまた制する。「また会おうぜオッサン! たははは!」黒いワゴンが去っていくのを見送っていると目の前にあの少年がすっと現れてこう言った。「危なかったね。さ、行こう、おじさん」「待て、これをやらないと」私はレジ袋を掲げた。「大丈夫、食欲なんてぶっ飛ぶから」少年はまた右手を差し出した。私もまた迷わずその手を握った。気付くと冷たい。水の中? 私は息苦しくてじたばたしたら浅い川の中に横たわっていることを認識した。上体を起こす。すると声がした。「オッサン川遊びが好きだったのかよ! たははは!」そっちを見ると山際の旧道に黒いワゴンが止まっていてあの連中が中に居た。私はよろめきながらも立ち上がり川音に負けじと大声で言ってやった。「死ぬほど好きだが何か問題でも!?」「上がって来いよオッサン! びしょ濡れだぜ?」「言われてなくてもそうするわ!」私は土手を上がり、旧道に入り、両ひざに両手を置いて溜め息を一つつこうとしたら連中がワゴンから降りてきて一人が私を羽交い絞めにして、もう一人が後部座席のスライドドアを乱暴に開けてどうぞのポーズをした。「乗れオッサン! たははは!」「どこへ連れていく気だ?」「乗ってみりゃわかる! 早く! たははは!」私はしぶしぶその黒いワゴンの後部座席に乗った。急発進するワゴン。「あんたら一体何なんだ?」「何度も言わせるな! クローズド! たははは!」運転手はご機嫌で猛スピードで狭い旧道を転がしていた。私は前方を凝視していた。釣竿を肩に担ぎ、青いバケツを持ったあの少年が視界に入った瞬間、ワゴンは思い切りその少年を跳ね飛ばした。急ブレーキ。「ビンゴ! わかったかよオッサン! たははは!」「なんてことを!」「行こうぜオッサン、在るべき所へ! たははは!」


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン