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サトースズキさん

性別 男性
将来の夢 社会復帰
座右の銘 ニートは毎日が休日? ちがうね。毎日が夏休み最終日なんだ。 もちろん、やるべきことは何ひとつ終わってない

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どくろの丘の一両列車

12/09/30 コンテスト(テーマ):第十四回 時空モノガタリ文学賞【 駅 】 コメント:0件 サトースズキ 閲覧数:1358

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 いくつかの電燈がスポットライトのようにプラットフォームを暗闇の中にくっきりと浮かび上がらせていた。それ以外は全てが暗闇だった

「ねぇあなた、あたしのお母さんを見なかった?」
 少女は訊ねた。僕はちょっとびっくりして彼女を眺める。というのもこのフォームに彼女がいるなんてことに全く気が付かなかったからだ
 フォームに人はほとんどいなかった。隣の、鼻をつく異臭を立ち込めさせてベンチで居眠りをしている爺さんだけだ。身なりは叩けばいくらでも塵芥を落とすことができそうなベージュのジャンパーを着ている。もしかしたら本当の色は違うのかもしれないが――そのくらい汚れていたのだ――それはいずれにせよ確認しようもないことだった

「見なかったな」僕はそう言ってポケットから煙草を取り出し、しわをきちんと伸ばしてから火を点けた。そして「というより、僕は君のお母さんを見た事がないんだ」そう訂正を加えた
「あたしのお母さんを見た事がないの?」少女は訊ねる
「ああ。残念ながらね」と僕
 彼女はため息をついて首を振った。なぜだかはわからないがそれは僕をひどく不快にさせた
「家の中は探してみたのかい?」ちょっと考えてから僕はできる限りの助言をする
「探したわ」少女は自分をばかにされたと思ったのかもしれない。むすっとして答える
「トイレも台所もベッドの下も、天袋の上だって探したわよ」
「カーテンの裾のうらは探してみたのかい?」
 かつて僕がかくれんぼをしたときによく使った場所だ
「そうね……そこはまだ探してなかったわ」
「それだったら探しに行ったらいい。君が見つけてくれるのをカーテンの裏でずっと待ってるかもしれない」
「そうするわ、ありがとう」少女はにっこりとほほ笑んだ。それさえ再び僕を不快にさせた。僕は困惑し、その原因について考えを巡らした。そして、きっと――と思ったところで顔をあげてみると彼女はすでにいなくなっていた

 おそらくどこか闇の中でうずくまっているのだろう。ここにいる人間がフォームから出ることなんてできやしないんだから

 僕はあらゆるものを丁寧に避けてきた。深い友情、身の程知らずの不作法、訳のわからぬたわごと、洗練されたライフ・スタイル……まるで荒野の一本道ですれ違う誰かのために道を譲るようだった。つまりこういうことだ。それらが地平のはるか彼方から歩いてくるのが見えると僕は横にそれ、道をきちんとあけ、行き過ぎるのを待つ。そして無事すれ違う。彼らはありがとう、とでもいいたげに帽子を軽く持ち上げ、そして去っていく。僕もそれに軽くうなずいて、そしてまたもとの道に戻り一人で歩き始める。かくして、僕はなにごとにつけ深い思慮を持ってしか物事を考えられない人間となった。そのせいでいくらかは損をしてきたかもしれない。だが、まあそれもよかろう

「傲慢は謙虚を押しつぶす。憎しみは愛を、冷酷は同情を、ってね」声が聞こえた
 声のほうを見やるとちょうどベンチで居眠りをしていた爺さんがむっくりと起き上がるところだった
「あの子は人生を楽しくやりすぎたんだな」
「一体何を言ってるんだい?」
「地獄に送られる理由さ」
「俺はあの子と一緒に改札を通ったからね。切符に書いてある罪状を読ませてもらったのさ。ま、その通りだと思ったね」
「つまり?」
「つまり彼女は本に書いてあることはすべて自分について書かれたものだと本気で思い込むような人間だったってことさ。最低だね。きっと彼女から送られた手紙は本題に入る前に彼女がどんな人間であるかえんえんと並んでるに違いないさ。昨日の出来事、その日の朝飯、ひょっとしたらはいている靴下のサイズさえ書いてあるかもしれない」
「それだけ?」僕はちょっとびっくりしてそう訊ねた
「ああ、十分だ。十分すぎる理由だ」彼は何度もうなずく
「あんな子供なのに?」
「年は関係ない。もしかしたらいくらか運賃を安くしてくれるかもしれないし、地獄行きの優先席に座れるかもしれないがね。それだけのことさ」
「そういうあんたは?」
 彼は照れ臭そうに切符を見せた。そこには
行先、無間地獄。罪状、殺人。と書いてあった
 そりゃまた、と言って煙草の灰を落とす。ひどい話だ

「煙草を一本もらえるかな?」
「どうぞ」僕は答える
 彼の咥えた煙草にライターで火をつけてやる
「ありがとう。ところで」そういって彼は煙を吸い込む「あんたはなんでまた?」
「なんというか……説明しにくいな」
 そういって切符をポケットから取り出して渡した

 彼は「まったく」といって煙を吐き出す「ひどい話だ」
「ああ、まったくね」

 そこにはこう書いてあった
行先、無間地獄。罪状、人生を楽しまなかったこと


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