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水面 光さん

■ホームページ「水面文庫」 http://www.minamo-bunko.com/ 忙しい中でも身を粉にして執筆活動しております。ジャンルとしては現代ファンタジーが中心でございます。よろしくどうぞー

性別 男性
将来の夢 物書きでメシを食う
座右の銘 人の心は変わらないから自分が変われ

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ポイ捨て

16/06/21 コンテスト(テーマ):第112回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:0件 水面 光 閲覧数:761

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私はそそられもしない女の裸を儀式的に目でなめまわしたあと、コードが理解できない低能は排斥されるべきだと賢者モードをキメている自分に酔う余裕がまだそのときはあった。昼間っからなんだこの変態野郎がと自嘲する余裕が確かに。私が最初にそれに気付いたのは正午をとっくにまわってそろそろ昼メシを買いにコンビニに行こうかと重い腰を上げようとしたある日のことだ。昼に弁当なんか食うやつは確実にリア充だから、私などはおむすび程度で上等なのだという諦観をいつものように反芻していると月曜に出し忘れたたんまり詰め込まれた黄色い指定ゴミ袋ががさっと倒れて口を縛ってなかったので中身が出やがったらしい。その音に気付いた私は「くそったれ」という汚い一声を上げさせられたことをいまいましく思いながらゴミ袋のところへ行った。いつか食べたコンビニ弁当のガラか何かがはみ出ているところを想定していた私は少し動揺させられた。というのも最初から何もなかったかのように何の現象も起きていなかったからだ。私はさっきの音の正体を突き止めてやろうと部屋を一巡するも何もそれらしいものが見当たらない。まあいい。私はコンビニ帰りにいつも視界に入る側溝にレジ袋が落ちているのが目にとまった。またバカがポイ捨てしやがったに違いない。そうとも、ゴミをポイ捨てするやつはバカに決まってる。この世界にその法則を知らない人が居ないとでも? 鍵を開け、部屋に戻った私は買ってきたものを恭しくやったあとガラを処理しようとゴミ袋のところへ行った。これ以上ぶち込むと破裂しそうだったので新しいゴミ袋を引っ張り出してその中に新しいゴミを安置させた。そこまではよかった。いや事はずっと前から起こっていたのかもしれないが気付き始めたのはほんとに最近のことだ。パソコンで物書きをしているとまたがさっという音がした。またかと思ったが一応確認して正解だった。さっき新しいゴミ袋に入れたゴミが確かに倍になっている。私は直感した。またバカがポイ捨てしやがったと。そう言えば気付くといつもゴミ袋の体積が必要以上に増えている。もうおわかりだろう。私はゴミを集めている。いや決して自発的に街をきれいにして人心を律してやろうという崇高な目的があるわけではない。それは言うとしたら超自然かつ自動的におこなわれる。言ってしまえば私の特殊能力だ。はっきり言って迷惑だった。他人が捨てたゴミを収集するのはくそ真面目な市の三下職員だけにしてほしい。なんで私が? 言い忘れていたが私は意外と楽観主義者であり、また地元愛のあるすこぶる善良な市民の一人でもある。木曜のゴミ出しの日には余裕で5袋を超えるのは簡単に予測できたがこれは善行であり、徳を積む行為でもあると思えば多少は憤りも回避できるというものだ。しかし、私は不運にも悪行の極みであるポイ捨ての犯行現場に遭遇した。そいつはちゃらちゃらしたチンピラかと思えばとんでもない、お歳を召したご婦人だった。ババアと言ってもいいが私は人の話を聴くことのできる優しい人間である。そこは相手の出方次第だ。「ちょっと! そこはゴミ捨て場じゃない!」私の張り詰めた声が彼女の耳に届いていないわけがない。明らかに聞こえているのに黙って通り過ぎるババア──こうなってはもうクソババアと呼んでもいい──に、あんたみたいなのが居るからうちがゴミ屋敷みたいになるんだと言ってやろうかと思ったが私の能力を知られてはまずい。だって、ポイ捨てするバカが増えてしまうではないか。それだけは絶対に避けねばならない。それにうちがゴミ屋敷になるというフレーズの本当の意味を理解できる人が果たして居るだろうか? 部屋に居るとまたがさっと音がする。そしてその現象と同じく超自然かつ自動的に「バカが!」という罵り言葉が口をついて出る。それを四六時中繰り返している私の気持ちをわかってくださるのはもはや神仏しか居ない。彼らがもし実在するのであれば私は確実に死後、天国か極楽浄土に招かれるはずだ。しかし私は今すぐこの地獄から救い出してほしかった。死後の世界なんぞ信じちゃいないから。誰がどう考えたって生きてるうちが花なんだよ! だから今すぐ! 私の能力はゴミ収集という慈善事業みたいなことだけではないと最近になってようやくわかり始めた。善悪はさておきポイ捨てしたやつの寿命を縮めてやることができるようなのだ。それに気付いたのはつい先週のことだ。いつものようにコンビニ帰りに家路を急いでいるとまたポイ捨ての現行犯に出くわした。私はもう口をきくのも億劫だったので心の中で≪お前みたいなやつが居るから世界に希望がないんだ≫と念じてやった。そいつは背広を着ていたが背広を着たやつが全員善人だという間違った法則を信奉してるなら今すぐその考えを捨てたほうがいい。それはポイ捨てしていい。前方から飲酒運転中の暴走車が──。


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